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実は違っていた!?ピリオド楽器でショパンの名曲の秘密を知る休日

投稿日:2021年11月06日 10:30

今週はショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位の川口成彦さんをお招きして、ショパンが作曲した当時の楽器を演奏していただきました。作曲者が本来イメージしていたのは、こんな音色だったんですね。現代のピアノとはずいぶん違います。
 ピリオド楽器という言葉が使われるようになったのは比較的近年のことです。以前は古楽器などとも呼ばれていました。ピリオド、つまり時代。ピリオド楽器は、作品が書かれた当時の楽器のことを指しています。過去の大作曲家たちが生きていた時代と現代では、楽器の仕組みや音色、音域など、いろいろな点で違いがあります。作品本来の姿を知るために作曲当時の楽器や奏法を研究しよう。そんな歴史的な視点が広まりつつあるのです。
 そのあらわれのひとつがショパン国際ピリオド楽器コンクール。川口成彦さんは2018年に開催された第1回のコンクールで第2位に入賞しました。このコンクールを主催しているのはポーランドの国立ショパン研究所です。つまり、先頃話題を呼んだあのショパン国際ピアノ・コンクールと同じ。彼らは現代のピアノで世界一注目されるコンクールを開く一方で、ピリオド楽器を使ったコンクールも開いたのです。このコンクールについて日本で記者会見が開かれた際、同研究所のマチェイ・ヤニツキ副所長は「ショパンの音楽と当時の楽器は切り離すことのできない関係にあります。わたしたちはピリオド楽器の魅力を伝えようとしているのではなく、ショパン本来の魅力を知らしめようとしているのです」と語っていたのが印象的でした。
 川口さんの解説から、ピリオド楽器では構造的に高速の同音連打が困難な理由、現代とのピッチの違い、打鍵後の音の減衰速度の速さなど、楽器の特徴がよく伝わってきました。そして、川口さんの演奏するショパンは実にニュアンスが豊か。ショパンの音楽に対する印象が変わりませんでしたか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットの音楽会

投稿日:2021年10月30日 10:30

今週は上原ひろみさんによるピアノ・クインテット(ピアノ五重奏)の演奏をお届けしました。ピアノと弦楽四重奏を合わせたピアノ五重奏という編成は、クラシック音楽の世界では決して珍しくありません。シューマンやブラームス、ドヴォルザーク、フォーレらがピアノ五重奏曲の名曲を残しています。しかし、ジャズでこの編成はあまりないのではないでしょうか。
 「豆電球がつく」ようにピアノ五重奏のアイディアが浮かんだという上原さん。共演者は新日本フィルのコンサートマスターであるヴァイオリニスト、西江辰郎さんを中心とする、ヴァイオリンのビルマン聡平さん、ヴィオラの中恵菜さん、チェロの向井航さんによる弦楽四重奏です。西江さんはオーケストラでの活動に加えて、ソロや室内楽でも活躍していますので、クラシック音楽ファンにはおなじみでしょう。のびやかな弦楽器の響きとキレ味のあるピアノの音色が一体となって、独自の音楽が生み出されていました。
 1曲目に演奏されたのは『シルヴァー・ライニング・スイート』より「アイソレーション」。「どの雲にも銀の裏地(シルヴァー・ライニング)がついている」という英語の諺から、「シルヴァー・ライニング」には「逆境にあっての希望の光」という意味があります。コロナ禍における孤立を題材に掲げつつ、テーマを弦楽器とピアノの間で受け渡しながら発展する様子に、一歩ずつ着実に前に進んでゆくようなポジティブなエネルギーを感じます。クラシカルな雰囲気のある曲でしたよね。
 2曲目は「サムデイ」。チェロのウッドベースのような使い方が特徴的で、こちらはよりジャズのテイストが前面に出ていたと思います。進むにつれてじわじわと白熱し、最後は輝かしい高揚感に包まれました。
 3曲目はスペインのワインの醸造地にちなんで題された「リベラ・デル・ドゥエロ」。民族音楽風の情熱的な曲想とメンバーそれぞれのソロが熱かったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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すぎやまこういちの音楽会 ~そして伝説へ

