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Jポップ さくら協奏曲の音楽会

投稿日:2020年04月04日 10:30

もしもクラシックの大作曲家たちが「さくらソング」を作ったら……。今週の「Jポップ さくら協奏曲の音楽会」はそんな発想で定番の「さくらソング」を協奏曲に仕立ててみました。協奏曲は「急-緩-急」からなる全3楽章が基本の形。これに従いながら、楽章ごとにソリストが変わる豪華仕様の協奏曲が誕生しました。
 第1楽章はヴィヴァルディ風「チェリーブラッサム」。ヴィヴァルディは生涯に500曲以上もの協奏曲を書いたイタリア・バロック期を代表する作曲家です。代表作「四季」の中でもっとも有名な「春」がオーケストラで奏でられると、小林美樹さんの独奏ヴァイオリンが「チェリーブラッサム」で応えます。時空を超えて、イタリアの春と日本の春がいっしょに到来したかのような晴れやかさです。
 第2楽章はメンデルスゾーン風の森山直太朗「さくら」。協奏曲では第2楽章にしっとりとした抒情的な曲想が置かれるのが一般的です。メンデルスゾーンの有名な無言歌「春の歌」に箏が加わって、和洋が融合した響きから次第に「さくら」が聞こえてきました。オーケストラと箏の響きが意外にもマッチしているのにびっくり。オーボエの愁いを帯びた音色も印象的でしたね。「春の歌」と「さくら」が同時進行した後、最後はフルートからメンデルスゾーンの歌曲「歌の翼に」が飛び出して思わずニヤリ。
 第3楽章はヨハン・シュトラウス2世風のコブクロ「桜」。協奏曲の第3楽章では、活発で躍動感あふれる曲想が用いられます。もしもヨハン・シュトラウス2世が、コブクロ「桜」を書いていたら。高木綾子さんの軽やかで澄んだフルートの音色は春にぴったり。ワルツ「春の声」と「桜」が同時進行して、途中から「美しく青きドナウ」まで乱入する春祭りへ。春爛漫の様子を連想させる華やかなフィナーレでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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一流の音楽家が夢のマッチング ドリーム・デュオ

投稿日:2020年03月28日 10:30

今週は名手6人による3組のデュオをお届けいたしました。デュオのおもしろさは、ふたつの個性がぶつかり合って、ひとつの音楽を作り出すところ。どんな化学反応が起きるかわからないという点で、ソロとはまた違った期待感があります。
 最初はギターの村治佳織さんとチェロの宮田大さんの共演による久石譲作曲「君をのせて」。ほかの楽器に比べるとギターは音量の小さな楽器です。一方、チェロはオーケストラをバックにソロで朗々と歌い上げることもできる、豊かな響きを持った楽器。一見、アンバランスに見えますが、宮田さんは繊細な表現でギターにぴたりと寄り添ってくれました。
 一方、ヴァイオリンとピアノの組合せは王道のデュオ。レパートリーも豊富にあります。辻彩奈さんと反田恭平さんが選んだのはフォーレの「夢のあとに」。ともにスケールの大きな音楽を作り出せるおふたりがいっしょになって、深々としたエモーショナルなフォーレを演奏してくれました。
 ありそうでないのがクラリネットとサクソフォンの組合せ。同じ木管楽器ではあるのですが、サクソフォンはほかの楽器に比べると歴史が新しく、また音量も大きいため、このふたつの楽器のデュオを聴く機会はまずありません。ところが上野耕平さんと吉田誠さんのデュオで聴くと、この組合せがとても自然で調和しているように聞こえます。1曲目はフランスのバロック期の作曲家、ルクレールの「2つのヴァイオリンのためのソナタ」。2曲目は20世紀フランスの作曲家プーランクによる「2本のクラリネットのためのソナタ」。つまり、どちらも原曲は同じ楽器のデュオのために書かれていて、掛け合いのおもしろさを楽しめる作品です。上野さんと吉田さんの息の合った演奏が、楽曲の持つユーモアや機知を存分に伝えてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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映画音楽の秘密がわかる音楽会

