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放送2800回記念④ 反田恭平が描く未来の音楽会

投稿日:2023年03月18日 10:30

今週は番組放送2800回記念シリーズの第4弾として、反田恭平さんとジャパン・ナショナル・オーケストラのみなさんに登場していただきました。
 最初に反田さんが演奏してくれたのは、ショパンの「猫のワルツ」。ショパンのワルツといえば「小犬のワルツ」が有名ですが、「猫のワルツ」もあるんですね。猫が鍵盤の上に飛び乗って走り回っているかのような様子を連想させることから、この愛称が付いたといいます。俊敏だけれど優雅な楽想を持った曲なので、なるほど、猫の愛称はふさわしいのかも。クラシックには猫に関する名曲は意外と少ないので、貴重な一曲です。
 かねてより反田さんは、海外から留学生がやってくるような音楽学校を日本に設立したいと語っています。音楽学校には第一級のオーケストラが必要であるという考えから2021年に設立されたのが、ジャパン・ナショナル・オーケストラ。若い精鋭が集まった腕利き集団で、株式会社として設立されるなど、従来とは違った発想から運営され、話題を呼んでいます。
 今回は反田さんがジャパン・ナショナル・オーケストラを指揮しながら、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏してくれました。このようにピアニストがソロを弾きながら指揮をすることを「弾き振り」といいます。特にベートーヴェンやモーツァルトの時代のような比較的小編成のオーケストラの場合、ピアニストが指揮者を兼ねることは決して珍しいことではありません。「弾き振り」であれば、ピアニストの作品解釈をオーケストラとより直接的に共有し、同じビジョンのもとで作品に向き合えるのが利点と言えるでしょう。
 テロップで反田さんの作品解釈が示されていましたが、具体的なイメージで表現されていて、とてもわかりやすかったと思います。第2楽章は祈りの音楽。この瞑想的な第2楽章と、喜びがはじける第3楽章のコントラストは実に鮮やか。オーケストラが立奏しているのもカッコよかったですよね。生命力と高揚感にあふれた見事な演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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放送2800回記念③ 巨匠・小曽根真から未来の巨匠・藤田真央への伝達(メッセージ)

投稿日:2023年03月11日 10:30

今週は番組放送2800回記念第3弾として、ともに世界を舞台に活躍する、ジャズ・ピアニストの小曽根真さんとクラシック音楽界の若きスター・ピアニスト藤田真央さんの共演をお楽しみいただきました。異なるジャンルの音楽家同士とは思えないほど、ふたりの息がぴたりと合っていましたね。
 最初に演奏されたのは、モーツァルトのピアノ・ソナタ第15番の第1楽章。原曲はピアノ学習者にも広く親しまれています。これを「ペール・ギュント」などで知られるノルウェーの作曲家グリーグが2台ピアノ用に編曲しています。本来、この編曲では1台がモーツァルトのオリジナルそのまま、もう1台はグリーグが付け加えたパートを演奏するようになっているのですが、ここではさらに奏者の大胆な遊び心が加わって、モダンな装いの21世紀版モーツァルトが誕生しました。
 続いて演奏されたのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の第3楽章より。原曲はピアノとオーケストラのための作品ですが、今回は2台ピアノによる演奏で。モーツァルトのみならず、ラフマニノフでもこんなに自由な演奏が可能なんですね。次になにが起きるのかわからないドキドキ感があって、とても新鮮な感動がありました。それにしても、厚みのあるピアノの響きがゴージャス!
 最後は小曽根さん作曲の「オベレク」で、真央さんがジャズのフィールドに挑んでくれました。リハーサルを重ねるうちに、真央さんの新しいアイディアが加わることで、作曲者である小曽根さんも気づかなかったような楽曲の可能性が開かれたというお話が印象的でした。クラシック音楽でもバロック音楽や古典派の時代には即興の要素があったわけですし、演奏者によって作品の可能性が広がっていくのはあらゆるジャンルの音楽に共通して言えることでしょう。ふたりの音の対話はスリリング。まさに今そこで音楽が生まれている瞬間を味わうことができました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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放送2800回記念② 巨匠・坂本龍一からの伝達(メッセージ)

