先週に引き続いて今週も世界遺産の街、福岡県宗像市からお届けしました。宗像大社秋季大祭での漁船による海上パレードは壮観でした。
宗像大社神宝館を訪れたLEOさんが目にしたのは、沖ノ島の奉献品である国宝「金銅製雛形五弦琴」。なんと約1300年前のものだとか。すごいスケール感ですよね。当時の人々が奏でる音楽はどんなものだったのか、想像をかきたてられます。
そんなLEOさんが宗像の空と海の深い青色に触発されて演奏したのが、自作の「DEEP BLUE」。深い海を思わすような神秘的な序奏で始まり、やがてリズミカルな楽想が浮かび上がってきます。音色表現の多彩さが印象的でした。最後の余韻も味わい深かったですね。
反田恭平さんは宗像大社高宮祭場を訪れて、鳥のさえずりや虫の鳴き声、風の音が交響曲のスコアのように感じられたといいます。ベートーヴェンも自然をこよなく愛し、ウィーン近郊の豊かな自然を創作力の源としていたことはよく知られています。反田さんが宗像で演奏する曲として選んだのは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の第2楽章。この楽章に、反田さんは雨上がりの水滴や祈りの表現を感じると言います。
「皇帝」はベートーヴェンが書いた最後のピアノ協奏曲です。この時代にはごく一般的なことですが、「皇帝」という題は作曲者による命名ではなく、他人が付けたニックネームです。全3楽章からなり、両端の第1楽章と第3楽章はまさにこのニックネームにふさわしく勇壮にして華麗。作曲当時、ベートーヴェンが住むウィーンはナポレオンが率いるフランス軍に攻め込まれ、ベートーヴェンの住居の近くにも砲弾が落ちたといいます。そんな戦時の空気がこの曲に反映されているように感じるのですが、真ん中の第2楽章だけはとても穏やかで、内省的です。人間同士の争いから一歩離れて、自然と対峙するベートーヴェンの姿が浮かび上がってきました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)