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1人で何役もこなす大変な音楽会

投稿日:2021年06月19日 10:30

今週は「1人で何役もこなす大変な音楽会」。演奏家の超絶技巧と作曲家の創意が可能にした一人多役の音楽をお楽しみいただきました。
 パガニーニは従来の常識を覆す華麗な技巧でヨーロッパを席巻した伝説的なヴァイオリニスト兼作曲家です。あまりの超絶技巧ぶりに「悪魔に魂を売り渡した」とまで噂されました。そんなパガニーニが書いたとびきりの難曲が「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」による変奏曲。イギリス国歌としてスポーツシーンでもおなじみの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」(国王が男性の時代は「ゴッド」、女性の時代は「クイーン」と呼びます)をテーマに、技巧的な変奏が連続します。成田さんいわく「地球上に存在するヴァイオリン曲のなかでいちばん難しい曲」。そんな曲を涼しい顔で弾いてしまう成田さんには脱帽するしかありません。
 シューベルトの「魔王」は、ゲーテの詩を用いた歌曲。ひとりの歌手がナレーター、魔王、父親、子供の4役を歌います。西村悟さんの歌唱で聴くと、改めてこの短い歌曲にどれほど大きなドラマが凝縮されているかが伝わってきます。甘言で子供をたぶらかす魔王がなんとも怖いですよね。
 フルートの多久潤一朗さんはまさかの一人五役。フルートを吹きながら、歌までうたえてしまうとは。「ガーシュウィン・メドレー」は意外性の連続で、あっけにとられるばかり。フルートという楽器自体への印象が変わってしまいます。
 最後は川島素晴さん編曲による弦楽器たった9人による「ボレロ」。本来90人の曲を9人で弾く、しかも弦楽器だけでどうやって?……と思っていたら、いきなり冒頭から低音楽器のコントラバスが最高音域でテーマを奏でるという想像の斜め上を行く展開。次から次へとアイディアが飛び出して、すべてが普通ではない「ボレロ」。そして9人の精鋭たちの演奏がすごい! 痛快の一語でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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