投稿日:2023年03月04日 10:30

今週は番組放送2800回記念第2弾として、坂本龍一さんの作品に国際的に活躍する若手演奏家たちが真正面から取り組んでくれました。坂本さんご本人からのメッセージもあり、とても興味深かったですよね。
 一曲目の「The Last Emperor(ザ・ラスト・エンペラー)」は、アカデミーオリジナル音楽作曲賞を受賞した名曲。西洋的でも東洋的でもあり、ノスタルジックでもあり現代的でもあり、いろいろな要素が一曲につまっています。弦楽四重奏にピアノと箏が加わるという独自の編成でしたが、曲の魅力がよく伝わってきたのではないでしょうか。角野さんが「弦楽四重奏が大きな川を作ってくれた」とたとえてくれましたが、まさに雄大な大河の流れを思わせるような演奏だったと思います。
 2曲目の「andata(アンダータ)」は、2017年発売のアルバム「async」に収録された一曲。簡潔で叙情的なメロディに、混沌としたノイズが加わります。今回のアレンジではヴァイオリンの成田さんがノイズ部分を担当。オルガンのメロディとヴァイオリンのノイズ部分が絶妙のバランスで溶け合って、ゆるやかで瞑想的な音楽の流れが生み出されていました。角野さんが途中から東京オペラシティのパイプオルガンを弾いていたのにはびっくり。
 LEOさんの選曲は「20211201」。曲が書かれた日付がタイトルになっているんですね。坂本さんによれば「なにも考えずにピアノに触り即興的に弾いたもの」。エフェクター付きの箏が幻想的で、漂泊するような情景を連想させます。
 最後に演奏されたのは、坂本さんが東京藝術大学在学中の19歳で書いた弦楽四重奏曲の第1楽章。ウェーベルン、シェーンベルク、ベルクといった新ウィーン楽派の作風を連想させる書法で書かれており、後の坂本さんの作風とはまったく異なります。集中度の高いすばらしい演奏で、新鮮な感動がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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放送2800回記念① 世界最高峰の少数精鋭楽団フィルハーモニクス ウィーン=ベルリンの音楽会

投稿日:2023年02月25日 10:30

番組放送2800回を記念して、今週より4週連続でお届けする「巨匠からの伝達(メッセージ)」、その第1弾はフィルハーモニクス ウィーン=ベルリン。ウィーン・フィルとベルリン・フィルの団員を中心とする7人の精鋭たちによるアンサンブルをお楽しみいただきました。
 ウィーン・フィルとベルリン・フィルといえば、世界のオーケストラの頂点に立つ二大楽団。オーケストラのキャラクターは対照的で、ウィーン・フィルはウィーンの流儀にもとづく伝統のサウンドを大切にする一方、ベルリン・フィルは次々と新しい挑戦に挑む先進的な多国籍集団という印象があります。そんなふたつのトップオーケストラのメンバーたちが一緒にアンサンブルを組んでいるのがおもしろいですよね。しかも、ジャズ、ポップス、伝統曲など、まったくジャンルにこだわらずに作品をとりあげ、それらすべてがフィルハーモニクス流のアレンジによって新鮮な音楽に生まれ変わっています。
 痛快だったのは「スウィング・オン・ベートーヴェン」。ベートーヴェンの「月光」ソナタの第3楽章と交響曲第7番の第2楽章が素材として用いられていました。編曲者のシュテファン・コンツさんは、ベルリン・フィルのチェロ奏者であり、かつてはウィーン・フィルにも所属していたという経歴の持ち主。クラシック音楽の伝統の中心にいる人が、こんなに遊び心を持ってベートーヴェンをアレンジしているのですから、本当に自由ですよね。
 バルトーク作品を原曲とする「子供のために」も楽しいアレンジでした。ウィーン・フィル首席クラリネット奏者のダニエル・オッテンザマーが妙技を披露。ベルリン・フィルのコンサートマスター、ノア・ベンディックス=バルグレイもノリノリで、ふだんオーケストラで演奏する姿とはまた違った雰囲気に。
 おしまいの「フェリス・ナヴィダ」は、カリブ的な陽気さのなかにヨーロッパ流のエレガンスが漂う心地よい演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2023年02月18日 10:30

