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本当は面白い“雅楽”の音楽会

投稿日:2024年06月29日 10:30

 日本の古典音楽でありながら、多くの人にとってなじみが薄いのが雅楽。今週はカニササレアヤコさんと東京藝術大学邦楽科雅楽専攻のみなさんをお招きして、雅楽について教えていただきました。きっかけとなったのは、雅楽にルーツを持つ日本語。「音頭を取る」「塩梅」「野暮」「やたら」「千秋楽」といった言葉が、実は雅楽に由来していたとは意外でした。
 「音頭を取る」の「音頭」とは雅楽における楽器ごとの首席奏者だと言います。たしかに字面が「音の頭」なので、これには納得。龍笛が実際に「音頭を取る」様子を見せてくれましたが、なるほど、龍笛のソロに篳篥と笙が追随しています。こういった曲の仕組みがわかると、曲に親しむヒントをもらった気分になります。
 「塩梅」は字面だけを見ると料理用語のようですが、こちらも雅楽の言葉だったとは。篳篥のなだらかに抑揚をつけて息づかいで音を変える奏法「塩梅(えんばい)」から来た言葉なのだとか。実演を見ると、本当に息づかいだけで大きく音程が変化しています。これをいい塩梅で変化させるのは、かなり難しそう。
 「やたら」の由来は、雅楽の「夜多羅(やたら)拍子」から。多くの雅楽が4拍子であるのに対して、「夜多羅拍子」は5拍子です。もともとは6拍子の曲が、舞が付くときに5拍子になるという説明が興味深いと思いました。やはり1拍のずれのようなものが、ダンスの要素を生み出すということなのでしょうか。聴いていて、どことなく急き立てられるような印象がありました。このあたりは西洋音楽の5拍子の名曲、たとえば「スパイ大作戦」(ミッション・インポッシブル)のテーマや、ホルストの組曲「惑星」の「火星」などと共通する要素があるかもしれません。
 「千秋楽」とは雅楽の曲名そのもの。これが歌舞伎や相撲の最終日を指すようになったというのですが、現代ではコンサートやミュージカルでも使われているのがおもしろいですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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おとぎ話から生まれたクラシックの音楽会

投稿日:2024年06月22日 10:30

 クラシック音楽の世界にはおとぎ話を題材とした名曲がたくさんあります。今週は「シンデレラ」「人魚姫」「美女と野獣」から生まれた名曲をお届けしました。
 最初の曲はプロコフィエフの「シンデレラ」から「真夜中」と「シンデレラのワルツ」。「シンデレラ・ストーリー」という言葉があるように、この物語には華やかな雰囲気がありますが、プロコフィエフの音楽には独特の緊迫感があります。不安と期待が入り混じった主人公の複雑な心情を表現したかったのでしょう。ちなみに「シンデレラ」を題材とした有名曲には、ほかにロッシーニのオペラ「チェネレントラ」もあります。こちらにはカボチャの馬車やガラスの靴は出てこないのですが、ストーリーの根幹は同じです。
 ドヴォルザークのオペラ「ルサルカ」は水の精ルサルカと王子の悲恋を描いた物語。ストーリー展開はアンデルセンの「人魚姫」とほぼ同じで、人間の王子に恋をしたルサルカが、魔法の力を借りて人間に姿を変えます。ただし、人間の姿になるには声を失う代償が伴います。オペラなのに主役がいったん声を失う設定になっているのは、なかなか大胆ですよね。このオペラ随一の名曲「月に寄せる歌」は、声を失う前のルサルカが歌います。ほかに「人魚姫」を題材とした曲には、ツェムリンスキー作曲の交響詩「人魚姫」もあります。こちらは大オーケストラで演奏される後期ロマン派スタイルの作品です。
 最後に演奏されたのは、ラヴェルのバレエ音楽「マ・メール・ロワ」より「美女と野獣の対話」。ラヴェルは子供の世界をこよくなく愛した作曲家でした。組曲「マ・メール・ロワ」では、ひとつの組曲のなかに「眠れる森の美女」「美女と野獣」「親指小僧」「緑の蛇」といった物語が描かれています。美女の役をクラリネットが、野獣の役をコントラファゴットが担うといったように、この組曲ではラヴェルの巧みなオーケストレーションが聴きどころになっています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画③反田恭平・小林愛実・務川慧悟豪華共演! 3台ピアノの音楽会

