今年、9月19日から10月4日にかけて東京ミッドタウンの芝生広場に、移動式コンサートホール「アーク・ノヴァ」が設置されました。一見、コンサートホールには見えませんから、初めて見た人は「いったいなにが建ったのだろう?」と不思議に思われたかもしれません。
もともとこのアーク・ノヴァは東日本大震災の復興支援のために、スイスの音楽祭「ルツェルン・フェスティバル」芸術総監督であるミヒャエル・ヘフリガーさんらが企画したもの。被災地でも演奏を可能にするために、移動式コンサートホールが発案された次第です。2013年から2015年にかけて、松島、仙台、福島の3か所で設置されてきましたが、今回初めて東京に登場することになりました。
なにしろ移動式ですから、材質は軽くなければいけません。塩化ビニールでコーティングされたポリエステル製の膜が送風によって膨らんで、内部の空間ができあがるという仕掛けになっています。形状や色彩がなんとなく臓器や血管を連想させますが、実際に中に入ってみると、まるで自分が巨大生物の体内に潜り込んだかのような錯覚を覚えます。
このアーク・ノヴァに登場したトランペットのラインホルト・フリードリッヒ、トロンボーンのヨルゲン・ファン・ライエンは、ともにルツェルン祝祭管弦楽団のスター・プレーヤー。ルツェルン祝祭管弦楽団は今年11年ぶりの来日を果たしました。このオーケストラは世界中から最高の精鋭が集った、いわば音楽界のドリームチームです。そんなオーケストラの金管楽器セクションの顔ともいえるおふたりがソロを聴かせてくれました。
特におもしろかったのが、トロンボーンのための「スリップストリーム」。足元に置いた「ループステーション」に自分の演奏を録音して、これをループさせ、その上にさらに演奏を何重にも重ねて、曲を演奏していました。スリリングで、カッコよかったですよね。
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動くホール アーク・ノヴァの音楽会
人気のミュージカルを楽しむ音楽会
今週は「人気のミュージカルを楽しむ音楽会」。劇団四季でも活躍し日本のミュージカル界を牽引してきた石丸幹二さんが、ミュージカルの名曲を紹介し、その人気の理由を教えてくれました。人気の理由として挙げられていたのが、「映画が大ヒット」「ディズニー作品の舞台化」「メロディメーカーの存在」の3つの要素。ミュージカルのファンならずとも、知っている作品、どこかで耳にした名曲がたくさんありましたよね。
古くは「サウンド・オブ・ミュージック」や「ウエスト・サイド・ストーリー」といった名作から、最近のヒット作である「ラ・ラ・ランド」に至るまで、ミュージカル映画の人気はずっと絶えることがなく続いています。こうした映画をきっかけにミュージカルを好きになった方も多いはず。
また、ディズニー作品とミュージカルの結びつきも、ファンの拡大に大きな役割を果たしています。「ノートルダムの鐘」「ライオンキング」「アラジン」「リトルマーメイド」「美女と野獣」といったディズニー作品が、劇団四季等でミュージカルとして上演され、人気を集めています。
よくある質問に「オペラとミュージカルはどう違うのか」というものがあります。一般的な回答としては「オペラは生の声で歌うのに対し、ミュージカルではマイクが使われる」といった例が挙げられますが、実のところ、両者の境目はそれほどはっきりとしたものではありません。たとえばバーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」や「キャンディード」は、ミュージカルの歌手にもオペラの歌手にも歌われています。
今回はアンドリュー・ロイド=ウェバーの「オペラ座の怪人」メドレーで、石丸幹二さんとオペラ歌手として大活躍中の市原愛さんの共演が実現しました。市原さん、ミュージカルを歌ってもすばらしかったですよね。きっとロイド=ウェバーの名曲も、ミュージカルの歌手にもオペラの歌手にも長く歌い継がれてゆくことでしょう。
