今週は昨年10月に開催されたショパン国際コンクールで第3位に入賞したスペイン出身のピアニスト、マルティン・ガルシア・ガルシアをお招きしました。
ショパン・コンクールの模様はインターネットを通してライブ配信されていたのですが、多くの有力コンテスタントに交じって、ファンの間で大きな話題を呼んでいたのがガルシア・ガルシアです。歌いながら楽しそうに演奏する姿はインパクト抜群。生気にあふれたみずみずしい音楽に、その場がコンクールであることを忘れてしまうほどでした。コンクール後、ガルシア・ガルシアが来日して演奏会を開いたところ、客席は大盛況に。コンクールのインターネット配信の影響力の強さに驚くとともに、新たなスターが誕生したことを実感しました。
演奏しながら歌ってしまうピアニストというと、今や伝説的な存在となったグレン・グールドを思い出します。もっとも、ガルシア・ガルシアのキャラクターはグールドとはほとんど正反対。明るくチャーミングな人柄は、彼の音楽にも反映されているように思います。
今回はバッハ、ショパン、モンポウ、ラフマニノフといった幅広いレパートリーを披露してくれました。流れるような前奏曲と端正なフーガの対比が鮮やかなバッハ、華麗でありながらユーモアもにじませたショパンの「猫のワルツ」、陰影に富んだモンポウの「歌と踊り」、情感豊かなラフマニノフのワルツと、それぞれにガルシア・ガルシアの魅力が発揮されていたと思います。特に印象的だったのは、彼にとっての「お国もの」であるモンポウ。1987年まで存命だった20世紀の作曲家で、繊細で詩情豊かなピアノ小品により独自の世界を築きました。モンポウやアルベニスやグラナドスなど、スペイン音楽の傑作をもっと彼のピアノで聴いてみたくなります。
それにしても、日本人の婚約者がいたとはびっくり。日本との縁が深まるのは嬉しいですね。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)