「○○新世紀の音楽会」。いったいなにが新世紀なのかと思えば、答えは「ジャズ」。今の時代のジャズとして、スガダイローさんと黒田卓也さんのおふたりのアーティストが登場しました。
でもジャズって、どこまでがジャズなんでしょうね。スウィングとかモダン・ジャズとか、ジャズの歴史を振り返るときに出てくる言葉には漠然としたイメージがわいてきますが、じゃあ、今のジャズはどこからどこまでがジャズなのかと問われると、よくわかりません。きっと定義などはだれにもできないのでしょう。歴史の発展とともにボーダーレス化するというのは、20世紀のクラシック音楽から現代音楽への変遷とどこか似ています。
黒田卓也さんは日本人として初めてブルーノート・レーベルと契約したという話がありましたが、日本人が本場で認められるといった一種のグローバル化も、クラシック音楽界と共通しているように感じました。
スガダイローさんの「時計遊戯」は、ジャンルの枠などすっかり飛び越えたユニークな曲でしたよね。「時計遊戯」という曲名を英語に直すと「ゲームウォッチ」。たぶん、若い方はご存じないかと思いますが、ゲームウォッチとは1980年に発売されて一世を風靡した任天堂の携帯型液晶ゲーム機のこと。小さなモノクロ液晶画面を搭載した、ひとつのハードでひとつのゲームしか遊べないというタイプのゲームで、当時の子どもたちは(いや、大人も?)夢中になって遊びました。指先の反射神経と集中力の限界に挑むタイプのアクションゲームでしたので、スタート直後は簡単でも、ゲームが進むにつれて難度が増し、しまいには「キーーーッ!」となってゲーム機を放り出したくなるほど難しくなります。
昔のゲームですから、出てくる音もふたつだけ。まさかそんなシンプルな効果音が「ジャズ新世紀」につながろうとは。でもあのゲームのクセになるような感じが、楽曲からも伝わってきたのではないでしょうか。中毒性があって、ついもう一度聴いてみたくなります。
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○○新世紀の音楽会
第25回出光音楽賞受賞者ガラコンサート
今回は第25回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様が放送されました。出光音楽賞といえば、将来有望な若手音楽家を表彰する賞として、クラシック音楽界ではだれもが知る存在です。
今回の受賞者は3名。ヴァイオリンの周防亮介さんに加えて、三味線の本條秀慈郎さん、バンドネオンの三浦一馬さんといった少し珍しい楽器の演奏家が選ばれているのが目を引きます。
特にバンドネオン。一見、アコーディオンに似ているのですが、番組中でも解説されていたように、不思議な配列のボタンによって音を出す仕掛けになっています。ドイツ生まれの楽器で、アルゼンチンに渡ってタンゴの楽器として広く使われるようになりました。日本では90年代にアルゼンチンのバンドネオン奏者、ピアソラの音楽がブームになりましたので、そのときにこの楽器を初めて知ったという方も多いのでは?
そのピアソラに続く、現代のバンドネオンの巨匠が、三浦一馬さんの師ネストル・マルコーニ。三浦さんは16歳のときにマルコーニの生の演奏を聴いて衝撃を受け、終演後にマルコーニを探して打上げ会場のお寿司屋さんにまで押しかけて、その場で演奏を聴いてもらったそうです。晴れ舞台で演奏する師匠のバンドネオン協奏曲、カッコよかったですよね。
三味線の本條秀慈郎さんが演奏されていたのは大家百子作曲の「薺(なずな)舞 ―三味線とオーケストラのための」。こちらも現代の作品です。日本の伝統楽器と西洋音楽との接点から、新しい音楽世界が生み出されていました。
唯一、伝統的なクラシックの名曲を弾いたのがヴァイオリンの周防亮介さん。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲から第1楽章が演奏されました。若さに似合わず風格の漂うチャイコフスキーとでも言いましょうか。堂々たる名演でした。会場から「ブラボー!」の声があがったのも納得。将来が楽しみな逸材です。
歴史に残る名器と音楽家たち
