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ディズニーで盛り上がる音楽会2022

投稿日:2022年08月27日 10:30

新型コロナ感染症の流行により昨年と一昨年は中止になったサマーステーションが、この夏、3年ぶりに開催されました。今回はスペシャルゲストにToshlさんとディカペラのみなさんを迎えて、エリック・ミヤシロ・バンドの演奏でお届けしました。曲はおなじみのディズニーソングがずらり。本当に名曲ぞろいだとあらためて感じます。古典から近作まで、名曲が途切れることなく生み出されているのがすごいですよね。
 『アナと雪の女王』より「レット・イット・ゴー~ありのままで~」では、Toshlさんとエリック・ミヤシロ・バンドが初共演。ハイトーン界の最強ツートップが誕生しました。Toshlさんのパワフルでダイナミックな歌唱から、アナの決意がひしひしと伝わってきて、想像を超える熱いパフォーマンスでした。
 ディカペラはディズニー初の公式アカペラグループ。以前にも番組でご紹介したことがありますが、グループの結成に際してオーディションを行ったところ、全米から1500名を超える応募者が殺到したといいます。すでに活躍しているプロからアマチュアまで、さまざまなバックボーンを持った応募者たちのなかから選び抜かれたのがこのメンバー。ひとりひとりのキャラクターを生かしながらも、全員で美しく調和したひとつの音楽を作り出しているところが見事だったと思います。しかも今回は『リトル・マーメイド』の「パート・オブ・ユア・ワールド」と『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」の2曲をマッシュアップするという超絶技巧。6人のアカペラでこんなことができるとは!
 「美女と野獣」でのToshlさんと石丸幹二さんのデュエットは聴きごたえ抜群。Toshlさんがベル役なんですね。のびやかで輝かしいToshlさんの声と、まろやかで温かみのある石丸さんの声という組合せが絶妙だったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ショパン国際ピアノコンクール第2位 反田&ガジェヴがコンクールの秘策を語る音楽会

投稿日:2022年08月20日 10:30

今週は先週に続いて、ショパン国際ピアノコンクール第2位の反田恭平さんとアレクサンダー・ガジェヴさんをお招きして、コンクールへの向き合い方について語っていただきました。
 おふたりに質問をぶつけたのは国際コンクールを目指す若い音楽家たち。コンクールの入賞者がこんなふうに率直に質問に答えてくれる機会は貴重です。コンクール本番直前の練習法について、反田さんとガジェヴさんはそれぞれ自分なりの方法を見つけているようでしたが、本番をフレッシュな気持ちで迎えるための工夫をしている点では一致していたと思います。反田さんは本番が近くなると弾く量をフェイドアウトすると言い、ガジェヴさんは一度も曲を聴いたことがないかのように頭の中を空っぽにして作品と向き合いたいと語ってくれました。
 反田さんとガジェヴさんの演奏もとても聴きごたえがありました。まず反田さんが演奏したのはショパンのワルツ第4番「華麗なるワルツ」。実際にコンクールの2次予選で演奏した曲です。曲名通り本当に華やかで、明瞭でエレガント、そしてチャーミングなショパンだったと思います。ガジェヴさんが弾いたのはマズルカ第35番。マズルカは本来ポーランドの民族舞踊ですが、この曲などは踊りの要素が希薄で、ノスタルジーや悲しみなどさまざまな感情が一曲の中に入り混じっています。こういった思索的な雰囲気を持った曲はガジェヴさんによく似合います。
 最後に反田さんが演奏してくれたのは、ブラームスの「6つのピアノ小品」作品118の第2番「間奏曲」。これはもう究極の名曲ですよね。ウィーンですでに大作曲家として名を成していたブラームスが、最晩年にさらなる高みに到達した傑作です。ショパンとはまた一味違ったノスタルジーやメランコリーが伝わってきたのではないでしょうか。ウィーンに拠点を移した反田さんが、また新たなステージへと進みつつあることを感じさせる名演だったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ショパン国際ピアノコンクール第2位 反田恭平&ガジェヴの音楽会