投稿日:2021年10月23日 10:30

今週は番組放送内容を変更して、9月に亡くなったすぎやまこういちさんの追悼企画をお届けしました。いずれも作曲者自身の指揮による自作自演で、貴重な映像ばかり。堂々として明快な指揮ぶりが印象的でした。
 作曲家すぎやまこういちの代表作を挙げるとすれば、やはり「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽ということになるでしょう。「序曲」は「ドラクエ」シリーズ全体のテーマ曲というべき名曲。映画のオープニングテーマやオペラの序曲と同じように、音楽で物語の世界観を伝える大切な役目を担っています。「ドラクエ」の舞台は騎士、戦士、僧侶、魔法使いがいる古いヨーロッパ風のファンタジー世界。この世界にふさわしいクラシカルなテイストを持ったオーケストラ音楽が鳴り響きます。初代ファミコンの音源再生能力は現代からすると信じられないほど貧弱なものでしたが、それでもプレーヤーたちはイマジネーションを膨らませて、すぎやまさんの音楽にオーケストラのサウンドを聴き取っていたはずです。
 もっとも「ドラクエ」発売当時は、すぎやまこういちの名を意外に感じた人が多かったと思います。というのも、当時はファミコンゲームといえばまだまだマイナーな世界。すでに歌謡曲で数々のヒット曲を飛ばした有名作曲家が曲を書いてくれるなんて、本当かな……と感じたものです。
 番組最後に演奏されたのは「ドラゴンクエストIII」より「そして伝説へ」。これは名曲ですよねえ。シリーズ中でもドラクエIIIを最高傑作に挙げる人は少なくないのでは。ゲームをクリアして、音楽を聴きながらこれまでの冒険の軌跡を思い出し、その世界から別れがたい気分に浸る。これこそロールプレイングゲームの醍醐味でしょう。すべては架空の世界の物語なのに、音楽が強烈なノスタルジーを喚起します。もしすぎやまこういちの音楽がなかったら、「ドラゴンクエスト」はまったく別のゲームになっていたにちがいありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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藤井フミヤとクラシックの音楽会

投稿日:2021年10月16日 10:30

今週は藤井フミヤさんをゲストにお招きして、クラシックの超名曲を歌っていただきました。「最近は家で聴く音楽の8割はクラシック」というフミヤさんが選んだのは、シューベルトの「セレナーデ」、そしてベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」第2楽章でした。
 シューベルトといえば数々の名曲で知られる歌曲王。なかでも歌曲集「白鳥の歌」に収められたこの「セレナーデ」はよく知られています。通常はレルシュタープが書いたドイツ語の原詩で歌われますが、今回フミヤさんが歌ったのは松本隆さんによる現代日本語訳。以前、当番組の「シューベルトの歌曲を現代日本語訳で聴く音楽会」で松本隆さんの訳詞をご紹介しましたが、松本さんの訳詞はとても自然で、聴き取りやすいんですよね。そして、今の私たちの感性にぴたりと寄り添ってくれます。フミヤさんが歌うと、ますます現代的になると言いましょうか、ほとんどポップスのような身近な音楽として感じることができます。きっとシューベルトだって身近な人々のために曲を書いていたはず。当時の聴衆が受けた印象と私たちがフミヤさんの歌から受ける印象は案外近いのかもしれません。
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第2楽章は、ビリー・ジョエルの「This Night」など、これまでにくりかえしカバーされてきた人気曲です。原曲はピアノ曲ですので歌詞はありませんから、フミヤさんはオリジナルの歌詞を付けて、「青いメロディー」と題しました。原曲が持つ淡いノスタルジーを保ちながらも、すがすがしく爽やかなポエジーで満たされいて、古い曲という感じがまったくしません。
 最後に演奏されたフミヤさんの「TRUE LOVE」は、尺八の藤原道山さん、箏のLEOさんが加わった豪華メンバーで。和楽器と弦楽器とボーカルが無理なくひとつに溶け合って、独特の透明感が生み出されていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ショパンコンクールのコンテスタントによるショパンの音楽会

