今週は2021年度の音楽界を振り返る「題名のない音楽会年鑑2021」の後編。前編では若き才能の躍進ぶりをお伝えいたしましたが、後編では偉大な音楽家たちとの別れ、そして話題を呼んだアニメソングを特集しました。
昨年9月に世を去ったすぎやまこういちさんの代表作といえば、「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽を挙げないわけにはいきません。すぎやまさん自ら指揮をした「ドラゴンクエストI」の「序曲」は貴重な映像。「ドラクエ」シリーズ全体のテーマ曲ともいえる名曲ですが、最初にファミコンで「ドラゴンクエストI」がリリースされた時点では、このようなオーケストラサウンドをゲーム機で実現することは不可能でした。ハードウェアの制約から、現実に鳴っていたのは「ピコピコ音」と呼ばれる電子音のみ。しかし、作曲者の頭の中にあったのは、今回の東京交響楽団のようなフルオーケストラのサウンドです。おそらくプレーヤーの多くも頭の中で雄大なサウンドを想像していたのではないでしょうか。「ドット絵」と呼ばれるグラフィックスもそうですが、当時のゲームはプレーヤーのイマジネーションをいかに刺激するかという点に、クリエーターたちの創意が凝らされていたように思います。
12月に逝去した丸谷明夫先生も忘れることのできない名指導者でした。長年にわたり大阪府立淀川工科高校吹奏楽部を指導し、番組にもたびたび出演してくださいました。全国に多くのファンを持ち、ときにはプロの吹奏楽団の指揮台にも立つなど、これほど日本の吹奏楽文化の豊かさや厚みを感じさせてくれる指導者はいませんでした。
アニメソングの世界からは次々と名曲が誕生していますが、なかでも人気を呼んだのが劇場版「鬼滅の刃」無限列車編の「炎」。番組では荒井里桜さんのヴァイオリン・ソロを中心に、日本の若手トッププレーヤーたちが集まったぜいたくなアンサンブルで「炎」をお届けしました。アニメソングの枠にとどまらず、長く愛される曲になりそうです。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)