今週は吹奏楽さきがけの地、鹿児島にまつわる多彩な音楽をお届けいたしました。歴史の重みを感じるような曲が多かったですね。
霧島神宮の「天孫降臨霧島九面太鼓」は迫力満点。天孫降臨とは、アマテラスオオミカミの命を受けて、その孫であるニニギノミコトが高天原から日向国の高千穂峰に天降ったこと。九面にはこの地に降り立った神々の顔が表されています。そして、この九面の複製をかぶって、神々に扮して太鼓を打ち鳴らすのが九面太鼓。神話の世界がこれほど身近に感じられるのは霧島ならではでしょう。
神々の様子を太鼓と舞で表現するという発想も興味深いところ。重量1トン以上にもなる巨大な和太鼓は、視覚的にもインパクトがあります。西洋音楽における神話といえば、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」をまっさきに思い出しますが、あちらの神々は荘厳な金管楽器の響きを生かした管弦楽と歌で表現されます。人智を超えた存在を音で表現するときに、どんな楽器を用いるのか。洋の東西のちがいがこんなところにもあらわれているのかもしれません。
日本の吹奏楽が鹿児島から始まったというのは、一見意外な感じもしますが、歴史を聞けばなるほどと思いますよね。薩摩藩で結成された軍楽隊が、イギリスの軍楽隊長フェントンから指導を受けたことがはじまりだとか。フェントンは日本の国歌を作曲した人物としても知られています。初代「君が代」に曲を付けましたが、この曲は普及せず、後に現行の曲に差し替えられました。
最後に演奏された「敷島艦行進曲」は瀬戸口藤吉の作曲。瀬戸口は鹿児島に生まれ、海軍軍楽師を務めた音楽家です。あの有名な「軍艦マーチ」の作曲者として名前を耳にする機会が多いと思います。「敷島艦行進曲」は戦艦「敷島」の竣工を記念して作られました。勇ましいばかりではなく、朗らかで、のどかな雰囲気すら漂っているのが印象的でした。
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吹奏楽さきがけの地をめぐる音楽会
霧島高原にチェロ32人大集合! 日本で最も古い音楽祭
今週は鹿児島県の霧島市よりお届けしました。1980年に始まった霧島国際音楽祭は、日本の音楽祭の草分けともいえる存在。伝統的にクラシック音楽の世界では、夏になると風光明媚な土地で音楽祭が開かれます。かつて、ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターを務めていたゲルハルト・ボッセが来日した際、鹿児島ですぐれた音楽家たちによる講習会と演奏会を開こうと提案したことがきっかけで、この音楽祭が始まりました。大自然に囲まれて音楽に浸るのは格別の体験でしょう。
現在、音楽監督を務めるのが堤剛さん。日本を代表するチェリストであると同時に、東京のサントリーホール館長も務めていらっしゃいます。そんな堤さんのもとに、30人を超えるすぐれたチェリストたちが集まって、チェロ・オーケストラが組まれました。同じ楽器がこれだけ集まってオーケストラを組めるのは広い音域を持つチェロだからこそ。メロディを奏でることもできるし、低音でアンサンブルを支えることもできる。そんなチェロの万能性がよくあらわれていたと思います。
一曲目に演奏されたのは、グリーグの「ホルベアの時代より」前奏曲。本来はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスによる弦楽合奏で演奏される作品です。チェロ・アンサンブルによるコクのある重厚な響きが、原曲とはまた違った味わいをもたらしてくれました。