いやー、びっくりしました。今回の放送、なにが驚いたかといえば、東儀秀樹さんがお持ちになった笙(しょう)の古さ。慶長3年、1598年製なんだそうです。ということは、今から500年以上も前! そんなに古い楽器が、今でもちゃんと美しい音を出してくれるんですね。
ヴァイオリンをはじめ、西洋楽器の世界にも名器はたくさんあります。番組中でご紹介したグァルネリやストラディヴァリの名器は、主に17世紀後半から18世紀前半に作られたもの。古さという点では東儀さんの笙にはかないません。
西洋の楽器でも日本の楽器でも共通して言えるのは、古い名器が現在も演奏に使われている、ということでしょうか。
たとえば、何百年も前に当時の名工が作った筆入れがあったとしましょう。普通、そういったものは博物館に展示されるものであって、実用品として使おうとは考えません。壊れたり失くしたりしたらそれっきり。そう思うと、怖くて持ち歩くこともできません。
でも楽器は違うんですね。ヴァイオリンは博物館にただ展示しておくよりも、実際に鳴らしたほうがコンディションを維持できるといいます。貴重な工芸品であり、収集品でもあり、それでいて実用品でもある。名ヴァイオリニストたちはそんな名器を携えて世界中を旅しているのです。
じゃあ、歴史的名器はそんなに価値のあるものなのか、そんなにいい音がするものなのか。番組中で古澤巌さんが歴史的名器のグァルネリと20世紀のポッジを弾き比べてくれました。
「さすが、グァルネリの音には深みがある!」
そう感じた方も大勢いらっしゃるでしょう。
「うーん、なんだかポッジの音のほうが好きだなあ」
もしかすると、そんな感想を持った方もいらっしゃるかもしれません。
そう感じたとしても、なにも不思議はないと思います。歴史的にグァルネリやストラディヴァリは多くの演奏家と聴衆を魅了してきました。しかし、「美しい音」に正解はないはず。あなたの心の琴線に触れる音が、真に「美しい音」なのです。
宇宙旅行の音楽会
以前から「宇宙に行きたい」と公言している五嶋龍さん。では、宇宙旅行を音楽で表現するとしたら? 今回は広大な宇宙空間を連想させる楽曲が並びました。
宇宙飛行士の毛利衛さんは、宇宙空間でオーロラをくぐり抜けたとき、バッハと雅楽が同時に聞こえてきたといいます。番組中の「宇宙旅行メドレー」でも再現されていましたが、まったく異質な音楽がいっしょに連想されるのが、おもしろいですよね。
現在、27歳の五嶋龍さんにとって、宇宙旅行は決して夢物語ではないでしょう。民間宇宙旅行の話題がしばしばニュースをにぎわす時代がすでに到来しています。
しかし、19世紀の音楽家にとって、宇宙とは旅行を夢見るような対象ではありませんでした。イギリスの作曲家ホルストが組曲「惑星」を作曲したとき、その念頭にあったのは占星術の世界観だったといいます。ホルストから見れば、「火星」や「木星」は探査機が飛んでいく場所ではなく、戦いの神や快楽の神のシンボルだったのです。
ドイツの作曲家リヒャルト・シュトラウスは、ニーチェの同名の哲学書に触発されて、交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を作曲しました。映画監督スタンリー・キューブリックは、先駆的SF映画「2001年宇宙の旅」でこの曲を効果的に使っています。映画のテーマは「進化」。きっと、キューブリックはこの映画とニーチェの著作の間に関連性を認めて、「ツァラトゥストラはかく語りき」を選んだのでは? 映画はこの名曲に「宇宙の旅」という新たなイメージを付け加えることに成功しました。
壮大なオーケストラ音楽と宇宙空間のイメージを決定的に結びつけたのは、映画「スター・ウォーズ」のテーマを作曲したジョン・ウィリアムズです。ジョン・ウィリアムズは伝統的なオーケストレーションの技法を駆使して、ハリウッド映画、とりわけSF映画の音楽史に新たなページを加えました。
もともと貴族の宮廷楽団として発達したオーケストラが、宇宙空間の未来的なイメージにぴったりと合うのが、なんだか不思議ですよね。
コンクール優勝者の音楽会
今週のテーマは「コンクール優勝者の音楽会」。コンクールの目的は、すぐれた若い才能を発掘すること。通常は年齢制限があります。有名な国際コンクールには世界中から優秀な若者たちがこぞって集まります。難関をくぐり抜けて、権威あるコンクールに優勝することは、まさに「ミッション:インポッシブル」。
