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クセが強いのにクセナキスの音楽会

投稿日:2022年02月19日 10:30

今週は今年生誕100年を迎えた作曲家、ヤニス・クセナキスの音楽をお届けしました。クセナキスは20世紀後半を代表する作曲家のひとり。アテネ工科大学で土木工学を学び、あの有名な建築家ル・コルビュジエのもとで技師や設計士として働いたという経験の持ち主です。1958年のブリュッセル万博ではフィリップス館の設計に携わっています。従来の作曲家たちとはまったく異なるバックボーンを持ち、数学的なアイディアをもとに独創的な音楽語法を作り上げました。
 数学を駆使した曲を書いたというと、聴く人を遠ざけるような難解で冷たい音楽をイメージするかもしれないのですが、お聴きいただいたように、実際の作品はとてもハートに訴えかける力の強い音楽です。どんなに複雑なプロセスで曲が書かれていようが、どんなに難しい超絶技巧を要求しようが、聴衆の魂を揺さぶる何物かがなくては、作品が時代を超えて生き残ることは難しいでしょう。今回の3曲、「カッサンドラ」「ディクタス」「オコ」、いずれの作品にも耳を捉えて離さない強靭な生命力が宿っていました。
 ギリシャ人のクセナキスには、ギリシア神話を題材とした作品がたくさんあります。そのひとつが一曲目の「カッサンドラ」。カッサンドラは悲劇の予言者として知られています。アポロンに愛され、予言の能力を授かったにもかかわらず、求愛を拒んだことから怒りを買い、予言が決して信じてもらえない呪いをかけられてしまいます。トロイの滅亡を正しく予言したのに、だれもカッサンドラの言葉に耳を貸さず、破滅への道を歩んでしまう。よく、耳が痛いけれど正しいことを言っている人のことをカッサンドラにたとえることがありますが、真実が見えるからこその悲哀というものがあると思います。そんな切なさが、クセナキスの音楽からも感じられたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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