投稿日:2024年06月15日 10:30

 今週は反田恭平さん、小林愛実さん、務川慧悟さんをお招きして、3台ピアノの音楽会をお送りしました。
 反田恭平さんと小林愛実さんのおふたりが共演するのは、ご結婚後、これが初めてだとか。最初に演奏してくれたのはシューマンの「小さな子供と大きな子供のための12の連弾小品」より第12曲「夕べの歌」。本当に息の合ったピアノで、反田さんと小林さんが音で対話を交わしているような演奏でした。
 反田さんから見た小林さんは「自分の世界観を持った音楽家」。これには納得。小林さんの揺るぎないパーソナリティは聴衆にも伝わっていると思います。一方、小林さんから見た反田さんは「いつまでも少年っぽい音楽家」。おもしろい表現ですよね。その少年っぽさが音楽家としての反田さんの飽くなき探求心につながっているのかもしれません。
 続いて演奏されたのはモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」の第3楽章。モーツァルトはたくさんのピアノ・ソナタを書いていますが、2台のピアノのために書いた完成作はこの一曲のみ。「のだめカンタービレ」で主人公のだめと千秋がこの曲を演奏したことから、一段と広く知られるようになりました。この分野の貴重な傑作です。軽快で歯切れ良く、生命力にあふれたモーツァルトでした。
 務川慧悟さんは2012年の日本音楽コンクールで反田さんと並んで第1位を獲得。以来、反田さんとは同世代の盟友として信頼関係を築いています。反田さん、小林さん、務川さんによる3台ピアノで演奏したのは、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」。この曲は、まず2台ピアノのための作品として作曲され、続いてオーケストラ版が作られました。構想時からブラームスはオーケストラの響きを念頭に置いていたようです。今回は3台ピアノという珍しい編成による演奏でしたが、シンフォニックでスケールが大きく、オーケストラ版をほうふつとさせました。フィナーレは壮麗でしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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60周年記念企画③夢を実現する反田恭平の音楽会

投稿日:2024年06月08日 10:30

 今週は番組60周年記念企画第3弾といたしまして、ピアニスト、指揮者、経営者として、まさにボーダーレスな活躍をくりひろげる反田恭平さんをお招きいたしました。
 共演は反田さん自身が創設したジャパン・ナショナル・オーケストラ。オーケストラを運営するだけでも十分に大変なことですが、反田さんの真の目標は、30年後に音楽学校を設立することだと言います。オーケストラはそのための第一歩にすぎません。これまでにも反田さんは、海外から日本に留学してくるようなレベルの高い学校を作りたいという願いをたびたび口にしてきました。きっと夢を現実にするには、こういったロードマップを描いて、それを公言することが大切なのでしょう。これまでにも次々と夢を実現してきた反田さんだけに言葉に重みがあります。
 今回、反田さんとジャパン・ナショナル・オーケストラが演奏したのは、モーツァルトとシュトラウス・ファミリーの音楽。ともに近年の反田さんが力を入れるウィーンの音楽です。モーツァルトのピアノ協奏曲第20番の第3楽章では、ピアノと指揮を兼ねる「弾き振り」を披露してくれました。以前、同じ曲を番組で反田さんが演奏してくれたことがありましたが、そのときはピアノの演奏のみに留まっていましたので、今回は指揮者としても活動し、音楽家としての幅を一段と広げた反田さんの姿を目にすることができました。終盤のピアニストのみが演奏するカデンツァの部分は、前回と同様、往年の巨匠ベネデッティ・ミケランジェリの演奏に基づいています。第2楽章の主題が引用されるところが素敵ですよね。
 おしまいに演奏されたポルカ・シュネル「小さな年代史」の作曲者はエドゥアルト・シュトラウス。有名なヨハン・シュトラウス2世の弟にあたります。とても珍しい曲でしたが、軽快かつ優美で、ウィーンの香りがふわりと漂ってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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新世代のイチ推し!新しいクラシックの音楽会

投稿日:2024年06月01日 10:30

 今回は宮田大さんと服部百音さんがおすすめする「新しいクラシック」をお楽しみいただきました。クラシック音楽を聴いているとつい忘れがちですが、どんな名曲であっても作曲された当時は最新の音楽だったはず。今回、演奏された曲は、いずれも現代の作曲家たちによる作品で「新しいクラシック」と呼ぶにふさわしい魅力を放っていたと思います。
 1曲目はノルウェー出身のラルフ・ラヴランド作曲の「ソング・フロム・ア・シークレット・ガーデン」。宮田大さんが「明るくも暗くも聞こえる」とお話ししていたように、さまざまなニュアンスに富んでいます。情感豊かで、初めて聴く人にも懐かしさを感じさせます。
 2曲目はポーランドのヴォイチェフ・キラル作曲の「オラヴァ」。キラルはポランスキー監督の「戦場のピアニスト」やコッポラ監督の「ドラキュラ」など、映画音楽の世界で成功を収めていますが、クラシックの分野にもたくさんの作品を残しています。この「オラヴァ」や交響詩「クシェサニ」などが、すでに日本のオーケストラでも演奏されており、まさに「新しいクラシック」と言ってよいでしょう。「オラヴァ」は躍動感にあふれて爽快。聴いていて広大な風景が目に浮かんでくるかのよう。
 3曲目はブラジルのハダメス・ニャタリ作曲の「チェロとギターのためのソナタ」第1楽章より。この曲はチェロとギターという楽器の組合せが斬新です。ラテン的なムードが色濃いのですが、即興部分が入るなど、先の予測がつかないおもしろさがありました。
 4曲目はトルコのファジル・サイによる「クレオパトラ」より。世界的ピアニストとして知られるサイですが、作曲活動も活発です。「クレオパトラ」は国際ヴァイオリン・コンクールの課題曲として委嘱されました。超絶技巧を用いたエキゾチックな楽想がイマジネーションを刺激します。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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