今回はかつて番組に出演した「神童」たちの現在の成長ぶりをご覧いただきました。大人にとって数年前の出来事はつい最近のことのように思えますが、「神童」たちはその間に大きく成長します。大人と子供の時の流れの違いを痛感せずにはいられませんでした。
チェロの上野通明さんはジュネーヴ国際音楽コンクールのチェロ部門優勝を果たした新星です。幼少期をスペインのバルセロナで過ごしただけあって、バルセロナ出身のガスパール・カサドが作曲した無伴奏チェロ組曲を演奏してくれました。カサドは作曲家であると同時に、世界的な名チェリストとして広く知られていました。ピアニストの原智恵子と結婚したこともあり、日本と縁の深い音楽家でもあります。上野さんがカサドの作品を演奏するのは必然といってもよいかもしれません。
ヴァイオリンの中野りなさんとピアノの谷昂登さんは、それぞれ7年前と6年前に番組に出演して、現在は高校生。ともに日本音楽コンクールで昨年第1位を獲得したホープです。このコンクールで脚光を浴びた若手が、何年か経った後に著名な国際コンクールで上位入賞を果たしたり、大舞台で活躍したりといったケースはよくあること。たとえば10年前の2012年ですと、ピアノ部門の第1位が反田恭平さんと務川慧悟さん、声楽部門の第1位が藤木大地さんでした。こういった結果を見るにつけ、才能ある人は着実に頭角を現すものなのだと感じます。
中野さんが演奏したのは20世紀のハンガリーを代表する作曲家、バルトークのラプソディ第1番。バルトークが「今いちばん好きな作曲家」なのだとか。いずれバルトークの協奏曲なども聴いてみたくなります。谷さんが選んだのはラフマニノフの「音の絵」第5番。「音の絵」とは不思議な題名ですが、作曲者の頭の中にはどうやら曲ごとに絵画的な情景がイメージされていたようなのです。しかし、そのイメージがどんなものかは明かされていません。谷さんの力強い演奏から、どんな絵が目に浮かんできたでしょうか。
飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)