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意外と難しいハミングの音楽会

投稿日:2020年08月22日 10:30

新型コロナウイルス感染拡大の影響でいったんはあらゆる演奏会がなくなってしまった音楽界ですが、今ではオーケストラの公演が開かれるなど、緩やかに再始動が始まっています。しかし、そんな中でも苦心しているのが合唱団。合唱でいかに飛沫を防ぐのか、さまざまな試みが続いています。
 そこで山田和樹さんが考えたのが、ハミングの活用。唇を閉じて歌うハミングの曲なら歌えるのではないか、というアイディアです。山田和樹さんは数々の名門オーケストラを指揮してきた世界的な指揮者ですが、実は東京混声合唱団の音楽監督も務めています。そんな山田さんならではの発想でした。
 ハミングが部分的に使われる曲はたくさんありますが、ハミングだけでできた曲となると、とても珍しいのではないでしょうか。3人の作曲家に新作が依頼されましたが、それぞれにハミングならではの趣向が凝らされていて、新鮮な味わいがありました。
 上田真樹さんの「Humming Hug」は、鼻歌から発想したというハミング曲。ハミングでは高い音を出すのが難しいと言いますが、そんな制約を感じさせない、自然体の安らぎに満ちた音楽でした。包み込むような柔らかい音が素敵でしたね。
 信長貴富さんの「ハミングのためのエチュード」では、だれもが知る「故郷」のメロディを取り入れることで、情景を思い浮かべやすくなるように工夫されていました。冒頭の信長さんのオリジナル部分からすでにノスタルジックな雰囲気があふれていましたが、「故郷」と重なり合うことで一段とニュアンスの豊かな音楽が生まれていました。
 池辺晋一郎さんは日本を代表する重鎮作曲家。弦楽器で音から音へ滑らかに連続的に移る奏法をポルタメントと言いますが、「ハミングの消息―混声合唱のために」ではそんなポルタメントのような効果が活用されていました。歌詞はありませんが、まるで会話をしているような音のドラマを想起させます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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世界が認めた若き才能の音楽会2020

投稿日:2020年08月15日 10:30

今週は第30回出光音楽賞の受賞者である藤田真央さん、服部百音さん、佐藤晴真さんの演奏をお届けいたしました。出光音楽賞は若手音楽家の登竜門として知られています。例年、東京オペラシティコンサートホールで開催される受賞者ガラコンサートの模様をお届けしていますが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大のため公演を開くことができておりません。そこで3人の受賞者のみなさんをスタジオにお招きして、室内楽を共演していただきました。
 藤田さんが選曲したのは、ラヴェルのピアノ三重奏曲の第4楽章。フランス音楽を選んだのは少し意外な感もありましたが、これは名手3人がそろって弾くにふさわしい傑作でしょう。巧みなオーケストレーションで知られるラヴェルですが、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの3人の編成であっても、やはり洗練された色彩感は際立っています。高揚感にあふれた見事な演奏を披露してくれました。
 服部さんが選んだのは、プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番の第2楽章。「喜怒哀楽」の「怒」と「哀」が表現された曲にシンパシーを感じるという服部さんにぴったりの選曲でしょう。プロコフィエフは人間のダークサイドに切り込んだ作曲家という印象がありますが、特にこの曲には彼一流の刺々しいユーモアやアイロニーが込められていると思います。服部さんの演奏はニュアンスが豊か。作品の奥行きを一段と感じさせる演奏で、曲が進むにつれて次第に白熱してゆく様子は圧倒的でした。
 佐藤さんは難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門の優勝者。ミュンヘンゆかりの大作曲家、リヒャルト・シュトラウスの「万霊節」を演奏してくれました。万霊節とはキリスト教における死者の霊を祀る記念日。原曲の歌曲では今は亡き愛する人への想いが切々と歌われています。過去を懐かしんでさまざまな思いが交錯する様子が、情感豊かに表現されていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ピアノ界のスーパースターが20年かけて挑んだ曲を聴く音楽会

