番組放送2800回を記念して、今週より4週連続でお届けする「巨匠からの伝達(メッセージ)」、その第1弾はフィルハーモニクス ウィーン=ベルリン。ウィーン・フィルとベルリン・フィルの団員を中心とする7人の精鋭たちによるアンサンブルをお楽しみいただきました。
ウィーン・フィルとベルリン・フィルといえば、世界のオーケストラの頂点に立つ二大楽団。オーケストラのキャラクターは対照的で、ウィーン・フィルはウィーンの流儀にもとづく伝統のサウンドを大切にする一方、ベルリン・フィルは次々と新しい挑戦に挑む先進的な多国籍集団という印象があります。そんなふたつのトップオーケストラのメンバーたちが一緒にアンサンブルを組んでいるのがおもしろいですよね。しかも、ジャズ、ポップス、伝統曲など、まったくジャンルにこだわらずに作品をとりあげ、それらすべてがフィルハーモニクス流のアレンジによって新鮮な音楽に生まれ変わっています。
痛快だったのは「スウィング・オン・ベートーヴェン」。ベートーヴェンの「月光」ソナタの第3楽章と交響曲第7番の第2楽章が素材として用いられていました。編曲者のシュテファン・コンツさんは、ベルリン・フィルのチェロ奏者であり、かつてはウィーン・フィルにも所属していたという経歴の持ち主。クラシック音楽の伝統の中心にいる人が、こんなに遊び心を持ってベートーヴェンをアレンジしているのですから、本当に自由ですよね。
バルトーク作品を原曲とする「子供のために」も楽しいアレンジでした。ウィーン・フィル首席クラリネット奏者のダニエル・オッテンザマーが妙技を披露。ベルリン・フィルのコンサートマスター、ノア・ベンディックス=バルグレイもノリノリで、ふだんオーケストラで演奏する姿とはまた違った雰囲気に。
おしまいの「フェリス・ナヴィダ」は、カリブ的な陽気さのなかにヨーロッパ流のエレガンスが漂う心地よい演奏でした。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)