驚いたのは、最後のドヴォルザークのチェロ協奏曲です。まさか、この曲を4人のチェリストで演奏してしまうとは! 本来は独奏チェロと80人規模のオーケストラが共演する作品です。円熟期のドヴォルザークが書いた傑作で、おそらくあらゆるチェロ協奏曲のなかで、もっとも演奏されているのがこの曲でしょう。原曲の持つ雄大なスケールに代わって、小編成ならではの親密な雰囲気が伝わってきました。
ディズニー祭りで盛り上がる音楽会
今週は「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION」のメインステージから、ディズニーの名曲をエリック・ミヤシロさんによるアレンジでお届けしました。夏仕様のディズニー名曲集、爽快でしたよね。
ステージで歌ってくれたのは、ディズニーのオフィシャルアーティストの3人。『ライオン・キング』の「サークル・オブ・ライフ」を歌ったRIRIさんは、まっすぐでパワフルな歌唱スタイル。『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」を歌った木下晴香さんは「ふたりで飛んでいこう」という歌詞にふさわしい伸びやかで透明感のある声の持ち主。作品のイメージと歌声がぴったりとマッチしてました。
話題作『トイ・ストーリー4』より「君はともだち」を歌ったのは、ダイアモンド✡ユカイさん。この曲、第1作「トイ・ストーリー」から、もう23年にもわたってずっと歌われていることになります。作曲はランディ・ニューマン。名曲ですよね。ダイアモンド✡ユカイさんがおっしゃっていた、「ディズニーの楽曲を歌うと老若男女、みんなニコニコになる」という言葉には納得するほかありません。「君はともだち」に限らず、ただ「いい曲」であるだけではなく、だれにでも受け入れられる普遍性を持っているのがディズニーの音楽の特徴だと思います。
そして、そんなディズニーの音楽のカラーを確立したのが、作曲家アラン・メンケンなのではないでしょうか。今回の楽曲では、『アラジン』の「フレンド・ライク・ミー」「ホール・ニュー・ワールド」、『ヘラクレス』の「Zero To Hero」が、アラン・メンケンによる作曲です。ほかにも「リトル・マーメイド」「美女と野獣」など、数多くのディズニー作品で音楽を担当しています。明るくて、清潔感があって、ときには陰影豊かでエモーショナル。子供も大人も引きこまれてしまいます。
太鼓職人に会いに行く休日
今週は浅草の宮本卯之助商店を訪れて、太鼓についてのあれこれを教えていただきました。日本のお祭りには欠かせない太鼓ですが、身近なようでいて、実は知らないことばかり。たくさんの発見があったのではないでしょうか。
お祭りでよく使われる太鼓として、締太鼓、桶胴太鼓、長胴太鼓が紹介されていました。締太鼓は縄の締め方で音程が変わるんですね。桶胴太鼓は軽くて持ち運べる機動力が特徴。オーケストラで使われる西洋楽器でいうと、ビゼーの「アルルの女」などに登場するプロヴァンス太鼓(タンブラン)に少し似ています。長洞で紐が張ってあって、肩から吊るして叩くことが共通しています。
長胴太鼓は私たちが和太鼓と言われてまっさきに思い出す太鼓ですが、こちらは皮を鋲で打って固定しているんですね。ということは皮の張力を変えられないのですから、音程も変えられません。このあたりは西洋楽器とは発想が違う感じがします。新しい太鼓とすでに打ち込まれた太鼓を比較するデモンストレーションがありましたが、新しい太鼓は軽くて高い音、打ち込まれた太鼓はよく響く低い音。音程よりも響きの質が重視されていることがよくわかります。
