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黄金のアンサンブル!弦楽四重奏の音楽会

投稿日:2022年11月05日 10:30

今週は弦楽四重奏の魅力をたっぷりとお楽しみいただきました。一昔前は弦楽四重奏というと玄人好みの渋いジャンルのような印象があったと思います。パッと人目を引くような派手さはないけれども、通にとってはたまらない、というわけです。しかし、昨今ではフレッシュな才能がこの分野に集まって意欲的な活動をくりひろげており、ずいぶんと「カッコいい」イメージが定着してきたように思います。
 弦楽四重奏は室内楽のなかでももっとも傑作に恵まれた分野かもしれません。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといった古典派時代の作曲家たちはみな弦楽四重奏曲の傑作を残しています。弦楽四重奏の伝統はシューベルト、シューマン、ブラームスといったロマン派の作曲家たちに受け継がれ、20世紀に一段と活況を呈します。特に20世紀の作曲家で弦楽四重奏の傑作を残した作曲家と言えば、ショスタコーヴィチとバルトークが挙げられるでしょう。
 ショスタコーヴィチは15曲の弦楽四重奏を書いています。特に人気の高いのが、本日演奏された第8番です。作曲は1960年。ショスタコーヴィチは共産党の独裁体制下にあるソ連の作曲家でしたので、自由な創作活動を認められていませんでした。この年、ショスタコーヴィチは共産党に入党させられることになり、精神的な危機を迎えます。そして、表向きは「ファシズムと戦争の犠牲者」に捧げるとしながら、自らへのレクイエム的な作品としてこの曲を書きました。作品中に自身のイニシャルに由来するD-S(Es)-C-H(レ-ミ♭-ド-シ)がなんども出てくるのは、これが本当は自分自身を扱った作品であることを示唆しています。
 バルトークは6曲の弦楽四重奏曲を残しました。弦楽四重奏曲第4番は1928年の作品。とてもアグレッシブな音楽で、手に汗握るスリリングな緊張感があります。理知的でありながらも、荒々しい。そんなバルトークならではの魅力が伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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角野隼斗が挑む!ポストクラシカルを知る音楽会

投稿日:2022年10月29日 10:30

今週は角野隼斗さんをお招きして、近年のクラシック音楽界に訪れた新たな潮流「ポストクラシカル」について教えていただきました。
 「ポストクラシカル」という言葉はご存じでしたでしょうか。クラシック音楽(クラシカル・ミュージック)に「ポスト」という言葉が付いていますから、最初にこの言葉を耳にしたときは古いのか新しいのかどっちなの?と微妙に違和感を感じたものですが、今や新たな音楽ジャンルを示す言葉としてすっかり定着しています。角野さんが語っていたように「クラシック音楽のサウンド感をベースに電子音楽の要素を足す」「生音を大事にしながらデジタルでできることを追求する」ことが、「ポストクラシカル」の特徴として挙げられると思います。
 この分野の先駆者はドイツ生まれのイギリスの作曲家マックス・リヒター。2012年にリリースしたヴィヴァルディの「四季」を「リコンポーズ」したアルバムは英米独のiTunesクラシックチャートで第1位になるなど、世界的に大きな話題を呼びました。クラシックの名曲にエレクトロ、アンビエントの要素を巧みに融合させた名盤です。
 今回番組で演奏された角野隼斗さんの「追憶」と「胎動」も、それぞれショパンのバラード第2番、練習曲作品10-1という名曲を「リコンポーズ」した作品で、まさしく「ポストクラシカル」の発想で書かれたもの。とても自由で新鮮な音楽だと感じます。
 もともとクラシック音楽の世界には、作曲家の意図を尊重して楽譜を正確に再現しようという原典主義の考え方が定着しているのですが、ポストクラシカルの方向性はまったく違います。原典にインスパイアされることによる創造性が大切にされていると言えるでしょうか。
 番組内で角野さんと話していたヴィキングル・オラフソンは、アイスランド出身の注目のピアニスト。オラフソンはコンサートで伝統的なレパートリーを弾く一方、ポストクラシカル的な発想を取り入れたアルバムを発表しています。角野さんに少し近いスタイルのアーティストと言ってもいいかもしれませんね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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5拍子で楽しくなる音楽会