神童たちの音楽会2017
今週は音楽の世界で幼くして才能を開花させた「神童」たちをご紹介いたしました。ヴァイオリンの大久保瑠名さんとチェロの北村陽さん、おふたりともすばらしかったですよね。緊張を感じさせない堂々たる舞台姿や、オーケストラと共演することを楽しんでいる様子が頼もしいかぎり。北村さんの「オーケストラの海で泳いでいる気分」は名言です。
大久保瑠名さんが演奏したのはサラサーテの「カルメン幻想曲」。ビゼー作曲の傑作オペラ「カルメン」から聴きどころのメロディをつなぎ合わせ、独奏ヴァイオリンの華麗な技巧が披露されます。10月7日の放送で服部百音さんが弾いた「カルメン・ファンタジー」(カルメン幻想曲)も同様の趣向を持った作品ですが、あちらはワックスマンの作。「カルメン」にはこのような編曲作品がいくつもあります。原作曲者のビゼーはオペラ「カルメン」の成功を目にすることなく早世したのですが、後世に自分のメロディがこれだけ編曲されることになるとは思っていなかったでしょう。ましてやオペラの上演から約140年後に日本の少女が自作の編曲を弾いていることなど想像もできなかったはず。
北村陽さんが弾いたチャイコフスキーの「ロココの主題による変奏曲」は、チェリストにとって必須のレパートリーといっていいでしょう。若い北村さんですが、すでにこの曲はすっかり体に沁み込んでいるように見えます。北村さんは西宮市の出身。兵庫県立芸術文化センターが設立するスーパーキッズ・オーケストラに最年少の小学2年生で入団し、佐渡裕芸術監督のもと数々の演奏会に出演しました。この10月にはソリストとしてこのチャイコフスキーの名曲を岩村力指揮兵庫県立芸術文化センター管弦楽団と共演しています。すでにこの年齢にしてソリストとしてプロの舞台に立っているのですから並大抵ではありません。聴く人を幸せな気分にしてくれる北村さんのキャラクターも魅力的です。将来どんなチェリストに育つのか、楽しみですよね。
東京藝術大学のお祭りを知る休日
学生たちが若くて眩しすぎる! 今週は「東京藝術大学のお祭りを知る休日」。生き生きとした若者たちの表情を見て、微笑ましく感じた方も多かったのではないでしょうか。東京藝大の学園祭である「藝祭」を、卒業生である石丸幹二さんと上野耕平さんが訪ねました。
若者たちが思いきり弾けるこの甘酸っぱい感じ、まぎれもなく学園祭の雰囲気ではあるのですが、やっぱり一般の大学とはずいぶんカラーが違います。なんといっても学園祭を彩るビジュアルやサウンドの一切合切が、学園祭にしてはありえないくらいのハイクォリティ。立て看板のデザインからして一味も二味も違っていました。オリジナル御輿の造形のおもしろさだとか、模擬店で学生が歌う本格的なオペラ・アリアだとか、ケルト音楽研究部の板についた演奏ぶりだとか、なかなか一般大学では目にできる光景ではないでしょう。しかもケルト音楽研究部で演奏していた学生さんにお話を聞くと、所属が楽理科だったり美術学部の芸術学科だったりと多彩で、「え、そんなこともできちゃうの」と感心させられます。
今年の「藝祭」は9月8日(金)から10日(日)にかけて、三日間にわたって開催されました。番組中でご紹介したのは8日の様子。期間中、学内のいくつものホールや奏楽堂(コンサートホール)では室内楽やオペラ、オーケストラ、オルガン演奏、邦楽など多数の公演も開催されていました。
会場は上野。東京文化会館や国立西洋美術館、東京都美術館等の文化施設が集中する上野公園の一帯を抜け出ると、道路をはさんで右側に音楽学部、左側に美術学部のキャンパスが広がります。普段の授業では音楽学部と美術学部の学生にはほぼ接点はないそうですが、両者が共同作業をする貴重な機会が「藝祭」の御輿づくり。上野耕平さんが「藝祭マジック」とおっしゃっていましたが、いろんなロマンスが生まれるというのも頷けますよね。
