第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2025年03月22日 18:19

 今週は第33回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。同賞は「題名のない音楽会」放送25周年を記念して、1990年に制定されました。今年の受賞者はピアノの務川慧悟さん、ヴァイオリンの戸澤采紀さん、同じくヴァイオリンの前田妃奈さんの3名。それぞれの受賞者のみなさんがガラコンサートにふさわしい気持ちのこもった演奏を披露してくれました。
 務川慧悟さんが選んだのはラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。フランス音楽に深い共感を寄せる務川さんらしく、20世紀フランスを代表する傑作協奏曲を鮮やかに演奏してくれました。留学時代に師のフランク・ブラレイ(有名なピアニストです)から、たった5分の曲のレッスンに1時間30分もかけられて自信を砕かれたというエピソードがありましたが、それほど緻密な音楽作りが要求されるのかと驚かされます。
 戸澤采紀さんはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調を演奏。高揚感あふれる快演でした。戸澤さんのお父さんは著名なヴァイオリニスト、戸澤哲夫さん。子どもの頃から「戸澤哲夫さんの娘さん」と呼ばれてしまうことは避けられません。それに対して「いつか父を戸澤采紀のお父さんと呼ばせよう」と思って頑張ったと言います。音楽一家ならではの苦労もあったとは思いますが、すばらしい親子関係ではないでしょうか。
 前田妃奈さんが演奏したのは、「本当に大好きな作品」と語るブルッフの「スコットランド幻想曲」。演奏する様子からも、この曲に対して並々ならぬ思い入れを持っていることが伝わってきます。ドイツの作曲家ブルッフは民謡の持つ普遍性を信じ、スコットランド民謡をこの曲に取り入れました。メロディの親しみやすさと雄大なロマンティシズムが一体となっており、前田さんの演奏にあらためて作品の魅力を知った思いがします。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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