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呼吸(ブレス)が大事な音楽会

投稿日:2023年07月22日 10:30

今週は世界水泳選手権2023福岡大会の応援企画として、元競泳日本代表の松田丈志さんをお招きし、音楽と水泳における呼吸(ブレス)の大切さについて迫ってみました。
 まずは松田丈志さんとフルート奏者の多久潤一朗さんが、どちらの息が長く続くか、コップにストローを入れて対決したところ、多久さんがよもやの勝利……というか、反則勝ちとでもいうべきでしょうか。管楽器奏者ならではのテクニック、「循環呼吸」を用いて悠々と息を吐き続けてくれました。「鼻で吸った息を頬にためて、頬の筋肉で空気を押し出す」というのですが、説明を聞いてもできる気がしません。
 一曲目の「ultra soul」では、その多久さんのフルートが多彩な奏法をくりだします。突風のような音を出すのは「ジェットホイッスル」。いろいろな曲で使われますが、たとえばブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスには、その名も「ジェットホイッスル」という作品があります。音が連なる長いフレーズでは「循環呼吸」を活用。息を吸う音は聞こえましたが、音楽は実に滑らかで、つなぎ目が感じられません。さらには楊琴(ヤンチン)風、尺八風、ビートボックス風など、驚きの奏法のオンパレード。フルートって、こんなにいろいろな音が出せるんですね。
 現在大活躍中のバリトン、大西宇宙さんは、「オー・ソレ・ミオ」でたっぷりとしたロングトーンを披露してくれました。深くまろやかな美声を聴くと、この歌声にいつまでも浸っていたいと思ってしまいます。オペラでもしばしばこういったロングトーンが客席を沸かせます。
 おしまいは林周雅ストリングスによるモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。弦楽器のアンサンブルであっても、こんなにも呼吸が大切な役割を果たしていたんですね。タイミングを合わせるだけではなく、音色や音量など、音楽のニュアンスまで息で伝えているとは。驚きました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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夏から連想する音楽会

投稿日:2023年07月15日 10:30

暑い日が続きますね。今週は「夏から連想する音楽会」と題しまして、夏から連想する言葉を数珠つなぎにして、その言葉からイメージされる曲をゲスト奏者のみなさんに演奏していただきました。
 まずは「夏」といえば「暑い」。辻彩奈さんのヴァイオリン、松井秀太郎さんのトランペット、近藤利樹さんのウクレレで、ガーシュウィンの「サマータイム」が演奏されました。ジャズのスタンダードとして、さまざまなアレンジで演奏される名曲ですが、こんな編成で演奏されることはまずありません。この曲はもともとはオペラ「ポーギーとベス」の一部。ガーシュウィンがアメリカならではのオペラを生み出すべく、ブルーズやジャズ、黒人音楽の語法を取り込んで作曲した意欲作です。第1幕のイントロダクションに続いて、「サマータイム」が子守唄として歌われます。3人の演奏からは、うだるような暑さのなかにサッと清風が吹き込んだかのような爽快さが感じられました。
 松井秀太郎さんが「暑い」から連想したのは「海」。こんなに暑いと海に行きたくなりますよね。曲はボサノバの創始者として知られるアントニオ・カルロス・ジョビンの「Wave」。トランペットのソロが少しけだるいムードを醸し出して、なんともいえない心地よさがありました。
 辻彩奈さんが「海」から連想したのは「嵐」。辻さんがイタリアのパレルモに滞在した際、海辺で嵐に出会ったことからの連想です。そしてヴァイオリンで「嵐」といえば、まっさきに思い浮かべるのがヴィヴァルディの「四季」。「夏」の第3楽章は嵐を描写した音楽として知られています。辻さんが奏でる嵐の音楽はスリリング。鋭く激しい嵐が自然の脅威を表現します。
 近藤利樹さんが「嵐」から連想したのは「雷」。FUJI ROCK FESTIVALに出演した際、雷が落ちたときに演奏していたというボン・ジョヴィのLivin’ On A Prayerを選んでくれました。重厚な原曲とはまた一味違った、ウクレレならではの歯切れよさが魅力。カッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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箏アーティスト・LEOの冒険する音楽会

