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豪華3人が集結!トリプルピアノを楽しむ音楽会

投稿日:2020年10月31日 10:30

今週は反田恭平さん、藤田真央さん、小林愛実さんの3名によるトリプルピアノをお楽しみいただきました。2台ピアノはよくありますが、グランドピアノが3台並ぶ光景はなかなか見られるものではありません。
 今回、なにより驚きだったのは反田さん、藤田さん、小林さんたちは子供の頃から交流があったこと。幼なじみがそれぞれ違った道を通って音楽家を目指し、やがて大人になってトップレベルのピアニストとして共演する……。まるで音楽マンガのストーリーみたいですよね。
 反田さんがおっしゃっていたように、小林さんは少女時代から有名で、演奏動画がYouTubeで爆発的な再生数を記録したことから、一頃は「世界一YouTubeで視聴された日本人ピアニスト」としてメディアを賑わしていました。14歳でメジャーデビューを果たしてサントリーホールの記者会見にあらわれた姿を覚えていますが、あの女の子が今やショパン・コンクールのファイナリストとなって活躍していると思うと、なんとも感慨深いものがあります。
 3人が共演したモーツァルトの「2台ピアノのためのピアノ・ソナタK.448」は絶品。この曲は2台ピアノ用のレパートリーの最高峰といってもよい傑作ですが、これを3人で演奏したことで一段と楽しさが増していました。よく歌う、そして遊び心にあふれたモーツァルトだったと思います。小林さんの描く端正なモーツァルトに対して、藤田さんがぐっと陰影に富んだモーツァルトを打ち返し、それに反田さんが応えてさらに表情に深みが加わるといった様子で、まさに丁々発止の掛け合い。3人のキャラクターがよくあらわれていたのではないでしょうか。
 最後に演奏されたグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲はオーケストラの人気曲。こういう曲こそトリプル・ピアノの厚みが生きてきます。フルオーケストラに負けない迫力がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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7人制吹奏楽の誕生!ブリーズバンドの音楽会

投稿日:2020年10月24日 10:30

新型コロナウイルスは依然として音楽界に大きな影響を与えています。三密回避の観点から、以前のように大勢の人数が一堂に会することが難しくなっています。全国の吹奏楽部員たち憧れの場である全日本吹奏楽コンクールも中止になってしまいました。
 しかし、大編成ばかりが吹奏楽ではないはず。今回新たに提案されたのは7人だけの小編成吹奏楽「ブリーズバンド」。わずか7人でも、アレンジ次第でこんなにカッコいい演奏ができるんですね。いずれも楽譜は無料公開されていますので、「演奏してみたい!」と思った方はぜひダウンロードしてみてください。
 編成は楽曲ごとに異なります。「鬼滅の刃」主題歌として人気の「紅蓮華」は、エリック・ミヤシロさんによる金管楽器+ドラムスの編成。テューバにもソロが用意されていて、山田和樹さんの言葉通り、「7人全員が主役」。パワフルで重厚な響きは7人の演奏とは思えません。
 2曲目は、吹奏楽の定番「宝島」。伊賀拓郎さんのアレンジで、7人中4人がパーカッションという意外性のある編成でした。こちらはとても楽しい雰囲気で、パーカッションの見せ場がたっぷり用意されています。
 3曲目の主役は木管楽器。モンティの「チャールダーシュ」が挾間美帆さんの編曲で生まれ変わりました。もともとはヴァイオリンが活躍する曲として有名ですが、このアレンジでは木管楽器同士のスリリングで遊び心に富んだやり取りが魅力。ひなびた調子の原曲が、すっかり都会的な雰囲気に。コントラバスのソロにはぐっと来ますよね。
 現在はプロのオーケストラの演奏会でもコンパクトな編成の楽曲が中心になっています。厳しい制約ではあるのですが、これを逆手にとって、ふだんはあまり演奏されない小編成の曲に光を当てる意欲的なプログラムも目立っています。制約から新たな可能性が生まれることは、決して珍しいことではありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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一流の音楽家が夢のマッチング ドリーム・デュオ第3弾