投稿日:2021年10月09日 10:30

現在、ポーランドのワルシャワでショパン国際ピアノコンクールが開催されています。10月3日に1次予選が開始され、以降人数を絞りながら、2次予選、3次予選、ファイナルへと続きます。ファイナルが終わるのは10月20日という長丁場。小林愛実さんも角野隼斗さんもコンクールに参加しており、昨日、ともに2次予選への進出が発表されました。
 世界中にたくさんの音楽コンクールがありますが、ショパン・コンクールほど注目を集めるコンクールはほかにありません。それはこのコンクールが過去にポリーニやアルゲリッチなど、偉大なピアニストを輩出してきたからでもあるでしょうが、それに加えて、ショパンがピアニストにとって特別な存在だからという点も見逃せません。かつて名ピアニストのアルフレート・ブレンデルが、こんなことを語っていました。
「ピアニストには2種類いる。ショパンを弾くピアニストと、それ以外だ」
 実は当のブレンデルは後者のショパンを弾かないタイプのピアニストでした。ショパンを弾くとなったら、そのために膨大なエネルギーを注がなければならなくなるので、あるとき彼はショパンを弾かない道を選択したというのです。やはりショパンは別格です。
 ショパンの魅力はとても一言で語れるようなものではないでしょうが、小林愛実さんは一例として「華麗な装飾音」を挙げてくれました。軽やかできらめくような装飾はショパンならでは。同時代の他の作曲家、たとえばリストやシューマンとはまったく違った美学に貫かれています。
 角野隼斗さんはショパンの魅力を「引き算の美学」と語っていて、これはおもしろい表現だと思いました。例として弾いてくれたリスト風「英雄ポロネーズ」には爆笑! たしかにリストはショパンとは正反対で、ある種の過剰さが芸術に高められた存在だと思います。ショパンは「引き算の美学」から、大きなドラマや豊かな詩情を生み出します。最後に角野さんが演奏した「英雄ポロネーズ」はまさにその実践だったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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世界的ピアニスト・阪田知樹が選ぶ“3大超絶技巧曲”のスゴさを知る音楽会

投稿日:2021年10月02日 10:30

今週は今年5月に開催されたエリザベート王妃国際音楽コンクールのピアノ部門で第4位入賞を果たしたピアニスト、阪田知樹さんをお招きして、その超絶技巧を存分に披露していただきました。これは人間技なのかと思ようなテクニックが次々と飛び出して、本当にすごかったですよね。華やかで、切れ味の鋭さがありました。単に難度が高いというだけでなく、超絶技巧が音楽的な興奮にしっかりと結びついている点がすばらしいと思いました。
 リストの「ラ・カンパネラ」には複数のバージョンがあります。今回阪田さんが弾いたのは初稿と呼ばれる「パガニーニによる超絶技巧練習曲」に収められた「ラ・カンパネラ」。めったに演奏されません。一般的に演奏されるのはこれを改訂した「パガニーニによる大練習曲」に収められているバージョンです。初稿の難しさについては番組内で説明があった通りですが、曲の作りにも違いがあります。初稿にはパガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番第3楽章の鐘(ラ・カンパネラ)の主題に加えて、同じパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番第3楽章の陽気な主題も用いられています。
 超絶技巧を誇った往年の大ピアニスト、ジョルジュ・シフラが編曲したブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」も壮絶でした。この曲はオーケストラ編曲版が広く知られていますが、もともとはブラームスが大衆的な民俗舞曲をピアノ連弾用に編曲したものです。家庭へのピアノの普及を背景に、出版社はこの曲の楽譜を販売して、大ヒットを飛ばしたのです。しかしシフラの編曲が目指すのは家庭音楽とは正反対。目もくらむような華麗なる超絶技巧の世界へと誘ってくれます。
 最後に演奏されたバラキレフの「イスラメイ」は難曲中の難曲。よく「もっとも演奏が難しいピアノ曲」に挙げられます。阪田さんの鮮やかで、そして熱い「イスラメイ」に圧倒されました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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第30回 出光音楽賞 受賞者ガラコンサート