投稿日:2020年03月21日 10:30

今週は映画音楽の名曲に込められた秘密を探ってみました。聴きなじんだあの曲に、そんな創意工夫が盛り込まれていたとは!
 映画「007」の「ジェームズ・ボンドのテーマ」の秘密はリズム。ギターが奏でる短いリズムの反復が聴く人を引き込みます。角田さんがおっしゃるように、ラヴェルの「ボレロ」と似た効果があるんですよね。
 同じスパイ映画でも「ミッション:インポッシブル」は、あえて不安定な5拍子を採用することで緊迫感を高めています。ハラハラドキドキの映画だから5拍子。クラシック音楽でも5拍子の名曲はいくつもあります。チャイコフスキーの「悲愴」第2楽章は5拍子のワルツで寂寞とした味わいを生み出していますし、ラフマニノフの交響詩「死の島」では海が5拍子で波打って不気味さを演出します。
 映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」は8分の6拍子で波を表現しています。これも波や川の流れを表現する際によく使われる拍子。スメタナの「モルダウ」をはじめ、ショパンやメンデルスゾーンの「舟歌」などでも8分の6拍子が用いられています。
 「ロッキー」のテーマで印象的なのは、なんといってもトランペットでしょう。トランペットは歴史的に軍楽隊に欠かせない楽器であり、ファンファーレのための楽器でもありました。ヴェルディのオペラ「アイーダ」など、勝利の場面で高らかに鳴らされるのはいつもトランペット。だから「ロッキー」のテーマは、音楽が勝利を予告しているとも言えます。
 映画「ハリー・ポッター」のチェレスタの音色には、どこか現実離れした雰囲気があります。チャイコフスキーはほかの作曲家に先駆けて、バレエ「くるみ割り人形」の「こんぺい糖の踊り」でこの楽器を使いました。「くるみ割り人形」が大ヒットしたため、世界中のオーケストラがこの曲を演奏しようと、チェレスタを買い求めました。チェレスタが世界中に広まったのは、チャイコフスキーのおかげと言ってもいいでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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有名作曲家のひねりすぎた楽曲を楽しむ音楽会

投稿日:2020年03月14日 10:30

今週は好評の「有名作曲家のひねりすぎた楽曲を楽しむ休日」第2弾。大作曲家たちの発想力の豊かさには驚かされます。
 チャイコフスキーの大序曲「1812年」は、ナポレオン率いるフランス軍をロシア軍が撃退した史実を描いた人気曲。戦闘場面を描写するためにチャイコフスキーは楽譜に「大砲」の指示を書き込んだのですが、もちろん普通の演奏会では大砲など使えません。伝統的には大太鼓で代用されています。最近ではシンセサイザーで大砲の音を入れることも。自衛隊の音楽隊は、本物の大砲を使える日本で唯一の団体でしょう。
 ヘリコプター弦楽四重奏曲を作曲したのはドイツのシュトックハウゼン。20世紀の前衛音楽を語る上で外すことのできない作曲家です。ある晩、夢で4人の弦楽器奏者が4台のヘリコプターに乗って弦楽四重奏を演奏する光景を見たことから、この作品を着想しました。そんな途方もない夢の光景を現実化できるのはシュトックハウゼンくらいのもの。
 ハイドンによる音楽の回文もおもしろかったですよね。楽譜を前から読んでも後ろから読んでも同じ曲になるという、音楽の「タケヤブヤケタ」。これはいかにもハイドンらしい茶目っ気のあるアイディアです。原曲は交響曲第47番「パリンドローム(回文)」。今回はピアノ用に編曲したバージョンで反田恭平さんに弾いていただきました。録音を逆再生すると、音のアタックが頭ではなくお尻に来るので、音色はオルガンみたいに変化しますが、曲が同じであることはよくわかります。
 「ギロ」を作曲したドイツのラッヘンマンは、楽器の特殊奏法を駆使する作曲家として知られています。ピアノの鍵盤を打楽器のギロに見立てて、このような題が付いています。これも立派な音楽作品。ラッヘンマンは既存の演奏法では出てこない音を活用し、だれも聴いたことがない音を創出することで、音楽の可能性を広げているのです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ジャズが楽しくなる音楽会