投稿日:2020年08月08日 10:30

今週はピアノ界のスーパースター、ラン・ランをお迎えしました。今、ラン・ランが取り組んでいるのは、バッハの難曲「ゴルトベルク変奏曲」。これは演奏家にとって特別な作品です。プロのピアニストでもこの曲をレパートリーに入れている人は決して多くはありません。鈴木優人さんが説明してくださってように、この曲は本来、2段鍵盤のチェンバロのために書かれた作品。バッハの時代にはまだ現代の私たちが知るようなピアノはありませんでしたので、バッハの作品はどれもピアノ用には書かれていません。「ゴルトベルク変奏曲」を現代のピアノでバッハを弾くためには、さまざまな工夫が必要になってきます。
 しかも「ゴルトベルク変奏曲」は大作です。曲は簡潔な「アリア」でスタートします。その後、30曲もの多彩な変奏が続き、最後にまた冒頭の「アリア」が帰ってきます。全曲の演奏時間は50分から100分程度(楽譜上の反復を忠実にするか、省略するかで大幅に長さが違ってきます)。かなり長い曲ですので、リサイタルでは「ゴルトベルク変奏曲」一曲のみでプログラムが組まれていることも珍しくありません。お客さんもこの曲を聴きに来るときは「今日は特別な大作を聴くのだ!」という相当な期待と覚悟をもって集まってきます。最後に「アリア」が戻ってくるときには、まるで旅から帰ってきたかのようなしみじみとした感慨がわき起こります。機会があればぜひ全曲を聴いてみてください。
 バッハはとても古い時代の作品ですが、ヤン・ティルセン作曲の「アメリのワルツ」は現代の名曲です。2001年に大ブームとなったジャン=ピエール・ジュネ監督のフランス映画「アメリ」で用いられました。その後、「アメリのワルツ」はピアノピースとして広く人気を獲得しています。今ではもとの映画は知らないけれど、曲は知っているという方も少なくないのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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この音色が欲しかった!ひねりすぎた楽器を楽しむ音楽会

投稿日:2020年08月01日 10:30

今週はひねりすぎた楽器を楽しむ音楽会。次々と珍しい楽器が登場しましたが、どれも予想外の音色が出てくるのがおもしろかったですよね。ミュージカルソー、スプリングドラム、ウォーターフォン、テスラコイル、いずれも不思議な音色がする楽器でした。
 見た目とのギャップが激しいのがミュージカルソー。一見したところは普通のノコギリにしか見えません。いかにも日曜大工風の雰囲気があるのですが、出てくる音は未来的。映画「パラサイト 半地下の家族」でも使われるなど、実は意外なところで耳にしている楽器でもあります。藤田真央さんがチャレンジしてくれましたが、ビブラートを全身でかける姿が楽しそうでした。
 神田佳子さんは現代音楽を中心に活躍する、この分野では知らぬ人のいない打楽器奏者。スプリングドラムといい、ウォーターフォンといい、本当に風変わりな楽器で、いったいどんなきっかけでこのような楽器が発明されたのかと思ってしまいます。スプリングドラムの音は風や嵐を連想させます。宇宙的でもあり、大自然を思わせるところもあって、予想外にドラマティック。ウォーターフォンは形状からして謎めいていますが、出てくる音もミステリアスです。どこか聴く人の気持ちを落ち着かなくするところがあって、なるほど、ホラー映画に使われるのは納得です。
 一方、テスラコイルはもともと楽器として作られたものではありません。発明者のニコラ・テスラはエジソンのライバルともいえる科学者で、磁束密度の単位T(テスラ)にその名を残しています。電気自動車メーカーのテスラも彼の名にちなんだもの。今回のデモンストレーションでは鍵盤と連動させて、稲妻で音程を作れるようにセッティングされていました。こんな活用法があるんですね。
 最後は川島さんがご自身の口で水滴を受ける「滴下の音楽」。これも音楽です。おもしろいと思いませんか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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知らないことだらけのハープを楽しむ休日

