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変わった音のオンパレード!レア奏法を楽しむ音楽会

投稿日:2021年06月05日 10:30

今週は東京佼成ウインドオーケストラのみなさんをお迎えして、さまざまなレア奏法について教えていただきました。普段は目にしない奏法がたくさんありましたが、これらは決して奇をてらったものばかりではありません。古くから作曲家たちは、通常とは異なる奏法で想定外の音色や効果を生み出すことに熱心に取り組んできました。最初は風変わりに思えた奏法が、さまざまな曲で使われるうちに、次第に不可欠な特殊奏法として定着してゆくこともしばしば。レア奏法は創意工夫の証と言ってもいいでしょう。
 ミュートを用いたトランペットの奏法はだれもがどこかで耳にしているはず。今回はジャズの例が実演されていましたが、クラシックでも、たとえばストラヴィンスキーの「春の祭典」ではトランペットのミュートが印象的な使われ方をしています。
 ホルンのゲシュトップ奏法ももはや欠かせない奏法です。今回はリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」の例が紹介されましたが、チャイコフスキーの「悲愴」やマーラーの「巨人」などでも使われています。金属的で震えるような音色が、独特の効果を醸し出します。
 レスピーギの「ローマの祭」で使われるトロンボーンのグリッサンドは効果抜群。なんの説明がなくとも、酔っぱらいが千鳥足で歩いている様子が伝わってきます。さすがオーケストレーションの達人レスピーギ。バルトークの「管弦楽のための協奏曲」でもトロンボーンのグリッサンドが登場して、ブーイングを模したような音を発します。
 これらに比べると、「レア度3」の激レア奏法に出会う機会はめったにありません。フルートのジェットホイッスル奏法はもっぱら現代作品に登場する印象ですが、クラシックの作曲家ではヴィラ=ロボスにその名も「ジェットホイッスル」という作品があります。曲の終盤であたかも空に飛んでゆくかのごとく、ジェットホイッスルが連発されます。機会があれば聴いてみてください。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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意外と知らない!?クラリネットがわかる休日

投稿日:2021年05月29日 10:30

なじみ深いようでいて、実はあまり知られていないのがクラリネット。今回はそれぞれ異なるフィールドで活躍する、吉田誠さん、谷口英治さん、瀬戸信行さんの3名のクラリネット奏者のみなさんに集まっていただきました。なんといってもクラリネットの特徴はジャンルの広さ。クラシックでもジャズでも民族音楽でも重要な役割を果たしてきました。
 実はクラリネットはほかの木管楽器に比べると歴史の浅い楽器です。クラシックのオーケストラでも新参者ですので、モーツァルトやハイドンのような古い時代のオーケストラ曲では、クラリネットが使われていないケースがよくあります。モーツァルトは晩年になって(といっても35歳で亡くなっていますので、まだ若いのですが)、ようやくクラリネットの作品を書くようになり、クラリネット協奏曲やクラリネット五重奏曲といった大傑作を残してくれました。
 ですので、モーツァルトのクラリネット曲が晩年に偏っているのには理由があるのですが、吉田さんがおっしゃるようにブラームスやサン=サーンス、プーランクなど他の作曲家たちも晩年になってクラリネットの曲を書いているのは意外でした。
 プーランクのクラリネット・ソナタはジャズ・クラリネットの巨匠ベニー・グッドマンにより初演されました。クラシックでのグッドマンの功績はこの曲だけではありません。たとえばコープランドのクラリネット協奏曲はグッドマンが委嘱した作品。谷口さんが「クラリネットのジャズは一度死んだ」とおっしゃっていましたが、おかげでクラシックのレパートリーが増えたともいえます。このあたりのジャンルの交流がおもしろいですね。
 クレズマーは東欧系ユダヤにルーツを持つ音楽。瀬戸さんの「こぶし」、なんともいえない濃厚な味わいがありました。マーラーのようにクレズマー風の曲想を交響曲に取り入れた作曲家もいますが、ここまでの「こぶし」はクラシックではまず聴けません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラの黒幕楽器を知る休日

