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秋を感じる音楽会

投稿日:2022年10月08日 10:30

今週は秋を感じる名曲をお楽しみいただきました。最初に演奏されたのは学校の運動会でおなじみの「オクラホマミキサー」……と言いたいところですが、Cocomiさんによれば「フォークダンスを踊るのはアニメの世界でしか起こらないこと」。ええっ!と驚いた方も多いのでは。近年の学校ではフォークダンスがあまり踊られていないようです。昔の学校の風景がアニメを通して若い世代に伝わっているという現象は興味深いですね。
 Cocomiさんが選んだ秋を感じる曲は、アース・ウィンド&ファイアーの「セプテンバー」。フルートのソロにストリングス中心のアンサンブルが加わる「セプテンバー」はかなり新鮮。アース・ウィンド・アンド・ファイアーのオリジナルとはぜんぜん違った雰囲気で、とても爽やかでエレガントな曲に聞こえてきます。こんなに気品のある「セプテンバー」があり得たとは!
 アコーディオン奏者の田ノ岡三郎さんが選んだのはミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」より My Favorite Things。リチャード・ロジャースが作曲した名曲中の名曲です。この曲を用いた「そうだ 京都、行こう。」のCMは印象的でした。本来は季節感のない曲ですが、田ノ岡三郎さんにとっては秋バージョンのCMのレコーディングに参加した体験から、秋の音楽になったのだとか。実際、アコーディオンで聴くと秋らしい気分になるんですよね。アコーディオンの愁いを帯びた音色とストリングスの温かみのある音色が組み合わさって、とても味わい深いサウンドが生み出されていました。
 ヴァイオリニストの松田理奈さんが選んだのは、ヴィヴァルディの「四季」より「秋」第3楽章。この曲には作曲者が添えたソネット(十四行詩)があります。「秋」第3楽章の詩に描かれるのは狩の風景。猟犬が獲物を追いかけ、狩人が仕留めるまでが描写的に表現されています。生気あふれる演奏から、狩の成功の喜びが伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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イージーリスニングをイージーに聴かない音楽会

投稿日:2022年10月01日 10:30

今週はかつて日本でも大ブームを巻き起こたイージーリスニングを特集いたしました。当時、きらびやかなストリングスの音色と心地よいビートがとても新鮮で、大人びた都会的な音楽のように感じたものです。
 この分野の名曲としてまっさきに挙がるのは、ポール・モーリアの「オリーブの首飾り」でしょう。おもしろいことにイージーリスニングのブームが去った後も、この曲は手品のBGMとして定着して、世代を超えて親しまれる名曲になりました。原曲はフランスのディスコグループ、ビンボー・ジェットによる「嘆きのビンボー」。ポール・モーリアがオリジナルだと思っていた方も少なくないのではないでしょうか。
 服部隆之さんの解説にもありましたが、この「オリーブの首飾り」でも、もうひとつの代表作「恋はみずいろ」でもチェンバロが効果的に使われています。本来、チェンバロはバロック音楽の時代に盛んに使われ、その後、いったん歴史の表舞台から姿を消した楽器なのですが、20世紀になって復興を果たします。今回の演奏では、正真正銘のバロック音楽のチェンバロ奏者、鈴木優人さんがチェンバロで参加してくれました。これは快挙ですね。オーケストラのサウンドも実につややかで、名曲がいっそうゴージャスな輝きを放っていました。
 ポール・モーリアと並ぶイージーリスニング・ブームの立役者がレイモン・ルフェーブル。クラシックの名曲をアレンジした「ポップ・クラシカル・シリーズ」でも人気を呼びました。「愛よ永遠に」では、モーツァルトの交響曲第40番の第1楽章がすっかりイージーリスニングのスタイルに変身しています。
 イージーリスニングの洗練されたサウンドをいち早く日本で取り入れたのが服部克久さんです。「5月の草原は愛に包まれて」の明るく澄んだサウンドはまさに5月の爽快な気候を思わせます。雄大な光景が目に浮かぶようでしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシックと豪華コラボの音楽会

