1200年前、ここにはどんな風が吹いていて、どんな景色が広がっていたんだろう・・・
先週末は、和歌山県の高野山から番組全体を中継でお伝えしました。
816年に弘法大師空海が開いた、日本仏教の聖地。
その金堂の御本尊が1200年で初めて御開帳という記念すべき年に、
まさに金堂の中からもお届けした、貴重で、なんとも贅沢な中継でした。
ゲストコメンテーターはアフロヘアがインパクト大、
独特の表現で「仏の境地」に近づいた経験を語ってくださった、朝日新聞編集委員の稲垣えみ子さん。
根本大塔からはサックスプレーヤーの矢野沙織さんの生演奏もありました。
残念ながら、飛行機の席がゴールデンウィークのさなか取りにくかったり
山火事が発生していて道が渋滞していたりで、
高野山に到着したのは中継の日の夕方4時半ごろ。
ゆっくり見て回る時間がなかったのですが、
打ち合わせの時間まで30分だけあったので、
せっかく来たのだからちょっと散策を・・・とぶらぶら。
控室としていた宿坊を出たはいいものの・・・
地図を見ても、限られた時間でどこに行くべきか、
やはり知識がないので判断できないんですよね。
どうしようかなぁと思っていたら、ふと目に留まったのが、
大勢見かける僧侶たちの中で珍しい、女性のお坊さん。
40代くらいでしょうか、小柄でちゃきっとした笑顔を浮かべています。
お!お坊さんが勧めてくださるところなら、間違いないのでは!
ということで、聞いてみることに。
「すみません・・・今から30分くらいしかないんですが、
それでもゆっくり見られる『ここぞ!』というところ、どこかありませんか!?」
それなら・・・と、尼僧さんが教えてくれた場所は、「龍光院」でした。
いわゆる「有名どころ」ではありません。拝観もできないと、尼僧さんは言います。
でも・・・と、おすすめの理由を教えてくださいました。
「高野山ではね、火事があると鐘が鳴るんですよ。
あまた寺院がある中で、その鐘の音がしたとき、
火の手が回らないように私たち僧侶がまず一斉に水をかけて守りに行くのが、龍光院なの。
弘法大師さんが住んでいたところなんですよ。息遣いが残っているところ。
だから、守り続けなきゃいけないんです」
そしてにこっと笑って、
「龍光院の前に着いたら、大きく深呼吸してみてください。そして、空を見上げてみて。
そしたらきっと、弘法大師さんが住んでいたころの空気を、感じる事ができるから。
他のところとは、まったく違う空気だから」
向かってみました。多くの観光客でごった返す道をてくてく行き・・・
あっここだ。
龍光院、と柱に刻まれています。
観光客はみなさん、素通りしていきます。誰もいません。
その門をくぐると・・・
車道から一本入るだけなのに、しん・・・と、静けさの密度が、ちょっと変わります。
豪奢なつくりでも、印象的な装飾が施されているわけでもありません。
ただただ、優しく、すっと体をなでるような静寂があります。
空を見上げると、電線にさえぎられることのない青空が
木々を覆う新緑に縁どられてぽっかりと開けています。
大きく深呼吸をしてみると、草いきれの中をいく清流のような
清々しさに包まれるような気がしました。
・・・気がしただけかもしれません。
尼僧さんからエピソードを聞かなければ、こんな風には感じなかっただろうな・・・とも思います。
でも、そういう場所ってありますよね。
なんの変哲もないわき道をちょっと入った空き地とか、
古い建物のいくつもある部屋のひとつとか、
なんてことのない場所なのに、ちょっと他と違う空気感のあるところって。
もちろん、龍光院は「なんてことのない場所」ではありませんが、
多くの思いが沈殿しているから、なのでしょうか。
誰かにとっての大切な場所というのは、特別なにおいがするような気がします。
夜になると、冴えわたる月が辺りを柔らかく照らしていて、
悠久の時を超えたような。
・・・超えなかったような。
今度訪れるときは、ゆっくり見て回りたいです。