ショパンの曲はだれもがどこかで耳にしているはず。でも、知られているようで意外と知られていないのがショパン。今週の「ショパン通になれる休日」では、日本を代表する「ショパン弾き」である横山幸雄さんから、ショパン通になるための近道を伝授していただきました。
フレデリック・ショパンは1810年、ポーランド生まれ。といっても、お父さんはフランスの出身です。若くしてポーランドに移住し、この地に根をおろして暮らしました。息子には「フレデリック」とフランス風の名前を付けたものの、「自分はポーランド人である」という意識を生涯にわたって持ち続けたといいます。
一方、ショパンはポーランドに生まれ、やがて音楽家として頭角をあらわすと、フランスへと移りました。音楽家としての成功のためには大都会パリで名をあげることが必要だったのです。パリの社交界のセレブとなったショパンですが、彼がポーランド人としてのアイデンティティを大切にしていたことは、ポロネーズやマズルカといったポーランドの民族舞踊に由来する作品をたくさん書いたことでも明らかでしょう。とりわけ、ショパンが愛着を持っていたのがマズルカ。番組内でもご紹介したように、ショパンの全作品中、なんと約4分の1がマズルカなのです。
横山幸雄さんは1990年のショパン国際ピアノ・コンクール入賞以来、トップレベルで活躍を続ける名手です。2010年には「ショパン・ピアノ独奏曲 全166曲コンサート」を行い、ギネス世界記録に認定されました。今年5月には、ピアノ独奏曲だけではなく、室内楽や歌曲なども含めて、ショパンが39年の生涯で残した計240曲を、3日連続公演で演奏して話題を呼びました。ほとんど超人的な快挙といってもいいでしょう。
こういった企画が成立するのも、ショパンの作品が傑作ぞろいだからこそ。ショパンは「通」になりがいのある大作曲家だと思います。
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ショパン通になれる休日
83歳の指導者と少年少女オーケストラの音楽会
今週は先週に引き続きまして、佐治薫子さんが音楽監督を務める千葉県少年少女オーケストラの演奏をお届けいたしました。情熱とバイタリティにあふれる佐治さん。とても83歳には見えません。
佐治さんは小学校を定年退職してから、千葉県少年少女オーケストラの音楽監督に就任しました。それで、あのハイレベルなオーケストラを育て上げたというのですから、驚かずにはいられません。
佐治さんが挙げていた3つのポイントは、「よい演奏はしつけから」「できても練習」「仲間と一体になる」。音楽監督である以前に、まず教育者であることがよくわかります。オーケストラのメンバー全員で「ラ」の音を声で発してから、楽器のチューニングに取り組むというアイディアはおもしろかったですよね。これは明日からでもまねできそうな練習法です。
今回演奏されたのはすべて伊福部昭の作品でした。伊福部昭といえば、だれもが知るのが「ゴジラ」のテーマ。現在映画館で公開中のハリウッド版ゴジラ「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のなかでも、伊福部昭の音楽が使用されています。
「日本組曲」を書いた当時、伊福部昭は北海道帝国大学(後の北海道大学)農学部に在籍する19歳の若者でした。原曲はピアノ曲です。今回お聴きいただいたのは、後年、オーケストラ用に編曲したバージョンです。
北海道生まれの伊福部昭は、よく土俗的な作曲家だと言われます。「日本組曲」の「盆踊」「七夕」「佞武多(ねぶた)」では、作曲者が過ごした北海道や旅で訪れた青森の風習が題材となっています。また、「シンフォニア・タプカーラ」は、少年時代に触れたアイヌの文化に触発された作品です。
土地に根ざした伊福部昭の音楽が、遠く離れた千葉県の少年少女たちによって演奏される。名曲とはこうして受け継がれてゆくものなんでしょうね。