太鼓の革命児・林英哲の音楽会
和太鼓という伝統楽器を用いながら、これまでにどこにもなかった新しい音楽を生み出しているのが林英哲さん。今週の「太鼓の革命児・林英哲の音楽会」では、その独創性を存分に感じていただけのではないでしょうか。
最初の「三つ舞」ではドラムセットならぬ和太鼓セットが用いられていましたが、こういった独自の楽器の使い方を創案できるのも林英哲さんならでは。太鼓を正面から背中を見せて叩く「正対構え」も林英哲さんの考案だったとは! これを昔からある伝統奏法だと思っていた方も多いのではないでしょうか。
クラシック音楽界で林英哲の名が国際的に知られるきっかけとなったのは、小澤征爾指揮ボストン交響楽団の初演による石井眞木作曲の「モノプリズム」。1976年に世界初演され、以後、日本やヨーロッパでも演奏されています。ごく最近の話題としては、昨年、東京で開催された音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」でも林英哲さんの演奏でこの曲が演奏されました。この音楽祭はフランスのナントから日本へ渡ってきたもの。本家ナントでも同曲が演奏され、林英哲さんの和太鼓とオーケストラの共演は大評判を呼びました。ラ・フォル・ジュルネでは一昨年にも松下功作曲の和太鼓協奏曲「飛天遊」がナントと東京の両方で演奏されて、大喝采を浴びています。和太鼓という本来ローカルな楽器が、洋の東西を問わず熱狂を呼び起こしていることに感動を覚えずにはいられません。
番組中でクラシックの楽器との共演ということで選ばれた曲が、ヴィターリのシャコンヌ。この選曲には少し驚きました。こんなにしっとりとした抒情的な曲で、和太鼓に出番はあるのかなと不思議に思ったのです。しかし、実際の演奏を耳にして納得。和太鼓からあれだけ多彩な音色が生み出されるとは想像もつきませんでした。ヴァイオリンとパイプオルガンと和太鼓の音色がぴたりと溶け合っていましたね。
クラシック界の新星・華音と百音の音楽会
今週の「華音と百音の音楽会」では、ふたりの新星に登場していただきました。「華音と百音」というとまるでユニット名のようですが、ともに「音」の字が名前に組み込まれているのは偶然です。まるで音楽家になるべくしてなったかのようなお名前ですよね。ピアニストの松田華音さん、ヴァイオリニストの服部百音さん、ともにCDデビューも果たし、話題を呼んでいます。
松田華音さんのキャリアは他にあまり例のないものだと思います。音楽一家のご出身ではないそうですが、6歳にして早くもロシアに渡り、ロシアで英才教育を受けて音楽家への道を歩みました。日本語よりもロシア語のほうが得意というほどですから、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」はまさに本場仕込みの演奏。ダイナミックな打鍵で、ピアノからパワフルかつブリリアントな音色を引き出してくれました。
組曲「展覧会の絵」といえば、一般にはラヴェル編曲のオーケストラ版が広く知られていると思います。この曲はラヴェルの華麗な編曲のおかげで人気曲になりました。オーケストレーションにかけては達人と呼ばれるラヴェルだけに、彼の管弦楽版は大変にカラフル。でも、ムソルグスキーがピアノのために書いた原曲は、ぜんぜん違う雰囲気なんですよね。松田華音さんが弾いてくださったように、骨太で土臭い音楽です。
服部百音さんは曽祖父・服部良一、祖父・服部克久、父・服部隆之という音楽一家の出身。ヴェンゲーロフやレーピンといった世界最高峰のヴァイオリニストを育てた名教師ザハール・ブロンに師事し、国際コンクールでの受賞歴も豊富で、完璧なキャリアを築きつつあります。「カルメン・ファンタジー」で披露してくれた切れ味鋭いテクニックには圧倒されてしまいます。でも、石丸さんと話している姿を見ると、まだあどけなさを残す18歳の女の子。このギャップがなんともいえません。