投稿日:2021年05月22日 10:30

「黒幕」とは辞書によれば「表面には出ないで、指図をしたり、はかりごとをめぐらしたりする者」(デジタル大辞泉)。本日はオーケストラを操る黒幕楽器として、ヴィオラの須田祥子さん、ファゴットの長哲也さん、ユーフォニアムの外囿祥一郎さん、テューバの山岸明彦さんに集まっていただきました。
 「メロディが生きるか死ぬかは私たち次第」とおっしゃるのは、ヴィオラの須田祥子さん。ヴィオラの「刻み」の例として、モーツァルトの交響曲第40番が紹介されていましたが、そういえばこの曲は冒頭でヴィオラが一足早く登場して、ヴァイオリンを先導しています。
 ファゴットは木管アンサンブルを支える土台。弦楽器とファゴットがいっしょに演奏する場面として、モーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」序曲の冒頭が例に挙げられていました。この部分、とても軽快でチャーミングなのですが、ファゴットの少しくすんだ音色が効いています。全体の音色に深みを与えるとともに、喜劇のはじまりにふさわしいほのかなユーモアも漂わせています。
 ユーフォニアムは表にも裏にも回れるユーティリティ・プレーヤー。ユーフォニアムが目立つ曲といえば、ホルストの吹奏楽のための第2組曲。朗々と歌うような落ち着いたメロディが印象的ですが、実はあそこは裏から表に瞬時に早変わりするという、意外とあわただしい場面だったんですね。
 テューバは最低音域を担当。リズムを刻んで曲のキャラクターを表現します。まさにキング・オブ・黒幕。他の楽器への影響力はわたしたちが思っているよりずっと強いようです。
 最後に演奏されたのはベルリオーズ作曲の「幻想交響曲」より。本来なら100名規模の大編成によるカラフルでド派手な曲を、あえて黒幕楽器だけで演奏してしまうという逆転の発想です。一大スペクタクルが親密な音楽に変身していました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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7人制吹奏楽!ブリーズバンドの音楽会 第3弾

投稿日:2021年05月15日 10:30

今週は番組発の新しい合奏スタイル、7人制吹奏楽ブリーズバンドの第3弾。今回もおなじみの名曲が多彩なアレンジで生まれ変わりました。聴かせどころ満載で、本当にカッコよかったですよね。楽譜は番組ホームページより無料でダウンロードできます。
 一曲目は「白雪姫」の「ハイ・ホー」。ブリーズバンドは曲ごとの編成におもしろさがあります。木管楽器中心の編成で、とても軽やかで透明感のあるサウンドが印象的でした。ピッコロとフルート2本の高音が効いていましたね。しかも7拍子。7人編成、7人のこびと、7拍子という7づくし。新鮮味がありました。
 二曲目はあいみょん「裸の心」。こちらは金管楽器中心の編成で、ふっくらとした厚みのある響きで奏でられました。ブリーズバンドでは全員が主役、低音楽器のテューバにもソロが用意されています。柔らかいブラスの響きがノスタルジーを喚起します。この楽器編成だからこそ生まれる味わい深さがありました。これぞ編曲の妙でしょう。
 三曲目は「カルメン・クライマックス!」。原曲はビゼーの超名作オペラ「カルメン」です。スペインを舞台に、魔性の女カルメンがマジメな男ホセの運命を狂わせるという悲恋の物語。情熱の国スペインのムンムンとしたムードが管楽器のアンサンブルから伝わってきます。思わず膝を打ったのはユーフォニアムの活躍。なんと、カルメンが恋の気まぐれさを歌う「ハバネラ」のメロディを奏でるではありませんか。一見、意外ですが、ユーフォニアムの深く豊かな音色は、信念の人カルメンにぴったりなのでは。ホセの恋敵を表現する「闘牛士の歌」では、木管楽器と金管楽器の熱いバトルも。これは楽しい!
 演奏する人にとっても聴く人にとっても楽しい編曲がそろいました。ブリーズバンドは決してコロナ禍だけのものではないはず。少人数だから可能な新しい吹奏楽の楽しみ方だと思っています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第2弾~最終審査