投稿日:2022年09月24日 10:30

今週は番組で実現した日本を代表するヴォーカリストたちとクラシックのコラボレーションを選りすぐってお届けいたしました。
 ロック界のカリスマToshlさんはピアノの反田恭平さんと共演。チェロの宮田大さん、サクソフォンの上野耕平さん、指揮の原田慶太楼さんも加わった超豪華メンバーで、リスト風MISIAの「Everything」を歌ってくれました。数多くのピアノ曲で知られるリストは、19世紀のクラシック音楽界が生んだ最大のスーパースターのひとり。そのリストの名曲「愛の夢」第3番が「Everything」に溶け込んで、独自の味わいを生み出していました。Toshlさんの輝かしい声と精鋭ぞろいのアンサンブルがあってはじめて実現する、スケールの大きな音楽だったと思います。
 藤井フミヤさんはベートーヴェンの大傑作、「悲愴」ソナタにオリジナルの歌詞を付けて歌ってくれました。ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」はベートーヴェン初期の代表作。第1楽章は重々しく深刻な調子で開始されますが、第2楽章ではのびやかで物憂げなメロディが奏でられます。フミヤさんが歌詞を付けたのはその第2楽章のメロディ。原曲の持つノスタルジックな性格に焦点を当てて、「青いメロディー」としてよみがえらせました。歌詞にある「空」「雲」「風」といったイメージは、原曲にも感じられるのではないでしょうか。
 檀れいさんは「炎のコバケン」の愛称で知られる巨匠、小林研一郎さん指揮東京フィルとの共演で、アニメ「ベルサイユのばら」より「薔薇は美しく散る」を歌ってくれました。檀さんの清澄な歌声がすばらしいですよね。そして、あのコバケンさんが「ベルばら」を指揮する姿に感激せずにはいられません。
 SixTONESのみなさんはチェロの宮田大さん、箏のLEOさん、三ツ橋敬子さん指揮のオーケストラと共演。こちらのオーケストラも名手ぞろいで、実にゴージャスです。声とオーケストラがひとつになって、キレのある清爽としたサウンドが生み出されていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ブリーズバンド全国大会2022 後編

投稿日:2022年09月17日 10:30

今週は先週に引き続いて「ブリーズバンド全国大会2022」の後編をお届けしました。今回も個性豊かな出場チームが登場してくれました。
 最初に「紅蓮華」を演奏してくれたのは、八甲田あらふぃふたーず★。お寺のお堂で演奏する映像がありましたが、なんとリーダーはご住職です。編成はトランペット、フリューゲルホルン/トランペット、テューバ、ホルン、クラリネット、アルトサクソフォン、ドラム。それぞれソロをビシッと決めてくれました。みなさん本当にいい表情で、大人が真剣に楽しんでいる様子が伝わってきます。
 2組目は女子高校生バンドのFamikyan。制服はばらばらですが、みんな同じ中学の出身で、中学最後のコンクールがコロナ禍で中止になったことから、その悔しさを晴らすために応募したといいます。コロナ禍もすでに3年目。同様に悔しい思いをしている子供たちが全国に大勢いることでしょう。曲は「カルメン・クライマックス!」。急遽テューバ抜きの6人での演奏になってしまいましたが、アルトサクソフォン2、フルート、クラリネット、トロンボーン、ホルンの編成で、生き生きとした勢いのある演奏を披露してくれました。
 3組目は奥多摩吹奏楽団のみなさん。東京都でありながら豊かな自然にあふれるのが奥多摩。そんな奥多摩を愛してやまないメンバーが集まりました。町長さんとご当地キャラの「わさぴー」まで応援してくれるとは! ユーフォニアム、クラリネット、ホルン、アルトサクソフォン、バストロンボーン、トランペット、バスクラリネットによる編成で「星に願いを」を演奏してくれました。ムーディな味わいがすばらしかったですね。
 そして「7人全員が主役」というコンセプトをもっとも実現していたバンドに与えられる「スターセブン賞」は、審査員の投票によりRainbow Heartに与えられることに。ピュアな音楽が忘れがたい印象を残してくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ブリーズバンド全国大会2022 前編