投稿日:2020年03月07日 10:30

ジャズっておもしろそうなんだけれど、なんだか難しそう、聴き方がよくわからない……。そんなふうに思っていた方も、今回の放送でぐっとジャズが身近に感じられたのではないでしょうか。
 ジャズの基本の流れは「テーマ、アドリブ、テーマ」というお話がありました。よくジャズではアドリブが大切だといいますが、素朴な疑問がわきます。「だれかがアドリブで自由気ままに演奏しはじめたら、他の人たちはどうやって合わせるの?」。なんの約束事もなく、みんなが勝手に演奏をしたら曲にならないはず。でも「テーマと同じコードで演奏する」という約束事がちゃんとあったんですね。「マック・ザ・ナイフ」の演奏では、一定のコード進行もに従って、メンバー間でアドリブを回していく様子がよくわかりました。みんなで一緒に演奏する場面がありましたが、全員が同じコード進行で演奏しているため、音楽はきれに調和が保たれていました。もしばらばらのコード進行で演奏したら、ただの不協和音の連続になってしまうでしょう。そして、最後には最初のテーマに帰ってくる。これで「あ、終わったんだ」とわかります。
 クラシック音楽に親しんでいる方は、この説明を聞いて、どこかで聞いたことのある話だなと思いませんでしたか。多くの大作曲家たちが残した変奏曲も、やはり最初にテーマ(主題)が演奏され、これにテーマに基づくさまざまな変奏が続き、最後にまたテーマが帰ってくるという構成になっています。クラシックの場合は、すべてが楽譜に書かれていますが、モーツァルトもベートーヴェンもバッハも、アドリブの名手だったと伝えられています。モーツァルトの変奏曲とは、モーツァルトの天才的なアドリブを楽譜に書き残して保存したものと解釈できるかもしれません。協奏曲のカデンツァも本来はアドリブが前提。アドリブはジャズに限らず、音楽の根本をなすものなのでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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高校吹奏楽部がプロに教わる音楽会

投稿日:2020年02月29日 10:30

今週は吹奏楽部の高校生たちが日本を代表するスター奏者たちから直接指導を受けるという夢の企画。全日本吹奏楽コンクールで2年連続金賞を受賞した東海大学菅生高等学校吹奏楽部のみなさんが、モーション・ブルー・ヨコハマに来てくれました。「小曽根真 featuring No Name Horses」のサウンドを間近で聴く高校生たち。うらやましい光景です。
 「小曽根真 featuring No Name Horses」は総勢15名からなるビッグバンド。エリック・ミヤシロさんのトランペットの抜けるようなハイトーンはなんど聴いても快感です。小曽根さんも最高に音楽を楽しんでいる様子が伝わってきました。
 高校生たちから寄せられた質問はどれも具体的。「トロンボーンで小さな音をきれいに出すには?」「トランペットの高音がキツい音になってしまう」。そして、質問に対するプロの教え方は、細かな奏法を手取り足取り教えるのではなく、音のイメージを共有するような教え方だったのが興味深いと思いました。高校生たちがアドバイスを即座に吸収して、自分の音に反映させていたのには驚くばかり。こんなにうまくいくものなのかなと思ってしまうほどで、おそらく教える側も何度となく同様の質問に向き合ってきたのでしょう。演奏もすごいけれども、教え方もすごい!
 「パプリカ」で高校生がプロと共演する場面もおもしろかったですよね。おなじみの「パプリカ」がジャズに生まれ変わっている新鮮さもさることながら、神のような人たちと共演して力を出し切った高校生には心からの拍手を送るほかありません。そして、小曽根さんのアドバイスが秀逸です。「怖がっていると絶対に音楽にのまれてしまう。思い切り演奏する」。これはジャズに限らず、ほかの音楽でも、あるいはスポーツなどの世界でも通用する言葉かもしれませんね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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グラミー賞で注目される作曲家!挾間美帆に迫る休日