今週は第31回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。出光音楽賞は1990年に「題名のない音楽会」の放送25周年を記念して制定された、すぐれた若手音楽家たちに贈られる賞です。今回の受賞者はピアノの小林愛実さん、チェロの上野通明さん、ヴァイオリンの岡本誠司さんの3名。川瀬賢太郎指揮東京フィルと共演して、シューマン、チャイコフスキー、バルトークの名曲を演奏してくれました。
 小林愛実さんが演奏したのはシューマンのピアノ協奏曲。小林さんがとりわけ大切にしているという得意のレパートリーです。陰影に富んだ表現から、豊かな詩情があふれてきます。幼いころからYouTube等で脚光を浴びていた小林愛実さんが、メジャーレーベルからデビューを果たしのはわずか14歳のこと。当時、サントリーホールで記者発表会が開かれましたが、そのときのあどけない姿を思い出すと、感慨を覚えずにはいられません。
 上野通明さんはパラグアイで生まれ、幼少期をスペインのバルセロナで過ごしたチェリスト。今回はチャイコフスキーの「ペッツォ・カプリチオーソ(奇想的小品)」を演奏してくれました。チャイコフスキーがチェロとオーケストラのために書いた作品というと「ロココ風の主題による変奏曲」が有名ですが、晩年に書かれたこの「ペッツォ・カプリチオーソ」にも味わい深い魅力があります。メランコリックで寂寞とした部分と、活発で技巧的な部分のコントラストが実に鮮やか。
 岡本誠司さんが選んだのは、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番。20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲として名高い作品ですが、実際にコンサートで耳にする機会は決して多くはありません。このような晴れの舞台で取り上げてくれるのは嬉しいですね。しっかりと芯のある美音から、バルトークならではの峻烈な輝きと土着的なエネルギーが伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行が挑むカプースチンの音楽会

投稿日:2023年02月11日 10:30

今週は辻井伸行さんの演奏でカプースチンの音楽をたっぷりとお楽しみいただきました。ニコライ・カプースチンは1937年、ウクライナ生まれ。2020年まで存命だった現代の作曲家、ピアニストです。
 カプースチンはモスクワ音楽院でピアノを学ぶ一方、ラジオ放送「ヴォイス・オブ・アメリカ」を通じてジャズへの関心を深め、やがてジャズ・オーケストラの一員として活動するようになりました。早くから作曲にも取り組んでいましたが、作曲家として国際的に知られるようになったのは比較的近年のこと。超絶技巧の持ち主として知られるマルク=アンドレ・アムランら、世界的に著名なピアニストがカプースチンの音楽を演奏したことで、次第にカプースチンをレパートリーとするピアニストが増えてきました。レコーディングでも、今ではずいぶんたくさんのアルバムがリリースされています。
 カプースチンの音楽はぱっと聴いた感じでは、ジャズのように思えるのですが、実は即興演奏ではなく、通常のクラシックの楽曲と同様にすべての音が記譜されています。その点ではクラシックの名曲と変わりありません。しかも、辻井さんのお話にもあったように、ジャズのみならず、さまざまなジャンルの音楽の語法が取り入れられています。結果として、ジャンルを超越した独自の音楽になっていると思います。
 今回、辻井さんが演奏してくれたのはカプースチン作品のなかでもとりわけ人気の高い「8つの演奏会用エチュード」からの5曲。躍動感あふれるすばらしい演奏で、カッコよかったですよね。この曲は「エチュード」(練習曲)と題されてはいるものの、前奏曲で始まって「トッカティーナ」「間奏曲」等々、さまざまな性格の小曲が続くという構成になっており、バロック時代の古典組曲を思わせます。古典的な外枠に、スウィングやロック、ブギウギといった要素が自由に盛り込まれているところがおもしろいと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシック奏者が演奏したいグラミー賞名曲の音楽会

