日本の古典音楽でありながら、多くの人にとってなじみが薄いのが雅楽。今週はカニササレアヤコさんと東京藝術大学邦楽科雅楽専攻のみなさんをお招きして、雅楽について教えていただきました。きっかけとなったのは、雅楽にルーツを持つ日本語。「音頭を取る」「塩梅」「野暮」「やたら」「千秋楽」といった言葉が、実は雅楽に由来していたとは意外でした。
「音頭を取る」の「音頭」とは雅楽における楽器ごとの首席奏者だと言います。たしかに字面が「音の頭」なので、これには納得。龍笛が実際に「音頭を取る」様子を見せてくれましたが、なるほど、龍笛のソロに篳篥と笙が追随しています。こういった曲の仕組みがわかると、曲に親しむヒントをもらった気分になります。
「塩梅」は字面だけを見ると料理用語のようですが、こちらも雅楽の言葉だったとは。篳篥のなだらかに抑揚をつけて息づかいで音を変える奏法「塩梅(えんばい)」から来た言葉なのだとか。実演を見ると、本当に息づかいだけで大きく音程が変化しています。これをいい塩梅で変化させるのは、かなり難しそう。
「やたら」の由来は、雅楽の「夜多羅(やたら)拍子」から。多くの雅楽が4拍子であるのに対して、「夜多羅拍子」は5拍子です。もともとは6拍子の曲が、舞が付くときに5拍子になるという説明が興味深いと思いました。やはり1拍のずれのようなものが、ダンスの要素を生み出すということなのでしょうか。聴いていて、どことなく急き立てられるような印象がありました。このあたりは西洋音楽の5拍子の名曲、たとえば「スパイ大作戦」(ミッション・インポッシブル)のテーマや、ホルストの組曲「惑星」の「火星」などと共通する要素があるかもしれません。
「千秋楽」とは雅楽の曲名そのもの。これが歌舞伎や相撲の最終日を指すようになったというのですが、現代ではコンサートやミュージカルでも使われているのがおもしろいですよね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)