投稿日:2020年10月17日 10:30

今週はドリーム・デュオ企画の第3弾。名手たちによる多彩なデュオが実現しました。
 最初の一組は遠藤真理さんのチェロと金子三勇士さんのピアノによる正統派デュオ。チェロとピアノのための曲はたくさんありますが、今回はドビュッシーの「月の光」をデュオで演奏していただきました。本来「月の光」はピアノのみで演奏される曲。それをあえて、チェロとピアノのデュオで演奏したわけです。原曲ではピアノのきらきらとした音色が月光を思わせますが、伸びやかなメロディを奏でるチェロが加わって、ぐっと温かみのある曲想に感じられました。
 2組目は、なんと津軽三味線とパイプオルガンのデュオ。これは通常なら絶対にありえない組合せと言ってもいいでしょう。日本の世俗的な楽器と西洋の教会の楽器では、接点がまるでありません。しかし、オルガニストの石丸由佳さんは、津軽三味線の音色にクラヴィコードやチェンバロといった古楽器との共通性を感じるといいます。そこで選ばれたのがヴィヴァルディ~バッハのオルガン協奏曲。ヴィヴァルディの2つのヴァイオリンのための協奏曲op.3-8をバッハがオルガン独奏用に編曲したものを、さらに津軽三味線とオルガン用に再編曲しています。さらにディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」では、重厚なオルガンの響きにシャープな津軽三味線の音色が加わって、独特の効果が生まれていました。
 3組目はエリック・ミヤシロさんのトランペットと中川英二郎さんのトロンボーンという強力デュオによる「ティアーズ・イン・ヘヴン」。トランペットとトロンボーンの共演はごく一般的なことですが、このふたつの楽器のみのデュオはかなり珍しいと思います。エリックさんは複数の楽器を持ち替えながらの演奏。とりわけフリューゲルホルンのまろやかでニュアンスに富んだ音色が印象に残りました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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昭和ポップス!“ニッポンの秋”協奏曲の音楽会

投稿日:2020年10月10日 10:30

もしもクラシックの大作曲家たちが昭和ポップスを協奏曲にアレンジしたら……。そんな発想でお届けしたのが、今回の協奏曲シリーズ第3弾。秋を感じさせる昭和の名曲を、3人の豪華ソリストたちとともに協奏曲のスタイルでお届けいたしました。
 第1楽章は、「もしもラフマニノフが山口百恵の『秋桜』を作ったら」?。冒頭でオーボエがラフマニノフの名曲「ヴォカリーズ」を奏でると、そこに独奏チェロが「秋桜」のメロディで重なり合います。次は役割を交代して、独奏チェロが「ヴォカリーズ」を演奏し、オーケストラが「秋桜」を奏でるという趣向。ふたつのメロディが調和して、立体感のある音楽を生み出していました。
 カデンツァの部分では、チェロの宮田大さんが渾身のソロを披露してくれました。カデンツァではオーケストラが沈黙し、ソリストがひとりで弾くのが協奏曲のお約束。協奏曲ではこんなふうにソリストの見せ場が用意されています。
 第2楽章は「もしもドビュッシーが松田聖子の『風立ちぬ』を作ったら?」。これは意外な組合せでした。ドビュッシーと松田聖子というだけでもびっくりなのですが、まさか独奏楽器が尺八とは! 尺八独奏によるドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」で開始され、柔らかく繊細なハーモニーの移ろいの中で「風立ちぬ」が奏でられました。
 第3楽章は「もしもモーツァルトが小泉今日子の『木枯しに抱かれて』を作ったら?」。モーツァルトというと春めいた曲想を連想する人が多いと思います。実際、モーツァルトの作品の大半は長調で書かれており、明るい曲想が多いのですが、一方でわずかな数の短調作品はどれも極め付きの傑作ばかり。ピアノ協奏曲第20番ニ短調やピアノ協奏曲第24番ハ短調、交響曲第40番ト短調、交響曲第25番ト短調など、木枯らしの季節にぴったりの名曲をモチーフに、「木枯しに抱かれて」がモーツァルト風に生まれ変わりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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『ニュー・シネマ・パラダイス』を作ったエンニオ・モリコーネの音楽会