投稿日:2022年08月13日 10:30

今週は昨年のショパン国際ピアノコンクールでともに2位を獲得した反田恭平さんとアレクサンダー・ガジェヴさんのおふたりをお招きしました。コンクールのときの緊張した雰囲気とは違って、すっかりリラックスした様子で会話しているふたりの姿を見ると、なんだかほっとしますよね。
 近年はコンクールでの演奏、さらに受賞者の発表までもがインターネットでライブ中継されるようになりました。このコンクールでも多くの日本のファンが受賞者発表の瞬間を固唾をのんで見守っていたと思います。2位にふたり名前が呼ばれたのには意表を突かれましたが、前例のないことではありません。
 ガジェヴさんは「2位がいちばんいい。2位は可能性を秘めている」と言って笑っていましたが、あながちこれは冗談とも言い切れないところがあります。過去の同コンクールを振り返ってみると、2位や3位の受賞者が大ピアニストになることも珍しくありません。古くはアシュケナージや内田光子さんが2位でした。近年では前々回3位のトリフォノフが大家への道を歩んでいます。スポーツの大会とはちがい、少し時が経てば順位はあまり関係なくなってしまいます。
 今回はおふたりともショパンの作品から一曲ずつ演奏してくれましたが、選曲が興味深かったと思います。いずれもキャッチーな有名曲というよりは、ショパンの奥深さを感じさせてくれるような作品でした。ガジェヴさんが弾いたのは前奏曲嬰ハ短調。これは有名な「24の前奏曲」とは別に書かれた前奏曲です。先頃行われた来日リサイタルでもこの曲を一曲目に弾いていたのを思い出します。反田さんが選んだのはノクターン第17番。ガジェヴさんが「静寂に包まれた湖の光景」とたとえていた冒頭部分が、実に繊細で典雅でした。
 最後にガジェヴさんが演奏してくれたのは、ドビュッシーの12の練習曲より第11番「組み合わされたアルペジオのために」。透明感のある爽快なドビュッシーでしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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5つのドアの向こうの音楽会

投稿日:2022年08月06日 10:30

今週はこれまでに放送された「ドアの向こうの音楽会」から、夏にぴったりの5つの絶景と演奏をお楽しみいただきました。
 村治佳織さんが仮想空間で訪れたのはアルハンブラ宮殿。スペインの古都グラナダにある世界遺産です。曲は近代スペイン民族主義楽派を代表するアルベニスによるスペイン組曲第1集から「グラナダ」でした。アルベニスは本人がピアニストであったこともあり、組曲「イベリア」をはじめピアノ曲に多数の傑作を残した作曲家です。スペイン組曲第1集も本来はピアノ曲ですが、ギター編曲版でも広く親しまれています。アルベニスのピアノ曲にはしばしばギター風の表現が登場して、スペインの香りを醸し出します。「グラナダ」はまさにその好例。ギターで演奏しても違和感がありません。
 松永貴志さんはディズニー映画『リトルマーメイド』より「アンダー・ザ・シー」を独自のアレンジで。海のなかでピアノを弾くという型破りな設定でしたが、ピアノのきらびやかな音色が幻想的な海中の光景に不思議とマッチしていました。そういえばピアノと水の表現は相性がいいんですよね。ドビュッシーの「沈める寺院」、ラヴェルの「水の戯れ」、ショパンの「雨だれ」などを連想します。
 クロマチックハーモニカの山下伶さんは夏のセーヌ川へ。映画「ロシュフォールの恋人たち」より「キャラバンの到着」を演奏してくれました。この曲を聴くと、気分はもうすっかりパリ。そろそろ海外旅行に出かけたい。そう感じた方も多いのでは。
 大宮臨太郎さんが向かったのは、ひとけのない森。滝壺の前にひとりヴァイオリンを手にして、超絶技巧で彩られた無伴奏の「紅蓮華」を披露してくれました。カッコよかったですね。
 大の鉄道ファンである上野耕平さんが訪れたのは、岩手県のSL銀河。タケカワユキヒデ作曲の名曲「銀河鉄道999」をまさかのサクソフォンによる効果音付きで。この疾走感はまさしく旅。束の間の旅気分を味わうことができました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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前奏じゃないのに「前奏曲」の音楽会