投稿日:2022年09月10日 10:30

今週は「ブリーズバンド全国大会2022」の前編をお届けしました。ブリーズバンドはコロナ禍をきっかけに番組から誕生した7人制の吹奏楽。「7人全員が主役である」というコンセプトにもとづく新しい合奏スタイルです。そのブリーズバンドの初めての全国大会から、今週は全6組中の3組をご紹介しました。
 トップバッターはJR貨物音楽部のみなさん。勤務地がばらばらにもかかわらず、こうしてひとつになって活動を続けている姿から、音楽への情熱が伝わってきます。それにしても会社公認の楽団があるなんて、すばらしいですよね。トロンボーン、トランペット、ベース、サクソフォン、ホルン、フルート、ドラムの7人編成で「紅蓮華」を披露してくれました。社会人ならではの大人の演奏にしびれました。
 続いて登場したのは、東京藝術大学で学ぶsaigo ensemble★7のみなさん。日本のトップレベルの学生たちだけあって、目指すはプロの音楽家。将来の夢にもベルリン・フィルやNHK交響楽団の名前が挙がっていましたね。トランペット、ホルン、パーカッション、サクソフォン、フルート、クラリネット、オーボエの7名で「カルメン・クライマックス!」を演奏してくれました。さすがに個々の技術がとても高く、鮮やかな演奏を楽しませてくれました。それだけに、審査員の先生方がプロの視点からさらに上の水準を求めるのはもっともなことでしょう。
 最後に登場したのは京都府精華町の中学2年生によるRainbow Heart。小学校時代からの仲良しメンバーだそうですが、ともに育ってきた友達同士の雰囲気がよく伝わってきます。この年代ならではの眩しさを感じずにはいられません。トロンボーン、ユーフォニアム、ホルン2、テューバ、サクソフォン、クラリネットの編成で「裸の心」を演奏してくれました。これはかなり練習をがんばったはず。聴く人の耳をとらえて離さないピュアな音楽に胸を打たれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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異界を覗く音楽会

投稿日:2022年09月03日 10:30

クラシック音楽の名曲には魔物や道化などの異様な世界を描いた作品がたくさんあります。今回はそんな名曲を通して異界を覗いてみました。
 ノルウェーの作曲家グリーグの代表作「ペール・ギュント」の一曲が「山の魔王の宮殿にて」。この魔王とはトロールの王のことなんですね。トロールはトールキンの「指輪物語」などファンタジーにも登場しますが、日本ではRPGゲームの「ドラゴンクエスト」をきっかけに広く知られるようになったように思います。「ペール・ギュント」の型破りな主人公ペールは、トロールの娘と結婚しようとしたところ、その父親がトロールの王とわかり、間一髪のところで逃げ出します。次第に緊迫感を高めてゆく音楽は迫力満点。トロールの恐ろしさが伝わってきます。
 ドイツの民衆本で描かれるティル・オイレンシュピーゲルは実在の人物とも架空の人物とも言われる道化者です。人を騙すようなひどい悪さもする一方、ときには権力者にいたずらを仕掛けて民衆の共感を呼ぶこともあります。ドイツの作曲家リヒャルト・シュトラウスはそんなティルの暴れっぷりを交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」で表現しました。ティルの物語にはスカトロジー方面のとんでもない奇行も描かれていて、必ずしも「愉快」とは言いがたいのですが、楽曲はウィットに富んでいます。
 フランスの作曲家ラヴェルの「夜のガスパール」はルイ・ベルトランの詩が題材になっています。第1曲が「オンディーヌ」(水の精のこと)、第2曲が「絞首台」、そして第3曲が「スカルボ」で、いずれも幻想的な光景が描かれています。亀井聖矢さんのイメージから「スカルボ」の姿がイラスト化されていましたが、楽曲から受ける印象はまさにあの絵の通り。超自然的な存在を実感させるという意味で、超絶技巧に必然性の感じられる楽曲だと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ディズニーで盛り上がる音楽会2022