太鼓の製作現場も興味深いものでした。皮を張ったあと、なんども木づちで叩いて響きを調整している場面がありましたが、ある瞬間にいきなりパッと響きがよくなるのがおもしろいですよね。
吉井盛悟さんが演奏してくださったのは、八丈島の伝承曲で構成された「八丈太鼓」と、内藤哲郎作曲の「SHAKE」。「八丈太鼓」では唄と太鼓が生み出す柔和な響きが、なんともいえないノスタルジーを感じさせます。「SHAKE」はジャンガラも加わった5人の打楽器によるアンサンブル。太鼓だけでこんなに多彩な響きが生まれるんですね。画面の向こう側からビリビリと空気の振動が伝わってくるような迫力を感じました。
世界の祭りを音楽で楽しむ休日
夏といえばお祭りの季節。今週は世界の代表的なお祭りを、音楽とともにご紹介いたしました。
フラメンコギタリストの沖仁さんが紹介してくれたのは、スペインのセビーリャの春祭り「フェリア」。「フェリア」で踊られるダンスが「セビジャーナス」と呼ばれていましたが、このダンスの起源は民俗舞踊セギディーリャにあるんだそうです。セビーリャといえば、ビゼーのオペラ「カルメン」の舞台。そういえば、このオペラにはカルメンがセギディーリャを踊る場面が出てきましたっけ。なんだか「フェリア」で踊っている女性たちがみんなカルメンに見えてしまいそう……。
沖仁さんがセビジャーナスは振りが決まっているので、おぼえればだれでも踊れるとおっしゃっていましたが、これを踊れたらカッコいいでしょうね。振りが決まっていてだれでも踊れるという点では、日本の盆踊りとも通じるところがあります。それにしても「フェリア」は祭りが一週間も続くというのだから、そのタフさは驚くほかありません。
青森出身の古坂大魔王さんが紹介してくれたのは「ねぶた祭り」。「ラッセラー」の掛け声が印象的でしたが、踊るというよりは跳ねるというのがおもしろいですよね。
タブラ奏者ユザーンさんのおすすめはインドの「ホーリー」。毒々しいくらいの色粉が強烈でした。お祭りの様子は過激でしたが、ユザーンさんの演奏する伝統曲「カフィー・キ・ホーリー」には癒されます。タブラとシタールの組みわせが幻想的な響きを生み出していました。
世界でいちばん有名なお祭りは、リオのカーニバルかもしれません。このカーニバルがコンテストになっているって、ご存知でしたか。勝敗があるから、あんなに盛り上がるんでしょうね。工藤めぐみさんのゴージャスな衣装とキレのあるダンスに目を奪われました。
ディズニー・ソングをアカペラで歌う音楽会
今週はディズニー初の公式アカペラ・グループ、ディカペラのみなさんにディズニー・ソングをたっぷりと歌っていただきました。さすが全米からオーディションで選ばれた7名とあって、すばらしい声と技術、そして表現力。2017年、ディズニーがアカペラ・グループを結成するためにオーディションを行なうと発表したところ、1500名を超える応募者があったとか。応募者はまずYouTubeにビデオを投稿し、その後選ばれたメンバーが対面オーディションに進むという方式。さまざまなバックボーンを持った人々が参加したオーディションは、全米で大反響を呼んだといいます。
ディカペラはアカペラ・グループですので、リズムパートも含めてすべてのパートを声で再現します。これがすごいですよね。しかも、番組冒頭の「アナと雪の女王」では、「レット・イット・ゴー」と「雪だるまつくろう」のふたつの名曲が巧みにミックスされていました。声の超絶技巧と言ってもいいでしょう。
ソロだけでも聴きごたえがあるのですが、7人全員がそれぞれの役割を担って、全員で緻密な音楽を生みすところがディカペラの魅力。特にボイス・パーカッションのアントニオのテクニックには脱帽するしかありません。まさか三味線にまでチャレンジしてくれるとは!