投稿日:2023年07月08日 10:30

今週は箏アーティスト、LEOさんの演奏をグランドプリンスホテル高輪貴賓館からお届けしました。伝統楽器を用いながらも、既存の枠にとらわれない新しい発想で音楽と向き合うLEOさん。格調高い空間に斬新な音楽が鳴り響いていました。
 日本古謡「さくらさくら」では、エフェクターを用いた幻想的な表現が印象的。箏でこんなことができるとは。桜の花びらがゆらゆらと水面を漂っているようなイメージを思い浮かべましたが、みなさんはいかがでしたか。
 デリック・メイの「Strings of Life」は、3種の箏を用いたテクノ。メロディ担当の十三絃、ベースライン担当の十七絃、リフ担当の二十五絃を、エレクトロニクスを活用して、ひとりで演奏してくれました。新鮮できらびやかなサウンドがカッコよかったですよね。
 ティグラン・ハマシアン「ヴァーダヴァー」では、あえて箏の余韻を打ち消して演奏することで、箏に打楽器的な性格を持たせるというアイディアが効果的でした。20世紀の作曲家バルトークがピアノから打楽器的な性格を引き出した作品を書いたことを連想します。チェロ、ピアノ、箏の組合せから、シャープで透明感のあるサウンドが生み出されていました。
 坂本龍一「1919」は「調子悪く」演奏するミニマルミュージック。いったいどういう意味かと思ったら、日本音楽でいう「調子」のことだったんですね。チェロやピアノにあえて音程を合わせずに演奏するという趣旨です。アレンジはいま注目を集める若い作曲家、梅本佑利さん。オリジナルの「1919」ではレーニンのスピーチが用いられていますが、梅本さんはレーニンの代わりにアニメ声を使用。これはインパクトがありました。切迫感のあるリズムと混沌とした響きから、今の時代の空気を反映した「1919」が誕生したように思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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DREAMS COME TRUEをオーケストラアレンジする音楽会

投稿日:2023年07月01日 10:30

今週はDREAMS COME TRUEの名曲を、オーケストラアレンジでお届けいたしました。演奏は鈴木優人さん指揮東京フィル。大編成のオーケストラならではのサウンドをお楽しみいただけたのではないでしょうか。ゲストの中村正人さんもおっしゃるように、アレンジひとつで楽曲の印象は大きく変わるもの。今回は山下康介さんと萩森英明さんが、それぞれの曲に創意に富んだオーケストラアレンジを施してくれました。
 「未来予想図Ⅱ」の編曲テーマは「かわらぬ愛を貫いていく少しの不安と大きな希望」。冒頭のオーボエのソロをはじめ、クラリネットやチェロ、ホルンなど、ソロの聴かせどころがふんだんにあって、陰影豊かなオーケストレーションになっていました。不安交じりではあるけれど、希望の力がそれを上回っていく。そんな様子が伝わってきます。
 「晴れたらいいね」の編曲テーマは「カラフル!ワクワク!」。フリューゲルホルンのふくよかで柔らかい音色と、弦楽器のピチカートが効果的に用いられていました。明るく軽やか、でも少しレトロな風味も入っていてチャーミング。洗練されたサウンドが心地よかったですよね。
 「やさしいキスをして」の編曲テーマは「やさしさと不穏な関係」。こちらは独奏ヴァイオリンとオーケストラの共演でした。ヴァイオリンは「題名プロ塾」でデビューしたミッシェル藍さん。まるで19世紀ロマン派のヴァイオリン協奏曲を思わせるような豊麗で幻想味豊かなアレンジで、独奏パートも堂々たる本格派。もう一度聴きたくなる濃厚なアレンジです。
 「決戦は金曜日」の編曲テーマは「決戦」。こちらは思い切り華やかでカラフルなオーケストレーションで、期待感と高揚感があふれ出ていたように感じます。きらびやかな管楽器にエレガントで厚みのあるストリングスが加わって、オーケストラを聴く醍醐味を堪能させてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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話題の映画音楽を今こそ大オーケストラで聴く音楽会

