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60周年記念企画⑧世界遺産のある街・宗像で奏でる音楽会〜前編

投稿日:2024年11月16日 10:30

 今週は番組60周年記念企画として、世界遺産の街、福岡県宗像市からお届けしました。反田恭平さん指揮のジャパン・ナショナル・オーケストラが、宗像ユリックスのハーモニーホールを訪れて「宗像の方々とともに音楽を楽しむ」をテーマに演奏を披露してくれました。
 最初に演奏されたのはモーツァルトの「劇場支配人」の序曲。この曲は石丸幹二さんが司会に就任した際に、番組オープニングテーマに用いられた曲ですね。モーツァルトの「劇場支配人」は少し珍しい作品で、オペラではありません。当時の皇帝ヨーゼフ2世がモーツァルトとサリエリのふたりの作曲家に、同じ祝宴用の音楽を依頼したのですが、モーツァルトには音楽劇を、サリエリにはオペラを依頼したのです。モーツァルトが書いたのは芝居の合間に使われる音楽にすぎませんので、「劇場支配人」は序曲と劇中の4曲しかありません。したがって、現在実際に上演されることは稀。この精彩に富んだ序曲を聴くと、どうせなら皇帝はモーツァルトにもオペラを依頼してくれたらよかったのに……と思わずにはいられません。
 反田さんにとって思い出深い企画である「振ってみまSHOW!」では、ブラームスのハンガリー舞曲第5番が演奏されました。反田さん指揮によるお手本演奏に続いて登場したのは、後藤芽衣さんと谷﨑彩優さん。おふたりとも9歳にして、オーケストラの指揮を体験することに。後藤さんは元気いっぱいにオーケストラをリード。谷﨑さんはテンポを動かして豊かな表情を描き出します。振り終えた後の感想は「ちとムズい」。でも、どちらも本当に立派な指揮ぶりでした。
 おしまいは宗像市の小学3年生、折尾晴香さんが「秋祭りの日のロンディーノ」で反田さん指揮ジャパン・ナショナル・オーケストラと共演。日本の祭りの情景が伝わってくるような生き生きとした演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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新世代のイチ推し!新しいクラシックの音楽会2024秋

投稿日:2024年11月09日 10:30

 クラシック音楽は昔の作曲家が書いたものと思われがちですが、どんな名曲も書かれた時点では最新の音楽だったはず。現在も大勢の作曲家が活動しており、新作は日々生み出されています。今回はそんな「新しいクラシック音楽」と呼ぶべき作品を、廣津留すみれさんと多久潤一朗さんのおふたりに紹介していただきました。
 まず廣津留さんが演奏してくれたのは、マックス・リヒターがヴィヴァルディを再構築した「四季」より「冬」の第1楽章。マックス・リヒターはクラシックとエレクトロニカの融合から生まれた「ポスト・クラシカル」と呼ばれる分野の先駆的存在。「四季」のリコンポーズ(再作曲)で大きなムーブメントを作り出しました。7拍子になるところがおもしろかったですよね。
 続いて多久さんが選んだのは、イアン・クラークの「オレンジ色の夜明け」。イアン・クラークは現代のフルート奏者で、作曲家でもあります。アフリカの風景を題材にしたこの作品は、明快な曲想を持ちつつも、フルートの特殊奏法によって音色表現がぐっと拡大されています。斬新でありながらもアルカイックなムードが漂う曲でした。
 次の曲は廣津留さんによるアルヴォ・ペルトの「Darf ich…」。ペルトは現代の代表的な作曲家のひとり。簡潔さ、静寂、反復性を特徴とした作風で、その音楽には「祈り」の要素が色濃くにじんでいます。今回の曲はある種の問いかけを含んだ音楽で、聴く人がさまざまに解釈することができると思います。
 最後に演奏されたのは、多久さんが選んだニーノ・ロータの「フルートとハープのためのソナタ」第1楽章。清澄な響きによる優しい音楽でした。「ゴッドファーザー」や「ロミオとジュリエット」など映画音楽の分野であまりに有名なニーノ・ロータですが、本人は自身を映画音楽専門の作曲家とはみなさず、純音楽作品をいくつも残しています。ニーノ・ロータの映画音楽以外の作品は、これから再評価が進むのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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もっと自由に誰でも音楽を楽しめる!el tempoの音楽会

