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題名のない音楽会の“クリスマス・パーティー!”

投稿日:2023年12月23日 10:30

 今週は音楽で楽しむクリスマス・パーティー。ゲストのみなさんにプレゼント曲を持ち寄っていただきました。どれもこの時期にぴったりの曲でしたね。
 出口大地さん指揮東京フィルが最初に演奏したのは、チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」より「トレパーク」。クリスマスイブに起きる不思議を描いたのが「くるみ割り人形」。毎年クリスマスシーズンになると世界各地の劇場でこのバレエが上演されます。
 石丸幹二さんのプレゼント曲は、映画「美女と野獣」より「ビー アワ ゲスト(おもてなし)」。ディズニー映画には欠かせないアラン・メンケンの作曲です。石丸さんの輝かしい声が、ぐっとパーティー気分が高めてくれました。
 角野隼斗さんのプレゼント曲は久石譲作曲の「人生のメリーゴーランド」。映画「ハウルの動く城」のテーマ曲です。ピアノと鍵盤ハーモニカを同時に演奏する角野さんならではのスタイルが楽しかったですね。しかも厚みのあるオーケストラのサウンドも加わって、実にゴージャスでした。
 家入レオさんのプレゼント曲は、同じく久石譲作曲の「君をのせて」。映画「天空の城ラピュタ」の主題歌です。家入さんののびやかで透明感のある声が曲調にぴったり。やはりオーケストラが加わると壮大です。
 おしまいに演奏されたのは、アメリカ軽音楽の巨匠、ルロイ・アンダーソンの「そりすべり」でした。ルロイ・アンダーソンといえば「トランペット吹きの休日」や「シンコペイテッド・クロック」「タイプライター」など、ウィットに富んだ楽曲で知られるヒットメーカー。「そりすべり」ではスレイベルによる鈴の音、トランペットによる馬のいななき、ムチの音が使われていました。本来この曲はクリスマスを題材にした曲ではなかったのですが、多くのミュージシャンがクリスマス・アルバムに収録したことから、クリスマス名曲の仲間入りを果たしました。この時期はお店のBGMとしてもよく耳にしますよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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2023年を彩った名曲をふり返る音楽会

投稿日:2023年12月16日 10:30

 いよいよ今年もあとわずか。今回は「ドラマ」「アニメ」「スポーツ」「SNS」の4ジャンルで話題を呼んだ音楽を集めて一年を振り返ってみました。
 ドラマ部門から選ばれたのは、連続テレビ小説「らんまん」の主題歌、あいみょんの「愛の花」。毎朝この曲を耳にしていたという方も多いことでしょう。フルートのソロとストリングスが中心となったアレンジで、音色は透明感があって爽やか。やさしくのびやかな旋律に淡いノスタルジーが漂っていました。
 アニメ部門からはYOASOBIのAyase作詞作曲「アイドル」を。TVアニメ「【推しの子】」のオープニング主題歌として人気を博しました。これは納得の選曲でしょう。子どもたちの間でも大流行になりました。ボーカルに代わってサックスが活躍するアレンジでしたが、少し大人びたテイストも入っていて、カッコよかったですよね。
 スポーツ部門は布袋寅泰作曲の「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」。もともとは映画「新・仁義なき戦い。」のテーマ曲として書かれた楽曲ですが、今年はテレビ朝日系「2023 World Baseball Classic」の中継で使われて、ふたたび脚光を浴びました。古坂大魔王さんのお話にもあったように、この曲は2003年に公開されたクエンティン・タランティーノ監督の映画「キル・ビル」のメインテーマにも使われて一世を風靡しました。これから戦いが始まる場面にぴったりの緊迫感があって、スポーツシーンにもよく似合います。オルガンとドラムをフィーチャーしたアレンジは、重厚でありながらもシャープで鮮烈。原曲のエレキギターとはまた違った迫力がありました。
 おしまいは「新しい学校のリーダーズ」による「オトナブルー」。首振りダンスをまねして踊る動画投稿が大流行して、TikTokでは楽曲を使用した動画総再生回数が34億回を超えたとか。今の時代ならではの流行の形です。昭和歌謡風の曲調に応じたアコーディオンによるアレンジが、曲にぴたりとはまっていたと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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フィギュアスケートの見方が変わる音楽会