投稿日:2023年06月24日 10:30

今週は話題の映画音楽を鈴木優人さん指揮東京フィルの演奏でお届けしました。80人編成のオーケストラによるサウンドは迫力があって、色彩感豊か。そして優人さんの解説のおかげで、名曲の秘密に一歩近づけたように思います。
 映画「ハリー・ポッター」の「ヘドウィグのテーマ」を作曲したのは巨匠ジョン・ウィリアムズ。「ヘドウィグのテーマ」では、チェレスタが印象的に用いられていました。チェレスタは鍵盤楽器ながら鉄琴のようなキラキラとした音色を持っています。この楽器の魅力にいち早く気づいた大作曲家がチャイコフスキー。チャイコフスキーはチェレスタをバレエ音楽「くるみ割り人形」の「こんぺい糖の踊り」で効果的に用いました。そして「くるみ割り人形」が大ヒット作になったことから、世界中のオーケストラでチェレスタが使われるようになりました。もしチャイコフスキーが「くるみ割り人形」を書いていなかったら、ジョン・ウィリアムズの「ヘドウィグのテーマ」が書かれることはなかったかも?
 映画「リトル・マーメイド」の「パート・オブ・ユア・ワールド」はアラン・メンケンの作曲。「美女と野獣」や「アラジン」などで知られるディズニー映画には欠かすことのできない作曲家です。ブロードウェイのミュージカル出身の作曲家で、90年代以降のディズニーの音楽に黄金期をもたらした立役者といってよいでしょう。
 映画「シング・フォー・ミー、ライル」の「Take A Look At Us Now」は、ベンジ・パセックとジャスティン・ポールの作曲。パセック&ポールはミュージカル界の気鋭のコンビで、ミュージカル映画「グレイテスト・ショーマン」や「ラ・ラ・ランド」で知られています。
 おしまいはジョン・ウィリアムズの「レイダース・マーチ」。まもなくシリーズ最新作の映画「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」が公開されますが、シリーズ1作目の「インディ・ジョーンズ」公開時より、この曲は大評判を呼びました。この曲を聴くとテンションがあがりますよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ウィーン チェロ・アンサンブル5+1の音楽会

投稿日:2023年06月17日 10:30

今週はウィーン・フィルの往年の名チェリストであるゲルハルト・カウフマンさんが2008年に設立したアンサンブル、ウィーン チェロ・アンサンブル5+1のみなさんにご出演いただきました。5人のチェリストたちはいずれも名手ぞろい。カウフマンさんに加えて、ウィーン・フィルのメンバーであるセバスティアン・ブルーさん、ベルンハルト直樹ヘーデンボルクさん、ウィーン室内管弦楽団のミラン・カラノヴィチさん、ブラームス・コンクール第1位のフローリアン・エックナーさんで構成されています。さらに「+1」として、ウィーン・フィルのフルート奏者カリン・ボネッリさんが参加。華やかで多彩なアンサンブルが実現しました。
 最初に演奏されたヨハン・シュトラウス2世の「クラップフェンの森にて」は、お正月のウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートでもよく演奏される人気曲。オーケストラでは打楽器奏者が鳥笛を担当しますが、ここではカウフマンさんが鳥笛を担当。フルートのボネッリさんになんども言い寄るけれども、袖にされるという愉快な演出が付いていました。続いてレハールのオペレッタ「ほほえみの国」より「君はわが心のすべて」が演奏されると、ボネッリさんはエックナーさんの奏でるチェロにすっかり心を許してしまいます。最後のカウフマンさんのとぼけた表情には爆笑! こういった笑いのセンスもどこかウィーン風だと感じます。
 ラヴェルの「ボレロ」では4人で1台のチェロを弾くという離れ業にびっくり。ボレロはスペイン舞曲の一種ということで、スペイン風のコスチュームで登場してくれました。
 最後のチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」は、本来はチェロとオーケストラのための楽曲。名チェリストならだれもが弾く名曲ですが、独自の編曲により作品から新たな魅力を引き出していました。まるでふたりのソリストが音楽で会話を楽しんでいるようでしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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みんな大好き!カプースチンの音楽会