投稿日:2021年05月08日 10:30

今週はいよいよ「題名プロ塾第2弾」の最終審査。加藤光貴さん、嶋田雄紀さん、堀内優里さんの3名が最終選考に挑みました。百戦錬磨のトッププロたちを従えてソリストとして演奏するのは、たいへん貴重な機会だったと思います。見る側にもヒリヒリとした緊張感が伝わってきたのではないでしょうか。
 課題曲は「情熱大陸」。まずは先輩塾生として、第1回のオーディション通過者である林周雅さんがお手本演奏を披露してくれましたが、これが堂々たる弾きっぷり。以前、受講生として登場した頃と比べて、すっかりたくましくなった姿を見せてくれました。
 受講生のトップバターは加藤光貴さん。勢いのある演奏で、オブリガートがとてもカッコいいと思ったのですが、プロ側からは「オーケストラのリズムと合っていない」「オブリガートで音の数が多すぎる」という指摘が。しかし、こういったアドバイスを即座に消化して、自分の演奏に反映させることができるのが加藤さん。二度目の演奏はぐっと洗練されていました。
 二番目に演奏したのは一般企業で働きながらヴァイオリンを演奏する嶋田雄紀さん。前回もポップスのリズムに苦労する様子がうかがえましたが、今回もやはりリズム感についての指摘がありました。それでも葉加瀬さんのステップを踏みながら演奏するというレッスンを受けると、格段の進歩を見せます。嶋田さんは音楽にまっすぐな力強さがあるのがいいですよね。オブリガートは壮大かつ華麗で、聴いていてワクワクしました。
 三番目は堀内優里さん。歯切れよく軽やかなソロとバランスのよいオブリガートを、澄んだ音色で披露してくれました。プロ側からは、ここでもリズム感についての指摘が続きます。しかしアンサンブル能力の高さ、音色の美しさが高く評価されて、見事にオーディションを通過しました。これからの活躍が本当に楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第2弾~1次審査後編

投稿日:2021年05月01日 10:30

今週は先週に引き続いて、「題名プロ塾」第2弾の1次審査後編をお届けしました。今回のテーマは、直前に渡された譜面をいかに弾きこなせるか。5人の受講生のみなさんが、それぞれ多彩なアレンジが施された有名曲に挑みました。メインのメロディを奏でるのはピアノで、ヴァイオリンの役割はオブリガート(対旋律、裏メロ)。全員が異なる課題を与えられていましたが、葉加瀬さんのアドバイスで、演奏ががらりと変わるのがおもしろかったですよね。
 嶋田雄紀さんが演奏したのはバラード・アレンジによる「イエスタデイ」。けれんのないまっすぐな演奏でしたが、葉加瀬さんのアドバイスを受けた後は、ぐっと彫りの深い表情の音楽になりました。
 雑賀菜月さんはジャズワルツ・アレンジによる「星に願いを」。葉加瀬さんはクラシック音楽にはないリズム感を求めます。なるほど、スイングというのはこういうことなんだなと腑に落ちたのではないでしょうか。
 加藤光貴さんは16ビートシャッフル・アレンジの「アメイジング・グレイス」。最初からとても精彩に富んだ演奏で、葉加瀬さんからは「使えるねえ」の一言。見事でした。
 小柴千明さんの16ビート・アレンジ「ロッキーのテーマ」では、葉加瀬さんの「ミシミ ミシミは喜ばないと」というアドバイスが印象的でした。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲にも似た場所がありますが、これがカッコいいんですよね。クライマックスとは別に用意されたもうひとつの見せ場とでも言いましょうか。
 堀内優里さんのブルーグラス・アレンジ「カノン」では、葉加瀬さんいわく「アイリッシュは、アップビートをダウンで弾く」。リズム楽器がなくても踊れる音楽でなくてはならないといいます。
 葉加瀬さんのレクチャーを聞いていると、単にヴァイオリンの奏法に留まらない、音楽の仕組みや成り立ちに触れることができて、本当に刺激的です。音楽の奥深さを痛感せずにはいられません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第2弾~1次審査前編