投稿日:2022年08月27日 10:30

新型コロナ感染症の流行により昨年と一昨年は中止になったサマーステーションが、この夏、3年ぶりに開催されました。今回はスペシャルゲストにToshlさんとディカペラのみなさんを迎えて、エリック・ミヤシロ・バンドの演奏でお届けしました。曲はおなじみのディズニーソングがずらり。本当に名曲ぞろいだとあらためて感じます。古典から近作まで、名曲が途切れることなく生み出されているのがすごいですよね。
 『アナと雪の女王』より「レット・イット・ゴー~ありのままで~」では、Toshlさんとエリック・ミヤシロ・バンドが初共演。ハイトーン界の最強ツートップが誕生しました。Toshlさんのパワフルでダイナミックな歌唱から、アナの決意がひしひしと伝わってきて、想像を超える熱いパフォーマンスでした。
 ディカペラはディズニー初の公式アカペラグループ。以前にも番組でご紹介したことがありますが、グループの結成に際してオーディションを行ったところ、全米から1500名を超える応募者が殺到したといいます。すでに活躍しているプロからアマチュアまで、さまざまなバックボーンを持った応募者たちのなかから選び抜かれたのがこのメンバー。ひとりひとりのキャラクターを生かしながらも、全員で美しく調和したひとつの音楽を作り出しているところが見事だったと思います。しかも今回は『リトル・マーメイド』の「パート・オブ・ユア・ワールド」と『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」の2曲をマッシュアップするという超絶技巧。6人のアカペラでこんなことができるとは!
 「美女と野獣」でのToshlさんと石丸幹二さんのデュエットは聴きごたえ抜群。Toshlさんがベル役なんですね。のびやかで輝かしいToshlさんの声と、まろやかで温かみのある石丸さんの声という組合せが絶妙だったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ショパン国際ピアノコンクール第2位 反田&ガジェヴがコンクールの秘策を語る音楽会

投稿日:2022年08月20日 10:30

今週は先週に続いて、ショパン国際ピアノコンクール第2位の反田恭平さんとアレクサンダー・ガジェヴさんをお招きして、コンクールへの向き合い方について語っていただきました。
 おふたりに質問をぶつけたのは国際コンクールを目指す若い音楽家たち。コンクールの入賞者がこんなふうに率直に質問に答えてくれる機会は貴重です。コンクール本番直前の練習法について、反田さんとガジェヴさんはそれぞれ自分なりの方法を見つけているようでしたが、本番をフレッシュな気持ちで迎えるための工夫をしている点では一致していたと思います。反田さんは本番が近くなると弾く量をフェイドアウトすると言い、ガジェヴさんは一度も曲を聴いたことがないかのように頭の中を空っぽにして作品と向き合いたいと語ってくれました。
 反田さんとガジェヴさんの演奏もとても聴きごたえがありました。まず反田さんが演奏したのはショパンのワルツ第4番「華麗なるワルツ」。実際にコンクールの2次予選で演奏した曲です。曲名通り本当に華やかで、明瞭でエレガント、そしてチャーミングなショパンだったと思います。ガジェヴさんが弾いたのはマズルカ第35番。マズルカは本来ポーランドの民族舞踊ですが、この曲などは踊りの要素が希薄で、ノスタルジーや悲しみなどさまざまな感情が一曲の中に入り混じっています。こういった思索的な雰囲気を持った曲はガジェヴさんによく似合います。
 最後に反田さんが演奏してくれたのは、ブラームスの「6つのピアノ小品」作品118の第2番「間奏曲」。これはもう究極の名曲ですよね。ウィーンですでに大作曲家として名を成していたブラームスが、最晩年にさらなる高みに到達した傑作です。ショパンとはまた一味違ったノスタルジーやメランコリーが伝わってきたのではないでしょうか。ウィーンに拠点を移した反田さんが、また新たなステージへと進みつつあることを感じさせる名演だったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ショパン国際ピアノコンクール第2位 反田恭平&ガジェヴの音楽会