投稿日:2020年07月25日 10:30

知っているようで知らないことだらけの楽器がハープ。一口にハープといっても20種類以上もの楽器があるというのですから驚きます。
 オーケストラで使用されるのはグランドハープ。足のペダルは7本もあります。このペダルのおかげで、半音を自由に出すことができるんですね。優雅なイメージの楽器ですが、足元は大忙し。景山さんがおっしゃっていたように、ハープ奏者はまるで白鳥のよう。優雅に泳ぐ白鳥も水面下では必死に足を動かしている、というわけです。
 現在のグランドハープの原型を開発したのは、19世紀の楽器製作者エラールです。エラールはピアノ製作者として知られていますが、創業者セバスチャン・エラールの甥のピエール・エラールがペダル付きのハープを考案しました。
 19世紀末、もうひとつのピアノ製作者プレイエルが、エラールに対抗して新方式のハープを売り出します。こちらはペダルを活用するのではなく、弦の数を増やして半音を出す方式。プレイエルは新方式の楽器のデモンストレーション用に、ドビュッシーにハープ曲「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」を書いてもらいます。ところがプレイエルの新方式は普及せず、エラールのペダル式ハープが生き残ることになりました。現在ではドビュッシーの曲もペダル式のハープで演奏されています。7本ものペダルを操るのは大変そうですが、これを上回る方式を編み出すのも難しい、ということなのでしょう。
 ケルティックハープではペダルの代わりに手でレバーを操作して半音を出します。松岡さんの演奏を見ていると、右手で曲を奏でながらサッと左手でレバーを操作していて、とてもスムーズ。上松さんのアルパでは、ジャベを弦に押し当てて、半音を出していました。なるほど、楽器に仕組みがなくても、奏者が弦の長さを短くすれば音は高くなるんですね。
 ハープの種類によって、まったく違った工夫が凝らされていることに感心させられます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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高嶋ちさ子のわがまま音楽会~ディズニーのファンタジア編

投稿日:2020年07月18日 10:30

今週はディズニー映画「ファンタジア」の名曲を、高嶋ちさ子さん流のエンタテインメントに仕立ててお届けいたしました。
 1940年、クラシック音楽の名曲にアニメーションが添えられた8つの物語からなる映画「ファンタジア」が公開されました。演奏は往年の大指揮者レオポルド・ストコフスキー指揮フィラデルフィア管弦楽団。芸術性の高い映画を志したウォルト・ディズニーが莫大な製作費と時間をかけて作り上げた伝説的な名作です。
 なかでも有名なのはミッキーマウスが主役を演じる「魔法使いの弟子」。フランスの作曲家デュカスが、ゲーテの原作に触発されて書いた交響詩です。見習いの魔法使いが師の留守の間に、箒に魔法をかけて自分の代わりに水くみの仕事をさせるのですが、水くみを止めさせる呪文がわからずに大騒動になる……といったストーリーが音楽で表現されています。ディズニーはこの見習いの魔法使い役をミッキーマウスに演じさせました。ミッキーのマジシャンぶりに負けじと、本日は音楽家たちがマジックを披露。最後の鳩にはびっくりしましたよね。
 「時の踊り」はポンキエッリ作曲のオペラ「ジョコンダ」に登場するバレエ音楽です。優雅なバレエをあえてカバやゾウのような大型動物に踊らせるところにディズニーの創意があります。アニメーションでなければ表現できない、ユーモアとエレガンスが一体となった動物たちのバレエがくり広げられていました。そのユーモアとエレガンスを高嶋流に再現したのが本日の演奏。またしても江口心一さんによる電動立ち乗り二輪車上でチェロを弾く秘技が炸裂。なめらかな移動とチェロ演奏の合体は、新時代のバレエと呼んでもいいのかも!?
 「ラプソディ・イン・ブルー」や「威風堂々」は2000年に公開された続編「ファンタジア / 2000」で使用されました。「威風堂々」で題材となったのはノアの方舟の物語。石丸さんと武内さんも加わった全員参加のフィナーレで幕を閉じました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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高嶋ちさ子のわがまま音楽会~ディズニーのキャラクターソング編

