晩秋あれこれ
2022年11月23日

 夏野菜と言われるものの中にあって、ピーマンは長距離ランナーのエースと言ってもいいのではないか。家庭菜園歴30年近くを誇るこの僕にして、中身が空洞の、このひょうひょうとした感のある緑の野菜は、毎年、驚きの対象である。
 11月も下旬に差し掛かるというのに、春先に植えた苗は、なおもがんばって枝を伸ばし、実をつける。

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 実はこのピーマン、苗を買ったときには「シシトウ」という札がつけられていた。大型連休のころに2株を植え、梅雨明けのころ、身をつけはじめたシシトウをせっせと採っては(ずいぶん丸みを帯びたシシトウだと思ったが)炒めたり、煮びたしにしたりと重宝していた。
 ある日、葉っぱの陰に「採り忘れ物件」を見つけた。ところが、これが実に巨大でツヤツヤとしていて、緑鮮やかであった。その日から、これはシシトウであるという認識を改めた。以来、2株はピーマンに昇格(?)することとなり、シシトウサイズでもぎ取られることは、もはやなくなった。

 その成り上がりピーマンも、だんだん終わりに近づいている。草勢は衰えてきた。このまま萎れてしまうのも残念ながら時間の問題だ。小さくとも実は収穫するようにした。写真のピーマンが大小取り混ざっているのはそのためである。元気者のこの夏野菜ですら、ひたひたと近づいてくる冬の前にはその役割が終わることを自覚している。

 最近、気象予報士の眞家泉さんから、番組本番の気象コーナー中にクイズを出題されることが増えた。イチョウの黄色が鮮やかなこの季節、「イチョウという言葉の語源を知っていますか?」と質問が来た。絶句してしまった。
 「大越さん、ほら、この形!」とヒントをくれたので、ひょっとしてこれは蝶の形に似ているのではと思い至り、「ちょ・・・、ちょうちょ。いちょうちょ、ですね!」などと、苦し紛れの回答をした。すると眞家さんは優しい眼差しで正答を教えてくれた。「イチョウはカモの脚の水かきに似ていますよね。中国語で鴨脚と書いて『イーチャオ』、それが語源です!」って、眞家さん、それを正解しろというのは酷です。

 悔しくて、数日後、本当にカモの水かきに似ているかどうかを確認しようと思い、神宮外苑のイチョウ並木を見に行った。

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 案の定、黄色く染まったイチョウの葉っぱを手に取ってみると、それはカモの水かきに似ていた。「イーチャオ・・・」と僕はむなしくつぶやいた。
 外国人観光客がしきりにカメラに収めていた。自然の造形と、剪定にあたる職人技の絶妙のコンビネーションと言っていいのだろう。枯れゆく前の一瞬の輝き。それは次の若葉への長いバトンタッチへの始まりだ。

 若い頃は春が好きだった。何もかもがエネルギッシュに感じられたからだ。新潟で育ったせいもあり、厳しい冬に向かう秋は好きではなかった。
 先週11月15日、新潟市の中学1年生だった横田めぐみさんが拉致されてから、ちょうど45年が経った。同じころ、僕も近くの高校の1年だった。ただそれだけの理由で、僕は朝から新潟の海岸に出かけた。

新潟

 久々に見る11月の日本海は、思いのほか穏やかだった。空からは太陽がのぞいていた。それでも、この季節の日本海は青を映し出すのが苦手なのだろう。悲しげな鉛色の海原が広がっている。
 拉致されためぐみさんは、この海岸のどこかで小舟に押し込められ、連れ去られた。どれほど怖かっただろう。異形の国での生活はどれほど困難を極めただろう。そして、両親からも友だちからも引き離された日々は、どれほどつらかっただろう。

 3日後、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル「火星17」を発射した。後日、その成功を誇示するかのような映像が公開された。この映像には、キム・ジョンウン総書記と、驚くべきことに、実験現場に同行したとされる少女の姿があった。
 怒りが沸いた。最高指導者よ、あなたにもその年ごろの娘さんがいるのであれば、奪い取られた親の気持ちが想像できないはずはない。なのに、なぜ拉致事件を放置できるのか。知らないわけがない。亡くなった横田滋さんの涙を。老いてゆくからだを引きずるようにして「娘を返してほしい」と訴え続ける横田早紀江さんの姿を。

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 何かと心が乱れる晩秋である。
 齢を重ねてからは秋が好きになった。東京は新潟ほど冬が厳しくないからかもしれない。実りをもたらし、やがて葉を散らしていくこの季節の風情に、年齢の方が近づいていく。
 だが、世情はあまりにも厳しい。北朝鮮、ウクライナ。いずれも予断を許さない。G20などの外交ウィークの中で、米中や日中の首脳が久々に対面で会談し、互いの呼吸を知り合ったことが、救いになればいいのだが。
 さあ、きょうもしっかり伝えなければ。大きく深呼吸し、スタジオに入る日々である。

(2022年11月21日)

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