日本最高峰!少年少女オーケストラの音楽会
千葉県少年少女オーケストラは10歳から20歳までの団員約160名で構成されるオーケストラ。少年少女オーケストラながら、マルタ・アルゲリッチ、クリスティアン・アルミンクといった世界的な音楽家たちと共演しているのですから、驚かされます。設立は1996年。都道府県レベルでは全国初の少年少女によるオーケストラなんだそうです。演奏はアルミンクさんが語っていたように「プロ顔負け」。井上道義さんとともにショスタコーヴィチの交響曲第1番を演奏していましたが、選曲も大人のオーケストラと変わりません。
ショスタコーヴィチは20世紀のロシアで活躍した作曲家。交響曲第1番は19歳で書かれ、大評判を呼びました。ショスタコーヴィチはまだ音楽院の学生でしたが、「モーツァルトの再来」と呼ぶ声もあったほど。当時、ロシアはソビエト連邦という一党独裁の共産主義体制のもとにありました。この国では芸術家の表現は国家によって厳しく管理されていました。体制を賛美する作品が求められ、社会批判につながる作品を書くと粛清されてしまう。ショスタコーヴィチは困難な環境のなかで、国家の要請と芸術家の良心の間で葛藤しながら、創作活動を続けた作曲家です。ショスタコーヴィチの音楽は、そんな不自由さと切っても切れない関係にあります。
一方、モーツァルトのピアノ協奏曲第9番「ジュノーム」には自由な空気が漂っています。こちらは21歳で書かれた作品。後の成熟期を先取りするような充実した傑作で、創意に富み、すみずみまで生命力にあふれています。しかも、小曽根さんは原曲にアドリブを加えたり、ジャズ風のカデンツァを挿入するなど自由自在。おそらく作曲当時のモーツァルトも、演奏するたびに違った弾き方をしていたはず。小曽根さんの生き生きとした表情も印象的でした。オーケストラの若いメンバーたちに大いに触発されたのではないでしょうか。
ウェディング協奏曲の音楽会
今年3月に「卒業ソングが交響曲になった!卒業シンフォニーの音楽会」を放送しましたが、今回は「ウェディング協奏曲の音楽会」。もしも結婚式の定番ソングをクラシックの大作曲家たちが協奏曲にしたら……という設定で遊んでみました。アイディア満載の編曲は萩森英明さん。
交響曲に一定の基本的なフォーマットがあるように、協奏曲にもおおまかな決まりごとがあります。原則として交響曲は4つの楽章からなるのに対して、協奏曲は3つの楽章で構成されます。そして、交響曲はオーケストラだけで演奏されますが、協奏曲はソリストとオーケストラの共演によって演奏されます。両者が協力して音楽を作るから「協奏曲」。鈴木優人さんもおっしゃっていましたが、結婚するふたりがひとつの家庭を作る様子にたとえられるかもしれません。また、協奏曲には「カデンツァ」と呼ばれる、ソリストがひとりで演奏する見せ場があります。
第1楽章はオルガン協奏曲。石丸由佳さんがソリストとして登場し、東京オペラシティコンサートホールが誇るパイプオルガンを演奏してくれました。テーマは「もしもバッハが安室奈美恵の CAN YOU CELEBRATE? を作ったら」。バッハが得意としたフーガも出てきました。
第2楽章はチェロ協奏曲で。小澤征爾さんをはじめ、世界的な名指揮者たちとの共演も多い宮田大さんがソリストを務めてくれました。テーマは「もしもワーグナーがいきものがかりの『ありがとう』を作ったら」。本来はぜんぜん違う2曲が、絶妙の編曲で合体していたのがおかしかったですね。宮田さんのカデンツァは鮮やか。
最後の第3楽章はヴァイオリン協奏曲で。こちらのテーマは「もしもメンデルスゾーンがドリカムの『あなたとトゥラッタッタ♪』を作ったら」。辻彩奈さんの輝かしいヴァイオリンの音色とキレのあるテクニックには感嘆するばかり。遊びは本気でやってこそおもしろいのだということを思い知らされた気分です。