投稿日:2022年10月22日 10:30

今週は5拍子の音楽の魅力をお伝えいたしました。ふだん私たちが耳にする音楽のほとんどは2拍子、3拍子、4拍子。5拍子は圧倒的に少数派です。
 もっとも有名な5拍子の曲といえば、一曲目に演奏された「テイク・ファイヴ」、そして「ミッション・インポッシブル」(スパイ大作戦)のテーマでしょう。この2曲を聴くと、5拍子はぜんぜん不自然に聞こえませんよね。5拍子ってカッコいいんだなと感じます。でも、いざ音楽に合わせて5拍子に乗ってみようと思うと、やっぱり難しい……。ユザーンさんが5拍子を身体になじませる技を教えてくれましたが、いかがでしたか。「裏拍で手拍子を打つ」はなかなかの高難度でしたけど、5拍子って楽しいですよね。
 「ミッション・インポッシブル」の作曲者ラロ・シフリンは、ある記者会見で「どうして5拍子でこの曲を書いたのか」と質問されて、「今、惑星間飛行の影響で宇宙から電波が届いているのは知ってますよね? 宇宙人は5本足で、私たちの音楽では踊れないんです。だから5拍子の曲を書いたのです」と答えたそうです。もちろんジョークなのですが、記者はこれを真に受けて記事にしてしまい、シフリンはエージェントに叱られてしまったのだとか。
 そういえばホルスト作曲の組曲「惑星」の第1曲「火星」は5拍子で書かれています。やはりホルストも火星人のために5拍子を書いた……のではありません。この曲では「火星」のシンボルとして「戦いの神」を表現するために、5拍子が独特の緊迫感を生み出しています。クラシックではほかにもチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の第2楽章が5拍子で書かれています。こちらは流麗なワルツ。5拍子でも踊れるかも?
 最後にユザーンさんが演奏してくれた北インド古典音楽「アヒル・バイラヴ」は、なんと「5拍子×2」による10拍子。ゆったりした音楽の流れが不思議な心地よさを生み出していました。音楽の世界は本当に広いですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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日本最高峰のチェリスト・堤剛の音楽会

投稿日:2022年10月15日 10:30

今週は日本のクラシック音楽界の重鎮、堤剛さんをお招きしました。80歳にしてチェリストとして第一線で活躍しながら、サントリーホール館長をはじめとする要職を務める堤剛さんは、まさにレジェンドと呼ぶにふさわしい存在です。
 最初に演奏されたのはバッハの管弦楽組曲第3番の第2曲「エール」、通称「G線上のアリア」。今回はチェロ四重奏に編曲しての演奏でした。チェロは音域が広いだけに、こうして同じ楽器でアンサンブルを組めるのが魅力ですね。
 2曲目に演奏されたハイドンのチェロ協奏曲第1番は、チェリストにとって欠くことのできないレパートリー。ハイドンの名曲のなかでも、とりわけ勢いがあり、はつらつとした生命力にあふれた傑作です。若手奏者たちによるオーケストラの潤いのあるサウンドに、堤さんの味わい豊かなソロが重なり合う様子は、まさに至福のひととき。
 最後に演奏されたカタロニア民謡「鳥の歌」は、よくアンコールなどでも耳にする名曲です。バルセロナに代表されるカタロニア地方は、スペインのなかでも独自の文化や言語を誇っています。フランコ政権による厳しい弾圧などの歴史的経緯もあって、今も民族意識の高い地域であり、しばしば独立運動がニュースで取り上げられています。そんなカタロニア出身の伝説的なチェリストがパブロ・カザルス。彼は故郷の民謡「鳥の歌」をチェロのために編曲し、各地でくりかえし演奏しました。
 カザルスが晩年に国連で演奏した際は、「私の故郷カタロニアの鳥はピース、ピース(平和)と鳴くのです」とメッセージを述べて、「鳥の歌」を演奏しました。このエピソードが広く知られているため、今でもカザルス編曲の「鳥の歌」を聴くと、そこに平和への祈りを感じ取らずにはいられません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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秋を感じる音楽会

