恍惚の時間
2015年04月30日

先に目をつけたのは、私じゃなくて、幼稚園児だった弟でした。
なぜか芸術に関しては幼いころから鼻が利く弟なんですが、
ずいぶんと渋い子どもですよね。
もともと世代ど真ん中の父が持っていたアニメ映画「イエロー・サブマリン」の
レーザーディスクを目ざとく見つけ、
次々流れてくる名曲をあっという間に覚えては歌ったり、
自分なりに4人の絵を描いたりもしていました。

私にはどうしてもそのアニメの画風が不気味に映って好きになれなかったんですが、
中学生になった弟がCDを集めてファイリングしだしたころ、
高校生になった私も徐々に隣の部屋から聴こえてくる音色に誘われるようになり、
iPodに入れるようになってからは、早かった。
縁の地めぐりをしに、リバプールにさえ行きました。

やっぱり、いいものはいい。レジェンドと呼ばれるものには、その意味があるんだなぁと。
世代は全く違うのに、「ザ・ビートルズ」はいつの間にか、
体に沁み込んでいました。

でも、生まれるとっくの昔に解散していたビートルズは、
私にとっては歴史上の人物よろしく、
あまりに現実とはかけ離れた存在。
だから、こんな瞬間が訪れるとは、思いもしませんでした。

行ってまいりました。ポール・マッカートニー@東京ドーム!

3時間ほどのステージ、披露されたのはおよそ40曲。
その間、水をまったくと言っていいほど、口にしない。
ですのにCDで何度も耳にした音源と変わらぬ空気をまとった軽やかな声。
恐るべし72歳です。
と、年齢を持ち出すのはもはや野暮というもの。

颯爽とした身のこなし、飄々としたパフォーマンス。
衰えを感じるとか感じないとか、
声が出ているとか出ていないとか、
もうそういったことをすべて超越した圧倒的な存在感。
なにより同じ空間に居られることの不思議さに酔いしれたひとときでした。

「Black Bird」と「Something」の弾き語りにはしびれました。ほんとうに美しい曲。万歳。
大好きな007シリーズのテーマ曲でもあった「Live and Let Die」も興奮したし、
それから最後から二番目の「Helter Skelter」には度肝を抜かれましたよ。
フィナーレは「Golden Slumbers」・・・。恍惚のうちに、幕をおろしたのでした。

隣で一緒に観ていた母には、また違った恍惚が溢れていたなぁ。
ふと横に目をやると、初めて見るような母の横顔でした。
青春時代をビートルズとともに過ごした世代の人たちには、
それはそれは特別な、時を遡って深くえぐるような瞬間だったのでしょうね。
当時の熱狂を知っている皆さん。
そんな感覚が羨ましくもあります。

「ネクスト・タイム!」とポールも言ってましたし、すぐ次回がありそうな気もしました。
またこの瞬間を楽しみたいような。
でもこの瞬間だけを、記憶の中に刻んで大切に育てたいような。

何はともあれ、最高でした。

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