雑いなあ
2026年06月06日

 「雑いなあ」。本田圭佑さん流に言えばそうなる。
 サッカー元日本代表の本田さんが「雑い」と表現したのは、たしか4年前のワールドカップの試合での、あるパス回しの場面。ちょっとプレーが乱雑になったところだった。新語ではあるが意味はよく分かった。

 高市首相が率いる自民党のやり方は、しばしばこの「雑い」感じになる。トップダウン型の政治とは、スピーディーに物ごとが進む一方で、そうした性質を帯びやすいものなのだろう。
 例えば、飲食料品の消費税を現在の8%から0%にするという、高市首相の「悲願」の実現について。その道筋はかなり荒っぽい。

 この冬の衆議院選挙で高市首相が打ち出した時の説明は、突然ではあったがかろうじて辻褄が合っていた。首相は「給付付き税額控除」という、中低所得者に手厚い新たな減税措置を導入したいと言った。ただ制度設計に時間がかかるので、それまでの「つなぎ」の減税が必要。そこで2年間に限り、飲食料品の消費税を0%にするというのが説明の中身だった。そして選挙で圧勝すると高市首相は、与野党横断で有識者も交えた「社会保障国民会議」なるものを設けて、実現に向けた協議を委ねた。

 だが、高市首相から「0%実施は来年度から」とハッパをかけられ、政府・自民党はいろいろとしびれを切らし始めた。その象徴的な現象が、飲食料品の消費税率を0%でなく1%にしたら良いという声の高まりだ。システム大手によると、レジの改修にあたって、1%にするのは半年程度でできるが、0%だと1年くらいかかるという。税率「ゼロ」という新しい区分を既存のシステムに組み込み、税務上の処理と整合性を取る作業が、想像以上に複雑なようだ。それでは来年からの実施に間に合わない。だからこの際、100点満点ではないけれど、税率1%で手を打ちましょう、という具合である。

 「雑い」のではないか。0%へのレジの改修に時間がかかるなんてビックリだ、というのでは、まるで素人集団ではないか。あなた方はこの0%を、速やかに実現すると選挙戦で訴えたのではなかったか。
 もっとも首相は、システム変更に時間がかかることに以前から不満を抱いていたようで、直近の国会答弁でも、「税率すら柔軟に変えられないレジ・システムだということは情けない」と突き放し、「日本として恥ずかしいですね」と切って捨てた。
 だが、これもいかがなものか。システム各社からすれば、自分の意に沿わないからと鞭打つかのような言い方をされては、立つ瀬がない。

 「雑い」のは税率の問題だけではなく、物ごとの運び方もそうだ。社会保障国民会議に名を連ねる野党幹部は、そんなの聞いてないと怒り心頭だ。国民民主党の古川代表代行は、「政府で方向が決まっているのならさっさと法案として国会に出してくれ。この会議をやっている意味がない」とぶちまけた。大事な税の問題だからと与野党横断のたいそうな座組を設けながら、根回しも気配りも足りていない。いったいこの国民会議、どこに行くのだろう。

 社会保障の安定財源を切り崩す消費税減税の問題は、まだまだ突っ込みどころは多いのだが、他にもいろいろと「雑い」ことが目立つ。
 鈴木幹事長は4日、自民党政治制度改革本部の会合で、衆議院の議員定数の1割削減を今国会で実現するために、党内の意見を取りまとめるよう、高市総理から伝えられたことを明らかにした。具体的には比例代表を45議席削減する方向だという。

 このこと自体は驚きではない。去年秋の高市政権の発足にあたって、高市首相が日本維新の会との連立を実現するために、維新側の要求を飲みこんだ経緯があるからだ。だが「身を切る改革が必要」という維新の気概は理解できるものの、1割の根拠などはあいまいだ。
 そして高市首相は、国会も最終盤に差しかかったこの時期に、「今国会で法案成立を」とボールを投げ込んできた。自民党内でこの定数削減に心底共感している議員を僕は知らない。比例代表のみで削減するというやり方も、少数政党にとっては死活問題だ。与党の都合だけで、短期間のうちに野党を含めた議論に巻き込んでいくことは困難、というより無理筋に近い。

 そして、「国旗損壊罪」を創設する法案。自民党は大筋で了承しており、維新との調整を終え次第、議員立法として国会に提出する段取りだ。
 われわれが外国の国旗を損壊した場合、刑法の規定により罪に問われる可能性がある。その国との友好を損ない、外交関係に支障を生じさせるからだ。だが、日本国旗を損傷してもこれを罰する法律はない。それはおかしいというのが高市首相の年来の主張だった。

 だがこの法案、どうもモヤモヤしたものを感じる。国民民主党の玉木代表は「誰が罪に問われるのか、何が罪に問われるというのが極めてあいまい」と、かなり旗幟鮮明に懸念を表明した。
 自民党がまとめた法案の原案では、「国旗を大切に思う国民感情を保護する」と立法目的をうたっている。うーん。例えば僕は国旗を大切に思っているが、別に国家にその感情を保護してほしいなんて思わないけどな。
 そして、罪に問われるのは「人に著しく不快な感情を与えるような方法によって公然と国旗を棄損した場合」だとしている。

 これが玉木代表の言う「極めてあいまい」な部分であり、「雑い」ところでもある。番組で取材した刑法の専門家・桃山学院大学の江藤隆之教授は、「刑罰とは国家権力の最も強い行使。どの行為が刑罰の対象となるのかは、あらかじめ明確にされていなければならない」とした上で、「『不快な方法』という基準が不明確。国旗の扱いで何を不快に感じるかは人によって違う」と指摘した。

 自民党の説明では、例えばお子様ランチについてくる日の丸を棄損しても罪に当たらないとか、悪意のない日常的な廃棄は対象外だと言いたいのだろうが、具体的な説明を試みようとする姿勢はうかがえるものの、思想信条の自由や表現の自由に関わる問題について、罪かそうではないかを分類するのは難しい。

 ここまで書きながら、興味深いことに気づいた。
 今回のコラムでは、消費税率をめぐる論議のあり方、衆院定数削減、国旗損壊罪の創設の3つについて触れてきたが、これまで政権とは是々非々の態度を取ってきた国民民主党が、まだ断言はできないにせよ、自民党のやり方をかなり冷ややかに見ていることが分かる。

 政治の世界では、たとえ雑い部分があっても、時には腕力で引っ張っていかなければならない局面はある。だが、丁寧な付き合いを怠ると、友だちを失ったり、友だちの顔ぶれが変わったりして苦労することもある。高市さん、いま要注意の時ではないだろうか。

(2026年6月6日)

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