投稿日:2022年07月30日 10:30

世に「前奏曲」と題された曲はたくさんありますが、そのなかでも特に人気の高い曲がショパンの「24の前奏曲」。「雨だれ」をはじめ、名曲がぎっしり詰まっています。でも前奏曲ばかりが続いていて、なぜか前奏の後に来るはずの本編(?)がありません。不思議ですよね。今回はそんな単独で成立する「前奏曲」が生まれるまでの歴史に迫ってみました。
 前奏曲がその名の通り前奏曲として機能している代表例としては、バッハの「前奏曲とフーガ」が挙げられます。「平均律クラヴィーア曲集」を筆頭に、バッハは前奏曲とフーガを一組にした作品をたくさん書いています。フーガとは主題を複数の声部間で模倣しながら進む曲のこと。とても複雑な構造を持っているので、聴くだけでも集中力が必要です。それに比べると、前奏曲はハーモニーやメロディの美しさが際立った曲が多く、リラックスして聴くことができます。つまり、「前奏曲とフーガ」は対照的な性格を持った曲がワンセットになっているわけです。
 ところがショパンの前奏曲もドビュッシーの前奏曲も、前奏曲だけで曲集が組まれています。フーガのような曲がなくても、前奏曲だけで十分に味わい深く、多彩な曲集が成立しています。ショパンの「24の前奏曲」は、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」と同じように24のすべての調で曲を書くというアイディアに基づいていますが、ショパンの時代にはすでにフーガは流行していませんでしたので、ショパンが前奏曲とフーガをセットで書くことはありませんでした。
 ショパンに先んじて、ベートーヴェンも前奏曲のみの作品を書いています。「すべての長調にわたる2つの前奏曲」作品39や、前奏曲ヘ短調WoO.55といった作品があります。どちらもめったに演奏されない曲ですが、こういった知られざる作品にも、ベートーヴェンの先駆性があらわれています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシック奏者が演奏したいアニメソングの音楽会 第2弾

投稿日:2022年07月23日 10:30

今週はクラシックの分野で活躍するアニメ好きの音楽家たち3名が集まって、それぞれが選んだアニメソングをスペシャルアレンジで演奏しました。みなさんのアニメへの熱い思いがひしひしと伝わってきました。
 それにしても今の時代のアニソンには複雑な味わいを持った楽曲が多いことに改めて驚かされます。一曲目に演奏されたのは『王様ランキング』より「BOY」。演奏したい理由として、Cocomiさんが転調の多さや曲調の変化がストーリーに合っていることを挙げていました。ほのぼのとした絵柄に反して、物語世界が大人の心にも響くテーマを扱っていることを、あたかも音楽で予告しているかのよう。フルート、箏の透明感のある音色と、チェロとオーケストラの重厚な音色が組み合わさって、洗練されたサウンドが生み出されていました。
 『進撃の巨人』の「The Rumbling」を選んだのは箏のLEOさん。選曲の理由は「デスボイス」にあると言います。大声で歪ませて叫ぶ低音域の声を「デスボイス」と呼ぶのだそうですが、一見、箏とは似合わない表現方法のように思えます。しかし、特殊奏法を駆使したLEOさんの演奏は迫力満点。恐怖や混乱までも伝えてくれるスケールの大きな音楽になっていました。カッコよかったですね。
 『もののけ姫』より「アシタカとサン」を選んだのはCocomiさん。この物語のラストシーンには、変ニ長調の温かさが似合うと言います。フルートとハープの清澄な音色で始まって、ヴァイオリンのソロが加わり、弦楽器、さらに管楽器も加わって、次第に音の厚みが増してゆくという趣向を凝らした編曲でした。
 宮田大さんは言葉のリズムに着目して『SPY×FAMILY』より「喜劇」を選んでくれました。宮田さんのチェロから言葉のニュアンスが感じられたのではないでしょうか。ストリングスを中心としたアレンジもシックで気持ちよかったですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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アニメ・特撮音楽を築いた巨匠 渡辺宙明の音楽会