投稿日:2020年02月22日 10:30

今週は先頃グラミー賞にノミネートされて話題を呼んだジャズ作曲家、挾間美帆さんをスタジオにお招きしました。グラミー賞といえばアメリカの音楽産業でもっとも栄誉ある賞。そんなグラミー賞に日本人がジャズの分野でノミネートされたのですから、見事というほかありません。
 挾間さんがノミネートされたのは「ラージ・ジャズ・アンサンブル」部門。本日の演奏でも挾間さんがアンサンブルを指揮していましたが、弦楽器にピアノ、トランペット、ホルン、ドラムが加わった編成で、とても音色のバリエーションが豊富だったのが印象的でした。一曲目の「RUN」のようにヴァイオリンのソロが活躍する場面があるなど、ジャズバンドでありながらもオーケストラ的な性格を多分に備えているのがおもしろいところ。作曲家が自らアンサンブルを指揮して自作を演奏するのも、モーツァルトやベートーヴェンらクラシックの作曲家がしていたことと変わりありません。その意味でも「ジャズ作曲家」という言葉はしっくりきます。
 グラミー賞はポップ、ロック、ジャズ、クラシック、ミュージカル等々、あらゆる音楽のジャンルを対象とした賞です。受賞者を選ぶのはレコーディング・アカデミー。録音された音楽が対象となります。「グラミー」とはなんのことか、ご存じでしょうか。グラミー賞のロゴマークには蓄音機のイラストが使われていますが、グラミーとはグラモフォン(蓄音機)からできた言葉で、元来はグラモフォン賞だったわけです。イギリスのクラシック音楽雑誌にも「グラモフォン賞」がありますが、言葉の由来としては同じなんですね。
 恩師山下洋輔さんが語ってくれた挾間さんのエピソードは痛快でした。山下さんをして「鬼バンマス」と呼ばれる挾間さん。自分の音楽を貫き通す姿勢が伝わってきます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ウィーンの頂点の音楽会 2週連続スペシャル 後編

投稿日:2020年02月15日 10:30

今週は先週に引き続き、ウィーン・リング・アンサンブルの演奏をお届けしました。これぞ本場ウィーンの香り。ウィーン・フィルの名奏者たちが楽しい演奏を披露してくれました。
 一曲目の「ラデツキー行進曲」は、元日のウィーン・フィル・ニューイヤーコンサートで、アンコールの最後に演奏されるおなじみの名曲。指揮者が客席を向いて手拍子を促す演出がすっかり定着しています。ここ東京オペラシティ・コンサートホールでの収録でも、やはり客席がステージと一体となって手拍子を打ちました。手拍子を強く打つところ、そっと弱く打つところ、止めるところなど、その様子はウィーンでの公演とまったく同じ。こんなふうに手拍子の強弱まで細かく定まったのは、往年の名指揮者ロリン・マゼールがニューイヤーコンサートを指揮していた時代からだと思います。客席もいっしょに演奏しているような気分になれるのが楽しいんですよね。
 ウィーン・フィルは自分たちの伝統を大切にするオーケストラですので、楽員には親子二代にわたる奏者がたくさんいます。オーケストラの世界にもグローバル化の波が押し寄せる昨今、このようなオーケストラは稀有な存在です。ウィーン・フィルと双璧をなすベルリン・フィルなどは超多国籍集団で、ドイツ人楽員はほんのわずか。どこで生まれ、どこで学んだかはまったく関係ありません。それに比べると、ウィーン・フィルにはウィーンの流儀が生きていると感じます。
 キュッヒルさんは「ウィンナワルツはわたしたちの血の中に流れている」と言います。「美しく青きドナウ」はまさにそんなウィーンの音楽家にとって血肉化した名曲。こちらもウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートでは、必ずアンコールに演奏されます。小編成で演奏しても、情感豊かでロマンティックな味わいはオーケストラの演奏とまったく変わりません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ウィーンの頂点の音楽会 2週連続スペシャル