投稿日:2022年10月08日 10:30

今週は秋を感じる名曲をお楽しみいただきました。最初に演奏されたのは学校の運動会でおなじみの「オクラホマミキサー」……と言いたいところですが、Cocomiさんによれば「フォークダンスを踊るのはアニメの世界でしか起こらないこと」。ええっ!と驚いた方も多いのでは。近年の学校ではフォークダンスがあまり踊られていないようです。昔の学校の風景がアニメを通して若い世代に伝わっているという現象は興味深いですね。
 Cocomiさんが選んだ秋を感じる曲は、アース・ウィンド&ファイアーの「セプテンバー」。フルートのソロにストリングス中心のアンサンブルが加わる「セプテンバー」はかなり新鮮。アース・ウィンド・アンド・ファイアーのオリジナルとはぜんぜん違った雰囲気で、とても爽やかでエレガントな曲に聞こえてきます。こんなに気品のある「セプテンバー」があり得たとは!
 アコーディオン奏者の田ノ岡三郎さんが選んだのはミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」より My Favorite Things。リチャード・ロジャースが作曲した名曲中の名曲です。この曲を用いた「そうだ 京都、行こう。」のCMは印象的でした。本来は季節感のない曲ですが、田ノ岡三郎さんにとっては秋バージョンのCMのレコーディングに参加した体験から、秋の音楽になったのだとか。実際、アコーディオンで聴くと秋らしい気分になるんですよね。アコーディオンの愁いを帯びた音色とストリングスの温かみのある音色が組み合わさって、とても味わい深いサウンドが生み出されていました。
 ヴァイオリニストの松田理奈さんが選んだのは、ヴィヴァルディの「四季」より「秋」第3楽章。この曲には作曲者が添えたソネット(十四行詩)があります。「秋」第3楽章の詩に描かれるのは狩の風景。猟犬が獲物を追いかけ、狩人が仕留めるまでが描写的に表現されています。生気あふれる演奏から、狩の成功の喜びが伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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イージーリスニングをイージーに聴かない音楽会

投稿日:2022年10月01日 10:30

今週はかつて日本でも大ブームを巻き起こたイージーリスニングを特集いたしました。当時、きらびやかなストリングスの音色と心地よいビートがとても新鮮で、大人びた都会的な音楽のように感じたものです。
 この分野の名曲としてまっさきに挙がるのは、ポール・モーリアの「オリーブの首飾り」でしょう。おもしろいことにイージーリスニングのブームが去った後も、この曲は手品のBGMとして定着して、世代を超えて親しまれる名曲になりました。原曲はフランスのディスコグループ、ビンボー・ジェットによる「嘆きのビンボー」。ポール・モーリアがオリジナルだと思っていた方も少なくないのではないでしょうか。
 服部隆之さんの解説にもありましたが、この「オリーブの首飾り」でも、もうひとつの代表作「恋はみずいろ」でもチェンバロが効果的に使われています。本来、チェンバロはバロック音楽の時代に盛んに使われ、その後、いったん歴史の表舞台から姿を消した楽器なのですが、20世紀になって復興を果たします。今回の演奏では、正真正銘のバロック音楽のチェンバロ奏者、鈴木優人さんがチェンバロで参加してくれました。これは快挙ですね。オーケストラのサウンドも実につややかで、名曲がいっそうゴージャスな輝きを放っていました。
 ポール・モーリアと並ぶイージーリスニング・ブームの立役者がレイモン・ルフェーブル。クラシックの名曲をアレンジした「ポップ・クラシカル・シリーズ」でも人気を呼びました。「愛よ永遠に」では、モーツァルトの交響曲第40番の第1楽章がすっかりイージーリスニングのスタイルに変身しています。
 イージーリスニングの洗練されたサウンドをいち早く日本で取り入れたのが服部克久さんです。「5月の草原は愛に包まれて」の明るく澄んだサウンドはまさに5月の爽快な気候を思わせます。雄大な光景が目に浮かぶようでしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシックと豪華コラボの音楽会