投稿日:2020年10月03日 10:30

今年7月6日、イタリアが生んだ映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネが、91歳で世を去りました。長きにわたって映画の音楽を作曲してきたモリコーネだけに、その作品数は膨大です。「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」などなど、挙げればきりがありません。
 なかでも名曲の誉れが高いのが、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「ニュー・シネマ・パラダイス」。シチリアの小村を舞台に少年と映画技師との交流が描かれます。モリコーネの音楽は物語にふさわしく強烈なノスタルジーを喚起しますが、映画を離れて純粋に音楽だけを聴いても、やはりしみじみとした郷愁を感じさせます。モリコーネの音楽と宮田大さんの温かみのあるチェロの音色がとてもよくマッチしていました。
 「マカロニウエスタン・メドレー」では、口笛、口琴、トランペットといった楽器の使い方から、モリコーネの創意工夫が伝わってきました。原田さんのお話にもあったように、クラシック音楽ではよくトランペットが祝祭感を出すための楽器として用いられます。歴史的に軍楽隊の楽器だったトランペットは、華やかなファンファーレの効果をもたらします。でも、モリコーネはトランペットに哀愁を帯びたメロディを奏でさせました。モリコーネ自身、プロの奏者だった父親からの影響でトランペットを吹いていましたから、楽器への思い入れもあったことでしょう。
 「ガブリエルのオーボエ」は映画音楽の枠を超えた新時代の名曲です。もともとは南米におけるキリスト教の布教活動を描いた映画「ミッション」で使われたものですが、今では映画本編よりもこの曲のほうが親しまれているのではないでしょうか。オーボエ奏者はもちろんのこと、さまざまな演奏家がこの曲をアレンジしてレパートリーに加えています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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もっと有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日

投稿日:2020年09月26日 10:30

今週は先週に続いて「もっと有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日」をお届けいたしました。
 フランス音楽界きっての異端児エリック・サティこそは「ひねりすぎた曲名」の王様にちがいありません。「犬のためのぶよぶよした前奏曲」を出版社に持ち込んで断られたら、今度は「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」を書いて持ち込んだ。そんなエピソードからもうかがえるように、一筋縄ではいかないひねくれ者がサティ。ほかにも「梨の形をした3つの小品」や「官僚的なソナチネ」など人を食ったようなタイトルの曲をたくさん書いています。サティの基本姿勢は反権威。偉そうにしている連中を笑い飛ばすようなところがあります。
 そんなサティの作品のなかでも、近年話題を呼んだのが、短いメロディを840回もくりかえす「ヴェクサシオン」。今年5月、世界最高峰のピアニスト、イゴール・レヴィットがこの曲にチャレンジして話題を呼びました。演奏にかかった時間は、なんと約20時間。さすがに途中で食べたり、トイレ休憩をはさんだりしていたようですが、それでも最後はすっかり嫌気がさしてしまったそうです。サティにしてみれば「あの曲を真に受けて本当に弾く人間がいるなんて!」といったところでしょうか。
 ベートーヴェンも風変わりな作品をいくつか書いています。ダジャレをもとにした「ホフマンよ、決してホーフマンになるなかれ」や、先週の「お願いです、変ホ長調の音階を書いてください」などは、仲間内の戯れから生まれてきた曲なのでしょう。これらは小曲ですが、ベートーヴェンの場合、交響曲や協奏曲といったシリアスな大作のなかにも、ユーモアの要素が少なからずあるのではないでしょうか。前例のない革新的なアイディアを実現して「ガハハハハ」と高笑いをする作曲者の姿が、楽曲から思い浮かびます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日

