今週は藤田真央さん、佐藤晴真さん、服部百音さんの新世代ソリストたち3名によるトリオをお楽しみいただきました。国際的に注目される若き実力者たちの共演は聴きごたえ十分。ピアノ・トリオの名曲に3人が相談して題名を付けてくれましたが、楽曲のイメージがよく伝わってきたのではないでしょうか。
最初の曲はモーツァルトのピアノ・トリオ第1番 K.254の第1楽章。作曲は1776年ですので、モーツァルトはまだ20歳です。トリオの中心にいるのはピアノ、その相手役となるのがヴァイオリン、両者をそっと支えるのがチェロといった役どころ。リラックスして会話を楽しんでいるようなアットホームな雰囲気があります。3人の奏者で話し合って付けた題名は「少年の戯れ」。若き日のモーツァルトの天真爛漫な楽想にぴったりです。
2曲目はブラームスのピアノ・トリオ第1番の第1楽章。ピアノ・トリオの名作ですが、若き日にいったん完成させた曲を、円熟期になってから改訂したという少し珍しい作品です。そこで3人で付けた題名が「青春の回想」。3人のパッションがひしひしと伝わってくるような熱い演奏でした。ブラームスならではの濃密なロマンに胸がいっぱいになります。
最後に演奏されたのはショスタコーヴィチのピアノ・トリオ第2番の第2楽章。ショスタコーヴィチはソ連時代の作曲家でしたので、自由な創作活動は許されていませんでした。芸術家が当局の方針に従うことを求められる社会体制のなかで、自分が本当に表現したいことを表現するにはどうしたらいいのか。そんな葛藤から、ショスタコーヴィチは多様な解釈が可能な二面性を持った作品を書くようになりました。この楽章もユーモラスなようなグロテスクなような、楽しんでいるような怒っているような、一言では語れない複雑な表情を持っています。服部百音さんが題した「束の間の可愛くて攻撃的な遊び心」には、そんなショスタコーヴィチの作風が反映されていると思います。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)