高嶋ちさ子のわがまま音楽会~モーツァルト編
今週は高島ちさ子さんがモーツァルトの魅力をさまざまな角度から語ってくれました。
よくモーツァルトの音楽は「子供には簡単だけど、大人には難しすぎる」と言われます。高島さんいわく「ピュアな心がないと弾けない!」。一見、技術的に容易に見えても、大人が説得力のある演奏をするのは簡単ではありません。モーツァルトを得意とする演奏家を「モーツァルト弾き」と呼んだりしますが、逆に言えばモーツァルトの演奏に慎重な有名演奏家も少なくないのです。
モーツァルトの曲は大半が長調で書かれていますので、天真爛漫な音楽と思われがちですが、長調の曲でもしばしば短調に移って影が差す瞬間が訪れます。こんなふうに長調と短調の間を自在に行き来できるのがモーツァルトの魅力。明るいけど悲しい。暗いのにすがすがしい。モーツァルトのほとんどの作品には、そんな陰影の豊かさがあります。
「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」では、ヴァイオリンの山根一仁さんとヴィオラの安達真理さんが、精彩に富んだソロを披露してくれました。ヴィオラの調弦を変更して、輝かしい音を出そうというのがモーツァルトのアイディア。安達さんが通常の調弦と、この曲のための変則的な調弦で同じメロディを弾いてくれましたが、違いは伝わったでしょうか。微妙な違いですが、前者はヴィオラらしいコクのある音色、後者はいくぶん明るく華やかな音色になっていたと思います。
ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」は、当時流行のトルコ趣味を反映した作品。番組中ではベートーヴェンの「トルコ行進曲」も紹介されていましたが、たとえばハイドンは交響曲第100番「軍隊」で、トルコ風の軍楽隊を模しています。モーツァルト自身、このヴァイオリン協奏曲のほかに、ピアノ・ソナタ「トルコ行進曲付き」やオペラ「後宮からの誘拐」で、トルコ趣味を前面に押し出しています。ウケるネタは何度でも、といったところでしょうか。
2人の天才作曲家を世に送り出したクララ・シューマンの音楽会
大作曲家ロベルト・シューマンの妻であり、名ピアニストでもあったクララ・シューマン。今年、生誕200年を迎え、クララへの関心が高まっています。
クララ・シューマンとロベルト・シューマンは音楽史上まれに見る才能に恵まれたカップルといえるでしょう。ふたりは苦難の末に結ばれました。ロベルトの師であった高名なピアノ教師ヴィークの娘がクララ。クララは幼少時より音楽の才能を発揮して、天才少女として知られていました。やがてロベルトとクララは愛し合うようになるのですが、クララの父ヴィークはふたりの交際に猛反対。ずっと父に対して従順だったクララは、父と恋人との間で板挟みになります。しまいには裁判にまで発展し、父ヴィークはシューマンに対して結婚を許す代わりに「過去7年分のクララの全収入に匹敵する金額を払え」などと非現実的な要求を突き付けます。結局、ヴィークの理不尽な要求は退けられ、クララとロベルトは結婚にたどり着くことができました。
そんなふたりだけに、ロベルトの作品内に秘密の愛のメッセージが込められているのも無理からぬこと。小菅さんが「幻想曲」の冒頭を弾いて、ここにも「クララ」の暗号が隠されているとおっしゃっていましたが、これなど説明されなければ、まずわかりそうにありません。
シューマン夫妻のもとを訪れたのが、若き日のブラームス。クララはブラームスのよき理解者となり、お互いの間には友情、そして愛情が育まれます。クララとブラームスの関係についてはさまざまな見方があります。ふたりの間で交わされた手紙がたくさん残っていますが、両者が特別な強い絆で結ばれていたことはまちがいありません。
