今週は先週に引き続いて、檀れいさんと水谷豊さんをゲストにお招きして、オーケストラの魅力に迫りました。指揮は「炎のマエストロ」の愛称でおなじみ、小林研一郎さんでした。
さまざまな個性を持ったプレーヤーたちが一堂に会することから、よく「オーケストラは社会の縮図」と言われますが、水谷監督の映画「太陽とボレロ」でも、オーケストラのメンバーたちがその楽器にふさわしいキャラクターで描かれています。オーボエ奏者がリードを削っている姿が映像にありましたが、いかにも職人的な気質が伝わってきます。
そんな水谷監督にとって忘れられない名曲が、映画のタイトルにもなっているラヴェルの「ボレロ」。小太鼓が延々とボレロのリズムを刻む中で、各々の楽器が順々にメロディを受け継ぎ、曲全体で大きなクレッシェンドが築かれます。マエストロいわく、「ボレロはそれぞれの楽器が自分の人生を語り尽くす」。輪廻転生にたとえて表現していたのが興味深かったですよね。
今ではラヴェルの代表作として知られる「ボレロ」ですが、曲は急場しのぎから誕生しました。親交のあるダンサーから「スペイン風のバレエ音楽を書いてほしい」と依頼されたラヴェルは、当初、スペインの作曲家アルベニスのピアノ曲「イベリア」をオーケストラ用に編曲するつもりでした。ところが諸般の事情から、バレエ初演の直前に編曲を断念し、自分のオリジナル曲を書くことになってしまいます。短期間で新曲を書けるのかと気を揉む依頼者に対して、ラヴェルは「ごく単純な譜面を考えるほかない」と言い、急いで「ボレロ」を書きあげました。
なるほどパターンの反復で曲ができているという点では単純かもしれませんが、音色の多彩な変化が豊かな表情を生み出し、退屈する瞬間はまったくありません。生前のラヴェルはこの曲がオーケストラのレパートリーに定着するとは思っていなかったそうですが、今ではラヴェルの最高の人気作となっています。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)