投稿日:2023年12月09日 10:30

 今週はグランプリファイナルの開催に合わせて、町田樹さんをお招きしてフィギュアスケートと音楽の結びつきについて解説していただきました。町田さんは2014年世界選手権で銀メダルを獲得し、現在は國學院大學の助教としてフィギュアスケートをはじめとするスポーツ文化を研究しています。
 町田さんいわく、音楽に込められた思想や感情も表現するのがフィギュアスケート。フィギュアスケートは音楽を表現するアートフォームのひとつだと断言します。おもしろかったのは、フィギュアスケーターのリンク上の動きを記した舞踊譜「フィギュア・ノーテーション」。こういう記譜法があったんですね。想像よりもずっと細かなところまで記されていることに驚きました。過去の名演技と音楽の関係についての町田さんの解説を聞くと、そこまで選手たちは突きつめた表現をしていたのかと、目から鱗が落ちた思いがします。
 本来、フィギュアスケートでは録音された音楽に合わせて選手が演技をするわけですが、当番組では演技の録画に合わせて音楽家たちが演奏するという試みを行っています。今回はピアニストの小井土文哉さん、ヴァイオリニストの辻彩奈さんが見事な演奏を披露してくれました。ふつうであれば、音楽家は自分なりのテンポや表現で楽曲を演奏しますので、既存の映像に合わせて曲を演奏することはあまりありません。それでも、おふたりとも選手たちの演技を汲んだうえで、映像にふさわしい情感豊かな演奏をしてくれたように感じました。
 町田さんのお話に出てきた「二段階選曲論」も興味深かったですね。演技曲を選ぶ際、まずはどの作品にするか、次にだれの演奏を選ぶかを二段階で考えるというのですが、これは音楽ファンにとってのクラシックの楽しみ方と同じでしょう。まずは曲の魅力を知るところから始まって、次に演奏による違いに関心が向くというプロセスとそっくりだと思いました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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未来への扉!ニュースターの音楽会2023

投稿日:2023年12月02日 10:30

 今週は期待の若手音楽家をいち早くご紹介する新シリーズ企画「未来への扉!ニュースターの音楽会2023」をお届けしました。シリーズ第1弾は指揮者の出口大地さん。2021年にハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門で優勝して一躍脚光を浴び、以来、各地のオーケストラに客演して好評を博しています。
 国際コンクールで優勝したこともさることながら、出口さんの場合は優勝後に東京フィルの定期公演に大抜擢されたことで、ぐっと注目度が高まったように思います。なにしろオーケストラにとって定期公演はもっとも重要な演奏会。東京フィルの定期公演のラインナップを見ると、実績豊富な世界的指揮者の名前がずらりと並んでいます。そんなラインナップのなかに出口大地さんの名前が入ったのですから、どれほどオーケストラから期待されているかわかろうというもの。
 出口さんは東京フィルのデビューにあたって、全曲ハチャトゥリアンの作品を並べたプログラムを用意しました。日本でそのようなプログラムを聴く機会はほとんどありません。人とは違ったプログラムで勝負したことも、出口さんへの関心を高めることにつながったことでしょう。東京フィルは若きマエストロを盛り立てようと熱演し、演奏会は大成功に終わりました。今回はその出口&東フィルコンビが番組に登場して、相性のよいところを披露してくれました。
 出口さんは左手に指揮棒を持つ点でも異彩を放っています。客席から見ても「あれ?なにかヘンだな」と感じるのでは。左手に指揮棒を持つ指揮者はかなりの少数派。世界を見渡してもパーヴォ・ベルグルンドとドナルド・ラニクルズくらいしか思いつきません。
 ハチャトゥリアンのエネルギッシュな「剣の舞」、暗い予感にあふれた「仮面舞踏会」のワルツ、どちらも情熱的で見事な演奏でした。おしまいはブラームスの交響曲第2番。これほど壮麗なフィナーレもありません。爽快でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシック奏者が演奏したいディズニーの音楽会