投稿日:2020年07月11日 10:30

今週は高嶋ちさ子さんがお気に入りという、ディズニー映画に登場するさまざまなキャラクターたちの音楽をお届けしました。ディズニー映画は名曲の宝庫だと改めて感じます。
 おなじみの「ミッキーマウス・マーチ」も弦楽器中心のアンサンブルで聴くとまた違ったテイストに。楽しく陽気なだけではなく、ミッキーマウスに少しエレガントさが加わったようです。
 「ミッキーマウス・マーチ」はだれもが知る曲ですが、作曲者の名前を答えられる人はあまりいないでしょう。作曲者はジミー・ドッド。実はこの人、1955年からアメリカで放送された子供向けテレビ番組「ミッキーマウス・クラブ」の初代司会者です。ミッキーマウスの耳を頭に付けて、子供たちと一緒に歌をうたったりギターを弾いたりしていて、日本風に言えば「歌のお兄さん」のイメージに近いかもしれません。まさか自分が作った「ミッキーマウス・マーチ」が半世紀以上経っても世界中で演奏され続けるとは思ってもみなかったことでしょう。
 「ライオン・キング」ではチェロの西方正輝さんが、なんとトランペットを演奏してくれました。西方さんはチェリストでもありトランぺッターでもあるという稀有な存在。まったく性格の異なる両方の楽器で活躍されています。
 「塔の上のラプンツェル」より「誰にでも夢はある」、「アラジン」より「ホール・ニュー・ワールド」、「リトル・マーメイド」より「アンダー・ザ・シー」の3曲は、いずれもアラン・メンケンの作曲。もともとブロードウェイのミュージカルで活動していたアラン・メンケンを抜擢したことで、ディズニーの音楽は新時代を迎えました。どの曲も音楽の流れが自然で、しかも耳に残る名曲ばかり。「ホール・ニュー・ワールド」では、石丸さんが歌ではなくアルト・サックスで参加するという意外な場面も。サックスのアラジンとヴァイオリンのジャスミンという組合せが新鮮でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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アンコールのお約束を明かす音楽会

投稿日:2020年07月04日 10:30

知っているようで知らないのがアンコールのお約束。今週は高木綾子さん、宮田大さん、木嶋真優さん、反田恭平さんからアンコールの秘密をうかがいつつ、得意のアンコール曲を披露していただきました。
 宮田さんがおっしゃっていたようにアンコールでは主に「聴きなじみのある曲」が演奏されます。あるいは有名な曲ではなくても、聴きやすい曲が選ばれることがほとんどでしょう。一般に本編のプログラムは、芸術性の観点から挑戦的な曲が選ばれたり、あるテーマに基づいた統一感のある選曲が好まれる傾向にあります。しかし、アンコールは自由です。たとえ本編にお堅い曲が並んでいたとしても、アンコールは気軽に楽しめる曲が優先。それまで緊張感のある集中した雰囲気だった客席が、アンコールになった途端にリラックスした雰囲気に変わることも珍しくありません。
 アンコールで弾く曲数は人によって、あるいは演奏会の性格によってずいぶんちがってきます。木嶋さんは「3曲くらい」。あまりアンコールを弾かないアーティストもいます。本編のおしまいの曲がしみじみした雰囲気で終わる大曲だと、たっぷり余韻を味わってもうらためにあえてアンコールは弾かない、ということもあります。
 一方で、とにかくたくさん弾いてくれる人もいます。ピアニストだとアンドラーシュ・シフやエフゲニー・キーシンなどは、次から次へとたくさん弾いてくれるので、ファンはアンコールを通称で「第3部」などと呼んだりします。つまり前半が第1部、休憩をはさんだ後半が第2部、そしてその後に隠された第3部が待っている……というわけです。
 ちなみにカーテンコールで客席が拍手を続けるのは、なにもアンコールを求めているからとはかぎりません。もうアンコールは必要ない、お腹いっぱいです、でもあなたをもっと拍手で讃えたい。そんな意味の拍手もあります。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ドアの向こうの音楽会

