いささかとっ散らかった新年の決意
2025年01月11日

 この年末年始は久しぶりにゆっくり自宅で過ごし、2025年があまりに多くの不安要素に満ちていることに改めて思いを致し、ならばせめて番組で良いニュースを取り上げる際には満面の笑みを浮かべたいと鏡の前で口角をあげる練習なども行い、気分一新して新年の放送に臨んだのが1月6日だった。
 報道ステーションの放送開始をまるで待っていたかのように(そんなはずない)、真田広之さんがプロデュースした「SHOGUN 将軍」が、ゴールデングローブ賞のテレビドラマ部門をほぼ総なめにし、ハリウッドを驚かせた。同年代の僕としては、そうと知っていたら休み中にヒゲを伸ばし、髪の毛も後ろに束ねるスタイルにして、まるで真田さんがテレ朝のスタジオにいるかのようにして放送冒頭を飾ればよかったと後悔したが、ヒゲも髪も10日程度の休みでそこまで伸びるものではなく、伸びたとしても真田さんのような顔立ちには程遠く、それでもやはり良いニュースには違いないと、ぎこちなく口角をあげてスタジオで口上を述べた次第なのである。

 この世に生を受けてから新しい年を迎えるのもなんと64回目だ(ちなみに僕は満63歳だが、数えで64歳というのはこういうことかと妙に納得した)。「正月なんて毎年同じさ」などとツンとすましていればよいものを、やっぱり気合十分で新年の抱負なんてものを考え、「よし、今年はあらゆるニュースに対しガツガツと前のめりの姿勢で臨むぞ」と年甲斐もなく血気盛んに決意などしているところへ、日本製鉄によるUSスチール買収をバイデン大統領が阻止する最終判断を下したというニュースが飛び込んできた。
 民間企業同士が、相互の発展と従業員のためにと協議に協議を重ねて導き出した合意を、大統領がほぼ説明不能の政治決断で台無しにしたのである。日本製鉄はすかさずアメリカの連邦裁判所に提訴、日本製鉄の橋本英二会長は会見で、「(買収を)あきらめる理由も必要もない」と徹底抗戦の姿勢を示した。

 そうだ、それが筋というものだ。僕の心の中に、「ニッポンスチール ゴーゴーゴー!」と、かつて都市対抗野球で後楽園球場(古い)にこだましていた新日鉄時代の応援歌がよみがえり、僕はただちに経済3団体主催の賀詞交歓会の取材に向かった。さっそく経済同友会の新浪剛史代表幹事にマイクを向けると待ってましたとばかりに、「勇気が出るようなアクションですよ」と日本製鉄への連帯のエールが飛び出した。新浪さんはさらに、「アメリカの鉄鋼業はもうすでに弱いのに、そこに日本製鉄が来ることによってどれだけ強くなれるかという客観的なものの見方ができなくなっている。これ(提訴)はアメリカに対するアラート、警鐘ですよ」と喝破した。
 会場で聞くと他の企業経営者もおおむね同じ意見であり、僕にはそれが日本企業の闘争心に火が付いた証にも見え、今年の日本経済は頼もしいと我が心の中の景況指数は一気に跳ね上がったのである。

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 だが一夜明けて冷静に考えてみると、バイデン大統領が買収禁止の大統領令を出してしまった以上、これを覆すには次期大統領が「ミスター・バイデンの大統領令は無効である」という大統領令を出すしかほぼ道はなく、そもそも日本製鉄による買収に強く反対していたミスター・トランプが簡単に手のひらを返すとも思えない。いや、行動の読めないトランプ氏だからこそ、手のひら返しに期待できるということ?なんだか分からなくなってきた。

 それにしても、この1週間の言動を見るとやはりドナルド・トランプという人物は常識の範囲を越えている。彼はフロリダの大邸宅「マー・ア・ラゴ」で行った会見で、北極海に面したデンマーク領グリーンランドをアメリカが所有すべきだと主張した。安全保障上の理由だという。
 日本を真ん中に置いた横長のメルカトル図法の地図に慣れているので理解しにくいが、地球儀を回して北極から眺めると、確かにグリーンランドが地政学的な要衝であることは一目瞭然であり、不幸なことに地球温暖化で北極近辺の氷が解けていけば北極海航路の有効性は増し、資源に富んだグリーンランドの戦略的な重要性も増していく。
 しかし、だからと言ってグリーンランドがデンマークの自治領であることは間違いなく、それすら「怪しいものだ」とイチャモンをつけながら、他国の主権などどうでもよいとばかりにうそぶくトランプ氏の発言は許されるものではない。当のアメリカをはじめ西側諸国がさんざん非難してきたプーチン大統領のウクライナ侵攻の理由とどっこいどっこいだ。
 それ以外にも次期大統領は、カナダはアメリカの51番目の州だと皮肉ってみせたり、パナマ運河をアメリカに寄越せと脅してみたり、メキシコ湾という地名を「アメリカ湾」に改名すべきだと主張した挙句、「アメリカ湾…美しい呼び名だ」とひとり悦に入ってみたりと、自分がこれから手にする権力の大きさに早くもあぐらをかいているのか、逆に度を失っているのかわからないような、前代未聞の暴言ぶりである。

 この日のニュースで僕は、「このように外交上の基礎知識も、品位もへったくれもない人物がまもなくアメリカの大統領に就任するのです」とコメントしそうになり、それこそ品位のないコメントだと思い直し、「他国の主権を軽んじる発言を平然と繰り返すこの人物が、まもなく大統領に就任します」と比較的穏当なコメントにとどめることにした。
 だが、不穏当な事態は向こうからいくらでも降ってくることを覚悟しなければならない。天衣無縫と言えば聞こえはいいが、傍若無人とも荒唐無稽とも言える言動を繰り返す人物が率いる超大国と、われわれは同盟国として向き合っていかなければならないのだ。

 青森などでは重たい雪がドカドカと降り積もり、新年早々しんどい生活を余儀なくされている人が大勢いる。そして20日にトランプ氏が大統領に就任するアメリカ・ロサンゼルス周辺では、山火事が強風にあおられて猛威を振るい、約1万戸が焼失するなどの被害が出ている。家を失ったハリウッドのセレブも少なくなく、カリフォルニア州幹部が「まるで地獄の黙示録だ」と嘆く悲劇となっている。
 まったくもって世の中は悲喜こもごもだ。口角をあげて笑顔で伝えるニュースが多いことを願うが、そうばかりもいかない。我ながら血気盛んなのは結構だが、冷静にポイントを絞って伝えるというニュースの基本は変わらない。
 ことしもちゃんと身体を鍛え、時には知力も鍛え、色とりどりのニュースに向き合ってまいります。遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

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(2025年1月11日)

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