「美女と野獣」では、日本語歌唱にも挑戦してくれました。ただカタカナを英語で読み上げた日本語ではなく、歌詞に込められた思いがしっかりと伝わる日本語になっていたのには感嘆するばかり。アルトのソジャーナが言っていましたが、「一緒にみつめよう」の「つ」が英語にない音だから難しいというのは、日本人にはなかなかわかりませんよね。
こうして次々とディズニーの名曲を聴いてみると、いかに音楽が物語に大きな役割を果たしているかを痛感せずにはいられません。どの曲にも、一瞬でディズニーの世界へ引き込んでくれる力強さを感じます。
高嶋ちさ子ともっともっと売れたい!スーパーチェロ7の音楽会
昨年「イケメンチェロ軍団」と銘打って出演したスーパーチェロ7。放送終了時に「イケメンはどこだ?」と視聴者からお叱りを受けてしまったという「伝説」が暴露されていましたが、メンバーはそれぞれ日本のトップレベルで活躍する名手ばかり。東京都交響楽団の首席奏者である古川展生さんをはじめ、凄腕プレーヤーたちが集まっています。
そんな名手たちが、高嶋ちさ子さんの号令ひとつでさまざまな技にチャレンジしてくれたのが今回の見どころ。4人で一台のチェロを弾く「水戸黄門」のテーマなど、無駄に難度の高い技に思わず笑ってしまいました。超高速版「くまんばちの飛行」は圧巻。ヴァイオリンの早弾きで耳にする機会が多い曲ですが、とてもチェロとは思えない軽快さでした。
さらにチェロの立奏まで飛び出しましたが、これにはびっくり。チェロって、立って弾けたんですね。最近、クラシック音楽界では「立って弾く」というのが軽くトレンドになっています。バロック・アンサンブルなどではヴァイオリンやヴィオラは立って演奏するのが一般的ですし、話題の鬼才クルレンツィスが指揮するムジカエテルナではチェロ以外の弦楽器はみんな立って演奏します。でも、そんなオーケストラでも、チェロはやっぱり座って演奏するんですよね。この楽器はどうしても立てない……と思っていたら、あっさりと常識が覆されました。チェロの立奏付きで演奏された、高嶋さんとスーパーチェロ7のピアソラ「リベルタンゴ」は最高にカッコいい音楽でした。エルガー「威風堂々」で、チェロが全員立ち上がった場面は壮観。でも、腰が痛くなりそう……。
最後はベートーヴェン「歓喜の歌」を、8人だけで演奏するという思い切ったアレンジ。原曲はオーケストラに大合唱が加わる重厚にして壮大な作品ですが、ぐっと親密な雰囲気のベートーヴェンに生まれ変わっていました。
3大テノールの再来!今世界が注目するイタリアイケメン3人組の音楽会
今週はイタリア出身の若き3人組ポップスオペラ歌手ユニット、イル・ヴォーロのみなさんをお招きしました。石丸幹二さんも加わっての「マイ・ウェイ」、実に聴きごたえがありましたね。
イル・ヴォーロがデビューしたのは2009年のこと。イタリアのテレビ局RAIのオーディション番組がきっかけです。結成当時、メンバーは14歳から15歳の少年たち。世界に羽ばたくように、イタリア語で「飛ぶこと」を意味する「イル・ヴォーロ」と名付けられたんだそうです。そして、彼らは人気ボーカル・ユニットに育ち、その名の通り世界中を飛び回っています。
イル・ヴォーロにとって、モデルとなったのは「三大テノール」でしょう。ドミンゴ、パヴァロッティ、カレーラスという当代一流のオペラ歌手たちが、1990年、サッカーのワールドカップ・イタリア大会を機に一堂に会してコンサートを行ったところ、これが爆発的な人気を呼び、「三大テノール」という呼称が定着しました。当時、主役級テノール歌手を3人集めるというアイディアは、型破りで斬新なものだったのです。
本家「三大テノール」がそうだったように、イル・ヴォーロも同じテノール同士でありながら、メンバーそれぞれに異なる声のキャラクターを持っています。画面に向かって左のジャンルカはリリカルで硬質な美声。声質も「イケメン」といった感じがします。中央のイニャツィオは明るくのびやかな声で、無理なくスッと高音が伸びてゆくのが魅力。右のピエロは輝かしく張りのある情熱的な声。オペラだったらヒロイックな役柄が似合いそうです。