クララは女性作曲家の先駆けでもありました。当時の社会では女性が職業作曲家として活躍することは困難でしたが、もし現代に生きていたらロベルトに負けないほどの名曲を書いていたかもしれませんね。
東北を奏でる音楽会
今週は先週に続いて、坂本龍一さんと東北ユースオーケストラのみなさんにご出演いただきました。東北ユースオーケストラはさまざまな個人や団体の支援によってなりたっています。吉永小百合さんもこのオーケストラを応援するひとり。吉永小百合さんの朗読と坂本龍一指揮東北ユースオーケストラが共演する場面がありましたが、朗読と音楽が絶妙のバランスでひとつに溶けあっていたのが印象的でした。曲は坂本龍一作曲の Still Life 。もともとは2009年のアルバム「アウト・オブ・ノイズ」中の一曲で、ヴィオラ・ダ・ガンバによるイギリスの古楽アンサンブル、フレットワークと共演した楽曲です。こうしてオーケストラ・バージョンで聴くと、柔らかくやさしい響きがいっそう引き立ちます。
ロンドンを拠点に活躍する作曲家、藤倉大さんは、このオーケストラのために Three TOHOKU Songs を作曲しました。藤倉さんといえば、著名演奏家や音楽団体から次々と新作の依頼が舞い込む世界的な作曲家。近作のオペラ「ソラリス」はフランスやドイツなど各地のオペラ劇場で上演され、昨年は東京でも演奏会形式で日本初演されて話題を呼びました。自由な発想により新鮮味のあるサウンドを聴かせてくれる藤倉さんですが、今回のような日本の民謡を題材に用いた作品には意外性があります。東北の民謡が、新しい音色とハーモニーに彩られた21世紀版の民謡として生まれ変わりました。カッコよかったですよね。
仙台市出身の作曲家、仁科彩さん作曲の「くぐいの空」は、くぐい(=白鳥)が題材となった曲。ラヴェルやリヒャルト・シュトラウスを思わせるような緻密で色彩感豊かなオーケストレーションに、東北の白鳥のイメージが加わって、独自の世界が生み出されていました。白鳥の描写を通して、人と自然の共生へと思いを巡らされるような、みずみずしく壮麗な作品だったと思います。
坂本龍一が手がける東北ユースオーケストラの音楽会
ユースオーケストラにもいろいろな形がありますが、東北ユースオーケストラほど独自の経緯で誕生した団体もないでしょう。最初の第一歩は、震災をきっかけとして坂本龍一さんが設立した「こどもの音楽再生基金」。楽器の修理から始まった復興支援は、やがてユースオーケストラへと発展します。東日本大震災の被災三県(岩手県・宮城県・福島県)の子供たちが中心となって、2013年秋に宮城県松島町にて開催された音楽祭「ルツェルン・フェスティバル ARK NOVA 松島 2013」を機に、東北ユースオーケストラの活動がスタートしました。すぐれた音楽家たちとの出会いや、仲間たちとの交流は、子供たちにとっての貴重な成長の場となっているといいます。単に大人が用意した場に子供たちが受け身で集まっているのではなく、子供たち自身が主体性を持って活動に取り組んでいる様子が伝わってきましたよね。
番組内では坂本龍一さんと東北ユースオーケストラの共演によって、「戦場のメリークリスマス」テーマ曲や「ラストエンペラー」、「ETUDE」といった坂本さんの名曲をお聴きいただきました。これは貴重な機会だったと思います。コンサートホールで坂本さん自身がピアノを弾いて、オーケストラと共演しているという状況に興奮せずにはいられません。
ピアノとオーケストラという協奏曲スタイルの演奏ということで、おなじみの曲にも一味違った新鮮な雰囲気が感じられたのもおもしろかったですよね。たとえば、「戦場のメリークリスマス」テーマ曲には、エリック・サティ風の無機的な手触りと、オリエンタリズム、そしてしなやかな抒情性が一体となって、独特の味わいが生まれていたと思います。
最後に演奏された「ETUDE」は、1984年にリリースされたアルバム「音楽図鑑」のなかの一曲。挾間美帆さんによりピアノとオーケストラ用に編曲されていました。ステージと客席が一体となって盛り上がりました。