新しい民謡の音楽会
日本の民謡って、なんだかカッコいいと思いませんか。今回の「新しい民謡の音楽会」では、現代版にアップデイトされた日本の民謡の数々をお楽しみいただきました。
民謡とは「民衆の日常生活のなかから自然に生まれ、民衆のあいだで長く歌いつがれ、その土地の人々の生活感情を反映した歌謡」のこと(「新編 音楽中辞典」より)。普段、民謡にまったくなじみのない方であっても、日本人ならだれしも聴けば懐かしさを感じる。民謡にはそんな普遍的な力強さがあると思います。
クラシック音楽の歴史のなかでも民謡は大きな役割を果たしています。とりわけ20世紀前半には、バルトークやコダーイ、ストラヴィンスキーなど、多くの作曲家たちが自作に民謡を取り込んでいます。民謡の再発見が新たな音楽語法の開拓につながったといってもよいでしょう。
日本でも多くの作曲家たちが民謡を創作力の源としています。たとえば、オーケストラ曲でもっとも有名な例は、外山雄三作曲の「管弦楽のためのラプソディ」。八木節や炭坑節が用いられ、日本の楽団が海外公演をする際に盛んに演奏されています。
本日の一曲目、三善晃作曲「五つの日本民謡」の「ソーラン節」は、混声合唱のために書かれた作品です。民謡の編曲ではありますが、編曲を超えたオリジナル作品といってもおかしくないでしょう。モダンな作風にもかかわらず、民謡の持つ根源的なパワーは失われていません。
「日本全国人気民謡メドレー」と「東京音頭」では、合唱と吹奏楽という組合せで、民謡がさまざまなスタイルでアレンジされていました。サンバなど外国のリズムも取り入れたハイブリッド民謡とでもいいましょうか。楽しかったですよね。合唱と吹奏楽が共演するレパートリーとしての可能性も感じさせてくれました。
第27回 出光音楽賞受賞者ガラコンサート
今週は第27回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。新進音楽家の登竜門として知られる同賞ですが、今年はピアノの反田恭平さん、オーボエの荒木奏美さん、ソプラノの小林沙羅さんの3名が受賞しました。いずれも現在大活躍中の気鋭の若手ばかり。納得の人選ですよね。
反田さんは目標とする音楽家にラフマニノフを挙げ、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」を演奏してくれました。ラフマニノフは作曲と実演の両方で頂点をきわめたという点で、20世紀最大級の音楽家といえるでしょう。ロシアに生まれ、アメリカに渡ってからは当代一流のピアニストとして名声を築きました。あまりにもピアニストとして多忙だったためか、アメリカ時代に作曲された作品はごくわずかしかありませんが、「パガニーニの主題による狂詩曲」はそんな貴重なアメリカ時代の一曲。反田さんも、いずれはピアニストという存在を越えた音楽家に育ってゆくのでしょうか。
オーボエの荒木奏美さんは現在、東京交響楽団の首席オーボエ奏者を務めています。オーケストラの首席奏者のポジションを射止めるのは大変なこと。しかし、荒木さんはすでに在学中からこのポジションに就いています。一般にオーケストラは木管楽器の各パートにふたりの首席奏者を配し、演奏会ごとにどちらかが一番奏者を務めるものですが、東京交響楽団のもうひとりの首席オーボエ奏者は、第20回出光音楽賞を受賞した荒絵理子さん。同じ首席オーボエ奏者にふたりの出光音楽賞受賞者が名を連ねるという豪華な陣容になっています。近年際立った躍進ぶりを見せる同楽団ですが、これもすぐれた奏者がいてこそだと改めて実感します。