投稿日:2023年06月10日 10:30

今年2月に放送した「辻井伸行が挑むカプースチンの音楽会」に続き、今回はカプースチン企画の第2弾「みんな大好き!カプースチンの音楽会」をお届けいたしました。ニコライ・カプースチン(1937~2020)はウクライナ出身の作曲家。一見、ジャズのような作風ですが、アドリブの要素はなく、すべての音が楽譜に記されています。本人はあるインタビューで「私が興味をひかれるのはクラシックの形式とジャズのイディオムの融合だ」と語っていました。
 カプースチン自身がピアニストでしたので、作品にはやはりピアノ曲が多いのですが、さまざまな楽器のための室内楽曲や協奏曲も残されています。今回、チェロの宮田大さんが演奏してくれたのは「ブルレスク」と「エレジー」の2曲。「ブルレスク」とは「ふざけた」「いたずらっぽい」という意味。コミカルな要素とシリアスな要素が一体となった曲に用いられる題です。宮田さんは「仲良しなふたりのケンカ」をイメージしていると語っていましたが、まさにそんな相反する要素が同居しているのが「ブルレスク」。カッコいい曲でしたよね。
 「エレジー」は「哀歌」という意味で、哀悼の音楽、悲しみの音楽を指しています。チェロのための「エレジー」というと、フランスの作曲家フォーレの名曲がまっさきに思い出されますが、カプースチンの「エレジー」はフォーレのように慟哭するのではなく、しみじみと過去を振り返るような趣を醸し出しています。
 一方、上野耕平さんはサクソフォン四重奏で聴くカプースチンという新しい世界へと誘ってくれました。「8つの演奏会用エチュード」より第1曲「プレリュード」、「24の前奏曲」より第9番、いずれもピアノ曲が原曲ですが、ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテットの演奏で聴くと、もともとサクソフォンのために書かれたのではないかと錯覚してしまいそうになります。原曲の切れ味はそのままに、サクソフォンの柔らかく豊かな音色を楽しませてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシックはなぜ眠くなる?の音楽会

投稿日:2023年06月03日 10:30

昔からクラシック音楽を聴くと眠くなると言われています。そう言われると「いやいや、クラシック音楽の名曲はどれもエキサイティングな曲ばかりだから、眠くならない!」と反論したくなる気持ちもわいてくるのですが、演奏会の客席でうとうとする光景は決して珍しくありません。CDなどでも「ぐっすり眠れるクラシック」といったタイトルの安眠を促すコンピレーションアルバムが根強い人気を誇っています。
 加藤昌則さんのお話にも出てきたバッハの「ゴルトベルク変奏曲」は、眠りにまつわる名曲の代表格。この曲には「バッハが不眠症の伯爵のために作曲した」という有名なエピソードがあるんですね。それが不眠を解消するためなのか、あるいは夜の退屈を慰めるためのものなのかは、なんとも言えませんが……。
 どうしてクラシックで眠くなるのか。ゲストのみなさんからは「一定したテンポのくりかえしが眠気を誘う」「上下に動く音の揺れが安心感を誘う」「激しい曲からゆっくりの曲になると心拍数が落ち着き眠くなる」といった意見が出てきました。なるほど、眠くなる曲には一定の傾向があるように思います。特に宮田大さんと大萩康司さんが演奏してくれたファリャの「ムーア人の織物」から「ナナ」に移る流れは効果てきめん。「ナナ」が始まると、すっかり体の力が抜けてしまいました。
 加藤さんの指摘する眠くなる曲の3要素は「行き着く先がわからない音楽」「ゆっくりと変化のない曲」「下行形で終わるメロディ」。これも納得です。特に長大なオーケストラ曲では「行き着く先がわからない」ために眠くなることがよくあると思います。起承転結といいますか、音楽の文脈が追えなくなってしまうと、眠気に負けてしまうんですよね。長い曲の場合は、先に録音などで軽く曲を予習しておくと、眠気防止になるかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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突拍子もない作曲家リゲティの音楽会

