今週は先週に続いて、日本と外交関係樹立50周年を迎えたベトナムよりお届けしました。今回は両国のトップピアニスト、ベトナムのグエン・ヴィエット・チュンさん、日本の反田恭平さんのおふたりに演奏していただきました。
まず反田さんがソロで演奏したのは、ショパンのワルツ第5番作品42。数あるショパンのワルツのなかでも、この曲がとくに好きだという方も少なくないのでは。優雅できらびやか、それでいて陰影豊か。洗練された味わいがあります。
ベトナムのピアニストといって、まっさきに思い出されるのは、1980年にアジア人で初めてショパン国際ピアノコンクールで優勝したダン・タイ・ソンさんでしょう。グエン・ヴィエット・チュンさんは、2021年、そのダン・タイ・ソンさん以来、41年ぶりとなるショパン国際ピアノ・コンクールの本選出場を果たしました。今年5月には東京初のリサイタルも開いています。
反田さんとチュンさんが2台ピアノで共演したのは、20世紀ポーランドを代表する作曲家ルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」。この「パガニーニの主題」とは、パガニーニが独奏ヴァイオリンのために書いた「24の奇想曲」第24番の主題を指しています。この主題はこれまでに数々の作曲家たちによって、変奏曲に仕立てられてきました。有名なのはリストのピアノ曲「パガニーニによる大練習曲」第6番でしょう。ブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」やラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」もよく演奏されます。ルトスワフスキも変奏曲の伝統にのっとって、パガニーニの主題を用いたわけです。モダンな響きも加わって、斬新な変奏曲になっていました。
最後にふたりが連弾で弾いたのは、ブラームスのハンガリー舞曲第5番。よくオーケストラのアンコール曲として演奏される人気曲ですが、もともとはピアノ連弾用に書かれた作品です。反田さんとチュンさんの軽快な演奏は、まさに踊りそのものでしたね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)