小林沙羅さんは声の魅力に加えて、演技力の高さも受賞理由に挙げられていました。レハールの「ジュディッタ」より「熱き口づけ」での間奏のダンスはさすが。客席が一段と熱く盛りあがっていましたね。
教科書を超えた音楽会
音楽の教科書に書いてあることはすべて正しいはず。でもそこに書いてあることからさらに一段踏み込んで、生きた音楽を奏でるにはどうしたらよいのか。今週は世界的指揮者山田和樹さんならではの視点による「教科書を超えた音楽会」をお届けしました。
音楽辞典で「スタッカート」の意味を調べると、「各音を短く切って演奏すること」などと記述されています。楽譜上の表記は符頭の上下に点(・)を付けるのが一般的ですが、楔(▼)マークが付くこともあります。この点と楔を合わせるとビックリマーク(!)になるという山田さんの説明には、思わず声を上げて笑ってしまいました。おもしろい! でも、冗談ではなくて、これが表現の本質を突いている、ということなんですよね。
山田理論によれば、「スタッカートは音を短くきるのではなく、特別な音にする」。「特別な音」と言われてピンと来なかった方も、実演での比較を見ると、たしかに違いがあると感じていただけたのではないでしょうか。ただ音を短く切るだけだと、無表情な音楽になってしまうという説明には納得。
続く「半音は全音よりエネルギーを使え」や「イン・テンポは音楽に存在しない」といった山田さんの教えも、一見すると逆説的ですが、実例を伴うとよくわかります。感情表現が生まれてくるのは半音から。イン・テンポが当然と思われるマーチのような曲ですら、細かく見ればテンポは動いている。最初の「スタッカートを特別な音にする」も含めて、これらはすべて音楽に命を吹き込むための方法といってよいでしょう。
今回は山田和樹さんが指揮する吹奏楽という点でも興味深いものでした。チェザリーニ作曲の交響詩「アルプスの詩」は、まさにリヒャルト・シュトラウスばりの壮麗な音のスペクタクル。アルプスの雄大な光景が目に浮かんでくるかのような演奏でした。
巨匠VS吹奏楽部の音楽会
今週は「巨匠VS吹奏楽部の音楽会」。日本を代表するトップ・ミュージシャンたちと名門吹奏楽部の共演が実現しました。憧れの存在と、まさかの共演。高校生たちの生き生きとした表情が印象に残りました。
トップ・ミュージシャンたちが渡した課題曲も三者三様でおもしろかったですよね。トロンボーンの中川英二郎さんが出した課題曲はモンティ作曲の「チャールダーシュ」。クラシック音楽の世界では、ヴァイオリニストが鮮やかなテクニックを披露するために、よくアンコールで弾く人気曲です。これを吹奏楽で演奏するというのも興味深いところ。中川さん編曲のジャズ・バージョンで東海大学付属高輪台高等学校吹奏楽部が挑戦しました。快速部分での中川さんのソロは、とてもトロンボーンとは思えない俊敏さと切れ味。中川さんはジャズのアドリブ風の部分がポイントとおっしゃっていましたが、高校生たちも華麗な演奏でビシッと決めてくれました。
サックスの本多俊之さんは、浜松聖星高等学校吹奏楽部との共演。課題曲は本多さんの楽曲である AMPLITUDE です。これは独奏サクソフォンと吹奏楽のための協奏曲と呼んでいいような、とても聴きごたえのある楽曲でした。変拍子が多用され、リズムがかなり難しそう。それでもソロとぴたりと足並みをそろえて、ともにひとつの音楽を作り出していた浜松聖星高校のみなさんには脱帽です。
トランペットのエリック・ミヤシロさんの課題曲は「宝島」。共演は「イチカシ」こと、柏市立柏高等学校吹奏楽部です。吹奏楽の世界で「宝島」といえば真島俊夫編曲があまりにも有名ですが、エリックさんは今回のために新たな編曲を作ってくれました。エリックさんの軽やかなハイトーンと、高校生たちのまろやかなサウンドが、新鮮な「宝島」を生み出していました。
それにしても三校とも演奏のレベルが高いのにびっくり。うまいだけではなく、吹奏楽の楽しさが伝わってくるところがいいですね。