投稿日:2024年11月02日 10:30

 今週はシシド・カフカさんが主宰するel tempo(エル・テンポ)のみなさんをお招きしました。昨年もご出演いただきましたが、el tempoは、ハンドサインによる即興演奏集団。シシドさんのハンドサインを読みとって、メンバーがさまざまなリズムを奏でます。指揮者とオーケストラのような関係を連想しますが、決定的に違うのは、これが即興演奏であること。その場で音楽を作り出す自由度の高さに魅力を感じます。
 ハンド・サインによる即興演奏の仕組みを編み出したのは、アルゼンチン出身のミュージシャン、サンティアゴ・バスケス。100種類以上のサインを駆使することで、一期一会の音楽を生み出します。シシドさんはサンティアゴ・バスケスへの共感からel tempoを結成しました。
 実際にそのサインについて、シシドさんが解説してくれましたが、本当にたくさんの種類があって驚きます。奏者を指定するサイン、スタッカートなどの表現を示すサイン、指を音符に見立ててリズムを伝えるサイン、音域の高低を表すサインなどなど。ひとつひとつはわかりやすいのですが、これを即座に読み取って演奏に反映するとなると、かなり難しそうです。でも、実際に会場の一員としてコール&レスポンスに参加してみましたが、やってみると楽しいんですよね。いつサインが来るのかと客席全員がシシドさんの動作を注視して、サインに応じていっせいに手を叩く様子は壮観。ゲーム感覚もあって興味深い体験でした。
 今回はel tempoとソニーグループで共同開発した新たな楽器、ハグドラムの演奏で、手話エンターテイメント発信団oioi(オイオイ)のおふたりも演奏に加わってくれました。ハグドラムは「演奏者を問わない」ことをコンセプトにしたインクルーシブデザインによる打楽器。叩いた音を光と振動で感じることができます。こんな合奏の楽しみ方もあるのだという発見がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でクラシックがわかる音楽会~パガニーニ編

投稿日:2024年10月26日 10:30

 「3曲でクラシックがわかる音楽会」シリーズ、今回は超絶技巧の元祖ともいうべきヴァイオリニスト、パガニーニをとりあげました。難曲を鮮やかに弾き切る服部百音さんには圧倒されるばかり。実に強烈でした。
 パガニーニは1782年、イタリアのジェノヴァに生まれたヴァイオリニストです。従来の常識をくつがえす華麗で斬新な演奏で名声を確立。イタリアのみならずウィーンやドイツ各地、さらにはパリ、ロンドンにも進出して、ヨーロッパ各地に旋風を巻き起こしました。あまりに凄まじいテクニックは「悪魔に魂を売り渡した代償として超絶技巧を手に入れた」と噂されたほど。どの都市に行っても聴衆は熱狂的にパガニーニを迎え入れ、高額なチケットが飛ぶように売れたと言います。
 もちろん、18世紀のことですから、パガニーニ本人の演奏は録音に残っていません。しかし当時の人々の証言は、パガニーニが並外れた天才だったことを伝えています。若きリストはパリでパガニーニの演奏を聴き、その壮絶な演奏に圧倒されて「僕はピアノのパガニーニになる!」と決意したと言います。また、シューベルトは貧乏だったにもかかわらず、大枚をはたいてウィーンでパガニーニの演奏を聴き、「アダージョで天使が歌うのを聴いた」と語っています。つまり、超絶技巧だけではなく、ヴァイオリンを歌わせる能力も卓越していたんですね。
 パガニーニは興行師としての才も長けており、巨万の富を築いたと言います。ただ、それゆえに自作が他人に広まることを嫌い、生前はほとんど楽譜を出版しませんでした。曲が盗まれることを恐れ、ヴァイオリン協奏曲を演奏する際は演奏会ごとにパート譜をオーケストラのメンバーに配り、演奏会が終わるとすぐに回収したという徹底ぶり。そのため、パガニーニのかなりの作品は散逸してしまったと考えられます。私たちは幸運にも後世まで残された楽譜から、その天才性に感嘆するほかありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑦ 日本の伝統楽器を未来に繋げる音楽会

