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意外と大変!指揮者の仕事を知る休日

投稿日:2020年08月29日 10:30

指揮者は謎めいた存在です。オーケストラの中心人物のようでいて、実際に指揮台でなにをしているのかはわかりづらいところ。今回は日本の若い世代を代表する3人の指揮者のみなさんに、指揮者の仕事についてお話をうかがいました。とても率直なお話が聞けて、おもしろかったですよね。
 鈴木優人さん、原田慶太楼さん、川瀬賢太郎さんはいずれも30代。指揮者の世界では若手です。かつて指揮者といえば、40代でもまだ駆け出し、50代でも若手、60代でようやく一人前などと言われたものですが、実は近年は若い世代の指揮者が抜擢される傾向にあります。30代でオーケストラの音楽監督や首席指揮者といった責任あるポジションを担う例も増えてきました。優秀な若い才能が次々と現れてきたことに加えて、オーケストラの側でも新しい才能にチャンスを与えようという意識が強まっているのだと思います。
 3人のお話をうかがうと、想像以上に指揮者は演奏中に細かな指示を出していることがわかります。リハーサル中なら言葉で説明することも可能ですが、本番は体を使った指示がすべて。指揮のジェスチャーについての解説がありましたが、あれがちゃんとオーケストラ側に伝わっているのがすごい! 阿吽の呼吸というほかありません。
 原田さんの「朝食2回、昼食2回、夕食2回」というお話にもびっくりしました。特にアメリカのオーケストラの場合、ヨーロッパとは違って自治体等からの公的な支援がないため、お金持ちからの寄付は必須。音楽監督を務める指揮者にとって、支援者たちとの社交は不可欠です。「70%はビジネスマン」とおっしゃるのも納得です。
 どんなに偉い指揮者であっても、雇っているのはオーケストラの側。この点で、野球やサッカーの監督と少し似ています。百戦錬磨の楽員たちから日々評価され続ける立場なのですから、タフな仕事であることはまちがいありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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意外と難しいハミングの音楽会

投稿日:2020年08月22日 10:30

新型コロナウイルス感染拡大の影響でいったんはあらゆる演奏会がなくなってしまった音楽界ですが、今ではオーケストラの公演が開かれるなど、緩やかに再始動が始まっています。しかし、そんな中でも苦心しているのが合唱団。合唱でいかに飛沫を防ぐのか、さまざまな試みが続いています。
 そこで山田和樹さんが考えたのが、ハミングの活用。唇を閉じて歌うハミングの曲なら歌えるのではないか、というアイディアです。山田和樹さんは数々の名門オーケストラを指揮してきた世界的な指揮者ですが、実は東京混声合唱団の音楽監督も務めています。そんな山田さんならではの発想でした。
 ハミングが部分的に使われる曲はたくさんありますが、ハミングだけでできた曲となると、とても珍しいのではないでしょうか。3人の作曲家に新作が依頼されましたが、それぞれにハミングならではの趣向が凝らされていて、新鮮な味わいがありました。
 上田真樹さんの「Humming Hug」は、鼻歌から発想したというハミング曲。ハミングでは高い音を出すのが難しいと言いますが、そんな制約を感じさせない、自然体の安らぎに満ちた音楽でした。包み込むような柔らかい音が素敵でしたね。
 信長貴富さんの「ハミングのためのエチュード」では、だれもが知る「故郷」のメロディを取り入れることで、情景を思い浮かべやすくなるように工夫されていました。冒頭の信長さんのオリジナル部分からすでにノスタルジックな雰囲気があふれていましたが、「故郷」と重なり合うことで一段とニュアンスの豊かな音楽が生まれていました。
 池辺晋一郎さんは日本を代表する重鎮作曲家。弦楽器で音から音へ滑らかに連続的に移る奏法をポルタメントと言いますが、「ハミングの消息―混声合唱のために」ではそんなポルタメントのような効果が活用されていました。歌詞はありませんが、まるで会話をしているような音のドラマを想起させます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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世界が認めた若き才能の音楽会2020

