今週は世界的ピアニストのラン・ランと、妻で同じくピアニストであるジーナ・アリスのおふたりをお招きしました。トップレベルの檜舞台で活躍するかたわら、音楽教育活動にも尽力し、ユニセフ親善大使を務めるなど、いまやラン・ランはピアニストの枠を超えた音楽界のシンボル的な存在になっています。そんなラン・ランが2019年に結婚したお相手が、ドイツ出身のジーナ・アリス。ふたりはクラシックの名門レーベル、ドイツグラモフォンからリリースしたニューアルバムでも共演して話題を呼んでいます。
パリにも拠点を置くラン・ランは、フランス音楽がアジアの音楽や文化とたくさんのつながりを持っていると指摘します。たしかにフランスの作曲家たち、たとえばドビュッシーであれば、交響詩「海」の楽譜の表紙に北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をあしらったり、日本の漆絵の錦鯉に触発されて「映像」第2集の「金色の魚」を作曲するといったように、さまざまな形でジャポニズム、オリエンタリズムの影響を目にすることができます。そう考えると、中国出身でグローバルに活躍するラン・ランならではの視点によるフランス音楽の表現があってもおかしくありません。
今回演奏してくれたのは、サン=サーンスとフォーレの作品。サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」からは、ラン・ランの独奏で「白鳥」を、ジーナ・アリスとの連弾で「水族館」と「化石」を演奏してくれました。連弾する姿からふたりの仲睦まじさが伝わってきましたね。ラン・ランの自在の表現にジーナ・アリスがぴたりと寄り添う様子が印象的でした。
最後に演奏されたのはラン・ラン独奏によるフォーレの「パヴァーヌ」。パヴァーヌとは古い時代の2拍子または4拍子のゆっくりとした宮廷舞踏を指します。古雅な雰囲気をまとったフォーレの「パヴァーヌ」に、ラン・ランは豊かでしみじみとした情感を注ぎ込んでくれました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)