投稿日:2022年09月24日 10:30

今週は番組で実現した日本を代表するヴォーカリストたちとクラシックのコラボレーションを選りすぐってお届けいたしました。
 ロック界のカリスマToshlさんはピアノの反田恭平さんと共演。チェロの宮田大さん、サクソフォンの上野耕平さん、指揮の原田慶太楼さんも加わった超豪華メンバーで、リスト風MISIAの「Everything」を歌ってくれました。数多くのピアノ曲で知られるリストは、19世紀のクラシック音楽界が生んだ最大のスーパースターのひとり。そのリストの名曲「愛の夢」第3番が「Everything」に溶け込んで、独自の味わいを生み出していました。Toshlさんの輝かしい声と精鋭ぞろいのアンサンブルがあってはじめて実現する、スケールの大きな音楽だったと思います。
 藤井フミヤさんはベートーヴェンの大傑作、「悲愴」ソナタにオリジナルの歌詞を付けて歌ってくれました。ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」はベートーヴェン初期の代表作。第1楽章は重々しく深刻な調子で開始されますが、第2楽章ではのびやかで物憂げなメロディが奏でられます。フミヤさんが歌詞を付けたのはその第2楽章のメロディ。原曲の持つノスタルジックな性格に焦点を当てて、「青いメロディー」としてよみがえらせました。歌詞にある「空」「雲」「風」といったイメージは、原曲にも感じられるのではないでしょうか。
 檀れいさんは「炎のコバケン」の愛称で知られる巨匠、小林研一郎さん指揮東京フィルとの共演で、アニメ「ベルサイユのばら」より「薔薇は美しく散る」を歌ってくれました。檀さんの清澄な歌声がすばらしいですよね。そして、あのコバケンさんが「ベルばら」を指揮する姿に感激せずにはいられません。
 SixTONESのみなさんはチェロの宮田大さん、箏のLEOさん、三ツ橋敬子さん指揮のオーケストラと共演。こちらのオーケストラも名手ぞろいで、実にゴージャスです。声とオーケストラがひとつになって、キレのある清爽としたサウンドが生み出されていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ブリーズバンド全国大会2022 後編

投稿日:2022年09月17日 10:30

今週は先週に引き続いて「ブリーズバンド全国大会2022」の後編をお届けしました。今回も個性豊かな出場チームが登場してくれました。
 最初に「紅蓮華」を演奏してくれたのは、八甲田あらふぃふたーず★。お寺のお堂で演奏する映像がありましたが、なんとリーダーはご住職です。編成はトランペット、フリューゲルホルン/トランペット、テューバ、ホルン、クラリネット、アルトサクソフォン、ドラム。それぞれソロをビシッと決めてくれました。みなさん本当にいい表情で、大人が真剣に楽しんでいる様子が伝わってきます。
 2組目は女子高校生バンドのFamikyan。制服はばらばらですが、みんな同じ中学の出身で、中学最後のコンクールがコロナ禍で中止になったことから、その悔しさを晴らすために応募したといいます。コロナ禍もすでに3年目。同様に悔しい思いをしている子供たちが全国に大勢いることでしょう。曲は「カルメン・クライマックス!」。急遽テューバ抜きの6人での演奏になってしまいましたが、アルトサクソフォン2、フルート、クラリネット、トロンボーン、ホルンの編成で、生き生きとした勢いのある演奏を披露してくれました。
 3組目は奥多摩吹奏楽団のみなさん。東京都でありながら豊かな自然にあふれるのが奥多摩。そんな奥多摩を愛してやまないメンバーが集まりました。町長さんとご当地キャラの「わさぴー」まで応援してくれるとは! ユーフォニアム、クラリネット、ホルン、アルトサクソフォン、バストロンボーン、トランペット、バスクラリネットによる編成で「星に願いを」を演奏してくれました。ムーディな味わいがすばらしかったですね。
 そして「7人全員が主役」というコンセプトをもっとも実現していたバンドに与えられる「スターセブン賞」は、審査員の投票によりRainbow Heartに与えられることに。ピュアな音楽が忘れがたい印象を残してくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ブリーズバンド全国大会2022 前編

