今週はこれまでに放送された「ドアの向こうの音楽会」から、夏にぴったりの5つの絶景と演奏をお楽しみいただきました。
村治佳織さんが仮想空間で訪れたのはアルハンブラ宮殿。スペインの古都グラナダにある世界遺産です。曲は近代スペイン民族主義楽派を代表するアルベニスによるスペイン組曲第1集から「グラナダ」でした。アルベニスは本人がピアニストであったこともあり、組曲「イベリア」をはじめピアノ曲に多数の傑作を残した作曲家です。スペイン組曲第1集も本来はピアノ曲ですが、ギター編曲版でも広く親しまれています。アルベニスのピアノ曲にはしばしばギター風の表現が登場して、スペインの香りを醸し出します。「グラナダ」はまさにその好例。ギターで演奏しても違和感がありません。
松永貴志さんはディズニー映画『リトルマーメイド』より「アンダー・ザ・シー」を独自のアレンジで。海のなかでピアノを弾くという型破りな設定でしたが、ピアノのきらびやかな音色が幻想的な海中の光景に不思議とマッチしていました。そういえばピアノと水の表現は相性がいいんですよね。ドビュッシーの「沈める寺院」、ラヴェルの「水の戯れ」、ショパンの「雨だれ」などを連想します。
クロマチックハーモニカの山下伶さんは夏のセーヌ川へ。映画「ロシュフォールの恋人たち」より「キャラバンの到着」を演奏してくれました。この曲を聴くと、気分はもうすっかりパリ。そろそろ海外旅行に出かけたい。そう感じた方も多いのでは。
大宮臨太郎さんが向かったのは、ひとけのない森。滝壺の前にひとりヴァイオリンを手にして、超絶技巧で彩られた無伴奏の「紅蓮華」を披露してくれました。カッコよかったですね。
大の鉄道ファンである上野耕平さんが訪れたのは、岩手県のSL銀河。タケカワユキヒデ作曲の名曲「銀河鉄道999」をまさかのサクソフォンによる効果音付きで。この疾走感はまさしく旅。束の間の旅気分を味わうことができました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)