今週は番組60周年記念企画第3弾といたしまして、ピアニスト、指揮者、経営者として、まさにボーダーレスな活躍をくりひろげる反田恭平さんをお招きいたしました。
共演は反田さん自身が創設したジャパン・ナショナル・オーケストラ。オーケストラを運営するだけでも十分に大変なことですが、反田さんの真の目標は、30年後に音楽学校を設立することだと言います。オーケストラはそのための第一歩にすぎません。これまでにも反田さんは、海外から日本に留学してくるようなレベルの高い学校を作りたいという願いをたびたび口にしてきました。きっと夢を現実にするには、こういったロードマップを描いて、それを公言することが大切なのでしょう。これまでにも次々と夢を実現してきた反田さんだけに言葉に重みがあります。
今回、反田さんとジャパン・ナショナル・オーケストラが演奏したのは、モーツァルトとシュトラウス・ファミリーの音楽。ともに近年の反田さんが力を入れるウィーンの音楽です。モーツァルトのピアノ協奏曲第20番の第3楽章では、ピアノと指揮を兼ねる「弾き振り」を披露してくれました。以前、同じ曲を番組で反田さんが演奏してくれたことがありましたが、そのときはピアノの演奏のみに留まっていましたので、今回は指揮者としても活動し、音楽家としての幅を一段と広げた反田さんの姿を目にすることができました。終盤のピアニストのみが演奏するカデンツァの部分は、前回と同様、往年の巨匠ベネデッティ・ミケランジェリの演奏に基づいています。第2楽章の主題が引用されるところが素敵ですよね。
おしまいに演奏されたポルカ・シュネル「小さな年代史」の作曲者はエドゥアルト・シュトラウス。有名なヨハン・シュトラウス2世の弟にあたります。とても珍しい曲でしたが、軽快かつ優美で、ウィーンの香りがふわりと漂ってきました。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)