服部百音さんのお父さんといえば、「半沢直樹」や「真田丸」ほかで知られる作曲家、服部隆之さん。曾祖父・服部良一、祖父・服部克久、父・服部隆之という名門音楽一家に生まれ、ヴァイオリニストとしてクラシックの英才教育を受けてきた百音さんが、今回は古坂大魔王さんのプロデュースで異ジャンルの音楽とのコラボレーションに挑んでくれました。
最初の挑戦はヒップホップとのコラボレーション。選ばれた作品はベルギー出身のフランスの作曲家フランクの代表作、ヴァイオリン・ソナタです。ロマン派のヴァイオリン・ソナタにおける屈指の傑作といってもいいでしょう。フランクの魅力は濃厚なロマンティシズムと暗い情熱。およそヒップホップからはかけ離れているのでは……と思いきや、KEN THE 390さんの編曲で、まさかの融合。原曲にある一種の執拗さが巧みに抽出されていたのではないでしょうか。
ハードコア・ドラムンベースとのコラボレーションでは、ポーランドの作曲家シマノフスキのタランテラが選ばれていました。原曲はヴァイオリンとピアノのために書かれた「夜想曲とタランテラ」で、曲の後半が南イタリアの民族舞踊タランテラに由来する舞曲になっています。毒ぐもタランチュラにかまれたときにタランテラを踊ると治るという古い伝説がありますが、それくらい激しい舞曲なんですね。ハードコア・ドラムンベースの世界が見事にはまるのも納得です。
最後はヘヴィメタルとのコラボレーション。フランスの作曲家ラヴェルの技巧的な名曲「ツィガーヌ」が選ばれていました。ツィガーヌとはロマ(ジプシー)のこと。原曲には神秘的で呪術的なムードがありますが、これをヘヴィメタルの重厚なサウンドと融合させて、エキサイティングな音楽がくりひろげられました。ヘヴィメタルになっても、原曲にある妖しさが生きているのがいいですね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)