コロナ禍により2019年以来開催が見送られていた人気企画「夢響」がついに復活しました。プロの音楽家であっても決して容易ではない「オーケストラと共演する」という夢を叶えるのが「夢響」。多数の応募者から8名の出場者が選ばれ、今週は4名の出場者が三ツ橋敬子指揮東京シティ・フィルと共演を果たしました。
トップバッターの村上亮さんは学校の音楽の先生。曲はショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番の第3楽章より。村上さんは勤務時間前に指のトレーニングのために有名な教則本「ハノン」を練習しているとおっしゃっていましたが、この曲には「ハノン」の引用が出てきます。というのも、これはショスタコーヴィチがピアニストの息子のために書いた作品。お父さんから息子への「しっかり練習しておけよ」というエールが「ハノン」の引用に込められているのでしょう。臆することなくオーケストラと共演を果たした村上さん。めちゃくちゃカッコよかったです。
高校生の西村大地さんはトランペットでサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」に挑戦。原曲はヴァイオリンのための名曲ですが、トランペットの輝かしい音色で聴いても効果抜群ですね。ゆっくりしたメランコリックな部分と、速いテンポの活発な部分との対比が鮮やか。オーケストラとの共演という幼少時からの夢を、見事な演奏でかなえてくれました。
安達心春さんは小学2年生。楽器に「りぼんちゃん」と名前を付けているのがかわいいですよね。曲はヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲ト長調から第1楽章。ヴィヴァルディならではのはつらつとした躍動感と生命力が伝わってきました。演奏後、「続きの2楽章と3楽章も演奏したかったです」と話してくれましたが、気持ちはこちらも同じ。ぜひ続きも聴きたかった!
「音楽人生の集大成をオーケストラとの共演で示したい」とおっしゃるのが、テナーサックス原野敏さん。サックス歴はなんと56年! なんともいえない味わい深い「ダニー・ボーイ」でした。やっぱりオーケストラといっしょに演奏すると映えますね。ダンディでした。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)