投稿日:2022年07月16日 10:30

今週は今年6月23日に96歳で世を去った渡辺宙明さんを追悼し、その名曲の数々をお届けいたしました。「秘密戦隊ゴレンジャー」や「野球狂の詩」「マジンガーZ」などなど、本当に名曲ぞろいで、今聴いても胸が熱くなります。音楽がそれぞれのヒーロー/ヒロイン像にぴたりとマッチしているんですよね。
 「秘密戦隊ゴレンジャー」は特撮戦隊シリーズの草分け。それまでのヒーローはひとりで敵と対決していましたが、この番組では5人で戦隊を組んで敵と戦う新たなヒーロー像が打ち建てられました。オープニングテーマの「進め!ゴレンジャー」、エンディングテーマの「秘密戦隊ゴレンジャー」、どちらも耳なじみのよい名曲ですが、特に後者の「バンバラバンバンバン……」はインパクト抜群。このようなスキャットの活用は「宙明サウンド」の大きな特徴になっています。
 「野球狂の詩」の「チュチュチュ」もかなり意外性のあるスキャットだったと思います。このアニメは女性プロ野球選手の誕生という斬新なストーリーを描いているわけですが、それだけに歌詞のないスキャットのみの型破りな主題歌がよく似合っていたのではないでしょうか。
 渡辺宙明さんがスキャットの着想源として挙げていたのがスウィングル・シンガーズ。パリで結成された8人編成のアカペラ・ヴォーカル・グループです。バッハの平均律クラヴィーア曲集や管弦楽組曲のような名曲を、スキャットによりジャズのスタイルを取り入れて歌うというアイディアで一世を風靡しました。「ダバダバ……」とスキャットで歌われるモーツァルトの交響曲第40番などもありました。BGMで耳にしたことがある方も多いことでしょう。
 それにしても「鋼鉄ジーグのうた」でこれほどまでにスキャットが多用されていたとは。「ダンダダダン」や「バンバンババン」と濁点の連続で力強く畳みかけてきます。「ハニワ幻人」など一蹴してしまいそうな迫力がありましたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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夏が来た音楽会

投稿日:2022年07月09日 10:30

今週は音楽で夏の季節感をたっぷりとお楽しみいただきました。やはり夏は思い出の多い季節なのでしょうか、ノスタルジーを喚起する曲がたくさんありましたね。
 最初に石丸さんが歌ったのは「ラジオ体操の歌」。子どもの頃、夏休みに聴いた曲といえばこの曲でしょう。最近はラジオ体操の習慣がなくなっている地域も多いようですが、毎朝、眠い目をこすりながら学校の校庭に通ってスタンプをもらっていたのを思い出します。今回のアレンジではスティールパンがさわやかな南国気分を醸し出していました。こんな演奏を聴けるのなら、早起きも苦にならなかったかも?
 「日本の夏のうたメドレー」で演奏されたのは、村治佳織さんのギターによる「浜辺の歌」、伊澤陽一さんのスティールパンによる「椰子の実」、廣津留すみれさんのヴァイオリンによる「夏の思い出」。新鮮なアレンジで生まれ変わった日本の夏といった趣でしたが、やはり郷愁をかきたてられます。
 あいみょんの「マリーゴールド」は、ギターとストリングスによる演奏で。この曲も夏の情景が描かれています。「淡い青空とマリーゴールドの花の黄色を思い浮かべた」という村治さんの演奏は、清爽かつ情感豊か。ストリングスが加わったことで、ぐっとドラマティックな音楽になっていました。
 ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」より「夏」では、廣津留さんのヴァイオリンが切れ味鋭くエネルギッシュ。ピアソラは劇付随音楽としてこの「夏」を作曲した後、「春」「秋」「冬」を書いて、「ブエノスアイレスの四季」と題した曲集に仕立てました。もともとはバンドネオン五重奏団のために書かれた曲でしたが、「リベルタンゴ」や「アディオス・ノニーノ」といった他のピアソラの名曲同様、クラシックの演奏家にも好んで演奏されています。
 最後の「東京音頭」は豪華出演者陣が一堂に会しての演奏でした。ゴージャスでしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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超絶技巧で挑む!もしもの音楽会