投稿日:2024年10月19日 10:30

 今週は番組60周年記念企画の第7弾といたしまして、新しいスタイルによる日本の伝統楽器の演奏をお楽しみいただきました。伝統楽器から、こんな響きが作り出されるのかという驚きがあったのではないでしょうか。
 最初に演奏されたのは、坂本龍一作曲の「東風 Tong Poo」。一世を風靡したYMOの名曲です。リリースは1978年。シンセサイザーのサウンドがテクノ旋風を巻き起こしました。当時は電子音が醸し出す未来的なイメージと、東洋風の曲調とのギャップが斬新だったのですが、今回はこれを藤原道山さんの尺八、本條秀慈郎さんの三味線、LEOさんの箏で演奏することで、また違った種類のギャップが生まれていたと思います。エキゾチックなような、なじみ深いような不思議なテイストがありましたね。
 藤原道山さんは尺八アンサンブルの風雅竹韻とともに、自作の「東風(こち)」を演奏してくれました。ソロの尺八と尺八アンサンブルの関係は「メインボーカルとバックバンド」のようなものだとか。同じ楽器のみによる合奏であるにもかかわらず、表現はおもいのほか多彩。尺八が重なり合って作り出される音色に温かみを感じました。
 三味線の本條秀慈郎さんはトランペットの松井秀太郎さんと共演。まさか、三味線とトランペットが共演可能だとは。曲はV.アイヤーの「JIVA(ジーバ)」。おふたりの編曲によって、とても現代的な響きが作り出されていました。トランペットの特殊奏法がふんだんに用いられ、とりわけ籐で作ったミュートによるまろやかな音色は印象的です。
 LEOさんは箏でミニマル・ミュージックに挑戦しました。曲はスティーヴ・ライヒのElectric Counterpointの第3楽章。ミニマル・ミュージックの分野における古典的名作といってもよいでしょう。10パート中9パートをあらかじめ多重録音しておき、その音源と共演するというユニークな演奏形態がとられています。オリジナルではエレキギターとエレキベースが使われていましたが、箏で聴いてもまったく違和感がありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラと夢をかなえる音楽会〜夢響2024後編

投稿日:2024年10月12日 10:30

 今週は先週に引き続きまして、オーケストラと共演する夢をかなえる人気企画「夢響」の後編をお届けしました。後編も多数の応募者から選ばれた4名が、田中祐子さん指揮の東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と共演を果たしました。
 1人目はピアノの久保壮希さん。なんと、登録者数10万人の中学生ユーチューバーで、憧れの人は角野隼人さん。以前、番組で角野さんも演奏したガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」に挑戦してくれました。のびのびと弾いていて、心から演奏を楽しんでいる様子が伝わってきて、すばらしかったですね。聴く人もわくわくするようなガーシュウィンだったと思います。
 バストロンボーンの山田秀二さんは、ザクセのトロンボーン小協奏曲で、まろやかで深みのある音色を聴かせてくれました。音楽の表情も豊かで、大人の味わいがあります。還暦を迎えてもまだまだ成長したいというお話が印象的でした。刺激になった方も多いのでは。
 ヴァイオリンの内田彩稀さんは、わずか7歳にしてオーケストラとの共演を実現。夢はお医者さんと音楽家の二刀流だとか。ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲で、オーケストラと一体になった見事なソロを披露してくれました。物怖じすることなく、堂々と弾く姿は頼もしいかぎり。将来が楽しみですね。
 アルトサクソフォンの中澤夏子さんは、プロのサクソフォン奏者を目指す高校2年生。現代ベルギーの作曲家スウェルツの「クロノス」で、作品の魅力を存分に伝えてくれました。楽曲のダークでモダンなテイストとひりひりするような緊迫感が漂ってきて、聴きごたえ抜群。これからの飛躍を期待しています。
 もっとも心を震わせたひとりに贈られるスペシャルドリーマー賞には、前編で登場した藤田一槻さんが選ばれました。藤田さんの透明感のある声が忘れられません。藤田さん、おめでとうございます!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラと夢をかなえる音楽会〜夢響2024前編

