大越健介の報ステ後記

イモリかヤモリか
2026年09月13日

 テレビ屋として、ここはやっぱり画から入らなければならないと思います。ちなみにテレビ屋は画を「え」と読みます。業界っぽいです。
 そんな僕が皆さんにご紹介したかったのが、こちらの画です。

01

 なかなかシュールだと思いませんか。わが家の風呂場の外の窓格子には、この時期ゴーヤが茂っています。その葉の間に紛れるようにして、ピタリと磨りガラスに張り付く生き物の姿。この生き物とは…。

 こんなとき、生成AIは便利です。そして、この画をもとに調べると、すごく簡単に結論が得られました。これはヤモリと思われます。ヤモリとイモリはよく混同されますが、僕はAIのおかげで混乱を免れました。
 体長は10cm余り。大きさだけでは区別がつきませんが、お腹が白く、手足の裏(どこが手でどこが足かは別にして)は、細かな毛のようなものに覆われた複雑な構造をしていて、垂直な壁などに貼りつくことができるそうです。しかしイモリにはヤモリほどの芸当は期待できません。
 ちなみに、イモリがカエルなどと同じ両生類であり、水の中に卵を産むのに対し、ヤモリは陸上に卵を産む爬虫類です。タモリさんが昔よく物まねをしていたイグアナや、人間が噛まれたら命も危ないコブラやガラガラヘビなどの親戚です。

 ところがヤモリに毒はありません。ひたすら家に張り付いています。たまに捕食するのはハエや蚊と言った昆虫ですので、人間にとってはありがたい存在です。そう思って、ヤモリの姿を見つめると、そこには何か強い意思が宿っているように感じられてきました。窓に張り付いて、僕の家と家族を外敵から必死に守ってくれている。まさに家守(ヤモリ)の面目躍如です。
 僕はしみじみと感動してしまいました。おまけに、雨に濡れたゴーヤの緑とヤモリのお腹の白さが、降り続く雨に煙るようで、それがまた擦りガラスによって微妙なグラデーションを醸しだし、どこか印象派の絵画のようでもあります。

 それにしても、秋雨前線とはこんなに残酷な存在だったでしょうか。
「あきさめ」。美しい響きです。たおやかな秋の女神が流す「さめざめ」とした涙が、猛暑に疲れた稲や野菜に潤いを与え、豊穣をもたらす。僕はそんなイメージを抱いていました。
 しかし、容赦ない時代の波が、いや自然環境にダメージを加えてきた人間たちの罪深い営みが、秋雨前線を残忍な存在に変えてしまったようです。

 しかし、気象予報士の皆さんは、理にかなった説明をしてくださいました。そもそも秋雨前線というのは油断のならない存在で、南に高気圧や台風を従えてしまう場合などは流れ込む暖湿流によって活発化し、災難をもたらしかねないのだと。
 そして今年の秋の長雨がまさにそうです。秋雨前線は日本列島を上下しながら、ひどい雨を降らせました。「さめざめ」としずくを落とすのではなく、先日の名古屋で発生した線状降水帯のように、身もふたもないような大きな雨粒を、投げつけてよこしたのです。

 過去を辿ると、秋雨前線が猛威を振るったのは何も今年に限った話ではありません。2000年にはやはり愛知県を大雨が襲い、10人が亡くなるなどの大きな被害が出ました。でも、今年の秋雨前線は8月下旬から姿を見せ始め、去る気配を見せません。しかも獰猛(どうもう)です。

 気候変動を研究している三重大学の立花義裕教授に番組が取材すると、おおむねこんな答えが返ってきました。
 日本近海の海面水温を見ると、28度というかなり高いエリアが広がっている。温度が高くなるほど海から蒸発する水分が多くなり、さらに水蒸気は軽いので上昇しやすく、それによって積乱雲が発達して強い大雨になる。こうした現象が今年の大雨につながっているのだと。
 さらに立花教授によると、海水温が最も高くなるのは9月上旬で、日本周辺は海面水温が高い状態が続くので、こうした災害級の大雨は今後も起こりうるとのことです。

 ここ数年、ずいぶんと気象の勉強をする機会が増えたので、立花教授のお話がストンと胃の腑に落ちます。そして、もはや多言を要することはないでしょう。温暖化の影響ということになります。
 だから、脱炭素の努力を続けることは重要な意味を持ちます。各種のデータは、温暖化の進行を止めることの難しさを示していますが、地球が時間をかけて落ち着きを取り戻すような環境を作っていくのは、僕たちの世代の責務と言えます。

 とはいえ、しばらくは暴れる地球の前にひれ伏す覚悟も必要なのかもしれません。そして、精一杯、自分の身を守る備えをしなければなりません。
 妻が、わが家で備蓄している長期保存の飲み水を点検したところ、消費期限が切れていることに気づきました。ものぐさな僕にしては珍しく、「オレが買ってくる」と鋭く反応し、近くのドラッグストアに向かいました。20本でも30本でも、十分な量を確保するぞと台車まで借り、店舗の棚を見てみると、防災用品は欠品が目立ちました。小さな店なので仕方ないかと思いつつ、かろうじて残っていた2リットル入りのペットボトル7本を購入しました。
 大きな台車が身を持て余していました。僕はレジで「すみません。棚にあったのを全部買っちゃったので、補充お願いします」と小さな声で言いました。つまりは、皆さん、防災意識が高まって、こうした品の需要が高まっているのでしょう。

02

 わが家のヤモリは、風呂場の格子窓だけでなく、とうとう居間の窓にも現れました。コタローが身じろぎもせずじっと見つめたままです。風呂場の窓ではこれまでも何度か見かけたものの、ヤモリの側も危機感を持って、専守防衛の守備範囲を広げてくれたのかもしれません。困難な今の時代、大切なものを力を合わせて守っていかなければならないと、気持ちを新たにしたのでした。
 ヤモリの皆さん、ありがとう。今度はイモリのことでも書こうかな。

(2026年9月13日)

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