投稿日:2020年02月08日 10:30

今週と来週の2週にわたって、本場ウィーンの精鋭たちが集うウィーン・リング・アンサンブルの演奏をお届けします。毎年元旦にウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートが世界中に中継されますが、あのウィーン・フィルのメンバーたちが日本にやってきて、ウィンナワルツやポルカを演奏してくれました。この「本物感」は格別です。
 ウィーン・リング・アンサンブルを率いるのは名コンサートマスター、ライナー・キュッヒル。なにしろ45年にわたってウィーン・フィルのコンサートマスターを務めたくらいですから、カラヤン、バーンスタイン、クライバーなど、伝説的な名指揮者たちとの共演も多数。そしてキュッヒルはどんな大指揮者からも一目置かれる存在でした。ただ指揮者に追従するのではなく、どんなときでもオーケストラを支えて、ウィーンのスタイルを体現するのがキュッヒルだったと思います。
 キュッヒルはウィーン・フィルを定年退職後もウィーン・リング・アンサンブルとしての来日したり、NHK交響楽団のゲスト・コンサートマスターを務めるなど、たびたび日本の舞台に登場してくれています。その輝かしくパワフルなヴァイオリンの音色は健在。奥様は日本人とあって、日本語もお上手です。日本のクラシック音楽ファンには、彼に特別な親しみと尊敬の念を抱いている方が多いのではないでしょうか。
 ウィーン・リング・アンサンブルのメンバーの多くが音楽一家の出身であるように、ヨハン・シュトラウス2世もまた音楽一家に生まれました。父ヨハン・シュトラウス1世、弟ヨーゼフ・シュトラウスら、それぞれが名曲を残しています。ワルツ「酒、女、歌」は、ヨハン・シュトラウス2世の数あるワルツのなかでも屈指の名曲。優雅さと雄大さを兼ね備えたロマンティックな味わいは、この作曲家ならではですね。
 次週はウィンナワルツの最高傑作、「美しく青きドナウ」も演奏されます!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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やのとあがつま 民謡を楽しむ音楽会

投稿日:2020年02月01日 10:30

今週は矢野顕子さんと上妻宏光さんのユニット「やのとあがつま」による、新しい姿に生まれ変わった民謡をお楽しみいただきました。矢野さんと上妻さんでユニットを組むと最初に聞いたときは「えっ?」と驚きましたが、なるほど、民謡にこんな可能性があったとは。矢野さんと上妻さんは、新しさと懐かしさを同時に感じさせてくれる絶妙の組合せなのだと納得しました。
 熊本県民謡「おてもやん」で驚いたのは2番の歌詞。矢野さんがいきなり英語で歌いだして、なにを歌っているのかと思えばオリジナルの歌詞でした。この発想がスゴいですよね。しかも、こんなにも自由に扱われ、音楽の外観が変わっていても、曲はやはり「おてもやん」らしさを残しているという不思議。民謡には根源的な柔軟さや強さがあって、いかなるアレンジにも耐えうるものなのかもしれません。
 富山県民謡「こきりこ節」では、シンセサイザーとピアノ、三味線、ボーカルが一体となって、響きの妙が生み出されていました。それにしても「即興がほとんど」というのにはびっくり。
 宮城県民謡「斎太郎節」も斬新な今の音楽でしたが、それでも潮の香りが伝わってくるのがおもしろいところ。やはりこれは民謡です。
 民謡はヨーロッパのクラシック音楽でも大きな存在感を放っています。ハイドンもベートーヴェンも、ストラヴィンスキーもバルトークも、多くの大作曲家たちは民謡を素材として、まったくオリジナルな音楽を生み出してきました。バルトークは東欧の農村を巡って民謡を採集し、そこから独自の語法を生み出しました。革新的作品として知られるストラヴィンスキーの「春の祭典」にもリトアニア民謡などが借用されています。民謡は洋の東西を問わず、音楽家たちのインスピレーションの源であり続けています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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