今週は番組60周年記念企画の第7弾といたしまして、新しいスタイルによる日本の伝統楽器の演奏をお楽しみいただきました。伝統楽器から、こんな響きが作り出されるのかという驚きがあったのではないでしょうか。
最初に演奏されたのは、坂本龍一作曲の「東風 Tong Poo」。一世を風靡したYMOの名曲です。リリースは1978年。シンセサイザーのサウンドがテクノ旋風を巻き起こしました。当時は電子音が醸し出す未来的なイメージと、東洋風の曲調とのギャップが斬新だったのですが、今回はこれを藤原道山さんの尺八、本條秀慈郎さんの三味線、LEOさんの箏で演奏することで、また違った種類のギャップが生まれていたと思います。エキゾチックなような、なじみ深いような不思議なテイストがありましたね。
藤原道山さんは尺八アンサンブルの風雅竹韻とともに、自作の「東風(こち)」を演奏してくれました。ソロの尺八と尺八アンサンブルの関係は「メインボーカルとバックバンド」のようなものだとか。同じ楽器のみによる合奏であるにもかかわらず、表現はおもいのほか多彩。尺八が重なり合って作り出される音色に温かみを感じました。
三味線の本條秀慈郎さんはトランペットの松井秀太郎さんと共演。まさか、三味線とトランペットが共演可能だとは。曲はV.アイヤーの「JIVA(ジーバ)」。おふたりの編曲によって、とても現代的な響きが作り出されていました。トランペットの特殊奏法がふんだんに用いられ、とりわけ籐で作ったミュートによるまろやかな音色は印象的です。
LEOさんは箏でミニマル・ミュージックに挑戦しました。曲はスティーヴ・ライヒのElectric Counterpointの第3楽章。ミニマル・ミュージックの分野における古典的名作といってもよいでしょう。10パート中9パートをあらかじめ多重録音しておき、その音源と共演するというユニークな演奏形態がとられています。オリジナルではエレキギターとエレキベースが使われていましたが、箏で聴いてもまったく違和感がありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)