投稿日:2023年11月25日 10:30

 今週はLEOさん、荒井里桜さん、Cocomiさんをお招きして、ディズニー映画の名曲をお届けしました。いずれも映画の枠を超えて愛される名曲ばかり。どんな楽器や編成であっても、曲のエッセンスが伝わってくるところがディズニー名曲の名曲たるゆえんでしょう。
 一曲目は「ピノキオ」より「星に願いを」。ディズニー映画のオープニングで使われる、ディズニーのシンボルともいえる名曲です。今回は箏、ヴァイオリン、フルートという独自の編成で。ヴァイオリンとフルートの優雅な音色にきらびやかな箏が加わって、爽快なテイストが生まれていました。作曲者はリー・ハーライン。初期のディズニー作品をはじめ、さまざまな映画のために曲を書いた作曲家です。
 Cocomiさんが選んだ曲は「リトル・マーメイド」より「パート・オブ・ユア・ワールド」。こちらもおなじみの名曲です。Cocomiさんの清澄でのびやかなフルートから、曲に込められた憧れや期待感が伝わってきます。ディズニーの名曲を聴くと、映画の特定のシーンだけに当てはまるのではなく、普遍的な人間の感情が表現されていると感じることがよくあるのですが、この曲はまさにその典型ではないでしょうか。
 荒井里桜さんが選んだのは「アラジン」より「ホール・ニュー・ワールド」。華やかなヴァイオリンがジャスミン、深い音色のチェロがアラジンの役を担い、ふたりの掛け合いがくりひろげられる趣向が素敵でしたね。「ホール・ニュー・ワールド」も「パート・オブ・ユア・ワールド」も作曲はアラン・メンケン。1989年以降、ディズニー映画の音楽に新たな黄金期をもたらしました。
 LEOさんが選んだのは、「白雪姫」より「いつか王子様が」。こちらは初期のディズニーを支えたフランク・チャーチルの作曲です。すでにジャズのスタンダードになっている曲ですが、これを箏とストリングスで聴くのは新鮮な体験でした。箏が日本の伝統楽器であることを忘れてしまいそうです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ファイナリストが選ぶ世界最高峰のピアノ“Shigeru Kawai”の工場を視察する休日

投稿日:2023年11月18日 10:30

 今回は「楽器の街」として知られる静岡県浜松市からお届けしました。新幹線で浜松駅を訪れるとコンコースに河合楽器のShigeru Kawaiが置いてあるのをご覧になったことのある方もいらっしゃると思います。さすが、浜松と思いますが、お値段を聞いてびっくり。まさかの2100万円のストリート・ピアノ……。
 そのShigeru Kawaiを愛好するピアニスト、務川慧悟さんはエリザベート王妃国際音楽コンクール第3位、ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第2位など、数々の国際コンクールで受賞歴を誇る名手。浜松駅でバッハのフランス組曲第5番のアルマンドを弾いてくれましたが、たまたま通りがかった方はラッキーでしたよね。
 もとより評価の高いShigeru Kawaiでしたが、その名が一段と知られるようになったのは、2021年のショパン国際ピアノ・コンクールでの躍進のおかげでしょう。コンクールの公式ピアノに選ばれたのは、スタインウェイ、ヤマハ、ファツィオリ、カワイの4社のみ。同コンクールの本選参加者87人中6人がShigeru Kawaiを選び、その6人中3人がファイナルに残ったのですから、この楽器に注目が集まるのももっともな話です。
 そのひとりが第2位を受賞したアレクサンダー・ガジェヴさん。Shigeru Kawaiについて「音に温もりがあり、ショパンが当時使用していた楽器であるプレイエルを思わせる温かさがある」と称賛していました。務川さんも「木の音がする」と表現していましたので、やはり温かみのある音に特徴があるのでしょう。
 河合楽器竜洋工場をご案内いただきましたが、職人魂と最新テクノロジーが一体となったような場所で、見ていてワクワクします。そして、ここで務川さんが弾いてくれたのがホロヴィッツ編曲の「カルメン幻想曲」! これは強烈でしたね。なんというテクニック。最高の楽器でくりひろげられる最高にエキサイティングな快演に、思わず思わずブラボーと叫びたくなりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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絵画からイメージするフランス名曲の音楽会