平成が生んだ!ピアノ王子vs即興王子の音楽会
今週はクラシック界とジャズ界から、未来を担うふたりの若いピアニストをお招きました。おふたりともCDデビューが早く、牛田智大さんは12歳で、奥田弦さんは10歳でデビュー・アルバムをリリースしています。才能のあるピアニストが続々と登場する昨今ですが、ここまで早くから活躍している人はめったにいません。
ショパンのバラード第1番をふたりのリレーで演奏する場面はおもしろかったですよね。牛田さんの演奏は、磨き上げられた繊細なタッチによる情感豊かなショパン。これを受けた奥田さんは、ショパンにジャズのテイストを加えてスリリングな即興を披露してくれました。
牛田さんは昨年、浜松国際ピアノ・コンクールで第2位を獲得して大きな話題を呼びました。なにしろ牛田さんは、コンクールを受ける前から知名度が高く、すでに演奏活動も行っていましたので、コンクールを受けることを少し意外に感じました。しかし、見事に第2位を獲得したことで、牛田さんへの注目度は一段と増したように思います。人気に加えて、実力も証明されたと言ってよいでしょう。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、このコンクールのファイナルで演奏した曲。作品について、牛田さんは「壮大な海を渡るイメージ」と語っていましたが、これにはなるほどと膝を打ちました。
ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」は奥田さんにうってつけの名曲です。即興部分は事前にどう弾くか決めておらず、その場で音楽を作っていくというのですから、驚かされます。どんな演奏になるかはやってみないとわからないので「ある意味私も観客のひとり」という奥田さん。ガーシュウィン本人も即興演奏の名手だったそうですが、もし奥田さんの演奏を聴いたら、きっと大喜びしてくれたのでは。
劇伴音楽の魅力を知る休日
「劇伴」とは映画やテレビドラマなどで流される音楽のこと。劇への伴奏ということでできた言葉なんでしょうね。もともとは業界用語だと思いますが、近年は広く使われるようになりつつある言葉だと思います。それだけ劇伴の重要性が知られるようになったということでもあるのでしょう。
作曲家の村松崇継さんが猫の映像に3種類の音楽を付けてくれましたが、それぞれ見る人に伝わる印象はまったく違っていました。この比較だけでも、劇伴が映像の意味付けに大きな役割を果たしていることがよくわかります。
劇伴が作られるプロセスもおもしろかったですよね。テレビドラマの場合は映像がない状態で作曲するというお話にはびっくり。監督の言葉からイメージを想起するということですから、これは高度な職人芸の世界です。てっきり映像を見てインスピレーションを得るものだと思っていたのですが、このあたりはテレビと映画の事情の違いなのでしょう。しかもその音楽がどこでどう使われるかに、作曲家が関与しないというのも意外な気がしました。作曲家はとても重要な存在だけれど、作品全体は監督のもの。そんな考え方なのでしょうか。
鈴木慶一さんが衝撃を受けたという映画「ベニスに死す」では、全編にわたってマーラーの交響曲第5番の第4楽章「アダージェット」が使用されています。大編成のオーケストラを必要とするマーラーの交響曲ですが、この楽章で使われるのは弦楽合奏とハープだけ。編成は簡潔ながらインパクトは抜群。愛の音楽でありながらも、死の匂いを漂わせた音楽でもあるのが、この「アダージェット」です。「ベニスに死す」のテーマにぴったりの音楽で、今となってはこれ以外の選曲はありえなかったとまで思わされるほど。
この映画のおかげでマーラーが大好きになったという人は世界中にたくさんいることでしょう。劇伴の影響力は決して侮れません。