

勝ち点、という勝敗の取り決めを普段はあまり聞かないが、大学野球リーグで一般的なのが、先に2勝したチームが勝ち点1を獲得するという独特の仕組みである。「東京大学野球部100年史」によると、大正14年(1925年)に当時の五大学野球連盟に東京帝国大学(現在の東京大学)の加入が認められ、帝大はその秋からリーグ戦に正式参戦したのだが、最初のリーグ戦では法政大、立教大から勝ち点2を上げ、6大学中4位の成績を収めている。
実は、この分厚い「100年史」なんぞを本棚から引っ張り出したのは、久々の母校の勝ち点奪取にあまりに感激し、じっとしていられなくなったからである。
10日、東京六大学野球の春季リーグ戦で、東大野球部の後輩たちが、強打の法政を相手にみごと2連勝して勝ち点を挙げた。神宮球場の現場で観戦していた大学同期の仲間から、「東大優勢」のメッセージが届き、途中から慌ててライブ配信の映像を食い入るように見た。強力打線の法政に11安打を浴びながらも投手陣はよくつなぎ、打線は法政を上回る13安打を放ち、8対5の堂々の勝利だった。前日に2対1で投手戦を制したのに続く連勝だ。
「100年史」によると、東大が勝ち点を上げたのは、のちにプロ野球・日本ハムに進む宮台康平投手を擁した2017年の秋季以来のことだ。実に10年近くが経過している。つまり勝ち点を上げるということが、東大にとっていかに至難の業かが分かる。
東京六大学野球は6校による総当たり戦で、獲得した勝ち点で順位が決まり、勝ち点が同じ場合のみ勝率が適用される。対戦相手の5校全てで勝ち点5、つまり10勝を挙げれば完全優勝だ。
同カードで2勝しなければならないこの勝ち点制は、いわば「まぐれ」による勝ちに冷たい制度でもある。野球とは偶然に左右されるスポーツであり、例えば高校野球の夏の地方大会でも、優勝候補筆頭とわれる強豪が、実力的には下の高校にあっさりと敗退し、甲子園の切符を逃すということが珍しくない。
それは六大学野球でも同じであり、そうそうたるメンバーを揃える他の5校を相手に、野球経験の点で隔たりがある東大がさらりと勝利することは、実は珍しいことではない。だが2勝して勝ち点を奪うとなるとかなり難しい。逆に言えば今年の東大は、まぐれと言わせない、しっかりとした実力が備わっていることを証明したことになる。
プレーぶりを見ると確かに堂々としていた。僕は春季リーグ開幕戦を観戦したのだが、その時も昨秋の王者・明治大を相手に互角に戦った。結果は2対3の惜敗だったが、すでにこの時点で今季の躍進を予感させるものがあった。
選手たちの努力のたまものであることは間違いない。開幕戦を観戦した際、東大の打撃コーチと球場で出くわした。東大打撃陣のバットスイングの鋭さに感心しきりの僕に対し、コーチは「選手たちは本当によくバットを振りました。感無量ですよ」と答えてくれた。適切なアドバイスに基づく地道な素振りを数多くこなしたことが、今季の打撃につながっている。
そして、もうひとつの力となっているのが、データ・サイエンスを駆使した分析力の強みである。ITが苦手な僕には多くを語ることはできないが、相手の投打の特徴をつかみ、戦略に役立てるだけでなく、個々の選手の技量向上にも大いに役立っているということだ。東大の得意分野といったところか。
実際、投手力の面で見ると、従来であればエースの連投あってこその勝ち点というケースが多かったのが、今回は複数の投手による継投でかなり良い勝負ができており、法政相手に勝ち点を取ったこの日も、短い回のリレーで何とか競り勝つことができた。140キロや150キロといった破格のスピードを出す投手はいないが、得意の変化球を軸に、マウンドを任せることができる投手が複数、活躍した。このあたりは東大投手陣の長足の進歩と言える。
さて、こうなると大いに勇気づけられるのが、僕自身の投球である。
ご存じない方も多いと思うので厚かましく申し上げるが、僕は「報道ステーション」のある種「規格外」な企画に挑戦し続けている。「大越健介130キロへの道」と題し、還暦を越した東大の元投手が、球速130キロのボールを投げるために挑戦を続ける、という無謀な企画だ。
無謀であることは実際の数字が裏付けていて、足掛け3年になるこの企画で、いくら投げても球速は100キロ前後を行ったり来たりである。バッティング・センターで経験したことのある人ならお分かりだろうが、130キロというのはかなりの剛速球に感じられるスピードなのだ。
スタッフの中からは、あまりのハードルの高さゆえ、せめてタイトルから130という数字を降ろし、「還暦過ぎても野球やろうぜ!」とか、穏便なものに変えたらどうかという声がくすぶっている(ような気がする)。一方で妻からは、「掲げた目標を降ろすのは許さないわよ!」と叱咤され、僕はそのはざまで苦しむ毎日なのである。
しかし、あくまで僕はどん欲だ。今回相談したのは、馬見塚尚孝さんというスポーツ整形の専門医である。とりわけ肩、ヒジをはじめとする野球特有の故障の治療や防止に詳しく、その界隈で彼を知らぬ人はいない。その馬見塚医師も、僕の挑戦に関心を持ってくれた。
馬見塚医師のもとでしっかり動作解析をしてもらうと、なんと僕の体力、とりわけ下半身の強さは高校生や大学生と比べてもあまり見劣りしないらしい。最大の問題は上半身の使い方だ。改めて僕の投球フォームを動画で見ると、まるで上半身という一枚の岩をパタンと折りたたむような淡白さであり、まとまってはいるがダイナミックさに欠ける。
そこを補うには、上半身の「捻転」の力、つまり「ねじり」を解き放つ力を使うことなのだと馬見塚医師は指摘した。
大谷翔平選手が去年、投手として復帰した際、フォームに変化があったことをご記憶の人もいるだろう。左足を上げて踏み出す動作とともに、少し左肩を上げ気味にして、左上を仰ぎ見るような姿勢をとっている。馬見塚医師の指摘をもとにした僕の解釈によると、これはボールのリリースの際により力が加わるように、捻転の準備動作をしているのだ。
そこに気が付いて以降、僕の日ごろのトレーニングやシャドー・ピッチングのあり方が変わった。上半身の捻転こそ大事だ。しかしそれを受け止めるだけの体幹の強さと柔らかさも必要だ。あれこれ考えると、やることが山積みである。しかし、年齢も年齢であり、無理を重ねてもかえって逆効果ということもあり、そのバランスをどうとるかが難しい。
馬見塚医師はこれからもアドバイスをくれるという。足掛け3年、僕は足踏みをしながらも、自分の限界に挑戦できることの幸せを感じている。おそらく、後輩の現役選手諸君がそうであるように。
今月23日、24日には、東大の春季最終カード、立教戦が組まれている。ここで勝ち点を取れば、最下位脱出はおろか、4位以上に浮上することも可能性としては残っている。
筋肉痛の身体を引きずってでも、この立教戦は神宮に応援に駆け付けよう。
(2026年5月10日)

