のどかで、静かで、
収穫のころを告げる黄金色のじゅうたんが一面に広がった、
優しい田園風景だったはずです。
変わり果てた景色。
地上を照らす太陽の明るく、力強い光が、
目に肌に心に沁みて。
先週まで気持ちよく風にそよいでいたのでしょう。
うなだれるように頭を垂れたまま根っこからなぎ倒されて、灰色の泥をかぶった稲穂が
あまりに痛々しく、胸が締め付けられます。
週末、茨城県常総市を訪れました。
鬼怒川の決壊から3日目のその日、住民の皆さんは家の片づけなどにちょうど手を付け始めたころ。
決壊現場のすぐそばの家は、流されひっくりかえってしまっていたり、
隆起・陥没したアスファルトに揺すられ大きく傾いていたり。
水は引いたものの、敷地内に押し寄せた泥が大量に居座っていたり。
「どこから手を付けていいのか・・・困っちゃいますね」と途方に暮れながらも、
「でも、家族全員無事でよかった。それが何よりで」
家の中から運び出した畳を乾かしながら、微笑んでそう言ったお母さん。
みなさん、手伝いに訪れた親戚や友人とともに、
近所の人たちと助け合いながら懸命に、泥かきなどの作業に追われています。
* * *
被害は、驚くほど広範囲でした。
車を走らせていると、「こんなところにまで・・・?」と、
思いもよらない地区にまで浸水が及んでいます。
このあたりは、決壊現場からかなり南、鬼怒川から2、3キロ離れた場所。
まだ水が引いていないお宅もあります。
こちらのお宅では、胸のあたりまできていた水がこの日の夕方、ようやく引いたそう。
水害に備え、貯蔵庫に仕舞ったはずの刈り取ったばかりのお米が、
破れた袋からそこら中に散乱しています。
農機具もひっくりかえって、破損し、台無しに。
「地震も津波もないのに、水の力だけでこんなことになるんだな・・・」と、
兼業農家のご主人は呆然としながら、「参ったな」と、ぽつり。
「この窓の外は、麦畑だったんだよ。池みたいになっちゃった。
こんなところまで、水が来るなんてね。川からはうんと離れているのに」
家の中から外を眺めながら大きなため息をつくご主人の息子さん。
でも、行間を漂う空気の密度を振り切るように、笑顔で言います。
「自然が相手なんだよな。こうなっちゃったものは仕方がないよね」
* * *
帰りに、真っ赤なザリガニに出会いました。
大きく揚げたまま、両脚を下ろそうとはしなかった、小さな小さなザリガニくん。
「生活再建」という4文字の前に、立ちすくんでしまいそうな現場でしたが、
懸命に前を向こうとする住民の皆さんの姿と少し、重なるような。
本当の喪失感、先行きへの不安が襲ってくるのは、
がむしゃらに作業に没頭する今ではなく、
おそらくちょっと一息ついて立ち止まったとき。
これからなのかもしれません。
沢山のニュースが次から次へと往来する日々ですが、
長期戦に及ぶであろう被災された方々の再起への歩みを、
しっかりと、じっくりと追い続けたいです。