投稿日:2023年02月04日 10:30

今週はグラミー賞を受賞した名曲を、クラシックの名奏者たちによる演奏でお届けしました。グラミー賞といえば世界でもっとも注目を集める音楽賞のひとつ。1959年に始まり、すでに60年を超える歴史を持っていますから、この賞自体がひとつの音楽史を刻んでいます。時を経てもなお聴き継がれる音楽は、新たな「クラシック」の仲間入りを果たしたとも言えますから、クラシックの奏者たちがグラミー賞の名曲を演奏することは決して不思議なことではありません。
 一曲目の「ウィ・アー・ザ・ワールド」はヴァイオリン、フルート、トロンボーン、ストリングスという独自の編成。しなやかで、どこかノスタルジーを刺激する音楽になっていたように思います。同じ曲からオリジナルとは一味違った新しい魅力が生まれてくるのがアレンジの妙ですよね。
 ビー・ジーズの「ステイン・アライヴ」は、「サタデー・ナイト・フィーバー」で一世を風靡した名曲。ディスコの雰囲気とフルートの澄んだ音色は一見遠そうですが、多久潤一朗さんの手にかかると、完璧なダンスミュージックに。それにしても回し吹きにはびっくりしました。
 エリック・クラプトンの「ティアーズ・イン・ヘヴン」では、藤原功次郎さんの情感豊かで温かみのあるトロンボーンが印象的でした。藤原さんのお話にもありましたが、トロンボーンは歴史的に教会で用いられてきたことから、オーケストラではしばしば神や教会の象徴のように扱われます。たとえばモーツァルトの「レクイエム」やベートーヴェンの「第九」、マーラーの交響曲第3番など。そう考えると、この曲もトロンボーンで演奏されるのにふさわしいように思います。
 ビリー・アイリッシュの「バッド・ガイ」は、廣津留すみれさんのいう「気持ち悪い」ところが癖になりそうな曲です。ヴァイオリンのポルタメント(音から音へ滑らかに連続的に移る奏法)が効果的に使われていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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冬を感じる音楽会

投稿日:2023年01月28日 10:30

寒い日が続いていますね。今週は、こんなときこそじっくりと味わいたい冬の名曲をお届けしました。
 一曲目は「石焼きいも」。この歌、だれが作った曲なのかはわかりませんが、だれもがどこかで耳にしている曲だと思います。今回は上野耕平さんのソプラノサクソフォンと堀内優里ストリングスによる演奏で、かつてない詩情豊かな「石焼きいも」を聴くことができました。ノスタルジーを刺激されます。
 ヴァイオリニストの荒井里桜さんが選んだ冬の曲は、ヴィヴァルディの協奏曲集「四季」より「冬」。この曲集は各曲にソネットが添えられており、詩の情景がそのまま音楽で描写されているという珍しい作品です。春夏秋冬、すべての曲が名作だと思いますが、とりわけ「冬」の季節感は際立っています。寒さに震えたり、歯がガチガチしたり……。そんな「寒い」というネガティブな感覚を、これだけ豊かで生気に富んだ音楽で伝えてしまうところがヴィヴァルディの並外れたところでしょう。
 サクソフォンの上野耕平さんが選んだのは、松任谷由実の「BLIZZARD」。映画「私をスキーに連れてって」挿入歌に用いられ、スキー場へ行く列車のCMでも使われていました。上野さんのアルトサクソフォンのまろやかな音色がたまりません。特殊奏法を用いたイントロの「吹雪」も効果的でしたね。
 ピアニストの福間洸太朗さんが選んだのはドビュッシーの組曲「子供の領分」より第4曲「雪は踊っている」。この組曲はドビュッシーの幼い娘シュシュに捧げられています。ドビュッシーは43歳でエンマ・バルダックとの間に初めての子、シュシュを授かり、娘を溺愛したといいます。「雪は踊っている」で描かれるのはひらひらと雪が舞う幻想的な情景で、聴く人にさまざまなイメージを喚起します。まるで父親が娘に絵本を読み聞かせているような楽曲だと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ロン=ティボー国際コンクール第1位 ピアニスト・亀井聖矢の音楽会