投稿日:2024年10月05日 10:30

 今年も人気企画「夢響」の模様を2週にわたってお届けします。オーケストラと共演するという夢をかなえるのがこの企画。今週はその前編といたしまして、多数の応募者のなかから選ばれた4名が、田中祐子さんの指揮による東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団との共演を果たしました。
 1人目は藤田一槻さん。とてもはきはきした話しぶりで「夢はミュージカル俳優」と語ってくれました。歌とオーケストラの共演で、曲は音楽座ミュージカル「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」より「ドリーム」。のびやかで、澄んだ声がすばらしかったですね。歌に想いが込められていて、言葉の意味がまっすぐに伝わってきます。
 2人目はフルートの小沼ナビラさん。曲はバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」の「角笛の踊り」でした。バルトークは各地で採集した民謡をもとに独自の作風を開拓した作曲家で、この曲もそんな民謡由来の一曲。ナビラさんはオーケストラと一体となって、この曲に込められた土の香りを表現してくれました。フルートの爽快な音色も心に残ります。
 3人目はピアノの黒川奏翔さん。「ポーランドに行ってショパン・コンクールに出てみたい」と力強く将来の夢を語ります。お兄ちゃんとのやりとりが微笑ましかったですよね。曲はシューマンの「子供の情景」より「見知らぬ国」。しっかり指揮とオーケストラとアイコンタクトをとりながら演奏していたのが印象的でした。やさしくて、のびのびとしたシューマンだったと思います。
 4人目はマンドリンの飯田徹さん。一年間の準備を経て、満を持してのチャレンジでした。曲はモンティの「チャールダーシュ」。哀愁を帯びたゆったりした部分と、速いテンポの情熱的な部分のコントラストが鮮やか。味わい深く成熟した「チャールダーシュ」でした。
 次回の後編でも4名の応募者が登場します。どんな夢をかなえてくれるのか、楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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私の音楽人生に影響を与えた名演の音楽会

投稿日:2024年09月28日 10:30

「題名のない音楽会」は今年、60周年を迎えました。今回は現在第一線で活躍する音楽家のみなさんに、過去の放送回から忘れられない名演を選んでいただきました。
 Cocomiさんが挙げたのは、エマニュエル・パユが独奏を務めたビゼー作曲、ボルヌ編曲の「カルメン幻想曲」。パユといえば、ベルリン・フィル首席フルート奏者を務める現代最高の名手のひとり。ソリストとしても室内楽奏者としても活躍するフルート界のスーパースターです。その驚異的なテクニックと豊かな情熱がこの映像からも伝わってきました。なんどもくりかえして映像を見たために、パユの足を上げる癖がうつってしまったというCocomiさんのお話がおもしろかったですよね。
 小林愛実さんが番組に初登場したのは2010年。まだ14歳でしたが、すでに天才少女として熱い注目を浴びていました。あの天才少女がこうして立派な大人のピアニストに育ったことに感慨を抱かずにはいられません。そんな小林さんが挙げてくれたのは、ラン・ランがオレンジでショパンを弾いた回。この秘技もさることながら、これをラン・ランに教えてくれたのが大巨匠として知られるダニエル・バレンボイムだったということにも驚きます。そんな茶目っ気があったとは。
 鈴木雅明さんと優人さんは今年、番組内で初めての親子共演が実現しました。バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏会では、よくおふたりの共演を目にしますが、こうしてトークをする場面は新鮮です。米良美一さんが歌う「もののけ姫」主題歌に「懐かしいね」という声が挙がっていました。「もののけ姫」で広く注目を集めた米良さんですが、それ以前から、バッハ・コレギウム・ジャパンで活躍していたことを思い出します。おふたりとも「米良ちん」と呼んでいて、仲間内の親密な雰囲気が伝わってきました。初代司会者の黛敏郎さんが司会するクイズ企画もおもしろかったですよね。「田園交響曲」のフレーズの反復には爆笑。これは難問でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画⑥上野耕平が挑む!新しい吹奏楽の音楽会