投稿日:2023年11月11日 10:30

 今週は絵画からイメージする名曲を、ピアノの務川慧悟さん、Cocomiさんに演奏していただきました。ともにフランス音楽を得意とするおふたりが、サティ、ドビュッシー、ラヴェル、プーランクが残した19世紀末から20世紀初頭の作品を披露してくれました。
 最初に演奏されたのはサティのジムノペディ第1番。曲名は古代ギリシャの神さまを讃える少年たちの裸の踊りに由来します。一説によればサティはその祭りを描いた古代の壺から着想を得たのだとか。Cocomiさんが「華やかな祭典の後に回想するイメージ」と語っていたように、淡々とした曲想にはどこか追憶に浸るような趣があります。
 ドビュッシーのアラベスク第1番は、Cocomiさんがアンリ・ル・シダネルの絵画「夕暮の小卓」から連想した曲。Cocomiさんはこの絵にメランコリーを感じ、色づかいの共通性からドビュッシーの「アラベスク」を連想したと言います。
 務川さんがルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」から連想したのは、ラヴェルの「水の戯れ」。ルノワールの絵画は暗い色を多く使いながら、光の印象を際立てていると言います。きらきらとした高音を多用した「水の戯れ」にも光のイメージがあふれていますよね。美術の世界だけではなく、音楽でも「印象主義」という言葉が用いられるのですが、その先駆的な例としてよくあげられるのが「水の戯れ」です。
 最後にCocomiさんと務川さんが演奏したのは、プーランクの「消えた男」。シダネルの幻想的な夜の光景を描いた作品「コンコルド広場」から連想した一曲です。原曲が歌曲ですので、「消えた男」には歌詞があります。この詩ではドイツ軍に捕らえられた友人が行方知れずとなったことを嘆いているのですが、曲調には吹っ切れたようなすがすがしさが感じられるのが、プーランクらしいところ。寂しさと明るさが不思議と共存しているところに、シダネルの絵画との共通点が浮かび上がってきます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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秋から連想する音楽会

投稿日:2023年11月04日 10:30

 今週は「秋から連想する音楽会」と題して、秋から連想する言葉を数珠つなぎにして、その言葉からイメージされる曲をゲスト奏者のみなさんに演奏していただきました。
 まず「秋」といえば「紅葉」。マリンバの塚越慎子さん、チェロの伊藤悠貴さん、箏のLEOさんにより、おなじみの唱歌「もみじ」を特別アレンジでお楽しみいただきました。三者三様のソロで彩られた、さわやかな「もみじ」でしたね。
 塚越慎子さんが「紅葉」から連想した言葉は、紅葉の名所「いろは坂」。イメージした曲は「ドレミの歌」です。これは説明を聞けば納得。イタリア語の「ドレミファソラシド」を日本語の音名で表せば「ハニホヘトイロハ」。「ハ長調」とか「ニ長調」といった言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、あの「ハ」とか「ニ」は日本語の音名なんですね。塚越さんは4本のマレットを使って鮮やかな技巧を披露。特殊奏法まで盛り込まれた斬新な「ドレミの歌」を披露してくれました。
 LEOさんが「いろは坂」から連想したのは「ドライブ」。曲はアヴィーチーの「レヴェルズ」でした。ノリノリの曲をかけてドライブをするイメージからの選曲です。EDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)が、箏とストリングスというまったく独自の編成で生まれ変わることに。透明感のあるみずみずしいサウンドが爽快でした。
 伊藤悠貴さんが「ドライブ」から連想したのは「ハミング」。曲はラフマニノフの「ヴォカリーズ」でした。ヴォカリーズとは母音唱法のこと。歌詞がなく母音だけで歌うことを指します。たしかにハミングに近いですよね。原曲は歌曲ですが、さまざまな楽器のためにアレンジされている名曲です。伊藤さんにとってラフマニノフは大切な作曲家。ラフマニノフのチェロ作品全集をレコーディングしたり、ロンドンでラフマニノフの作品だけのリサイタルを開いたほか、ラフマニノフの研究書も著しています。そんな伊藤さんのラフマニノフへの熱い思いが反映されたような、情感豊かな「ヴォカリーズ」でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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衣装で演奏は変わるのか?の音楽会