投稿日:2023年01月21日 10:30

今週は昨年11月にパリで開催されたロン=ティボー国際コンクールで第1位に輝いた亀井聖矢さんをお招きしました。2019年に日本音楽コンクールで第1位を受賞するなど、かねてより将来を嘱望されていた亀井さんですが、著名な国際コンクールで第1位を獲得したことで、これからますます活躍の場が広がってゆくことでしょう。
 ロン=ティボー国際コンクールは1943年から続く歴史のあるコンクールです。名ピアニストのマルグリット・ロンと名ヴァイオリニストのジャック・ティボーが共同で創設したことから、ふたりの名前を合わせて「ロン=ティボー国際コンクール」と名乗っています。ですので、ピアノ部門とヴァイオリン部門があります(一時期のみ声楽部門がありました)。ピアノ部門の過去の優勝者には、伝説的な名奏者サンソン・フランソワをはじめ、アルド・チッコリーニやパスカル・ロジェらの名前が並んでいます。
 亀井さんのお話にコンクールでの順位の発表がフランス語だけでわかりづらかったとありましたが、この結果発表のセレモニーがショーアップされているのも印象的でしたね。順位に先立って聴衆賞やオーケストラ・ミュージシャン賞など、特別賞の発表があり、その際にそれぞれの受賞者が演奏するという趣向になっていて、ずいぶんと長時間のセレモニーだったようです。
 本日、最後に亀井さんが演奏してくれたのはバラキレフの「イスラメイ」。バラキレフはロシア五人組で主導的な役割を果たした作曲家です。コーカサス地方への旅をきっかけに、民俗舞曲を用いた「イスラメイ」を作曲しました。副題は東洋的幻想曲。初演以来、難曲中の難曲として知られています。しかし亀井さんの演奏で聴くと、あまりに音楽の流れが自然で、難曲であることをまったく感じません。切れ味の鋭さと端然としたエレガンスを兼ね備えた名演だったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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反田恭平 恩返しの音楽会

投稿日:2023年01月14日 10:30

今週は反田恭平さん設立のジャパン・ナショナル・オーケストラが本拠を置く奈良よりお届けしました。会場は奈良県文化会館国際ホール。こうしてお客さんの入った会場での公開収録は久しぶりでしたが、やはり熱気があっていいものですね。
 反田さんが音楽家を目指すきっかけとなったのが、当番組の指揮者体験企画「振ってみまSHOW!」。当時12歳の反田さんがベートーヴェンの交響曲第7番を指揮している映像がありましたが、まさに現在の反田さんの姿を予告するかのようで、感慨深いものがあります。今回はそんな名物企画が一日限りの復活。9歳の柚木心琴さん、13歳の永原聖恵さんがブラームスのハンガリー舞曲第5番の指揮に挑戦してくれました。おふたりとも堂々たる指揮ぶりでオーケストラをリード。指揮を終えた心琴さんの「楽しかったです」の一言がめちゃくちゃかわいかったですよね。
 最後に反田さんが指揮をしたのは、モーツァルトの交響曲第38番「プラハ」より第3楽章。精鋭ぞろいのジャパン・ナショナル・オーケストラだけに、とてもみずみずしく豊麗なサウンドが生み出されていました。チェロ以外はみんな立って演奏するスタイルで、視覚的にもいっそうの躍動感が伝わってきます。
 この「プラハ」交響曲は反田さんが「元気をもらえる作品」と話していたように、モーツァルトの交響曲のなかでもとりわけ高揚感にあふれた特別な傑作だと思います。作曲当時、プラハの街ではモーツァルト旋風が巻き起こっていました。オペラ「フィガロの結婚」がプラハでセンセーショナルな成功を収め、モーツァルトはこの地で大歓迎を受けます。その際に開かれたコンサートで初演されたのが「プラハ」交響曲。輝かしく幸福感にあふれた曲想は、絶頂期のモーツァルトの意気揚々とした姿を思い起こさせます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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