投稿日:2021年04月24日 10:30

今週は本気でプロを目指す人のための「題名プロ塾」第2弾。前回、オーディションで合格した林周雅さんは、葉加瀬太郎さんのコンサートで無事デビューを果たし、その後も活躍の場を広げています。今回は新たに5人の受講生が集まりました。
 1次審査前編では5人の受講生が課題曲「情熱大陸」に挑戦。葉加瀬さんのアドバイスを受ける前と後では、見違えるほど演奏が変わるのがおもしろかったですよね。ああ、音楽を教えるって、こういうことなんだな、と実感できたのではないでしょうか。5人ともしっかりした技術を持っていて、最初から個性を反映した演奏を披露してくれているのですが、それでも葉加瀬さんのわずかなアドバイスで、音楽がぐっと生き生きしたものに変化します。
 葉加瀬さんが教えるのは「食べていけるためのヴァイオリンの弾き方」というだけあって、どれも実践的で具体的。そして、やはりポップスとクラシックのアプローチの違いが随所にあらわれていたように思います。
 たとえば、加藤光貴さんには「オンビートに意識が行き過ぎている」。クラシックでは4拍子の1拍目と3拍目に意識が向きがちですが、葉加瀬さんは「2拍目と4拍目を感じるように」と教えます。これで演奏ががらりと変わりました。教えてもらったことを、すぐに実践できる応用力もすばらしいですよね。
 嶋田雄紀さんには、Aメロの終わりでわずかに遅れるという指摘がありました。クラシックではフレーズの終わりにわずかな「タメ」を入れることで自然な呼吸が生まれることもありますが、ポップスではビートに乗るのが基本。葉加瀬さんのアドバイスを受けて、とてもグルーヴ感のある演奏になりました。
 5人の受講生のバックボーンはまちまち。音大生、医大生、社会人と意外なほど多彩です。今回はいったいだれがオーディションを勝ち抜くのでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ジャズ界のレジェンドピアニスト・小曽根真 クラシック界の若き天才ピアニスト・藤田真央 夢の初共演の音楽会

投稿日:2021年04月17日 10:30

今週は小曽根真さんと藤田真央さんの夢の共演が実現しました。小曽根さんはジャズ界のレジェンド。藤田さんはチャイコフスキー国際コンクール第2位、クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール優勝の俊英。ジャンルは違えども、ともに国際的に活躍するピアニストです。
 藤田さんが7歳のとき、クラシックの音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」で初めて小曽根さんを聴いたというお話にはびっくり。近年の小曽根さんはクラシックの分野でも大活躍しています。小曽根さんがクラシックのオーケストラと共演した公演をこれまでに何度も聴いていますが、客席は常にわきあがります。クラシック音楽ファンにとっても小曽根さんは特別な何かを持ったピアニストなんですね。以前、アメリカからデトロイト交響楽団が来日した際、ソリストとして小曽根さんが共演したことがありました。オーケストラの音楽監督で世界的指揮者のレナード・スラットキンは「以前から小曽根のファンで、ニューヨークのブルーノートで何度も聴いている」と語っていて、小曽根さんの人気ぶりを痛感しました。
 小曽根さんのモーツァルトには、常に即興の要素があります。クラシックでは楽譜に忠実に弾くのが基本。しかし、モーツァルト本人は即興の名手だったはず。当時の演奏習慣として即興はごく一般的なものでした。名人の即興が楽譜に記録されて後世に残った、という作品も少なからずあることでしょう。そう考えると、小曽根さんがモーツァルトに即興を盛り込むのは不思議なことではありません。
 モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」では、小曽根さんと藤田真央さんの遊び心が爆発していました。最後にはふたりの完全な即興によるカデンツァ風の見せ場も登場して、まさに自由自在。即興部分から本来のモーツァルトに戻った瞬間のおふたりの表情が最高にすばらしかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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今、注目のニュータイプの音楽家を知る休日