投稿日:2023年10月28日 10:30

 10月31日はハロウィーン。いつの間にか日本でもすっかり定着しましたね。この日は仮装した子どもたちや若者の姿をよく見かけます。今週のテーマは「衣装で演奏は変わるのか」。いつもはステージ上でドレスや燕尾服を着ている音楽家たちのみなさんに、さまざまな衣装をまとってもらい、演奏にどんな影響があるのかを探ってみました。
 ヴァイオリニストの廣津留すみれさんは、アニメーション映画「魔女の宅急便」から「やさしさに包まれたなら」を、主人公キキの衣装で演奏してくれました。とてものびのびと弾いている様子がよくわかります。廣津留さんは衣装のおかげで、踊りながら弾いてしまったと語っていましたが、そんな浮き立つような気分が演奏にもあらわれていたのではないでしょうか。
 ピアニストの金子三勇士さんはリストの「死の舞踏」を「死神」の衣装で演奏。グレゴリオ聖歌の「怒りの日」の主題がなんども奏でられ、不吉な予感を漂わせます。ハンガリーと日本にルーツを持つ金子さんにとって、ハンガリー生まれの作曲家リストは得意のレパートリー。いつもは端正な金子さんですが、衣装のおかげでぐっとワイルドに。力強い打鍵から底知れぬパワーが伝わってきます。すごい迫力でした。
 フルートの多久潤一朗さんとコントラバスの地代所悠さんは、ディズニー映画「シンデレラ」より「ビビディ・バビディ・ブー」を演奏してくれました。衣装はねずみで始まって、魔法で変身。多久さんはフルート怪人に、地代所さんはコントラバスヒーローになり切って、音楽バトルをくりひろげます。コントラバスヒーローは地代所さんが生み出したオリジナルキャラクター。Youtubeでも話題を呼んでいます。ふだんは縁の下の力持ちと思われがちなコントラバスが、ヒーローになって活躍。鮮やかな妙技で怪人を倒してくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名曲が映える!吹奏楽アレンジの音楽会

投稿日:2023年10月21日 10:30

 今週は映画等でおなじみの名曲を吹奏楽アレンジでお楽しみいただきました。演奏は田中祐子さん指揮のシエナ・ウインド・オーケストラ。吹奏楽の魅力が最大限に発揮されたアレンジでお届けしました。
 1曲目は映画「スター・ウォーズ」より「スター・ウォーズのテーマ」。ジョン・ウィリアムズが作曲した映画音楽の金字塔とでもいうべき名曲です。第1作の公開は1978年にまで遡りますので、もはや映画が生んだ「クラシック」と言ってもよいでしょう。原曲はオーケストラによる壮大な響きが特徴的ですが、今回の吹奏楽版で聴いても、やはりゴージャスでしたね。ホルン、トランペット、ユーフォニアム、テューバといった厚みのある金管楽器セクションは吹奏楽ならでは。田中祐子さんが吹奏楽の特徴として「音の立ち上がり」を挙げていたように、弦楽器中心のオーケストラとはまた違ったキレがあります。くっきりと鮮やかで、輝かしい「スター・ウォーズ」でした。
 2曲目は映画「ニュー・シネマ・パラダイス」より「ニュー・シネマ・パラダイス〜愛のテーマ〜初恋」。モリコーネ親子による名曲です。この曲で主役になるのはサクソフォン。木管楽器と金管楽器の長所をあわせ持った万能楽器です。サクソフォンは標準的なオーケストラの編成には含まれていませんが、吹奏楽では重要な役割を果たします。ソロでもアンサンブルでも活躍してくれました。柔らかくまろやかな音色に魅了されます。
 3曲目はドラマ「スパイ大作戦」より「スパイ大作戦のテーマ」。ラロ・シフリンの代表作のひとつで、「5拍子で書かれた名曲」としても知られています。今回のアレンジで活躍するのは低音楽器群。ファゴット、バスクラリネット、バリトンサックス、テューバ、コントラバスといった低音楽器が一角に集まって配置されていました。この低音楽器群が曲調に応じてさまざまな表情を生み出します。フルートやアルトサックスのソロも加わって、一段とスケールの大きな「スパイ大作戦」が鳴り響きました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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