投稿日:2020年06月27日 10:30

ある曲が特定の場所のイメージと結びつくことは珍しいことではありません。作曲家が曲に土地の印象を刻み込むという場合もあれば、テレビCMや映画などメディアを通して曲と場所が結びつくこともあるでしょう。今回は4人の音楽家たちが、それぞれ曲にふさわしい映像を伴って、音楽の旅に誘ってくれました。
 LEOさんが箏で演奏してくれたのは「マイ・フェイヴァリット・シングス」。この曲、本来はミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の一曲です。オーストリアのザルツブルクを舞台にしたミュージカルですが、JR東海のキャンペーン「そうだ 京都、行こう。」でこの曲が用いられて以来、京都を連想させる曲にもなっています。そんなこともあってか、箏で奏でてもまったく違和感がありません。
 村治佳織さんが演奏してくれたのは、スペインを代表する作曲家アルベニスの「グラナダ」。アルベニスはスペインの様々な土地を題材に曲を書いています。作曲者自身は幼いころから神童ピアニストとして知られ、この曲も本来はピアノのために書かれています。ピアノでギターを模したようなフレーズを奏でているのですが、「だったらギターでも弾けるのでは」ということで、ギター編曲版も盛んに演奏されるようになりました。
 松永貴志さんが選んだのはディズニー映画「リトル・マーメイド」から「アンダー・ザ・シー」。となれば、曲のイメージは海です。海ならぬ水族館で奏でられるピアノによる「アンダー・ザ・シー」。とても幻想的な光景でした。松永さんがすごく楽しそうに弾いていたのが印象的でしたね。
 大の鉄道好きとしても知られるサクソフォン奏者の上野耕平さんは「銀河鉄道999」を演奏してくれました。ゴダイゴが歌って大ヒットした名曲です。まさか蒸気機関車が走り出す効果音まで入れてくれるとは。サクソフォンならではの華やかさと歌心にあふれた演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ポップスをサックスで楽しむ音楽会

投稿日:2020年06月20日 10:30

今週は指揮者の原田慶太楼さんの持ち込み企画で「ポップスをサックスで楽しむ音楽会」。指揮者が演奏する楽器といえば、多くの場合ピアノ、あるいはヴァイオリンですが、原田さんがサックスを吹くとは意外でした。
 ソロ楽器として活躍するイメージの強いサックスですが、今回はソプラノサックス、アルトサックス、テナーサックス、バリトンサックス、バスサックスの5種類の楽器が集まったアンサンブル。こんなふうに同属楽器だけで、厚みのある華やかなサウンドを出せるのがサックスの魅力です。「Sing,Sing,Sing」から「上を向いて歩こう」まで、多彩な名曲が並びました。
 サックスは金属でできていても、発音の仕組み上、木管楽器に分類されます。そして木管楽器のなかでは比較的新しい楽器です。1846年にベルギーの吹奏楽団長アドルフ・サックスが特許を取った楽器がその原点。つまり発明者の名前にちなんで楽器名が付けられたんですね。アドルフ・サックスは木管楽器と金管楽器の長所を兼ね備えた楽器を作ろうと考えて、この楽器を発明したそうです。機能性と表現力の高さは新しい楽器ならでは。原田さんが「サックスは人の声に近い」とおっしゃっていたように、サックスはニュアンスに富んだ歌うような表現ができると同時に、輝かしくパワフルサウンドを出すこともできます。
 サックスが発明された時点で、すでにオーケストラの木管楽器セクションはフルート属、オーボエ属、クラリネット属、ファゴット属が基本メンバーとして固定されていました。そのためサックスはオーケストラに定位置を確保するまでには至りませんでしたが、吹奏楽、ポップス、ジャズなど幅広いジャンルの音楽で活用されることになりました。もちろん、クラシックで使われることもあります。サックスはジャンル問わずの万能選手と言えるでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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