しかし、本当に大変なのは、優勝を果たした後でしょう。一時の話題を呼ぶだけではなく、たゆみなく成長を続け、聴衆の支持を獲得しなければなりません。今回ゲストに登場したピアニストの萩原麻未さんとチェリストの宮田大さんは、ともに著名なコンクールで優勝を獲得していますが、その上で、優勝後も着実にキャリアを深めているところがすばらしいですよね。
コンクールのファイナルでも演奏したというラヴェルのピアノ協奏曲とドヴォルザークのチェロ協奏曲。どちらもおふたりのキャラクターに合っているような気がしませんでしたか。才気煥発としたラヴェルと情感豊かなドヴォルザーク。それぞれ、まるで萩原さんと宮田さんのために書かれた作品であるかのようです。
ドヴォルザークのチェロ協奏曲で、宮田さんが「母への思い」を語っていましたが、この作品には作曲者のいろいろな思いが込められています。ひとつは「望郷」でしょう。ドヴォルザークは、故郷プラハをはるか離れて、ニューヨークで音楽院の院長を2年間にわたって務めました。19世紀末のことですから、ジェット機で大西洋をひとっ飛びというわけにはいきません。民謡風のメロディから故郷への思いが伝わってきます。
もうひとつはかつて恋した女性、ヨセフィーナへの思い。作曲中にヨセフィーナ重篤の報せを受け、ドヴォルザークは彼女が好んでいた歌曲のメロディを作品に引用します。ドヴォルザークが帰国してまもなく、ヨセフィーナは息を引き取りました。
ちなみに、ドヴォルザークの奥さんアンナは、ヨセフィーナの妹さんです。好きだった人に失恋して、結局、その人の妹と結ばれた……。よくある話といえば、よくある話でしょうか?
バッハをめぐる音楽会
今月より新司会者として国際的に活躍するヴァイオリニスト、五嶋龍さんを迎えてリニューアルされた「題名のない音楽会」。その第1回がついに放映されました!
5代目司会者となる五嶋龍さんは番組歴代最年少の27歳。フレッシュな雰囲気が伝わってきましたよね。
番組は暗闇のなかでヴァイオリンを奏でる五嶋龍さんの姿ではじまりました。初回を迎えるにあたって、いちばん最初に流れる楽曲をどれにするか。ここで龍さんが強く希望したのが、イザイ作曲の無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番でした。
自身も名ヴァイオリニストであったイザイは、ヴァイオリニストにとっての聖典ともいうべきバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ」全6曲にちなんで、6曲の無伴奏ヴァイオリン・ソナタを書きました。バッハの名曲から約200年の時を経て誕生した、20世紀の傑作です。
このイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番、冒頭はバッハの無伴奏パルティータ第3番の引用から始まります。一瞬、「あっ、バッハが始まったのかな!?」と思わせておいて、実は作曲者はイザイ。奔放な楽想から、やがて古い聖歌に由来する「怒りの日」のメロディが浮びあがってきます。いわば、温故知新の姿勢から生まれたのがイザイの楽曲です。番組中で龍さんが「伝統音楽のアップデイト」を番組の目標に挙げていましたが、イザイがこの曲で行なったのはまさにそのアップデイトだったんですね。
そして、20世紀にバッハの精神をよみがえらせた作曲家といえば、ストラヴィンスキーもそのひとり。彼の「バッハにかえれ」のスローガンは、時代の空気をあらわす標語ともなりました。それまでの重厚長大で濃厚なロマン主義に代わって、簡潔で明快な作風から斬新な作品を生み出そうという姿勢は、ヴァイオリン協奏曲にもあらわれています。
番組の最後に演奏されたのは、久石譲さん作曲の新オープニング・テーマ。久石さん自身の指揮で、龍さんとの共演が実現しました。複雑なリズムが駆使されていて、溌剌としてカッコよかったですよね。曲から受けるイメージは人それぞれでしょうが、私は都会の雑踏のなかをさっそうと歩く若者の姿を思い浮かべました。
次回からはこの曲がオープニング・テーマとして最初に演奏されます。早くもう一度聴いてみたいと思いませんか?