大越健介の報ステ後記

僕らは不機嫌な地球と生きている
2026年08月15日

 「降れば土砂降り」。高校生の時、英語の慣用句を教わった。When it rains, it pours.
その短文が口をついて出た自分に少々驚いた。若い頃に覚えたことは忘れないらしい。そんなことを頭の片方で考えながら、14日金曜日の夕刻、その夜の番組の打ち合わせ会議に出ていた。それにしても千葉県を襲った前日の豪雨はすさまじかった。近年、ちょうど良い「にわか雨」とか「お湿り」いうものを、あまり経験したことがない。
 まさに、降れば土砂降り。それもゲリラのように過激に、途方もなく。

 そもそもこの週は、東の海上から台風がやって来るという異例の雲行きから始まった。そして11日火曜日午後8時頃、台風15号が茨城県に上陸した。統計開始以降初めてのことだ。広い強風域を持つ台風で、栃木の宇都宮駅前では高さ10メートルはあろうという大木が、根元に近い幹からぽっきりと折れてしまった。カメラマンが急きょ駆けつけ、番組の冒頭は現場の中継映像から入ることにした。

 この台風は中心が過ぎてから後に強風が襲ってくるケースが多かった。東からやって来た変わり者だけに、警戒の仕方も一筋縄ではいかないということか。宇都宮駅前だけでなく、関東各地で倒木が相次いだ。
 デスクのひとりが、「いつもと逆方向から強風が吹いたからじゃないか」と素朴な問いを発していたが、意外と的を射ているらしい。木は風に頻繁にさらされる方向に抗うように根を張るが、不意を突かれると弱い。そこに猛暑続きの影響で、幹の中心部が劣化してしまうという事態が重なったのではという樹木医の見方もある。

 ただでさえ災害の多い日本列島だが、地球が不機嫌にため込んだエネルギーが思わぬ方向に発散され、その都度列島を翻ろうする。
 そして木曜の夜がやって来た。この日の夕方の段階で、気象担当のデスクから、千葉県の北西部にかなりまとまった雨が降る可能性があるとの指摘はなされていた。午後の段階からすでに、埼玉などでもゲリラ豪雨が相次いでいた。

 気を引き締めなければと思った矢先、千葉県北西部にレベル5大雨特別警報が発表された。報道フロアが騒然となった。
 レベル5とは、すでに浸水や河川の氾濫といった被害が起きていてもおかしくないことを意味する。千葉市や船橋市、市川市、柏市、松戸市などなど、関東の大都市圏が対象に含まれている。
 そうこうするうちに、千葉県の各地に1時間に100ミリを超えるような「記録的短時間大雨情報」が次々と発出された。テレビ各社の画面は速報の連続で大変なことになっている。そしてとうとう線状降水帯の発生が発表され、我々の番組の放送時間帯に突入したのである。緊張の中でのスタジオ展開となった。

 大雨特別警報が発出された千葉県内の市や町は、放送時間帯中も時間を追って増えていった。その市町を黒っぽい色でマークした千葉県の地図を見ながら思った。千葉県はチーバくんという、千葉県地図の形を犬のように見立てた公式マスコットキャラクターがある。大雨特別警報で、身体の顔から胴体の部分が黒く侵されたチーバくんはあまりに痛々しい。県のほぼ全域を襲った豪雨のむごさを思った。

 この日は伝えるべきニュースが多かった。ロシアのプーチン大統領が北方領土を訪問し、ウクライナを支援する日本を強くけん制した。人口規模で日本最大の市である横浜市の山中市長のパワハラ問題を、第三者委員会が「極めて深刻」と認定する事態となった。
 一方で、今起きている災害をしっかり伝えることはテレビ報道の最大の使命である。北方領土や横浜のニュースはコンパクトにとどめ、最新の映像を取り込んだ豪雨災害の現状を大きく伝えた。

 一夜明けた金曜日。都市を襲った豪雨特有の爪痕が次々と明らかになってきた。幹線道路や生活道路に、何台もの車が水に浸かって動けなくなっていた。豪雨の犠牲者のうち、少なくとも4人は車の中に閉じ込められての死亡であり、都市災害と車という課題が顕在化した。
 そして、おそらく地球温暖化が進んだ結果として、台風がより頻繁に、様々な場所で発生するようになったことは見逃せない。過ぎ去った台風15号はなお雨雲を残し、太平洋高気圧と新たな台風17号がエネルギーの供給源となり、湿った東風を吹かせた。台風や、台風から変わった低気圧、寒冷渦などを含め、日本列島の周辺に複数の巨大な風の渦ができ、互いに作用しあう現象は、精度を増した気象観測とはいえ分析と予測は簡単ではない。

 そういう時代に入ったということだ。僕らは不機嫌な地球と共に生きざるを得ない。
「降れば土砂降り」。英語でいうところのこのフレーズは、悪いことは立て続けに起きるものだ、という意味を持つという。確かに、このひと月足らずの間にも、熊本地震が起きたかと思えば今回の豪雨だ。いずれも多くの犠牲者を数え、おびただしい数の人の生活を奪った。

 だが、人間には復元力がある。今回の地震で再びダメージを受けた熊本城が、13日に公開を再開した。雄々しい名城はいまだに10年前の地震からの修復途中にあるが、熊本のシンボルとして堂々とそこに立つ。
 また、14日には地震で途絶していた九州自動車道が通行可能となった。当面は一部区間で片側一車線での運用となるが、この地域を車で行き来する人たちにとっては大きな朗報である。17日で開通に漕ぎつけた技術者たちの執念を思う。

 そうした中で、映像を最大の強みとするわれわれテレビ報道の役割は大きい。いま、スマホや防犯カメラによる映像がSNS上にあふれ、社会の重要な情報リソースとなっている。一方でそうしたSNS情報ですら、われわれテレビはその真偽を見極めつつ、的確に集約して人々に伝える力に優れている。
 ましてや、腕利きのディレクターやカメラマンが切り取って来る事実の重みは、なお他のメディアを圧するものがある。困難を乗り越える人間のレジリエンスを、確かな現場取材によってこれからも伝えていきたい。

(2026年8月15日)

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