投稿日:2023年05月27日 10:30

今週は今年生誕100年を迎えた作曲家リゲティの音楽をお届けしました。ハンガリーに生まれ、オーストリアに亡命したリゲティは、斬新なアイディアを用いて独自の作風を開拓し、戦後の現代音楽をリードした作曲家です。2006年に世を去って以降も、リゲティの作品は世界各国で盛んに演奏されており、20世紀後半の新たな「クラシック」になりつつあると言えるでしょう。今回演奏された4曲はどれも「突拍子もない」ながらも、リゲティの作品では人気曲の部類に入ります。
 最初の「ハンガリアン・ロック」はチェンバロという古楽器を用いているのがユニーク。リゲティのこともチェンバロのこともなにも知らずにパッと聴いたとしても、「カッコいいな」と感じるのではないでしょうか。
 「100台のメトロノームのための交響詩」も風変わりな作品ですよね。ふつうは交響詩といえばなんらかのストーリーがありますが、メトロノームが鳴っているだけなので、これは無機的な音響にすぎません。にもかかわらず、曲を聴くとそこになんらかのドラマを読みとらずにはいられないのが不思議なところ。名作です。近い将来、機械式メトロノームがだんだん入手困難にならないか、そこが少々気がかりではありますが……。
 「ムジカ・リチェルカータ」第1曲は、ずっと「ラ」の音だけで曲が作られていて、いちばん最後にレの音で終わるという趣向。「ラ」だけで生き生きとした音楽が書けるというのが驚きです。ちなみにこの第1曲に続く第2曲が、映画「アイズ ワイド シャット」で使われていました。
 最後はクラクションで演奏されたオペラ「ル・グラン・マカーブル」の前奏曲。クラクションを楽器として使った例としてはガーシュウィンの「パリのアメリカ人」がありましたが、リゲティのこの曲はクラクションのみで書かれているのですから、本当に発想がぶっ飛んでいます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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服部百音がお父さんに怒られそうな音楽会

投稿日:2023年05月20日 10:30

服部百音さんのお父さんといえば、「半沢直樹」や「真田丸」ほかで知られる作曲家、服部隆之さん。曾祖父・服部良一、祖父・服部克久、父・服部隆之という名門音楽一家に生まれ、ヴァイオリニストとしてクラシックの英才教育を受けてきた百音さんが、今回は古坂大魔王さんのプロデュースで異ジャンルの音楽とのコラボレーションに挑んでくれました。
 最初の挑戦はヒップホップとのコラボレーション。選ばれた作品はベルギー出身のフランスの作曲家フランクの代表作、ヴァイオリン・ソナタです。ロマン派のヴァイオリン・ソナタにおける屈指の傑作といってもいいでしょう。フランクの魅力は濃厚なロマンティシズムと暗い情熱。およそヒップホップからはかけ離れているのでは……と思いきや、KEN THE 390さんの編曲で、まさかの融合。原曲にある一種の執拗さが巧みに抽出されていたのではないでしょうか。
 ハードコア・ドラムンベースとのコラボレーションでは、ポーランドの作曲家シマノフスキのタランテラが選ばれていました。原曲はヴァイオリンとピアノのために書かれた「夜想曲とタランテラ」で、曲の後半が南イタリアの民族舞踊タランテラに由来する舞曲になっています。毒ぐもタランチュラにかまれたときにタランテラを踊ると治るという古い伝説がありますが、それくらい激しい舞曲なんですね。ハードコア・ドラムンベースの世界が見事にはまるのも納得です。
 最後はヘヴィメタルとのコラボレーション。フランスの作曲家ラヴェルの技巧的な名曲「ツィガーヌ」が選ばれていました。ツィガーヌとはロマ(ジプシー)のこと。原曲には神秘的で呪術的なムードがありますが、これをヘヴィメタルの重厚なサウンドと融合させて、エキサイティングな音楽がくりひろげられました。ヘヴィメタルになっても、原曲にある妖しさが生きているのがいいですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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