指揮者は謎めいた存在です。オーケストラの中心人物のようでいて、実際に指揮台でなにをしているのかはわかりづらいところ。今回は日本の若い世代を代表する3人の指揮者のみなさんに、指揮者の仕事についてお話をうかがいました。とても率直なお話が聞けて、おもしろかったですよね。
鈴木優人さん、原田慶太楼さん、川瀬賢太郎さんはいずれも30代。指揮者の世界では若手です。かつて指揮者といえば、40代でもまだ駆け出し、50代でも若手、60代でようやく一人前などと言われたものですが、実は近年は若い世代の指揮者が抜擢される傾向にあります。30代でオーケストラの音楽監督や首席指揮者といった責任あるポジションを担う例も増えてきました。優秀な若い才能が次々と現れてきたことに加えて、オーケストラの側でも新しい才能にチャンスを与えようという意識が強まっているのだと思います。
3人のお話をうかがうと、想像以上に指揮者は演奏中に細かな指示を出していることがわかります。リハーサル中なら言葉で説明することも可能ですが、本番は体を使った指示がすべて。指揮のジェスチャーについての解説がありましたが、あれがちゃんとオーケストラ側に伝わっているのがすごい! 阿吽の呼吸というほかありません。
原田さんの「朝食2回、昼食2回、夕食2回」というお話にもびっくりしました。特にアメリカのオーケストラの場合、ヨーロッパとは違って自治体等からの公的な支援がないため、お金持ちからの寄付は必須。音楽監督を務める指揮者にとって、支援者たちとの社交は不可欠です。「70%はビジネスマン」とおっしゃるのも納得です。
どんなに偉い指揮者であっても、雇っているのはオーケストラの側。この点で、野球やサッカーの監督と少し似ています。百戦錬磨の楽員たちから日々評価され続ける立場なのですから、タフな仕事であることはまちがいありません。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)