投稿日:2024年09月21日 10:30

 今週は番組60周年記念企画第6弾として、上野耕平さんとぱんだウインドオーケストラのみなさんをお招きして、吹奏楽の魅力に新たな角度から迫りました。
 番組では以前より「吹奏楽を少人数でも楽しもう!」という発想のもと、7人制吹奏楽ブリーズバンドを提唱してきました。ブリーズバンドのベースにあったのは、7人全員がソリストであり、ひとりひとりが主役を務めるという考え方。今回はそのブリーズバンドの精神を生かしたまま、編成を22人へと拡大しました。指揮者は置きません。
 上野さんたちの最初の挑戦は「とことん歌い上げる」こと。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第2楽章を吹奏楽アレンジで演奏してくれました。この曲はビリー・ジョエルの「THIS NIGHT」はじめ、さまざまな分野でカバーされていています。冒頭はサクソフォン四重奏ではじまり、次第にほかの楽器が加わって音色が変化してゆく様子が見事でした。情感豊かに歌い上げることで、この曲にあるノスタルジーの要素が浮き彫りになっていたと思います。
 バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」では、「新たな音色を開発する」ことに挑戦。20世紀ハンガリーの作曲家バルトークは、東欧で採集した民謡をモダンな書法で生まれ変わらせることで独自の作風を築きました。土の香りと斬新さを両立するのがバルトークの音楽。今回は替え指やフラッタータンギングなどを用いることで、作品に新たな彩りが加えられていました。上野さんはソプラニーノ・サクソフォンも使用。濃厚で甘い音色が魅力的でした。
 Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」では、「リズムに音色をつけて刻む」ことに挑戦。高速ラップが印象的な曲ですが、吹奏楽でもこんなに小気味よくて鮮やかな表現が可能なんですね。思わず踊り出したくなるような楽しさがありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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月の光を名曲で感じる音楽会

投稿日:2024年09月14日 10:30

 今年の中秋の名月は9月17日。秋の澄んだ夜空に月がきれいに見える季節になりました。クラシック音楽には月の光にちなんだ名曲がたくさんあります。今回はピアニストの務川慧悟さんが独自の視点から、月の光を感じる名曲を紹介してくれました。
 最初に演奏されたのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」。とても有名な曲ですが、「月光」という題はベートーヴェン自身によるものではありません。でも、本当に曲にぴったりなんですよね。務川さんはこの曲に月の光を感じるポイントとして「暗闇」を挙げてくれました。光があれば、闇もまたあるはず。たしかにこの曲はただ美しいだけの曲ではなく、どこか不穏な気配も漂わせているように感じます。
 ベートーヴェン自身はこの曲をピアノ・ソナタ第13番とともに「幻想曲風ソナタ」と名付けました。両曲には、ソナタという古典的な形式感を持つ楽曲に、自由な幻想曲のスタイルを融合させようというアイディアが込められています。「月光」の第1楽章はまさに幻想曲風です。
 2曲目はフォーレの歌曲「月の光」。原詩はフランス語ですが、務川さんの訳詩のおかげで、詩の描く情景がよく伝わってきました。務川さんがこの曲に感じ取ったのは「影」。短調と長調の間のゆらめくような動きが、楽しさと悲しさの間にある曖昧な領域を表現します。森谷真理さんのまろやかで温かみのある声も印象に残りました。
 3曲目はドビュッシーの「月の光」。この曲は「ベルガマスク組曲」のなかの一曲です。フォーレの歌曲「月の光」と同じヴェルレーヌの詩からインスピレーションを受けていたんですね。務川さんがこの曲に感じる月の光のポイントは「輝き」。ドビュッシーは倍音との調和を計算して月の輝きを表現していると言います。そういえば、この曲に限らず、ドビュッシーの音楽には光の輝きを感じることが多いような気がします。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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