投稿日:2021年09月25日 10:30

今週は第30回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。会場は東京オペラシティコンサートホール。本来であれば昨年開催されるところでしたが、コロナ禍により、一年延期して無観客での開催となりました。受賞者の服部百音さん、佐藤晴真さん、藤田真央さんは、いずれもすでに華々しい活躍をくりひろげている実力者ばかりです。
 服部百音さんが演奏したのは、タルティーニ作曲のヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」より。タルティーニはイタリア・バロック期の作曲家、ヴァイオリニスト。夢のなかで悪魔がヴァイオリンで美しい曲を弾くのを聴き、目覚めてからこれを楽譜に書き留めたという逸話が知られています。技巧的なトリルが頻出する難曲ですが、百音さんの鮮やかなテクニックと高い集中力が印象的でした。
 佐藤晴真さんは2019年に難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門で優勝し、国際的に脚光を浴びました。今回演奏したのはチャイコフスキーの人気曲、「ロココ風の主題による変奏曲」より。ほとんどのチェリストは、この曲を初演者が演奏効果を高めようと改変した版で演奏しているのですが、佐藤さんは原典版で演奏しています。チャイコフスキー本人の意図を尊重することで作品の核心に迫ろうという狙いがあるのでしょう。音楽に対する誠実で知的な姿勢と、とても情感の豊かな演奏を両立しているのが佐藤さんの魅力だと思います。
 藤田真央さんはクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール優勝、チャイコフスキー国際コンクール第2位の経歴を誇り、世界に向けて大きく羽ばたきつつある才能です。今回演奏したのはモーツァルトのピアノ協奏曲第24番。この曲には作曲者がカデンツァ(終結部直前のソロの部分)を残していません。そこで真央さんは自作のカデンツァを披露してくれました。18歳で書いたそうですが、まさに才気煥発といった様子ですばらしいですよね。これぞ協奏曲の醍醐味だと感じ入りました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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セカンド奏者のすごさを知る休日

投稿日:2021年09月18日 10:30

今週はセカンド奏者のみなさんをお招きして、ファースト奏者を支える献身ぶりについてお話しいただきました。同じ楽器の奏者でもファーストとセカンドではずいぶんと役割が違うものですね。
 一般的なオーケストラでは、同じフルート奏者であってもファーストは常にファーストのパートを吹き、セカンド奏者は常にセカンドのパートを吹きます。ファーストの人が定年や移籍で楽団を去ったからと言って、セカンドの人がファーストに昇格するわけではありません。入団オーディションの時点で、ファーストはファーストとして、セカンドはセカンドとして別々に募集されるのが普通です。たとえ経験の少ない若い奏者であっても、ファーストとして採用されれば最初からファーストです。それくらい立場がはっきり違います。ファーストとセカンドでは奏者のメンタリティもずいぶん違っていることが番組からよく伝わってきたと思います。
 オーケストラの木管楽器で特徴的なのは、楽器の持ち替えがあるところでしょう。たとえばフルートであれば、ファースト奏者はフルートのみを吹きますが、セカンド奏者はピッコロに持ち替えることがあります。ピッコロはひときわ甲高い音を出しますので、どんな場面でも目立つ楽器。難波薫さんが持ち替えを実演してくれましたが、普段は目立たない奏者がいきなり大活躍することになります。
 オーボエの場合はセカンド奏者がイングリッシュホルンも吹くことになります。ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章に登場する有名なメロディを演奏するのはイングリッシュホルン。普段はサポート役のセカンド奏者が、一気に主役に躍り出ることもあるのです。
 最後のセカンド奏者だけで演奏するベートーヴェンの交響曲第7番は新鮮でした。ファースト不在でもこれはまぎれもなくベートーヴェンの7番。いつもは表から見ている作品を裏側からのぞくようなおもしろさがありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラを設立!夢に挑む反田恭平の音楽会

