この世界の片隅に
2016年12月22日

先日、映画「この世界の片隅に」の特集を放送しました。
こちらでご覧いただくことができます!)

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舞台挨拶にて。こっそり、ぱしゃり。

ヒットの勢いがとどまることを知らないこの作品。
皆さんはご覧になったでしょうか?

映画は大好きで、これまで様々な作品を観てきた自信はあるのですが、
この映画を観終わった時、初めて覚えるような感覚にとらわれました。
感動でも衝撃でもなく、ただただ、「気持ちの整理がつかない」という感覚。
どう捉えていいのかわからない、でも心深くに刻まれるものがあったんです。

なんだろう。この感じは。
でも、この映画の取材を進め、片淵監督のお話を伺う中で、
だんだんと、わかってきました。
この感覚のワケが。

映画では、広島の呉に嫁いだのんびり屋さんのすずという女性を中心に
営まれる戦時下の「ふつう」のひとたちの暮らしが、淡々と、ゆったりと、描かれています。

観ていると、この時点で、ちょっとした違和感と、不思議な親近感が、心に生まれています。

戦時下の人たちって、こんな風に描かれていた思うんです。
苦しそうだったり。一生懸命笑顔でいようとしたり。「お国のために」ともがいたり…。
そんな姿が、どこかステレオタイプのように、心の中にある。

そして突然、空爆があったり、爆撃があったりして、
一瞬にして日常がさらわれていく。
そんな描写を、「戦争映画」なるもので、幾度となく観てきた気がします。

でも、すずさんをはじめ、この映画に登場するひとたちは、ちょっと違うんですよね。
のんびりしていて。いろんな楽しい想像を巡らしたりして。
「あれが大和、あれが武蔵よ」「わぁ」なんて、戦艦を指さしてみたりして。
ご近所さんたちが日課みたいに痴話げんかしちゃったりして。
今日はこんなことがあったんだよって、食卓を囲んで自然に笑いあったりして。

今の私たちと、何ら変わらない。
「戦時下の人たち」と、「私たち」を、
「あの世界」と、「この世界」というように、
無意識に分けてしまっていたんだなと、気づかされます。

でもそんな、いわば地続きの、同じ「この世界」を生きるすずさんたちに、
少しずつ「あの日」が近づいてきます。
そして本当に少しずつ少しずつ、戦争が侵食していく。
「一瞬にして奪われる」のではなく、じわじわとやってきて、
気づいた時には、日常のきらめきが奪われている。
すずさんたちが自分と何も変わらないと感じ、
当時を一緒に生きている気持ちにさせられるからこそ、
その恐ろしさを、映画の中で身に染みて「追体験」するんです。
これまで観てきた、戦争を描いた映画での感覚は、
こうして生まれたんだな、と感じます。

そしてその感覚をおぼえさせられるのは、
特集でも放送したように、
徹底したリアリティのなせる業です。

これからどんどん戦争体験者は少なくなっていく。
いつか、必ずいなくなる。
そうした中、先の戦争をどう語り継いでいくのか。
インタビューの中で、片淵監督は、体験者の話を聞いて、
「戦争はいけない」という主観的なメッセージを語り継いでいく、というだけでなく、
当時の生活、天気、風景、そうしたものを徹底的に調べ上げることによって、
「客観的にその時代を捕まえなおす」ことが必要なのでは、とおっしゃいました。
そうすることによって初めて、リアルに「その中を歩く」「追体験する」ことができ、
そのうえで個々が「考える」。
そうして先の戦争を自分のものとして感じ、捉えることができるのではないか、と。

語り継いでいくためのこのアプローチ。
目からうろこ、でした。

こうしたアプローチ、
そして監督をはじめ、作品づくりにかかわった多くの方々の思いが凝縮され、
派手さはなくとも、これほどまでに「迫ってくる」作品となったんですね。

この感覚。
まだご覧になっていない方は、ぜひ、体験してみてください。

さて。
今年も残りあとわずか。
2016年は本当に、いろいろなことがありましたね。

熊本地震。
イギリス国民がEU離脱を選択。
オバマ大統領の広島訪問。
小池東京都知事誕生。
SMAP解散発表。
朴大統領の弾劾。
トランプ氏が大統領に選出。

身の回りでも、
古舘キャスターが卒業し、
番組がリニューアルされ、
引き続き私はサブキャスターを担当するなんて…

1年前にはなにひとつ、想像できませんでした。
何があるか、わからないものですね。
一歩先もわからない未来が視線の向こうに広がっていると思うと、
ちょっとこわいような、
同時にわくわく、心躍るような。

そして改めて、世界の片隅の「ふつう」の毎日を、
抱きしめたくなります。

映画「この世界の片隅に」は、
戦争を描いた映画ではありますが、戦争が主題ではありません。
逆説的に痛感するのは、
日常の愛おしさ。ふつうであることの、輝き。

明日、どんなことが待っているかわからない分、
今日を思いっきり、大切に生きたいですね。

本日は、「報道ステーション」今年最後の放送です。
今年も平日の夜に、皆さんにお目にかかれてうれしかったです。
本当に、有難うございました!

2017年はどんな年になるかな。

メリー・クリスマス。
そして、一足早く、よいお年を!

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