投稿日:2020年09月19日 10:30

今週は古坂大魔王さんの「ひねりすぎ」シリーズ第4弾、「有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日」をお届けいたしました。大作曲家たちの意外な側面が垣間見えたのではないでしょうか。
 モーツァルトの「俺の尻をなめろ」は、おそらく仲間内でのおふざけとして書かれたのでしょう。そこに居合わせた6人の音楽家たちが酔っ払って口々に悪態をついたところ、じゃあ、どうせだったら悪態でカノンを書いてやろうとモーツァルトが思いついたのかもしれません。
 もちろん、こんな曲がモーツァルトの生前に出版されるはずがありません。死後に楽譜が出版される際も、偉大なモーツァルトにこんな下品な曲があってはならないと思われたのでしょう、「愉快にやろうね!」という上品な歌詞に差し替えられてしまいました。「俺の尻をなめろ」と「愉快にやろうね!」では大違いです。本来の歌詞が広く知られるようになったのは、20世紀後半になってから。モーツァルトが羽目を外していたのは、この曲に限りません。ガールフレンドに宛てた手紙では下ネタやダジャレを連発しています。
 一方、ロッシーニはいかにも愉快な曲を書きそうな作曲家です。ロッシーニはオペラで大ヒットを連発して、大儲けをしたあげく、早々に作曲から引退してグルメの道をまっしぐらに進んだというキャリアの持ち主。道楽をとことん突き詰めるタイプだったんですね。ですから、「2匹の猫の滑稽な二重唱」のような楽しい曲をロッシーニが書いていても不思議はありません。本当は他人の曲だったのですが、みんながロッシーニの作品として納得してしまったわけです。
 ベートーヴェンの「お願いです、変ホ長調の音階を書いてください」もおかしな曲でした。これも仲間内のジョークのような曲だと思いますが、きっとその場にいた人間だけにわかる笑いの要素があったのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行がベートーヴェンの「月光」完全版を弾く音楽会

投稿日:2020年09月12日 10:30

今週は先週に続いて辻井伸行さんにベートーヴェンの傑作ソナタを演奏していただきました。今回はピアノ・ソナタ第14番「月光」。実はこの曲、出版時にはピアノ・ソナタ第13番と2作セットで発表されました。その際、ベートーヴェンはこの2作に「幻想曲風ソナタ」と名付けました。
 言葉だけを見ると、幻想曲とはなんらかの空想を描いた曲のことかと思ってしまうかもしれませんが、そうではありません。ここでいう幻想曲とは、既存の様式や形式にこだわらずに、自由な創意にもとづいて書かれた曲のこと。カチッとした形式があるのではなく、即興風の曲だというようなニュアンスも持っています。ですから、本当ならベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番も第14番も両方とも「幻想曲風ソナタ」と呼ばれていいはずなのですが、番組内でもご紹介したように第14番には「月光」の愛称が定着しました。ベートーヴェンは「月光」のイメージなど一切持っていなかったでしょうが、みんなが「なるほど、これは月光だ」と納得したわけです。ちなみに愛称の付かなかった第13番のほうは、今でもよく「幻想曲風ソナタ」の名で呼ばれています。
 辻井さんが「月光」に与えた愛称は「かなしみ」。たしかに第1楽章には一貫して静かな「かなしみ」の感情が流れているように思います。そこから軽やかな第2楽章を経て、最後の第3楽章で感情を爆発させ、荒々しい波が押し寄せるというストーリー性は、ベートーヴェンにふさわしいものでしょう。最後はとても盛り上がって情熱的に曲を閉じるのですが、それでもどこか満たされない思いが残っているようにも感じます。
 辻井さんの演奏は端正で力強く、説得力に満ちていました。「かなしみ」とは題したものの、過度に感情に溺れることなく、格調高い本格派のベートーヴェンを披露してくれました。これぞ名曲、名演だったと思います。
(※辻井伸行さんの姓の「辻」は正式には、点がひとつの「辻」です)

