今週はヴィヴァルディの「四季」より「秋」をお楽しみいただきました。「四季」といえばなんといっても「春」が有名ですが、「秋」にも親しみやすく美しいメロディがたくさんあります。
この「四季」とは、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「和声と創意の試み」に収められた全12曲の協奏曲のうち、最初の4曲「春」「夏」「秋」「冬」のこと。ちなみに残りの協奏曲は「海の嵐」や「喜び」など、季節感とは関係のない作品が続きます。これらも十分にすばらしい作品ではあるのですが、やはり「四季」の4曲はとびきりの傑作です。
ヴィヴァルディは生涯に600曲を超える協奏曲を書きました。大変な多作家だったんですね。ほとんどの作品は協奏曲のお約束通り、「急─緩─急」のテンポからなる3つの楽章で構成されています。どれも一定のパターンに従っていることから、20世紀の大作曲家ストラヴィンスキーは「ヴィヴァルディは600曲の協奏曲ではなく、同じ協奏曲を600回書いたのだ」と揶揄しました。しかし、現代ではこの意見に賛同する人は少数派でしょう。むしろ約束事に従いながら、これだけ多彩な表情を持った楽曲を600曲も書いたことに並外れた創意を感じずにはいられません。
ヴィヴァルディは生まれ故郷のヴェネツィアで活躍しました。ということは、「四季」で表現されるのはヴェネツィアの季節感のはず。でも、意外と日本の季節感と変わりがありません。そのせいもあってか、この曲は昔から日本での人気が高く、昭和の高度成長期にはステレオ装置の急速な普及にともなって「四季」のレコードが爆発的に売れました。以来、「四季」はバロック音楽屈指の人気を誇っています。
今回は村治佳織さんが加わったギター入りアレンジによる「四季」。なじみ深い名曲から新鮮な魅力を引き出してくれました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)