「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズ、今回は超絶技巧の元祖ともいうべきヴァイオリニスト、パガニーニをとりあげました。難曲を鮮やかに弾き切る服部百音さんには圧倒されるばかり。実に強烈でした。
パガニーニは1782年、イタリアのジェノヴァに生まれたヴァイオリニストです。従来の常識をくつがえす華麗で斬新な演奏で名声を確立。イタリアのみならずウィーンやドイツ各地、さらにはパリ、ロンドンにも進出して、ヨーロッパ各地に旋風を巻き起こしました。あまりに凄まじいテクニックは「悪魔に魂を売り渡した代償として超絶技巧を手に入れた」と噂されたほど。どの都市に行っても聴衆は熱狂的にパガニーニを迎え入れ、高額なチケットが飛ぶように売れたと言います。
もちろん、18世紀のことですから、パガニーニ本人の演奏は録音に残っていません。しかし当時の人々の証言は、パガニーニが並外れた天才だったことを伝えています。若きリストはパリでパガニーニの演奏を聴き、その壮絶な演奏に圧倒されて「僕はピアノのパガニーニになる!」と決意したと言います。また、シューベルトは貧乏だったにもかかわらず、大枚をはたいてウィーンでパガニーニの演奏を聴き、「アダージョで天使が歌うのを聴いた」と語っています。つまり、超絶技巧だけではなく、ヴァイオリンを歌わせる能力も卓越していたんですね。
パガニーニは興行師としての才も長けており、巨万の富を築いたと言います。ただ、それゆえに自作が他人に広まることを嫌い、生前はほとんど楽譜を出版しませんでした。曲が盗まれることを恐れ、ヴァイオリン協奏曲を演奏する際は演奏会ごとにパート譜をオーケストラのメンバーに配り、演奏会が終わるとすぐに回収したという徹底ぶり。そのため、パガニーニのかなりの作品は散逸してしまったと考えられます。私たちは幸運にも後世まで残された楽譜から、その天才性に感嘆するほかありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)