投稿日:2020年08月15日 10:30

今週は第30回出光音楽賞の受賞者である藤田真央さん、服部百音さん、佐藤晴真さんの演奏をお届けいたしました。出光音楽賞は若手音楽家の登竜門として知られています。例年、東京オペラシティコンサートホールで開催される受賞者ガラコンサートの模様をお届けしていますが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大のため公演を開くことができておりません。そこで3人の受賞者のみなさんをスタジオにお招きして、室内楽を共演していただきました。
 藤田さんが選曲したのは、ラヴェルのピアノ三重奏曲の第4楽章。フランス音楽を選んだのは少し意外な感もありましたが、これは名手3人がそろって弾くにふさわしい傑作でしょう。巧みなオーケストレーションで知られるラヴェルですが、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの3人の編成であっても、やはり洗練された色彩感は際立っています。高揚感にあふれた見事な演奏を披露してくれました。
 服部さんが選んだのは、プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番の第2楽章。「喜怒哀楽」の「怒」と「哀」が表現された曲にシンパシーを感じるという服部さんにぴったりの選曲でしょう。プロコフィエフは人間のダークサイドに切り込んだ作曲家という印象がありますが、特にこの曲には彼一流の刺々しいユーモアやアイロニーが込められていると思います。服部さんの演奏はニュアンスが豊か。作品の奥行きを一段と感じさせる演奏で、曲が進むにつれて次第に白熱してゆく様子は圧倒的でした。
 佐藤さんは難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門の優勝者。ミュンヘンゆかりの大作曲家、リヒャルト・シュトラウスの「万霊節」を演奏してくれました。万霊節とはキリスト教における死者の霊を祀る記念日。原曲の歌曲では今は亡き愛する人への想いが切々と歌われています。過去を懐かしんでさまざまな思いが交錯する様子が、情感豊かに表現されていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ピアノ界のスーパースターが20年かけて挑んだ曲を聴く音楽会

投稿日:2020年08月08日 10:30

今週はピアノ界のスーパースター、ラン・ランをお迎えしました。今、ラン・ランが取り組んでいるのは、バッハの難曲「ゴルトベルク変奏曲」。これは演奏家にとって特別な作品です。プロのピアニストでもこの曲をレパートリーに入れている人は決して多くはありません。鈴木優人さんが説明してくださってように、この曲は本来、2段鍵盤のチェンバロのために書かれた作品。バッハの時代にはまだ現代の私たちが知るようなピアノはありませんでしたので、バッハの作品はどれもピアノ用には書かれていません。「ゴルトベルク変奏曲」を現代のピアノでバッハを弾くためには、さまざまな工夫が必要になってきます。
 しかも「ゴルトベルク変奏曲」は大作です。曲は簡潔な「アリア」でスタートします。その後、30曲もの多彩な変奏が続き、最後にまた冒頭の「アリア」が帰ってきます。全曲の演奏時間は50分から100分程度(楽譜上の反復を忠実にするか、省略するかで大幅に長さが違ってきます)。かなり長い曲ですので、リサイタルでは「ゴルトベルク変奏曲」一曲のみでプログラムが組まれていることも珍しくありません。お客さんもこの曲を聴きに来るときは「今日は特別な大作を聴くのだ!」という相当な期待と覚悟をもって集まってきます。最後に「アリア」が戻ってくるときには、まるで旅から帰ってきたかのようなしみじみとした感慨がわき起こります。機会があればぜひ全曲を聴いてみてください。
 バッハはとても古い時代の作品ですが、ヤン・ティルセン作曲の「アメリのワルツ」は現代の名曲です。2001年に大ブームとなったジャン=ピエール・ジュネ監督のフランス映画「アメリ」で用いられました。その後、「アメリのワルツ」はピアノピースとして広く人気を獲得しています。今ではもとの映画は知らないけれど、曲は知っているという方も少なくないのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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この音色が欲しかった!ひねりすぎた楽器を楽しむ音楽会

投稿日:2020年08月01日 10:30

今週はひねりすぎた楽器を楽しむ音楽会。次々と珍しい楽器が登場しましたが、どれも予想外の音色が出てくるのがおもしろかったですよね。ミュージカルソー、スプリングドラム、ウォーターフォン、テスラコイル、いずれも不思議な音色がする楽器でした。
 見た目とのギャップが激しいのがミュージカルソー。一見したところは普通のノコギリにしか見えません。いかにも日曜大工風の雰囲気があるのですが、出てくる音は未来的。映画「パラサイト 半地下の家族」でも使われるなど、実は意外なところで耳にしている楽器でもあります。藤田真央さんがチャレンジしてくれましたが、ビブラートを全身でかける姿が楽しそうでした。
 神田佳子さんは現代音楽を中心に活躍する、この分野では知らぬ人のいない打楽器奏者。スプリングドラムといい、ウォーターフォンといい、本当に風変わりな楽器で、いったいどんなきっかけでこのような楽器が発明されたのかと思ってしまいます。スプリングドラムの音は風や嵐を連想させます。宇宙的でもあり、大自然を思わせるところもあって、予想外にドラマティック。ウォーターフォンは形状からして謎めいていますが、出てくる音もミステリアスです。どこか聴く人の気持ちを落ち着かなくするところがあって、なるほど、ホラー映画に使われるのは納得です。
 一方、テスラコイルはもともと楽器として作られたものではありません。発明者のニコラ・テスラはエジソンのライバルともいえる科学者で、磁束密度の単位T(テスラ)にその名を残しています。電気自動車メーカーのテスラも彼の名にちなんだもの。今回のデモンストレーションでは鍵盤と連動させて、稲妻で音程を作れるようにセッティングされていました。こんな活用法があるんですね。
 最後は川島さんがご自身の口で水滴を受ける「滴下の音楽」。これも音楽です。おもしろいと思いませんか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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