小川彩佳-番組公式ブログ

「知らない」ことを知る
2015年11月20日

「知らない」ということは、こういうことなのか、と。
それは新鮮であると同時に、ぞっとする経験でもありました。

月曜日、ある女の子に会ってきました。

ナビラさん

ナビラ・レフマンさん。11歳のパキスタン人です。
イスラム過激派組織、パキスタン・タリバン運動が活動拠点とする地域に住んでいた3年前、
彼女はアメリカの無人機による空爆を受けて、大切なおばあちゃんを亡くしました。

パリでのテロを受けて連日空爆のニュースを見聞きしますよね。
過激派組織のメンバーが殺害された、という情報も入ってきます。
でも、その巻き添えになって亡くなる無実の人々がいるということは、
ほとんど伝えられることがありません。
テロとの戦いという名のもとの空爆の影に隠れた哀しい現実を訴えるために、
ナビラさんはお父さんと共に、日本の中東研究者の招聘を受けて来日。
私達はそんな彼女にインタビューをさせていただき、昨日、番組で放送したんです。
ご覧下さった方もいらっしゃるかもしれませんね。

ナビラさんと

私達取材班が、彼女と彼女のお父さんや関係者と待ち合わせをしたのは、
表参道の交差点。
繊細な花模様があしらわれた黒いベルベットの装束に包まれ、
初めての環境に肩をすぼめながら立ちすくむ彼女。
目が合うと、ヘーゼルナッツ色の魅惑的な瞳に吸い込まれそうになりました。

初めての人に出会ったら、まず、あいさつ、ですよね。

彼女の故郷はアフガニスタンとの国境付近の部族地域。
パキスタンの公用語であるウルドゥー語とまた違った、特殊な言語、パシュトゥ語を話します。
覚えたてのパシュトゥ語のこんにちはを口にしながら、思わず右手が動くんですが・・・

あれ・・・。イスラム教って、握手を求めてもいいんだっけ。
右手で大丈夫なのかな・・・左手は?
男性はオーケーでも、女性はダメってパターンもあるような・・・。
地域によっても違うというし・・・。

うーーーーーーーーん。

物凄いスピードで脳内会議が繰り広げられ、
結果差し出そうとした右手を、いったん引っ込めることに。
代わりに、握手分の「よろしくね」をたっぷり込めた最大限の微笑みを送ってみると、
少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、笑顔をかえしてくれました。

よかったぁ・・・

その笑みひとつで、心底ホッと・・・安堵感が胸いっぱいに広がります。

表参道の街をお父さんと一緒に歩いてもらったあと、
ちょっとお話をしてみることに。

表参道

共通して喋る事ができる言語がないので、通訳さんを介して会話です。
まずはあいさつ代わりに、「東京の街を歩いてみて、どう?」と聞いて、
あいさつ代わりの「きれいですね」というような一言を待っていると、
開口一番彼女が繰り出したのは、こんな言葉でした。

「ここにはいつも空を飛んでいるドローンがない。
それが何よりも、嬉しい」

いきなり「ドローン」という言葉が出てくるとは思わず、電撃が走りました。
いかに彼女が日々、24時間空を飛び続ける無人偵察機に怯えながら、
暮らしているかが伝わってくるようです。

何かおもしろかったものや、目に留まったものはある?と聞いてみると、
彼女が挙げたのは、
ディスプレイされたばかりの大きなクリスマスツリー。
「こんなにきれいに刈り込まれて形を整えられた木なんてみたことがないから、びっくりした」
水がわき出るモダンな噴水。
「びっくりするくらい水が透き通っていて、どんどん流れてくるの。
この機械、どんな仕組みになっているのかなって」
そして、私が履いていたハイヒールパンプス。
「こんな靴、見るのは初めて。よく歩けるね。最初は練習したの?」
履いてみる?と、靴を脱いで彼女の前に置くと、恐る恐る足を入れて・・・

ハイヒール

「やっぱりムリ!」と恥ずかしそうに、もともと履いていたビジュー付きのサンダルに、
足を戻します。そして、こんな風にも語ってくれました。
「こういう靴が履けるのはいいね。私の住んでいるところでは履けないもの。
日本みたいな綺麗な道がないから、かかとが土に埋まっちゃう」

ナビラさんが今住んでいるのは、故郷から離れたパキスタン国内の緩衝地帯。
仮設の小屋には、トイレもないそうです。
外では怖くて遊べない。学校にも行けない。
爆発音がするたびに恐怖に震えて、
いつも不安でいっぱいになりながら、空を見上げる。
楽しみは、家で教科書を読むこと。

帰りに、すっかり日常の一部になっているハイヒールをぼんやり眺めながら、改めて考えました。
ムスリム女性のこと。
そして、紛争と隣り合わせで暮らすということ。
知らないことばかりでした。
もしかしたら「知ろうとする」こと以前に、
「知らない」という事実からも、どこか無意識に目を背けようとしていたのかもしれません。

「知らない」ということを知ることから、はじめたいです。
彼女の証言をぜひ、聞いてください。
https://www.tv-asahi.co.jp/dap/bangumi/hst/feature/detail.php?news_id=44189

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