歌のすばらしさに加えて、3人の陽気な人柄も印象的でした。気取りがなく、若者らしい打ち解けた雰囲気があって、日本語にチャレンジするなど好奇心も旺盛。こういったところは、いかにも今風のスターだなと感じます。
七夕の音楽会
七月七日は織姫と彦星が一年に一度だけ会うことができる七夕。でも知っているようで知らないのが七夕です。今では主に子供たちが短冊に自由に願い事を書く日になっていますが、もともとは「芸事・習い事の上達をお願いする日」という意味合いがあったんですね。
七夕といわれてまっさきに思い出す唱歌が「たなばたさま」。作曲者の下総皖一は、日本近代音楽の発展に大きな役割を果たしたことで知られています。1898年生まれ、ベルリン音楽大学でヒンデミットに師事し、作曲家としてのみならず、『和声学』『対位法』など理論書の分野でも功績を残しました。とてもたくさんの校歌を作曲していますので、母校の校歌が下総皖一作曲だったという方もいらっしゃるかもしれません。
西洋に七夕はありませんが、星にちなんだ曲はたくさん書かれています。城宏憲さんが歌った「星は光りぬ」もそのひとつ。プッチーニが作曲した人気オペラ「トスカ」の名場面です。「トスカ」は恐怖政治下のローマを舞台とした悲劇。画家カヴァラドッシとその恋人である歌手のトスカの過酷な運命が描かれます。物語の終盤で、まもなく銃殺刑になるカヴァラドッシが、明け方の星を見上げて、恋人との甘いひとときを思い出しながら、絶望に打ちひしがれて「星は光りぬ」を歌います。城さんの輝かしい美声はカヴァラドッシにぴったり。よくフィギュアスケートなどでも使われる名曲です。
モーツァルトのオペラ「魔笛」では、夜の女王という神秘的な役柄が登場します。このオペラはメルヘン仕立てになっていますが、筋立てにはモーツァルト自身も属していた友愛結社フリーメーソンの教義が反映されているといわれています。ここで描かれる光と闇の二元論的な世界で、闇に属するのが夜の女王。超自然的な存在だけに、歌唱も人間離れした超絶技巧が求められます。高橋維さんの夜の女王のアリア、本当にすごかったですよね。
チェロの魅力を知る音楽会
今週は宮田大さんにチェロの魅力をたっぷりと伝えていただきました。
チェロにもストラディヴァリウスの名器があることに、驚かれた方も多かったのではないでしょうか。ストラディヴァリウスといえばヴァイオリンをまっさきに思い出しますが、実はヴィオラやチェロ、ギターなどもあります。ただ、ストラディヴァリウスのチェロは、ヴァイオリンに比べると、ほんの少ししかありません。希少価値が高く、オークションなどでは大変な高額で取り引きされることになります。
チェロでもヴァイオリンでもそうですが、歴史的な名器の価格が高騰した結果、もはや音楽家が個人で購入できるような価格ではなくなったため、財団や企業が所有して「この人こそ名器にふさわしい!」と見込んだ奏者に貸し出すケースが増えてきました。当番組の以前の司会者、五嶋龍さんのストラディヴァリウスも、財団から貸与されたもの。若い奏者が歴史的名器を使っている場合は、ほとんどがこのような貸与だと思います。逆に言えば、貸与されることは一流奏者の証であると言えるでしょう。
チェロは高機能な楽器でもあります。音域の広さのみならず、特殊奏法を含めた多彩な表現力を持っています。黛敏郎作曲の「BUNRAKU」はまさにその好例。太棹三味線や大夫の語りを模すという作曲者の大胆な発想がすごいですよね。「チェロは人間の声に近い」とはよく言われますが、まさかあんなふうに語りを音楽に昇華できるとは!
エルガーのチェロ協奏曲は、古今のチェロ協奏曲のなかでも屈指の名曲です。チェロ協奏曲はやはりヴァイオリン協奏曲に比べると数が少ないのですが、エルガー、シューマン、ドヴォルザーク、サン=サーンスらが傑作を残しています。エルガーの音楽の魅力は、その高貴さ。威厳と気品、そして情熱とロマンティシズムが全編にあふれています。宮田さんのスケールの大きなソロがすばらしかったですね。