投稿日:2022年08月13日 10:30

今週は昨年のショパン国際ピアノコンクールでともに2位を獲得した反田恭平さんとアレクサンダー・ガジェヴさんのおふたりをお招きしました。コンクールのときの緊張した雰囲気とは違って、すっかりリラックスした様子で会話しているふたりの姿を見ると、なんだかほっとしますよね。
 近年はコンクールでの演奏、さらに受賞者の発表までもがインターネットでライブ中継されるようになりました。このコンクールでも多くの日本のファンが受賞者発表の瞬間を固唾をのんで見守っていたと思います。2位にふたり名前が呼ばれたのには意表を突かれましたが、前例のないことではありません。
 ガジェヴさんは「2位がいちばんいい。2位は可能性を秘めている」と言って笑っていましたが、あながちこれは冗談とも言い切れないところがあります。過去の同コンクールを振り返ってみると、2位や3位の受賞者が大ピアニストになることも珍しくありません。古くはアシュケナージや内田光子さんが2位でした。近年では前々回3位のトリフォノフが大家への道を歩んでいます。スポーツの大会とはちがい、少し時が経てば順位はあまり関係なくなってしまいます。
 今回はおふたりともショパンの作品から一曲ずつ演奏してくれましたが、選曲が興味深かったと思います。いずれもキャッチーな有名曲というよりは、ショパンの奥深さを感じさせてくれるような作品でした。ガジェヴさんが弾いたのは前奏曲嬰ハ短調。これは有名な「24の前奏曲」とは別に書かれた前奏曲です。先頃行われた来日リサイタルでもこの曲を一曲目に弾いていたのを思い出します。反田さんが選んだのはノクターン第17番。ガジェヴさんが「静寂に包まれた湖の光景」とたとえていた冒頭部分が、実に繊細で典雅でした。
 最後にガジェヴさんが演奏してくれたのは、ドビュッシーの12の練習曲より第11番「組み合わされたアルペジオのために」。透明感のある爽快なドビュッシーでしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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5つのドアの向こうの音楽会

投稿日:2022年08月06日 10:30

今週はこれまでに放送された「ドアの向こうの音楽会」から、夏にぴったりの5つの絶景と演奏をお楽しみいただきました。
 村治佳織さんが仮想空間で訪れたのはアルハンブラ宮殿。スペインの古都グラナダにある世界遺産です。曲は近代スペイン民族主義楽派を代表するアルベニスによるスペイン組曲第1集から「グラナダ」でした。アルベニスは本人がピアニストであったこともあり、組曲「イベリア」をはじめピアノ曲に多数の傑作を残した作曲家です。スペイン組曲第1集も本来はピアノ曲ですが、ギター編曲版でも広く親しまれています。アルベニスのピアノ曲にはしばしばギター風の表現が登場して、スペインの香りを醸し出します。「グラナダ」はまさにその好例。ギターで演奏しても違和感がありません。
 松永貴志さんはディズニー映画『リトルマーメイド』より「アンダー・ザ・シー」を独自のアレンジで。海のなかでピアノを弾くという型破りな設定でしたが、ピアノのきらびやかな音色が幻想的な海中の光景に不思議とマッチしていました。そういえばピアノと水の表現は相性がいいんですよね。ドビュッシーの「沈める寺院」、ラヴェルの「水の戯れ」、ショパンの「雨だれ」などを連想します。
 クロマチックハーモニカの山下伶さんは夏のセーヌ川へ。映画「ロシュフォールの恋人たち」より「キャラバンの到着」を演奏してくれました。この曲を聴くと、気分はもうすっかりパリ。そろそろ海外旅行に出かけたい。そう感じた方も多いのでは。
 大宮臨太郎さんが向かったのは、ひとけのない森。滝壺の前にひとりヴァイオリンを手にして、超絶技巧で彩られた無伴奏の「紅蓮華」を披露してくれました。カッコよかったですね。
 大の鉄道ファンである上野耕平さんが訪れたのは、岩手県のSL銀河。タケカワユキヒデ作曲の名曲「銀河鉄道999」をまさかのサクソフォンによる効果音付きで。この疾走感はまさしく旅。束の間の旅気分を味わうことができました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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