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行がベートーヴェンの三大ソナタを弾く音楽会

投稿日:2020年09月05日 10:30

今年はベートーヴェン生誕250年ということもあって、一段とベートーヴェンに注目が集まっています。今週は辻井伸行さんにベートーヴェンの大傑作ソナタ、「悲愴」と「熱情」を演奏していただきました。ベートーヴェンのピアノ・ソナタのなかでも、「悲愴」「熱情」「月光」の「三大ソナタ」はとりわけ高い人気を誇っています。
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタはぜんぶで32曲ありますが、「悲愴」「熱情」「月光」といったようにタイトルの付いた曲は決して多くありません。当時の楽曲はピアノ・ソナタであれ、交響曲であれ、このようにタイトルが付いていないほうが一般的だったのです。たとえば、ベートーヴェンが最初に書いたピアノ・ソナタは、ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調作品2-1。番号や調、作品番号などが記されているだけで、具体的な曲のイメージを伝えるタイトルはありません。それが普通だったんですね。
 でも、それでは不便だということで、人気の高い曲は愛称で呼ばれるようになりました。現代的な価値観からすると「他人が曲の名前を付けるなんておかしい」と思われるかもしれませんが、愛称とはもともと本人ではなく他人が付けるものだと考えれば、不思議なことではないでしょう。
 辻井さん独自の解釈で愛称を付けるとすれば、「悲愴」ソナタは「怒りと慰め」。第1楽章に怒りや苛立ちがあって、第2楽章では慰めがあり、第3楽章で両方の感情が重なり合うという解説がありました。こんなふうにストーリー性があると、作品がいっそう身近に感じられますよね。「熱情」ソナタは「幻想曲、嵐」。「熱情」という言葉は人間の感情にのみ焦点を当てていますが、「嵐」という言葉からは感情も自然現象も含めたさまざまなイメージが湧いてきます。辻井さんの真摯な演奏から、力強く雄大な音のドラマが伝わってきました。次週の「月光」も楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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意外と大変!指揮者の仕事を知る休日

投稿日:2020年08月29日 10:30

指揮者は謎めいた存在です。オーケストラの中心人物のようでいて、実際に指揮台でなにをしているのかはわかりづらいところ。今回は日本の若い世代を代表する3人の指揮者のみなさんに、指揮者の仕事についてお話をうかがいました。とても率直なお話が聞けて、おもしろかったですよね。
 鈴木優人さん、原田慶太楼さん、川瀬賢太郎さんはいずれも30代。指揮者の世界では若手です。かつて指揮者といえば、40代でもまだ駆け出し、50代でも若手、60代でようやく一人前などと言われたものですが、実は近年は若い世代の指揮者が抜擢される傾向にあります。30代でオーケストラの音楽監督や首席指揮者といった責任あるポジションを担う例も増えてきました。優秀な若い才能が次々と現れてきたことに加えて、オーケストラの側でも新しい才能にチャンスを与えようという意識が強まっているのだと思います。
 3人のお話をうかがうと、想像以上に指揮者は演奏中に細かな指示を出していることがわかります。リハーサル中なら言葉で説明することも可能ですが、本番は体を使った指示がすべて。指揮のジェスチャーについての解説がありましたが、あれがちゃんとオーケストラ側に伝わっているのがすごい! 阿吽の呼吸というほかありません。
 原田さんの「朝食2回、昼食2回、夕食2回」というお話にもびっくりしました。特にアメリカのオーケストラの場合、ヨーロッパとは違って自治体等からの公的な支援がないため、お金持ちからの寄付は必須。音楽監督を務める指揮者にとって、支援者たちとの社交は不可欠です。「70%はビジネスマン」とおっしゃるのも納得です。
 どんなに偉い指揮者であっても、雇っているのはオーケストラの側。この点で、野球やサッカーの監督と少し似ています。百戦錬磨の楽員たちから日々評価され続ける立場なのですから、タフな仕事であることはまちがいありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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