今週はオーケストラの迫力あるサウンドでゲーム音楽をお楽しみいただきました。ゲーム音楽ほど近年に発展を遂げた音楽のジャンルはないかもしれません。当初はハードウェアの制限から「ピコピコ音」と形容されていた音楽が、今やなんの制限もなく作曲家たちが創造性を発揮できる分野へと進化しました。
「モンスターハンター」シリーズの作曲家、甲田雅人さんのお話でおもしろかったのは、「英雄の証」のお蔵入りバージョンについて。今回、そのお蔵入りバージョンと採用されたバージョンを比較することができましたが、オーケストレーションがぜんぜん違います。お蔵入りバージョンは分厚いサウンドで、一度にいろいろな音が聞こえてきます。とてもゴージャスですばらしいのですが、これに魅了されるのは、先に採用バージョンを聴いて知っているからでしょう。初めて聴いたときに強いインパクトを残すのは、すっきりと洗練された採用バージョンだと思います。
ブルックナーという交響曲の作曲家は、同じ曲に異なるバージョンをいくつも残したことから、どの稿がよいかファンの間でよく議論になるのですが、それを少し思い出しました。まさか「モンハン」の音楽にも初期稿があったとは!
指揮の佐々木さんも言っていたように、ホルンの活躍は狩を連想させます。もともとホルンは狩の角笛を起源とすることから、ワーグナーやベートーヴェン、ブルックナーら多くの作曲家がこの楽器を狩のシンボルとして使いました。19世紀の音楽では森の動物を狩っていたのに対して、21世紀にはモンスターを狩っているわけです。
「ファイナルファンタジー」や「グラディウス」「キングダム ハーツ」はゲームとして名作であるのみならず、音楽も名曲ぞろい。特に「ファイナルファンタジー」の「勝利のファンファーレ」を耳にすると、もうそれだけでささやかな達成感を味わえます。ゲーム音楽の枠にとどまらず、純粋にファンファーレとして傑出した音楽だと思います。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)