今週はシシド・カフカさんが主宰するel tempo(エル・テンポ)のみなさんをお招きしました。昨年もご出演いただきましたが、el tempoは、ハンドサインによる即興演奏集団。シシドさんのハンドサインを読みとって、メンバーがさまざまなリズムを奏でます。指揮者とオーケストラのような関係を連想しますが、決定的に違うのは、これが即興演奏であること。その場で音楽を作り出す自由度の高さに魅力を感じます。
ハンド・サインによる即興演奏の仕組みを編み出したのは、アルゼンチン出身のミュージシャン、サンティアゴ・バスケス。100種類以上のサインを駆使することで、一期一会の音楽を生み出します。シシドさんはサンティアゴ・バスケスへの共感からel tempoを結成しました。
実際にそのサインについて、シシドさんが解説してくれましたが、本当にたくさんの種類があって驚きます。奏者を指定するサイン、スタッカートなどの表現を示すサイン、指を音符に見立ててリズムを伝えるサイン、音域の高低を表すサインなどなど。ひとつひとつはわかりやすいのですが、これを即座に読み取って演奏に反映するとなると、かなり難しそうです。でも、実際に会場の一員としてコール&レスポンスに参加してみましたが、やってみると楽しいんですよね。いつサインが来るのかと客席全員がシシドさんの動作を注視して、サインに応じていっせいに手を叩く様子は壮観。ゲーム感覚もあって興味深い体験でした。
今回はel tempoとソニーグループで共同開発した新たな楽器、ハグドラムの演奏で、手話エンターテイメント発信団oioi(オイオイ)のおふたりも演奏に加わってくれました。ハグドラムは「演奏者を問わない」ことをコンセプトにしたインクルーシブデザインによる打楽器。叩いた音を光と振動で感じることができます。こんな合奏の楽しみ方もあるのだという発見がありました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)