投稿日:2022年07月02日 10:30

今週は「もしもの音楽会」の第3弾。前回好評だった「もしも漫才を音楽にしたら」をさらに拡大して、3組の漫才を川島素晴さんに音楽化していただきました。これはもう神技といってもいいかもしれません。川島さんも、演奏者のみなさんもすごすぎます!
 なにより驚くのは、3曲それぞれが音楽として聴けるということ。どんな種類の音楽にも奏者と奏者の対話性があると思うのですが、もともとの漫才にある対話性がそのまま写し取られているから、音楽として成立するのでしょう。元ネタとなっている漫才をまったく知らなくても、3曲からそれぞれ異なるキャラクターを感じ取ることができると思います。
 「もしもミルクボーイの漫才を音楽にしたら」は、「コーンフレーク」の部分の服部さんのヴァイオリンが秀逸で、頭にこびりつきそう。曲だけ聴いたときはピアノの下降グリッサンドがなんだろうと思ったのですが、漫才の映像を見て納得。「あー、コーンフレークと違うか」の「あー」のがっかり感に対応していたんですね。
 「もしもカミナリの漫才を音楽にしたら」は川島さんの「茨城弁にジャズの雰囲気を感じる」という言葉通り、スイング感がありました。パーカッションが効果的で、ヴァイオリンの鋭いツッコミも実に鮮やか。
 「もしも錦鯉の漫才を音楽にしたら」では多久さんのフルートが大活躍。漫才を見なくても、音楽そのものにユーモアがあって、つい聴いていて笑ってしまいます。言葉抜きでギャグって伝わるんですね。
 最後に演奏されたのはショパンの「別れの曲」の2.5倍速バージョン。なにか明るい希望が感じられるというか、浮き立つ気分が伝わってきます。「別れの曲」の題は映画に由来するものですから、本来ショパンとは無関係。自筆譜の段階ではVivace(ヴィヴァーチェ 活発に速く)と指示されていたのですから、こんな「もしも」もあり得たかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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「これは誰に捧げた名曲?」を知る音楽会

投稿日:2022年06月25日 10:30

クラシック音楽の世界では作品がだれそれに献呈されたという記述をよく見かけます。献呈相手になるのは当時の権力者やパトロンだったり、あるいは名演奏家や友人だったりと、パターンはさまざま。今回はそんな捧げるという行為から、名曲の背景に迫ってみました。
 大まかな傾向として、古い時代の作曲家たちの献呈先は経済的あるいは社会的な事情が反映されていると言ってよいと思います。たとえば、ベートーヴェンの最初の交響曲はパトロンのファン・スヴィーテン男爵に捧げられています。これから世に出る新進作曲家が作品を自分の支援者に捧げるというのは自然なことでしょう。交響曲第3番「英雄」は当初ナポレオンに捧げようとしたものの、ナポレオンへの失望から献呈を取りやめたという逸話もよく知られています(結局は支援者のロブコヴィツ侯爵に献呈されました)。
 それに比べると、後のロマン派の作曲家たちは作曲家同士で曲を献呈したり、妻に捧げたりと、個人的な関係にもとづく例が目立ちます。音楽家という職業のあり方が、権力者に仕えるものから、自立したものに変化していったことのあらわれといってもいいかもしれません。シューマン、リスト、ショパンらが互いに作品を献呈し合っているというお話がありましたが、同世代のライバルたちが切磋琢磨している様子が伝わってきて、すてきなエピソードですよね。
 最後に演奏されたのはフランクの代表作、ヴァイオリン・ソナタ。友人のヴァイオリニストであるイザイ(作曲家としても有名です)の結婚を祝って捧げられました。阪田さんいわく「ヴァイオリン・ソナタのなかでいちばん好きな曲」。フランクはベルギーのリエージュに生まれ、フランスで活躍した作曲家です。今年生誕200年を迎え、あらためて注目が集まっています。実はイザイも同じくリエージュの出身。フランクはパリに移り住んできた同郷の若き才能にこの傑作を贈り、イザイは演奏を通して作品の真価を世に広めたのです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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