投稿日:2021年04月10日 10:30

今週は今、注目を集めるニュータイプの音楽家、廣津留すみれさん、角野隼斗さんの魅力に迫りました。音楽界には常に新しい才能が登場していますが、おふたりは単に「すぐれた若手」というだけに留まらない稀有な存在です。多くの若手演奏家は、有名な音楽大学に入り、国際コンクールで入賞して、やがて檜舞台で成功を収める……といった段階を経て名を知られてゆくものですが、廣津留さんも角野隼斗さんも従来とは違った形でキャリアを築いています。
 廣津留さんはハーバード大学とジュリアード音楽院の両方を首席で卒業。それだけでも聞いたことのない話ですが、そこから音楽家として活動すると同時に、起業したり、本を書いたり、講演会を開いたり、テレビのコメンテーターを務めたりと、多岐に渡る活動をくりひろげています。いったいどんな時間の使い方をすれば、そんなことができるのかと思ってしまいますよね。バッハ・コレギウム・ジャパンでヴァイオリン奏者として演奏している姿が映っていましたが、まさかそんなところでも弾いていらっしゃったとは! バッハ・コレギウム・ジャパンは古楽の分野で国際的に高く評価されるトップレベルのアンサンブルです。
 角野隼斗さんのことを、本名よりも先にYouTuber かてぃん(Cateen)の名で知った方も多いのではないでしょうか。インターネットの世界ではずいぶん前より人気を集めていましたが、今やチャンネル登録者数は70万人以上。クラシックの演奏家でこの人数は驚異的です。東京大学大学院の情報理工学系研究科卒業という経歴ですから、いろいろな人生の選択肢があったと思いますが、こうして音楽家として羽ばたいている姿を見ると、うれしくなってしまいます。
 ふたりとも共通してクラシック音楽の魅力を広く伝えたいとおっしゃっているのが心強いですね。これから先、きっと予想もつかない活躍を見せてくれることでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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一流の音楽家が夢のマッチング ドリーム・デュオ第5弾

投稿日:2021年04月03日 10:30

今週は好評のドリーム・デュオ企画、第5弾。日本を代表するトップレベルの奏者たちが、斬新な組み合わせによるデュオを披露してくれました。
 近年、協奏曲やリサイタルで大活躍中の気鋭のヴァイオリニスト、辻彩奈さんが共演を熱望したのは、「色っぽいギターを弾く」という大萩康司さん。クラシック音楽ではもっぱら主役を務めるヴァイオリンと、さまざまな民族音楽をはじめあらゆるジャンルで用いられるギターでは、あまり共演機会はありません。ところが、この両者の珍しいデュオのためにパガニーニが曲を残しています。パガニーニといえば「悪魔に魂を売った」と噂されたほどの超絶技巧で知られるヴァイオリニスト。その作品の大半は技巧的なヴァイオリン曲ですが、実は彼はギターも嗜み、ときにはギターの奏法をヴァイオリンに応用することもありました。一世によればギター奏者の愛人がいたため、ギター曲を書いたといいますが、なるほど、この「カンタービレ」は甘美でやさしさにあふれています。
 ピアソラの代表作「リベルタンゴ」を演奏してくれたのは、ホルンの福川伸陽さんとバンドネオンの三浦一馬さん。ホルン自体、デュオを聴く機会のまれな楽器ですが、バンドネオンとのデュオは前代未聞かもしれません。福川さんのホルンのまろやかな音色と、三浦さんのバンドネオンの明るくシャープな音色が組み合わさって、絶妙な味わいが生み出されていました。タンゴの革命児と呼ばれたピアソラは、今年生誕100年を迎えます。ピアソラの音楽はタンゴの世界にとどまることなく、あらゆる楽器で演奏されていますが、また新たな可能性が開かれたように思います。
 最後は伊賀拓郎さんのピアノと伊波淑さんのラテンパーカッションによる、幼なじみデュオ。まさか「さくらさくら」が、こんなに楽しい音楽になるとは。歯切れよくスピード感にあふれた「さくらさくら」は新鮮でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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