投稿日:2021年09月11日 10:30

今回は反田恭平さんとジャパン・ナショナル・オーケストラのみなさんをお招きいたしました。「世界に通用する音楽学校を作りたい」と語る反田さん。その夢の実現に向けての第一歩として、将来の教授陣を担う楽員たちを集めてオーケストラをご自身で結成しました。まったく型破りなアイディアで、日本の音楽界でこんなことをできるのは反田さんしかいないでしょう。
 ジャパン・ナショナル・オーケストラのメンバーは若き精鋭たち。ソリストとしても活動する奏者たちを集めただけあって、表現意欲にあふれたヴィヴィッドな演奏を披露してくれました。チェロ以外はみんなで立奏するというスタイルも、音楽の躍動感がいっそう増すようで新鮮です。小編成のオーケストラというよりはむしろ室内楽のような、ひとりひとりのキャラクターが際立つ演奏でした。
 今、日本のクラシック音楽界では、若くて優秀な奏者たちが次々と頭角を現していますが、彼らは高い技術や表現力を持つだけではなく、音楽家としての活動の在り方についても新しい発想をもたらしているように感じます。先頃開催されたジャパン・ナショナル・オーケストラの設立記者会見で、反田さんは「世界的に大変な時代に突入しているなかで、より音楽に没頭したい、音楽に人生を捧げたいと考える人を集めて、そのお手伝いをしたい」と語っていました。そのための手段のひとつがオーケストラの設立であり、オーケストラの株式会社化です。
 現状ではプロのオーケストラは公益財団法人等、公益を目的とした法人として運営されており、株式会社としての継続例を知りません。オーケストラは演奏会のチケットセールスだけで利潤を生み出すのは困難とされていますが、反田さんはオンライン・サロンの開設など、新しい試みを行っています。いったい次はどんなことが起きるのか、反田さんのチャレンジから目が離せません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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7人制吹奏楽!ブリーズバンドの音楽会 第4弾

投稿日:2021年09月04日 10:30

今週は好評のブリーズバンド企画の第4弾。ブリーズバンドとは7人制吹奏楽という番組発の合奏スタイルです。コロナ禍のなか、従来のように大勢が集まって練習や演奏をするのは難しいだろうという発想から生まれた合奏スタイルですが、その本質は7人全員が主役であること。オーケストラと室内楽には別の楽しみがあるように、ブリーズバンドには大人数の吹奏楽にはない別の魅力があると思います。
 今回は上野耕平さんがおっしゃったように「よりエンターテインメント色を強めた」アレンジによる3曲が演奏されました。いずれも当ホームページより譜面をダウンロードできます。
 1曲目は「うっせぇわ」。篠田大介さんによるブラスロック・アレンジでお楽しみいただきました。トップレベルの奏者たちによる演奏はキレがあって、パワフル。原曲にはとてもインパクトのある歌詞が付いているわけですが、言葉なしでアグレッシブさを表現しているのがこのアレンジの聴きどころ。「アナーキーな即興」の部分がカッコよかったですよね。
 2曲目はチャイコフスキーの名作バレエをひとひねりした川島素晴さん編曲による「白鳥たちの湖」。本来の「白鳥の湖」では、悪魔の呪いで白鳥に姿を変えられたオデット姫と王子ジークフリートとの悲恋が描かれるわけですが、まさかの学園ドラマ仕立て。ヨソ者役の白鳥にサン=サーンスの「白鳥」がやってくるという、二大「白鳥」名曲の共演(?)が実現しました。上野さんのチャイコフスキー「白鳥」とMatt Roseさんのサン=サーンス「白鳥」の間を、フルートの多久潤一朗さんが取り持っている場面がおかしすぎます。
 最後は映画「ピノキオ」より「星に願いを」を挾間美帆さんによるリズム変奏曲アレンジで。ボサノヴァ、ハバネラ、サンバ、スウィングと、あたかも耳で楽しむ世界旅行のよう。パーカッションの不在をまったく感じさせない躍動感がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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