投稿日:2022年09月10日 10:30

今週は「ブリーズバンド全国大会2022」の前編をお届けしました。ブリーズバンドはコロナ禍をきっかけに番組から誕生した7人制の吹奏楽。「7人全員が主役である」というコンセプトにもとづく新しい合奏スタイルです。そのブリーズバンドの初めての全国大会から、今週は全6組中の3組をご紹介しました。
 トップバッターはJR貨物音楽部のみなさん。勤務地がばらばらにもかかわらず、こうしてひとつになって活動を続けている姿から、音楽への情熱が伝わってきます。それにしても会社公認の楽団があるなんて、すばらしいですよね。トロンボーン、トランペット、ベース、サクソフォン、ホルン、フルート、ドラムの7人編成で「紅蓮華」を披露してくれました。社会人ならではの大人の演奏にしびれました。
 続いて登場したのは、東京藝術大学で学ぶsaigo ensemble★7のみなさん。日本のトップレベルの学生たちだけあって、目指すはプロの音楽家。将来の夢にもベルリン・フィルやNHK交響楽団の名前が挙がっていましたね。トランペット、ホルン、パーカッション、サクソフォン、フルート、クラリネット、オーボエの7名で「カルメン・クライマックス!」を演奏してくれました。さすがに個々の技術がとても高く、鮮やかな演奏を楽しませてくれました。それだけに、審査員の先生方がプロの視点からさらに上の水準を求めるのはもっともなことでしょう。
 最後に登場したのは京都府精華町の中学2年生によるRainbow Heart。小学校時代からの仲良しメンバーだそうですが、ともに育ってきた友達同士の雰囲気がよく伝わってきます。この年代ならではの眩しさを感じずにはいられません。トロンボーン、ユーフォニアム、ホルン2、テューバ、サクソフォン、クラリネットの編成で「裸の心」を演奏してくれました。これはかなり練習をがんばったはず。聴く人の耳をとらえて離さないピュアな音楽に胸を打たれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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異界を覗く音楽会

投稿日:2022年09月03日 10:30

クラシック音楽の名曲には魔物や道化などの異様な世界を描いた作品がたくさんあります。今回はそんな名曲を通して異界を覗いてみました。
 ノルウェーの作曲家グリーグの代表作「ペール・ギュント」の一曲が「山の魔王の宮殿にて」。この魔王とはトロールの王のことなんですね。トロールはトールキンの「指輪物語」などファンタジーにも登場しますが、日本ではRPGゲームの「ドラゴンクエスト」をきっかけに広く知られるようになったように思います。「ペール・ギュント」の型破りな主人公ペールは、トロールの娘と結婚しようとしたところ、その父親がトロールの王とわかり、間一髪のところで逃げ出します。次第に緊迫感を高めてゆく音楽は迫力満点。トロールの恐ろしさが伝わってきます。
 ドイツの民衆本で描かれるティル・オイレンシュピーゲルは実在の人物とも架空の人物とも言われる道化者です。人を騙すようなひどい悪さもする一方、ときには権力者にいたずらを仕掛けて民衆の共感を呼ぶこともあります。ドイツの作曲家リヒャルト・シュトラウスはそんなティルの暴れっぷりを交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」で表現しました。ティルの物語にはスカトロジー方面のとんでもない奇行も描かれていて、必ずしも「愉快」とは言いがたいのですが、楽曲はウィットに富んでいます。
 フランスの作曲家ラヴェルの「夜のガスパール」はルイ・ベルトランの詩が題材になっています。第1曲が「オンディーヌ」(水の精のこと)、第2曲が「絞首台」、そして第3曲が「スカルボ」で、いずれも幻想的な光景が描かれています。亀井聖矢さんのイメージから「スカルボ」の姿がイラスト化されていましたが、楽曲から受ける印象はまさにあの絵の通り。超自然的な存在を実感させるという意味で、超絶技巧に必然性の感じられる楽曲だと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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